50年後の黒を考える
黒インクについて、ひとつ考えていることがあります。
絵を描くとき、私はパイロットとウォーターマンの黒インクを使うことがあります。文字を書くだけなら大きな違いは感じないかもしれません。しかし絵を描いていると、その違いが妙にはっきり見えてきます。
私の目には、ウォーターマンのほうが黒く見えます。
同じ「黒」と書かれているのに、並べて描くと同じではありません。線を重ね、影をつくり、さらにその上から線を重ねます。すると、ある黒は少し軽く見え、ある黒は深いところまで沈んでいくように見えます。
面白いものだと思いました。
絵の具には何十種類、何百種類という色があるのに、私はどこかで「黒は黒」と思っていたのかもしれません。しかし黒にさえ、それぞれの黒があります。
そこから、画材そのものを少し調べるようになりました。
すると、今まであまり意識していなかった言葉に出会いました。
「耐光性」です。
光にさらされても、どれだけ色が変わらずにいられるか。色鉛筆にも、水彩絵の具にも、アクリル絵の具にも、インクにも、それぞれ違いがあります。染料インクと顔料インクでも性質は違います。同じメーカーの同じシリーズの色鉛筆でさえ、色によって耐光性が違うことがあるそうです。
これまで画材を選ぶとき、描きやすいか、きれいな色が出るか、自分の線に合っているか、そんなことばかり考えてきました。
しかし、もうひとつ考えなければならないことがあるのではないかと思うようになりました。
50年後、この黒はどうなっているのだろう。
私は絵を売っています。
ありがたいことに、私の絵を気に入って、お金を払って買ってくださる方がいます。その方は作品を家に持ち帰り、壁に掛けるかもしれません。毎朝、その前を通るかもしれません。あるいは、そのお子さんやお孫さんが、いつかその絵を見ることになるかもしれません。
そのとき、私が描いた黒は、まだ黒でいてくれるでしょうか。
もちろん、永久に変わらないものなどありません。紙も変わります。光も当たります。湿度もあります。どれほど良い画材を使っても、描いた瞬間を永遠に止めることはできません。
それでも、できることはあります。耐光性の高い色を選ぶこと。長期保存に適した紙を使うこと。インクについて調べ、知らない画材があれば試してみること。
ほんの少し面倒でも、それも絵を描く仕事の一部なのだと思います。
作品が売れたとき、画家の手元から絵は離れていきます。けれども、絵の時間はそこで終わりません。むしろ、そこからのほうが長いのです。
一枚の絵を描くのに、私が使う時間は数十時間かもしれません。しかし買ってくださった方のところでは、十年、二十年、あるいは五十年という時間が流れていきます。
そう考えると、画材を選ぶという行為も少し違って見えてきます。今日きれいに見える色を選ぶだけではありません。五十年後にも、できるだけ同じ色でいてくれるものを選びます。
黒インク一本の違いから、そんなことを考えるようになりました。
これから、もっと画材について勉強してみようと思います。自分のためだけではありません。私の絵を買ってくださった方のために。そして、いつか私の知らない誰かがその絵の前に立ったときにも、私が今日見ているこの黒を、できるだけそのまま見てもらうために。
