世界中の「ペンギン好き」が集まる場所へ。国際ペンギン会議に参加しました
「国際ペンギン会議」、聞いたことはありますか。
ちなみにこの会議は、ペンギンが集まる場ではありません。
……当たり前ですね。集まるのは、人間です。
世界中のペンギン研究者が集まる「国際ペンギン会議」。
いつか行ってみたいと思っていました。
そして2026年8月。ついに、その夢がかないました。
開催地は、オーストラリア・フィリップ島。
そう、「ペンギンパレード」で有名な、あのフィリップ島です。
実は、私にとってフィリップ島は、初めて野生のペンギンを見た特別な場所でもあります。
3年前、この島でコガタペンギンのパレードを見たとき、海から次々と駆け上がってくる小さな姿のエネルギーに胸を打たれました。
それが、野生ペンギンの保全について深く考えるきっかけになったのです。
その場所に今回は、「ペンギン関係者」として再び戻ってくることができました。
世界各地でペンギンを研究している大学や専門機関の研究者、水族館・動物園や保全団体のスタッフ、普及啓発に携わる人など、世界中の「ペンギン好き」が一堂に会する。
そんな国際ペンギン会議に初参加した5日間をレポートします。
国際ペンギン会議って、何をするの?
国際ペンギン会議(International Penguin Conference、IPC)は、世界中のペンギン研究者や保全活動に携わる人たちが、ペンギンの生態、進化、健康、環境、そして保全について研究成果を発表したり、情報交換をしたりする国際会議です。
1988年にニュージーランドで始まり、今回が第12回。
2026年8月31日から9月4日まで、オーストラリア・フィリップ島で開催されました。
「ペンギンについて、世界で今、何が研究されているのか」
それを一度に知ることができる場です。
今回の会場は、ペンギンの島
フィリップ島は、世界最小のペンギン、コガタペンギンの生息地として知られています。
そして島の名物が、冒頭で述べた「ペンギンパレード」です。
そんな場所で開催される国際ペンギン会議ですから、ペンギン好きとしては、開催地を聞いただけですでにテンションが上がります。
会場は島の中心地Cowes(カウズ)にあるコミュニティセンター、Berninneit(バーニニット)。Berninneitとは、先住民族の言葉で「共に集う」の意味だそうです。
今回の会議に、これ以上ないほどぴったりの場所でした。

夜になると会議のロゴが浮かび上がり、ライトアップされます。

世界中から「ペンギンのプロ」が集まる
事務局の情報によると、今回の参加登録者は279名。日本からは28名が参加したそうです。
南半球のペンギン生息国を中心に、北米、ヨーロッパ、アジアなど世界各地から参加者が集まっていました。
研究対象や専門分野の異なる参加者同士が情報交換をし、互いの知見を共有しながら、ペンギンの保全に向けた連携を深めます。
私も、これからの保全活動に役立ちそうな情報を求めて、様々な専門家の人たちとお話をして回りました。

ペンギン研究はとても奥が深い
事前にIPC事務局から配られたプログラムを見て、その多岐にわたる内容に驚きました。
たとえば、ごく簡単に書くとこんな感じです。
・ペンギンはどこで何をしているのか?
衛星画像から南極のコロニーを観測したり、GPSやデータロガーと呼ばれる小型の記録装置をペンギンに取り付け、海のどこへ行き、どのくらい潜っているのかなどを調べます。
・海水温が上がったら、ペンギンはどうなるのか?
気候変動とペンギンの種の分布や繁殖率などとの関係を分析します。
・ペンギンの病気にどう対応するのか?
鳥インフルエンザ関係や、ペンギンの声から体調不良を発見する手法など、健康に関する研究もあります。
ペンギンの調査から、さらに海洋保護区、漁業との競合、犬などの捕食者との関係、プラスチックごみ、油汚染、市民科学……。
話はどんどん「海」や「地球環境」へ広がっていきます。
プログラムから数えると、本会議前のプレカンファレンスでワークショップ7件、本会議で基調講演6件、口頭発表126件(ポスター紹介の短時間発表も含む)、ポスター発表88件が行われました。
これだけたくさんの研究が、世界中でペンギンを対象に行われていること自体に圧倒されました。

そして、日本からは小学生も!
今回、とても印象に残った出来事がありました。
日本から、小学生2名がポスター発表を行ったのです。
もちろん、発表は英語です。
お二人はそれぞれ今回の発表に向けて、一生懸命英語を勉強し、発表の練習をしてきたそうです。
準備したのは、発表だけではありません。
国際会議では、発表の後に研究者から質問を受けます。
そこで、どんな質問をされるかを考え、英語でどう答えるか、質疑応答の準備までしてきたとのこと。
本番では、世界のペンギン研究者を前に、自分の研究について英語でしっかり説明しました。
そして、お二人とも見事にBest Poster Award(優秀賞)を受賞!
小学生が、英語で自分の研究を発表し、海外の研究者からの質問にも答え、そして賞まで受賞する。
本当にすごいことだと思います。
「ペンギンを好きになる」ということは、単にペンギンに詳しくなることだけではありません。
好きだから、もっと知りたくなる。
知りたいから、研究してみる。
研究したことを伝えるために、英語を勉強する。
そして、世界の人たちに向かって発表してみる。
ペンギンを好きになったことが、挑戦や成長につながっている。
そんなことを、立派にやり遂げた若い研究者から実感させてもらった、素敵な出来事でした。

そして、夜はペンギンパレード!
フィリップ島ですから。
もちろん、これを楽しみにしていました。
私が参加した日は、計400羽近くのコガタペンギンが見られたそうです。
小さな体なのに、意外と足が速い。
そして、ペタペタという小さな足音がいとおしい。
日没後は撮影禁止なので、写真を撮れないのは残念でした。
でも、その分、カメラを置いてペンギンを見ることができます。
満天の星空の下。
海から次々と走ってくる小さなペンギンたち。
そして、その姿を一緒に見ているのは、世界中から集まったペンギンの専門家たち。
研究者の皆さんからも、
“Ohhh, so sweet...”
という声が聞こえてきました。
どんなに専門的な研究をしている人も、ペンギンを目の前にすると、ただの「ペンギン好き」に戻る。
その瞬間が、なんだかとても嬉しく思えました。

でも、ペンギンを取り巻く現実は厳しい
今回の会議で最も強く感じたのは、ペンギンを取り巻く環境が決して楽観できないということです。
気候変動に関する研究は非常に多く、海水温や海氷の変化が、ペンギンの繁殖や生存に影響を及ぼしていることが報告されていました。
海氷に依存するコウテイペンギンが危機的状況に直面している一方で、海氷を必要としないジェンツーペンギンは、氷が溶けたエリアへと生息域を広げているとの発表もありました。
また、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「CR: 深刻な危機」、つまり野生で絶滅する危険性が非常に高いカテゴリーに分類されている、ケープペンギンについての発表も多くありました。
研究発表を聞いていると、個体数の減少など、「残念なお知らせですが…」という趣旨の言葉を何度も耳にし、いたたまれない気持ちになります。
そうした発表を聞いては、自分の無力さを感じる中で、とても印象に残った言葉がありました。
オーストラリアで先住民族コミュニティとの協働や研究への参画を推進されている教授のお話です。
温暖化、漁業との競合、捕食者対策、海洋汚染・・・それぞれ個別に対処するのではなく、すべてを統合して取り組む必要がある。
複合的な緩和策を見出すためには、異なる立場の人たちが互いに話し合い、相手の視点に耳を傾け、前進するための道を探ることが大切だ。
という趣旨のお話でした。
ペンギンのことだけでなく、すべての環境課題に通じる深い示唆に、とても考えさせられました。
そして、まずは「知ること」が大事なのだと、あらためて思いました。
ペンギンは「地球環境のセンチネル」
ペンギンは、「センチネル(Sentinel)」、つまり環境の変化を知らせる「警告者」として捉えられることがあります。
ペンギンは、地球温暖化による海氷の減少や、海水温の上昇といった環境の変化の影響を受けます。
また、魚やオキアミなどを食べる一方、さまざまな海洋生物に捕食されるなど、海の食物網の中で重要な位置を占めています。
そのため、ペンギンの繁殖や生存、行動などを調べることで、海洋環境に何が起きているのかを知る手がかりが得られるのです。
つまり、
ペンギンを守ることは、ペンギンだけを守ることではない。
ペンギンを通して、海で何が起きているのかを見る。
そして、その海で起きていることは、私たち人間の暮らしともつながっています。
最終日には、全参加者に向けて、第12回IPCとIUCNペンギン専門家グループからの提言文案が示されました。
"Penguins are warning us about a rapidly changing planet"
――「ペンギンは、急速に変わりつつある地球を私たちに警告している」
このメッセージについては、追ってプレスリリースとして発表される予定とのことでした。
そして翌日、早速オーストラリアのABCニュースで、この会議についての記事が掲載されていました。(下部にリンク)
「ペンギンが好き」から、その先へ
今回のIPCで、世界中のたくさんの「ペンギンが好きな人」に出会いました。
立場も専門も違います。
でも、ペンギンを大切に思う気持ちは共通していました。
その「好き」という気持ちの先には、
「どうすればペンギンを守れるのか」
「どうすればペンギンが暮らす海を守れるのか」
という問いがあります。
それは地球環境を考える入り口になります。
かわいいから、好き。
もっと知りたいから、調べる。
知れば知るほど、ペンギンが暮らす海のことが気になる。
そして、その海を守るにはどうしたらいいのかを考える。
そんなふうに、環境保全は「好き」から始まるものです。
必ずしも難しいところから始める必要はないのだと思います。
今回の国際ペンギン会議で得た、たくさんの出会いとつながりを大切にしながら、私もこれからもっと、ペンギンを通して地球のことを考えていきたい。
―― ペンギン愛にあふれた、忘れられない5日間になりました。

なお、閉会式では、次回のIPCはイギリスで開催されるとの発表がありました。
今よりペンギンをめぐる状況が良くなっていることを祈りつつ、また世界中のペンギン好きたちと再会できる日を、今から楽しみにしています。

🐧オーストラリアABCニュースで報じられました
🐧第12回国際ペンギン会議のウェブサイト
