母親は家事をしているのではない
母親は家事をしているのではない
家事冒険者やさいのギルド日報
【午前6時12分】
本日のクエストを確認。
・朝食作成
・洗濯
・連絡帳確認
・水筒補給
・行方不明の靴下捜索
難易度は低めと思われた。
油断していた。
【午前6時48分】
緊急クエスト発生。
「お母さーん!体操服どこー!」
依頼主は小学生。
昨日、自ら収納した体操服の行方が分からなくなったらしい。
現場へ急行。
ベッド下、机周辺、なぜか本棚を捜索。
無事発見。
報酬なし。
【午前7時23分】
朝食提供完了。
ハムサンドを要求される。
昨日もハムサンド。
一昨日もハムサンド。
冒険者は依頼人を選べない。
依頼主は元気に出発した。
【午前9時15分】
洗濯クエスト進行中。
その最中、追加任務発生。
くしゃくしゃになった「学校からのお便り」を発見。
読む。
提出物三枚。
持ち物変更二件。
来週イベント一件。
保護者は戦士ではない。
情報処理職である。
【午後3時41分】
依頼主帰宅。
第一声。
「見てー!」
手にはカタツムリ。
かわいい。
実にかわいい。
しかし私は過去の経験から知っている。
この世界のかわいい生物は時として危険である。
緊急調査開始。
生態確認。
飼育方法確認。
感染症確認。
寄生虫確認。
即没収。念入りな手洗いを要請。
これは家事なのだろうか。
【午後5時27分】
夕食作成クエスト開始。
その前に発生する隠しクエスト。
・冷蔵庫確認
・在庫確認
・献立決定
・不足食材計算
料理は戦闘シーンである。
本当に大変なのは準備パートである。
【午後7時52分】
夫がゴミ袋を交換してくれた。
一見すると小さな出来事である。
しかし冒険者ギルド的には違う。
私のクエスト欄から
「ゴミ袋交換」
が一件消えた。
これがどれほどありがたいか。
経験者なら分かる。
【午後9時16分】
本日の任務終了。
……と思った瞬間。
「明日、図工で牛乳パックいるんだった」
という報告が入る。
受付時間は終了している。
だが依頼は受理される。
私は専用ボックスを漁る。
牛乳パック、新聞紙。
未来の自分のために、あらかじめ色々取っておいている。
そこから取り出して対応。
いつもそうだ。
私は長い間、自分は家事をしているのだと思っていた。
料理。
洗濯。
掃除。
もちろんそれもある。
だが本当は違った。
母親とは、家庭という名のギルドで発生する無数のクエストを処理する冒険者だったのだ。
今日もどこかで誰かが、
失踪した靴下を探し、
消えた消しゴムを捜索し、
謎の虫を鑑定し、
明日の牛乳パックを確保している。
本日の依頼件数:不明。明日も受理予定

