白い女
父が亡くなる少し前のことだ。
入院していた病院はICUの中に個室が
いくつかあり、容体がいよいよ危なくなると
患者はそこへ移される。
父がその個室に移ってから、家族は交替で
付き添うことになった。
部屋はICUのいちばん奥にあり、医師や
看護師がすぐに入ってこられるように
入り口にドアは無かった。
昼も夜も心電図モニターの波形と数字を
眺めていた。家には帰らず、ICU内の
家族控室で仮眠をとる。
そんな日が続いていた。
最初にそれを感じたのは、
いつ頃だったか。
病室の入り口に誰かが立っている。
でもそちらを見ると誰もいない。
それが日に何度も起きていた。
きっと気が張っているから。
疲れているから。
そう、思うことにした。
でもそんな日が続くと、やはり何かがいるの
ではないか?と思うようになっていった。
気になって仕方がない。
入り口に気配を感じた瞬間、
振り向かずに視線だけを動かしてみた。
女だ。
女が立っている。
顔はよくわからない。髪は長く、白い
ワンピースのようなものを着ている。
思わず振り向くも、やはりそこには
誰もいなかった。
その夜、ICU内の家族控室で姉に聞いてみた。
「なんかさ、ずっと入り口に人が立ってる
気がするんだよね…。」
「…うん。…なんかいる。」
「やっぱり…?」
「…白っぽい女の人じゃない…?」
姉も私と同じものを見ていた。
ほどなくして父が亡くなり、その気配から
解放されたのは個室に移動してから
二週間後だった。
***
バタバタと葬儀を終え、火葬場の待合室で
ふと、伯母が言った。
「ねえ。病室の入り口に、ずっと人が
立ってる気配しなかった?」
私と姉は顔を見合わせた。
伯母は続ける。
「白っぽい服を着た、女の人」
私も姉も、「いたよ」
とだけ答えた。
その後その病院は移転し、跡地には
ショッピングモールが建っている。
もう30年も昔の話だ。
それでも、そのショッピングモールに行くと
あの日の白い女を思い出し、つい後ろを
振り向いてしまう。

実話です。
お盆も終わり、父もまたあの世に
帰りました。
夏休みもあと少しで終わりですね。
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