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深淵の倧魔道士 第3話「残り火」創䜜倧賞2026ファンタゞヌ小説郚門ラむトノベルラノベ


翌朝、フラワヌ・マンディは鞄の䞭を䜕床も確かめおいた。

教科曞。
筆蚘具。
魔法挔習甚の小型杖。

そしお、その奥に垃で包んだ䞀本のフルヌト。

サクラの聖域で蚗された、花の倧魔道具。
ただ吹いおはいけない。
ハむネにそう蚀われたから、垃で包んでいる。

勝手に鳎らないように。
誰にも芋られないように。
そしお䜕より、自分が怖くなっお、手攟さないように。

「  重い」

重さそのものは倧したこずがない。
けれど昚日から、胞の奥に䜕かが乗っおいた。

サクラの聖域。
桜の倧暹。
メルスティンの献杯。
春ぞ還っおいく韍族。
花びらになっお消えたサクラ。

あの光景を思い出すたび、鞄の䞭のフルヌトがただの道具ではないこずを思い知らされる。

誰かが呜を䜿っお残した、春の続き。

そう思うほど、垃で包んで隠しおいるこずが埌ろめたかった。
倧切にしおいる぀もりなのに、隠しおいる。
その矛盟が、胞の奥をちくりず刺す。



教宀に入るず、い぀も通りの朝があった。

生埒たちの話し声。
怅子を匕く音。
窓から差し蟌む光。
黒板の前で教材を䞊べる教垫。

昚日芋た聖域が嘘みたいに、䞖界は普通に続いおいる。

フラワヌは垭に぀き、窓際を芋た。

ハむネ・ベルセルクは、すでに机に頬を぀けお眠っおいた。
黒髪を少し乱し、袖の䞭に片手を入れたたた、舟を挕ぐどころか沈没しおいる。

昚日、サクラの倧暹の前で静かに立っおいた人ず同じずは思えない。

けれど、もう笑えなかった。

あの人は、きっずたくさんのものを知っおいる。
自分にはただ觊れられない重さも、花の怖さも、深淵の底も。

それでも、こうしお孊校の窓際で眠っおいる。
たるで、普通の少女みたいに。

「  普通、なのかな」

呟いた時、隣の垭の生埒が声をかけおきた。

「フラワヌ、どうしたの 昚日からがうっずしおない」

「えっ、あ、ううん。倧䞈倫」

「ほんず 顔色悪いよ」

「ちょっず、寝䞍足かも」

嘘ではない。
昚倜はほずんど眠れなかった。

フルヌトのこず。
サクラのこず。
ハむネのこず。
自分の花のこず。

昚日たでの自分は、花魔法を「圹に立たない魔法」だず思っおいた。
けれど、今は違う。

圹に立たないのではない。
分からないのだ。

花で守るずは、䜕なのか。
呜を繋ぐずは、どういうこずなのか。
垰る堎所を残すずは、どんな芚悟なのか。

分からないから怖い。
けれど、分からないたたでいたくない。


フラワヌは鞄の奥にそっず手を觊れた。
垃越しに、フルヌトの茪郭が指に圓たる。

冷たいはずなのに、なぜか埮かにあたたかかった。



昌䌑み。

フラワヌはひずり、校舎裏の小さな庭ぞ向かっおいた。

叀い石畳ず、小さな噎氎ず、季節倖れの花壇。
生埒たちがあたり来ないその堎所で、フラワヌは噎氎のそばに立ち、杖を構えた。

氎を集める。

昚日の聖域で感じた呜の巡りを思い出しながら、氎面ぞ意識を沈める。

氎。
葉。
光。

花は、そのすべおから成る。

ハむネはただ光を教えおくれない。
フルヌトも䜿っおはいけない。

なら今できるのは、目の前にある氎ず葉の気配を、䞁寧に感じ取るこずだけだった。

「咲いお」

小さく囁く。

氎面に、薄桃色の花が䞀茪浮かんだ。

けれど次の瞬間、氎面が揺れお、花は圢を厩した。

「  だめだ」

もう䞀床。
もう䞀床。

䜕床詊しおも、花は長く保たなかった。

咲くこずはできる。
けれど、留められない。

䞀話の校庭でもそうだった。
花は咲いた。
韍を䞀瞬だけ止めた。

でも、すぐに焌けた。

守るには、あたりにも脆い。

焊れば焊るほど、氎面は乱れる。
氎面が乱れるほど、花は圢を倱う。

たるで、今の自分みたいだった。

「焊っおるね」

背埌から声がした。

フラワヌはびくっず肩を跳ねさせお振り返る。

そこにいたのは、メルスティンだった。
い぀もの長い倖套。
穏やかな埮笑み。
その手元には、銀の懐䞭時蚈が握られおいる。

「こ、校長先生  」

「ここではメルスティンでいいよ」

「い、いえ、孊校なので  」

「真面目だねえ」

メルスティンは笑いながら、噎氎の瞁に腰掛けた。

「少し話せるかな」

フラワヌは小さく頷く。

「昚日から、ずっず抱えおいる顔をしおる」

「  抱えおいる、ですか」

「うん。フルヌトだけじゃなくお、サクラのこずも、ハむネちゃんのこずも、自分の花のこずも」

図星だった。

「私  どうしたらいいのか、分からなくお」

「うん」

「サクラさんの花は、癟幎も聖域を守っおいたした。でも私の花は、すぐ燃えおしたう。韍を止められたのも、䞀瞬だけでした」

自分で蚀いながら、胞が苊しくなる。

「ハむネさんは、私に才胜があるっお蚀っおくれたした。でも、そう蚀われるほど、自分が遠く感じたす」

メルスティンは黙っお聞いおいた。
盞槌も、励たしも、すぐにはくれない。

その静けさが、逆に話しやすかった。

「サクラさんのフルヌトも  怖いです。嬉しくないわけじゃないんです。でも、私が持っおいいものなのか、分からない」

「持っおいいかどうかを、今すぐ決めなくおもいいよ」

「え」

「蚗されたものっお、受け取った瞬間に党郚分かるわけじゃない。むしろ、分からないたた持ち続ける時間の方が長い」

噎氎の氎面に、颚が觊れる。
小さな波王が広がった。

「サクラも、最初から自分の花の意味を分かっおいたわけじゃないよ。よく倱敗しおた。咲かせすぎお郚屋を花で埋めたり、泣いおる子を慰めようずしお花粉でくしゃみさせたり」

フラワヌは思わず瞬きをした。

「そんなこずが  」

「あるよ。䌝説になる前の人間には、だいたい恥ずかしい時代がある」

メルスティンは少し笑った。
けれど、その笑みはすぐ静かなものぞ倉わる。

「でも、サクラは忘れなかった。倱敗した時のこずも、誰かが笑ったこずも、自分の花が届かなかった悔しさも」

「忘れない  」

「そう。昚日、君が蚀った蚀葉だね」

――忘れたくないです。

昚日、サクラの倧暹の前で蚀った蚀葉。

「忘れない力は、花に近い」

メルスティンは懐䞭時蚈を開いた。
銀の針が静かに時を刻んでいる。

「けれど、忘れないこずは痛い。痛いたた党郚抱えおいたら、人はい぀か動けなくなる」

その声に、ほんの少し圱が差した。

フラワヌは、桜の根元で献杯しおいたメルスティンの背䞭を思い出す。

春が来るたびに、今幎もいないず思う。

あの蚀葉の重さを、この人は癟幎抱えおいる。

「だから、君には少しだけ時の感芚を教えおおきたい」

「時の  感芚」

「時の魔法、ず呌ぶにはただ早い。ただの皮だよ」

メルスティンは指先で氎面に觊れた。

その瞬間、噎氎の氎滎がひず぀、空䞭で止たった。
萜ちる途䞭だった氎滎が、時間から切り離されたみたいに宙に浮いおいる。

「すごい  」

「すごくないよ。今のは止めただけ」

メルスティンは氎滎を芋぀める。

「時の魔法で䞀番倧切なのは、止めるこずでも、戻すこずでもない」

「じゃあ  」

「流れを知るこず」

氎滎がゆっくり動き出す。
萜ちる。
けれど、萜ちきらない。

メルスティンの指先がわずかに動くず、氎滎は现い円を描き、再び氎面ぞ戻った。

「物事には、流れがある。氎の流れ。魔力の流れ。感情の流れ。遞択の流れ。人はそれを芋萜ずすず、いきなり結果だけを掎もうずする」

フラワヌは、さっき咲かせようずした花を思い出した。

咲かせよう。
守ろう。
早く、圢にしよう。

そう焊るほど、花は厩れた。

「君は感じ取る力が匷い。たくさん拟える。だからこそ、流れの途䞭で迷いやすい」

メルスティンは、噎氎のそばの小さな癜い蕟ぞ芖線を向けた。

「芋おいお」

懐䞭時蚈の針が、かちりず鳎る。

蕟の呚りに、薄い銀の茪が浮かんだ。
時間が、ほんの少しだけ遅くなる。

蕟はただ、咲いおいない。

けれどフラワヌには芋えた。

花びらが開く前の、かすかな緊匵。
内偎から倖ぞ向かおうずする力。
氎が茎を䞊がり、光が薄い花匁に届き、呜が圢になる盎前の䞀瞬。

咲く前に、もう花は動いおいる。

「  あ」

次の瞬間、蕟はゆっくりず開いた。
癜い花が䞀茪、颚の䞭に咲く。

「今の䞀瞬が、“前”だよ」

メルスティンは蚀った。

「結果だけを芋るず、花は突然咲いたように芋える。でも本圓は、その前に流れがある。守る時も同じだ。壊れる前、燃える前、沈む前、蚀葉になる前。そこに気づけるかどうかで、遞べるものが倉わる」

フラワヌは、咲いた癜い花を芋぀めた。

花が咲く前の䞀瞬。
それは、これたで芋ようずしたこずのない堎所だった。

「私にも  芋えるようになりたすか」

「君はたぶん、芋えすぎるくらい芋えるようになる。だから、扱い方を芚えた方がいい」

そう蚀っお、メルスティンは懐から小さな玙片を取り出した。

銀色の现い魔導文字が曞かれおいる。
円でもあり、波王でもあり、時蚈の針にも䌌おいた。

「これを持っおいお」

「これは  」

「時の魔法の初歩術匏。䜿うためじゃない。感じるためのものだよ」

フラワヌは恐る恐る受け取った。

玙片は軜い。
けれど、刻たれた文字を芋おいるず、䞍思議ず胞の錓動がゆっくりになる。

「朝ず倜に䞀床ず぀、この術匏を芋ながら呌吞しお。無理に魔法を発動しなくおいい。氎が萜ちる前の䞀瞬、花が咲く前の䞀瞬、感情が蚀葉になる前の䞀瞬。そういう“前”を感じる緎習をするんだ」

「前  」

「君がい぀か倧きなものを守ろうずする時、たぶん必芁になる」

その蚀い方に、䞍安がよぎった。

「それは  サクラさんのフルヌトに関係ありたすか」

メルスティンはすぐには答えなかった。

「関係あるかもしれないし、ないかもしれない」

「校長先生」

「ずるい答えだね。でも、未来を確定させる蚀葉は、あたり奜きじゃないんだ。時の魔法士ずしおはね」

フラワヌは玙片を胞元に抱く。

「私は  䜕かを防ぐために、これを芚えるんですか」

「たぶん」

メルスティンは、今床は誀魔化さなかった。

「最悪を防ぐために」

その蚀葉だけが、冷たく胞に萜ちた。

䜕のこずなのかは分からない。
けれど、軜い蚀葉ではないこずだけは分かった。

「怖がらせたかな」

「  少し」

「ごめんね」

「でも」

フラワヌは玙片を芋぀めた。
銀色の文字が、淡く光っおいる。

「忘れないために必芁なら、芚えたす」

メルスティンの目が、ほんの少し優しくなる。

「うん。君なら、そう蚀うず思った」

その時、校舎の鐘が鳎った。

昌䌑みの終わりを告げる音。

フラワヌが校舎ぞ戻ろうずした時、背埌からもう䞀床声がした。

「フラワヌさん」

振り返る。

メルスティンは噎氎のそばに立ったたた、静かに蚀った。

「ハむネちゃんの蚀うこずを、党郚そのたた信じなくおいい」

「え  」

「信じるな、ずいう意味じゃないよ。ただ、あの子は自分のこずになるず、すぐに䞀番痛い遞択を正しいず思い蟌む」

颚が吹いた。

「だから君は、君の芋たハむネちゃんを芚えおいお」

昚日、ハむネはフラワヌを芋぀けおくれた。

なら今床は、自分がハむネを芋倱わないようにしなければならない。
そんな気がした。

フラワヌは小さく頷いた。

「はい」

胞元で、鞄の䞭のフルヌトがかすかに枩かくなった気がした。



同じ頃。

医務棟の最奥で、ラビヌ・クリステむルは目を芚たした。

癜い倩井。
薄いカヌテン。
消毒薬の匂い。
身䜓のあちこちに残る鈍い痛み。

「  っ」

起き䞊がろうずしお、ラビヌは顔をしかめた。

魔力枯枇。
軜床の火傷。
党身の筋肉痛。

身䜓は、確かに戊った埌のものだった。

けれど、蚘憶が足りない。

韍族の矀れ。
自分の焔。
巚倧な火球。
フラワヌの花畑。

そこたでは芚えおいる。

花畑が焌けた。
韍が残った。
自分は魔力を䜿い果たした。

そこたでは。

その先がない。

䜕かを芋たはずだった。
ずお぀もなく恐ろしいもの。
空を塗り替える䜕か。
自分の焔など比べものにならない、圧倒的な力。

けれど思い出そうずするず、頭の䞭が癜く滑る。

掎みかけた蚘憶が、指の間からこがれる。

「  䜕ですの、これ」

ラビヌは額に手を圓おた。

忘れおいる。
誰かに忘れさせられおいる。

そう気づいた瞬間、腹の奥に熱が灯った。

敗北を嫌う。
無様を嫌う。
そしお䜕より、自分の知らないずころで自分を操䜜されるこずを嫌う。

「わたくしに、䜕をしたしたの  」

誰に向けた蚀葉なのか、自分でも分からなかった。

ハむネ。
フラワヌ。
校長。
韍族。

それずも、蚘憶の向こうにいる誰か。

ベッド脇の机には、芋舞いの花が眮かれおいた。
薄桃色の小さな花。

たぶん、フラワヌが残したものだろう。

䞀瞬だけ、韍族が止たった。
あれは䜕だったのか。

綺麗なだけではない。
火力も防埡力もないはずの花が、確かに韍の動きを鈍らせた。

認めたくない。
けれど、無芖もできない。

「  腹立たしいですわね」

ぜ぀りず呟いた時だった。

郚屋の隅で、空気が揺れた。

「誰ですの」

返事はない。
代わりに、青い炎が灯った。

それは、ラビヌの知る炎ではなかった。

赀ではない。
橙でもない。
熱く燃え䞊がるのに、どこか冷たい。

倜の底で、ひず぀だけ燃え残った火のような青。

その炎の䞭から、ひずりの女が珟れた。

長い銀髪。
劖狐めいた、矎しく鋭い目元。
黒い倖套の裟に、青い焔が絡み぀いおいる。

ただ立っおいるだけで、郚屋の空気が倉わった。

ラビヌは反射的に杖を探そうずした。
けれど手元にない。

「譊戒しなくおいいよ。今のあなたず戊う぀もりはないから」

「名乗りなさい」

「偉いね。状況が分からなくおも、声は折れない」

女はベッドのそばぞ歩み寄る。

「私はフレア」

その名に、ラビヌの呌吞が止たる。

五十幎前、韍族の倧䟵攻をただ䞀人で食い止めたずされる、爆焔の倧魔道士。

教科曞で芋た肖像画ずは少し違う。
けれど、纏っおいる炎の質が、人間の域ではなかった。

「  爆焔の、フレア」

「そう呌ばれるこずもあるね。でも、今の私はただの残り火みたいなものだよ」

残り火。

その蚀葉ずは裏腹に、ラビヌの肌は粟立っおいた。

この女は危険だ。

それが理屈より先に分かる。

けれど同時に、目を離せない。
青い炎が、矎しすぎた。

「あなたが、なぜここに」

「芋に来たの」

「䜕を」

「あなたの火」

フレアは、ラビヌの顔を芗き蟌むように少し身を屈めた。

「昚日、あなたは面癜いものを芋たでしょう」

ラビヌの胞が跳ねる。

「  䜕の話ですの」

「忘れおいるんだね。可哀想に。綺麗に蓋をされおる」

「あなた、䜕を知っおいたすの」

「知っおいるずいうより、感じたんだよ。深淵の匂いを」

深淵。

その蚀葉が、ラビヌの䞭の癜い蚘憶に觊れた。

頭の奥が軋む。

黒い䜕か。
底のない䜕か。
手。
無数の手。

「  っ」

「無理に思い出そうずするず痛いよ」

「黙りなさい」

「いいね。その意地。でも、思い出したいでしょう」

答える必芁はなかった。

フレアはゆっくり手を䌞ばす。
青い炎を纏った指先が、ラビヌの額の少し前で止たった。

「䜕をする気ですの」

「蓋を開けるだけ」

「勝手に觊れないでくださる」

「觊れないよ。燃やすだけ」

次の瞬間。

ぱきん。

硝子の膜が割れるような音がした。

ラビヌの芖界が癜く匟ける。
そしお、閉ざされおいた蚘憶が䞀気に流れ蟌んできた。

韍族の矀れ。
自分の焔。
フラワヌの花畑。
焌けた校庭。
降䞋しおくる韍。

そしお。

黒玫の巚倧な魔法陣。

地面が開く。
無数の黒い手が䌞びる。
韍が絶叫しながら奈萜ぞ匕きずり蟌たれおいく。

自分の身䜓が浮く。
黒い手に優しく掎たれおいる。

その先にいた少女。

黒い魔導曞を抱え、空に浮かぶハむネ・ベルセルク。

「――ハむネ」

名を呌んだ瞬間、ラビヌの身䜓がぐらりず傟いた。

フレアが、それを静かに受け止める。

「芋えた」

ラビヌは息を荒げながら、フレアを睚んだ。

「あなた  䜕を  」

「本圓のこずを返しただけ」

「なぜ」

「だっお、もったいないじゃない。あなたほどの火が、䜕も知らないたた燻っおいるなんお」

ラビヌは歯を食いしばる。

思い出した。

自分は芋た。
ハむネの深淵を。
自分の焔が届かなかった珟実を。
フラワヌの花が、韍を止めた瞬間を。

そしお、自分が守られたこずを。

その事実が、胞の奥を焌いた。

「  わたくしは」

声が震える。

「わたくしは、負けたんですのね」

フレアは笑わなかった。

ただ、青い炎を揺らしながら蚀う。

「負けたず思えるなら、ただ燃える」

その蚀葉に、ラビヌは顔を䞊げる。

フレアはどこからずもなく、小さなランタンを取り出した。

黒い装食の斜された、叀いランタン。
䞭には、玫を垯びた小さな炎が揺れおいる。

芋た瞬間、ラビヌの胞の奥の火が反応した。

「これは  」

「あなたにあげる」

「いりたせんわ」

即答した。

フレアは楜しそうに笑う。

「偉いね。知らないものを簡単に受け取らない。いい刀断」

「なら、なぜ差し出したすの」

「欲しくなるから」

ランタンの炎が揺れた。

その玫は、䞍思議ずラビヌの内偎ぞ入り蟌んでくる。
昚日の敗北。
蚘憶を消された屈蟱。
ハむネぞの察抗心。
フラワヌの花ぞの違和感。

その党郚に、炎が觊れる。

「あなたの火は、ただ綺麗すぎる」

フレアが蚀う。

「誇り高くお、真っ盎ぐで、よく燃える。でも、そのたたでは深いずころぞ届かない」

「深いずころ  」

「そう。ハむネのいるずころ」

ラビヌの指先が震えた。

「あなた、ハむネさんず知り合いですの」

フレアの目が、䞀瞬だけ遠くなる。

「私は、あの人に火を教わった」

ラビヌは息を呑む。

「ハむネが  あなたに」

「そう。昔の話だよ」

フレアはランタンを芋぀める。

「でも、あの人はい぀も途䞭で手を離す。危ないから。早いから。ただ駄目だから。そうやっお、誰かの火を止めようずする」

その蚀葉に、フラワヌのフルヌトを止めたハむネの姿が重なった。

ただ早い。

きっず、フラワヌにもそう蚀ったのだろう。

「優しさだよ。たぶんね。でも、止められた火は、行き堎を倱う」

ランタンの炎が、ふっず匷くなった。

「ラビヌ・クリステむル。あなたは、止められたい」

ラビヌは答えなかった。

止められたいわけがない。

自分の焔は、自分の誇りだ。
自分の䟡倀だ。
自分がラビヌ・クリステむルである蚌だ。

それなのに昚日、その焔は届かなかった。

ハむネの深淵にも。
韍族の矀れにも。
そしお、フラワヌの花が觊れた䜕かにも。

ラビヌは、芋舞いの花ぞ芖線を萜ずした。

薄桃色の花。

綺麗なだけだず思っおいた。
戊堎では圹に立たないず思っおいた。

けれど昚日、韍族は確かにあの花の前で止たった。

自分の焔は、韍を萜ずせおも、止めるこずはできなかった。
フラワヌの花は、倒せなくおも、韍の䞭の䜕かに届いた。

その事実が、䞀番認めたくなかった。

胞の奥で、火が嫌な音を立おる。

「あなたはもっず燃えられる」

フレアの声が、静かに郚屋ぞ染み蟌む。

「赀より深く。青より暗く。誇りだけでは届かない堎所たで」

「  それを䜿えば、届くず」

「䜿うかどうかは、あなたが決める」

フレアはランタンを机の䞊に眮いた。

「私は、遞択肢を眮いおいくだけ」

ラビヌはランタンを睚む。

受け取っおはいけない。
明らかに危険だ。
この女も、この炎も。

けれど、目を逞らせない。

玫の火が揺れるたびに、胞の奥の焔が呌び返す。

もっず燃えろ。
もっず深く。
もっず、誰にも届かない堎所たで。

「  あなたの目的は䜕ですの」

フレアは少しだけ笑った。

その笑みは矎しかった。
けれど、どこか壊れおいた。

「ハむネ先生に、芋おほしいだけ」

「先生  」

「私の火が、どこたで綺麗になったか」

恋にも䌌た執着ず、祈りにも䌌た狂気が混ざっおいた。

フレアは窓蟺ぞ向かう。
青い炎が足元に揺らめく。

「たた来るよ、ラビヌ」

「埅ちなさい」

「埅たない」

フレアは振り返り、楜しげに蚀った。

「火は、埅぀ず消えちゃうから」

その姿が青い炎に包たれる。

最埌に残ったのは、かすかな熱ず、机の䞊の黒いランタンだけだった。

医務宀に静寂が戻る。

ラビヌはしばらく動けなかった。

頭の䞭では、蚘憶が䜕床も繰り返されおいる。

ハむネの深淵。
フラワヌの花。
自分の敗北。

そしお、フレアの蚀葉。

あなたはもっず燃えられる。

ラビヌは、もう䞀床芋舞いの花を芋た。

薄桃色の花は、静かに揺れおいる。

あんな小さな花が、韍を止めた。

自分は、火で韍を萜ずした。
でも、韍の䜕かには届かなかった。

フラワヌは、花で韍を止めた。
ハむネは、深淵で韍を沈めた。

では、自分の焔は䜕なのか。

誇りか。
力か。
ただ燃えるだけのものか。

「  違いたすわ」

ラビヌは震える手を䌞ばした。

觊れおはいけない。
分かっおいる。

それでも。

指先が、ランタンの取っ手に觊れた。

䞭の玫の炎が、嬉しそうに揺れた。

その瞬間、ラビヌの胞の奥で、䜕かが小さく燃え始めた。

怒りか。
屈蟱か。
憧れか。
焊りか。

名前のない熱。

「  わたくしは」

ラビヌは、ランタンを芋぀めながら呟いた。

「ただ、負けたたたでは終われたせんわ」

窓の倖では、倕暮れが静かに校舎を赀く染めおいた。

その赀の䞭で、ランタンの玫だけが、倜の始たりみたいに揺れおいる。

誰にも知られないたた。

ひず぀の火皮が、ラビヌ・クリステむルの䞭ぞ萜ちた。

第4話に぀づく。

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いいなず思ったら応揎しよう