オールドコンデジとコールドスリープ|RAWで写真を未来に託す
不治の病にかかった主人公が医者に告げられる。
「あなたの体は今の医療技術では救えない。コールドスリープで未来の医療に託してはどうか。」
SF小説の冒頭にありそうなやりとりだ。
現実には人間のコールドスリープの技術は完成していない。
ところが写真については、似たようなことができる技術がある。
RAWデータだ。
2014年発売のコンデジ、Pentax Q-S1を使い始めて驚いたことがある。
カメラそのものにではない。
12年前のRAWデータが、2026年の今でも十分通用することにだ。

色乗り、コントラストの自然さ、強調されすぎない輪郭。
1240万画素という制約を除けば、最新のミラーレス機の画像と見分けるのが難しい程だ。

オールドコンデジは、レトロな色調や緩い解像感で最近人気が出ている。
けれどこのカメラとレンズで撮るRAWデータから現像した写真は、むしろ現代的だ。
カメラとレンズの性能もさることながら、これはRAWデータによるところが大きいのだろう。
JPEG画像、いわゆる撮って出しの写真は時代に合わせたチューニングがされている。
HDRや解像感の出し方など、技術的な進歩もあるだろう。
一方で、RAWデータは手を加える前のデータというだけあって、12年前の写真であっても現代風の現像が可能だ。
むしろ、Lightroomをはじめとする現像ソフトの進化により、12年前は不可能だった画像を同じデータから引き出せるようになった。

これが写真の「コールドスリープ」の正体だ。
露出、階調、色調、マスキング。
今この瞬間は納得いかないデータを、いつか思うような写真に起こせるかもしれない。
10年以上前のコンデジから出てくる写真が、そんな可能性を目に見える形で示してくれた。
一つだけーー
この「コールドスリープ」を経た写真を救うのは、基本的に撮影者自身だ。
だから、RAWデータが私たちにくれる時間は、
新たな技術革新を待つ時間というより、私たち自身が技術や感性を磨く時間だ。
未来の主人公が目覚めた時、メスを執るのは未来の主人公自身だったーー
RAWデータは、未来の自分を信じて写真を眠らせるためのフォーマットなのかもしれない。

