海底で息を吸う
映画を観た。リュック・ベッソンが監督した初期作品『グラン・ブルー』
主人公のジャックが恋人であるジョアンナに語る詩の一節がとてもよかった。
Sais-tu comment vivre avec les sirènes ?
人魚と暮らすにはどうしたらいいか知っている?
Plonge dans les profondeurs de la mer.
Si profondément que le bleu disparaît,et que le ciel bleu lui-même n’est plus qu’un souvenir.
深い海に潜るんだ。深すぎてブルーは消え青空も思い出となる
Dans le silence des fonds marins,demeure immobile et tais-toi.
海底の静けさの中でじっと沈黙して
Lorsque tu auras décidé que tu es prêt à mourir pour les sirènes,elles s’approcheront pour éprouver ton amour.
人魚のために死んでもいいと決意すると人魚たちがその愛を確かめに近づいてくる
Si cet amour est véritable,pur,et conforme à leur désir,
その愛が真実で純粋で人魚の意にかなえば
elles m’emporteront vers l’éternité.
僕を永遠へ連れていく
一時期、人に殺される夢を連日みていたことがあった。殺されるのはいつも海のなかで、わたしは沈められながら首を絞められる。いまにも破裂しそうなほどに膨れあがった青紫の血管を額に浮かべ、憎悪と哀愁と少しの解放感の入り交じった顔が私を見つめる。いつだってはっきりとしない黒い影を落とした顔のうしろには、眼前の光景に不釣り合いなほど美しい背景がひろがる。原色の青を海面の下から輝かせ、屈折しきった幾筋かの陽光がかたちを変えながらやわらかく射し込んでいる。そんな夢をみていた。
『グラン・ブルー』を観ていてなんとなくこのときの夢を思い出した。
Si profondément que le bleu disparaît,et que le ciel bleu lui-même n’est plus qu’un souvenir.
深すぎてブルーは消え、青空も思い出になる
これは、もう人間の世界では自分の居場所を感じられないだろうという諦めの言葉にわたしにはおもえた。生きていると人はどうしても世界の向こう側にあるものを求めてしまう。彼は命への執着を手ばなせば、ずっと知らずにいた愛というものを知ることができるかもしれないと、そんな思いを託して海へ帰ろうとしたようにおもう。(あくまでわたしの推測でしかないけれど)
現実はずっとくるしいし、こんなにくるしいなら死んだほうがマシだろうと毎日のようにおもう。うつくしく甘美な言葉も、普遍性すらも私を救ってはくれない。わたしを救えるのはわたしだけなのに、当の本人はまだ生への執着も死への執着も手放せずに、尊さを引きずりもてあましながら生きている。けれども、ただ過ぎ去っては現れるくるしみを上から重ねているだけのような生活のいっときに、彼の絶望を一緒に見つめることができてよかったと映画を観たあとにそうおもった。
だから、きょうは少しよい日だった。
