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仏教系孊園ラブコメ小説 「ダヌリンはブッダ」 第十䞉回 スむトルさん 1

スむトルさん 1

 北校からの垰り道、私ず冎銬は初めお、二人きりで心ゆくたでおしゃべりをした。
 䜕台もの車のヘッドラむトが私達を照らしながら通りすぎ、私達は倜の道を味わいながら歩いおいた。盞原さんから借りた䞊着は暖かく、私は䞍思議な気分に包たれおいた。


 どうしお、冎銬はこんな冎銬になったのだろう。今なら、それを聞けるかもしれないず思った。
「ねえ、冎銬は昔からその、理科宀のカヌテンみたいな服を着おいるの ずころでそれ、やっぱりカヌテンよね。」
「うん。頂き物のカヌテンなんだ。制服ずいうものは無駄にお金がかかるから、買えなかったんだよ。」
「買えないからカヌテンなの」
「いいや、それは遞んでカヌテンなんだ。僕も、䞭孊の時はきちんず孊生服を着おいたんだよ。」
「嘘 冎銬が孊生服なんお着たこずあるの」
「もちろん。ちゃんず受隓生だったし、髪の毛ずかも今よりずっず短かったから床屋さんにも行ったし。今は、䌞びたずころを適圓に、ハサミで切っおいるんだけどね  。実を蚀うず、僕には先生がいるんだ。」
「先生」
「うん。人生の先生。その人は、名前をスむトルさんず蚀っお、挢字は教えおもらえなかったんだけど、スむトルのスむは、氎ず曞くんだっお蚀っおた。僕がスむトルさんに出䌚ったのは、ここに転校しおくる前に、前の高校で僕が  、登校拒吊から家出をしおいた頃のこずだね。」
「ええっ、冎銬っお、登校拒吊なんかしおいたの!? 党然そう、芋えないんだけど。」
「そうだね。やっぱり、孊校っお無意味に感じおしたうものだから。その圓時の僕には、ずおも、蟛いものだったんだよ。それで、僕は孊校に行かずに井の頭線に乗っおいた時に、痎挢にあったんだ。」
 冎銬は思い出しながら蚀った。私は初めお、冎銬の思い出の䞭に、連れお行っおもらえる気がした。
 
スむトルさん
   
 その時、僕の頭の䞭は茫挠ずしおいた。䜕でかわからないけども、い぀の頃からか僕の毎日が茫挠ずしおいたんだ。
 毎朝電車に乗っお、電車を降り、街を歩いお孊校に通う。ただそれだけの毎日だった。だけどあの、挠ずした感芚は䞀䜓䜕なのだろうかず思った。それずも他の皆も、僕以倖の井の頭線に乗っおいる乗客の皆も、僕には内緒で挠ずしお暮らしおいるのだろうか。
 そうにも芋えるし、違う気もした。圢は目に芋えおも䞭身は教えおもらえない。ただ、繰り返される毎日は間違いなく珟実であるずいうこずは確かで、この生ぬるい井の頭線の車䞭の空気も珟実で、女子高生は倧抂人で固たっおいた。
 先頭車䞡で運転垭越しに芋える颚景は、意味もなくただ、じんわりずした涙を誘った。
 人に芋られないように壁際に寄り添っお景色を芋るのが奜きだった。涙が出たけどその涙に意味はなかった。ただ、迫り来る颚景ず僕は本圓に無関係なんだず思った。
 この䞖ず僕ずは、亀わるこずがない。
 そういった挠ずした䞍安だけがあった。生きがいがないずか、そういう幎寄りくさいこずじゃなくお。なんおいうか  䞖界は玠粒子で構成されおいお、い぀でもバラバラになる準備ができおいたんだ。その頃はこの䞖界が党郚嘘で、本圓の䞖界があるず思っおいた。この䞖が䜕でできおいるのか、僕はすごく、知りたかったんだ  。
 
 い぀ものようにすり抜ける景色の䞭で電車に揺られおいるず、明倧前で電車が止たった。
 い぀も気付くのが䞀瞬の間、僕は遅れおしたうんだ。慌おお降りようずしたけど䞀気に抌し寄せる人波に抌され、黙ったたた電車は発車した。
 息ができなくなるほど、車内の密床は膚れ䞊がっお、人ず人が、ありえないほど觊れ合っおいるのに、その瞬間僕たちはただの塊になる。この觊れ合いに意味はない。ただ、䜕もない毎日の䞭で、関係のない人達に圧迫される満員電車の苊しさが僕は奜きだった。
 東京には空がないっお、そう智恵子は蚀ったらしいけど、僕には空がわからなかった。
 ただこの塊は次の駅で吐き出されお、皆たた元の個䜓に戻る。ばらばらに散る。そしたら僕も流れに乗っお、次の停車駅で乗り換えるんだ。挠ずしながら、「きっずそうなる」ず僕は考えおいた。その頃はもう、この䞖は、たいしたこずを裏切らなくなっおいたから  。
 授業も、時限目には間に合うだろう。そう思っおた矢先だった。圧迫しあう人塊から、手が䌞びおきた。手は僕の前たでくるず、䜕故だか握手を求めた。僕は身動きずれず、じっず手を芋぀め、かろうじおその手に觊れるず、その手に少しの感觊で握られた。突然、脳に血液が集䞭するのを感じおゞュりず音がした。
 黙っおいるずその手は、今床は僕のズボンのゞッパヌをゆっくりず開けた。「あ、觊られおしたうな」ず、僕は思った。手は勝手にゞッパヌに滑り蟌んで、僕の膚らみをそっず撫ぜたけど、僕は盞手が誰なのかわからなかった。
 驚いたのは、僕の頭の䞭の集䞭だった。血液が脳に集たっおきお、そういえば䜕か叫ばなきゃいけないんじゃなかったかず思っお、「痎挢です」ずか、「觊られおたす」ずか蚀おうずしたんだけど脳に血が集たっおいお、そうしおる間にドアが開いた。盞手の手が僕を抌し返すように離れお、䞀斉に人が倖に抌し出されおいった。

 
 息が䞊がっおいた。降りたホヌムで仕事に急ぐ人たちは無感情に僕を抌し、僕はゞッパヌを開けたたたベンチたで寄せられおしたった。ふら぀いお、ベンチに座るず、さっきの手が。倧きくお血管の浮いた、手が差し出されおきたんだ。そしお、「倧䞈倫」っお蚀った  。

 それが、スむトルさんず僕ずの出䌚いだった。
 黙ったたた圌を芋䞊げおいるず、圌は。「やわらかそうだったから、觊っおみた」 ず蚀った。どこかに蚎えるこずもできるのになず、僕は考えおいたんだけど、あたりにもこずもなげな圌の察応に驚いお、飜きれお自分のゞッパヌを䞊げた。
 ただ、空気はい぀もず違っお新鮮に僕に突き刺さっおきた。それはどう考えおもその、挙動䞍審な  27歳くらいのドレッドヘアの圌が匕き起こしおるこずに違いはなく、これから僕たちは䜕凊ぞ行くんだろう ず。電車の去ったホヌムでしばらく、お互い黙っお颚にさらされおいた。


 スむトルさんを初めお芋た時、䜕故かこの人は27歳か、29歳。30歳䞁床はありえないず思った。それはスむトルさんが今、䜕かを起こしそうな歳に芋えたから。僕にずっお「䜕かを起こす」歳は、偶数ではなく、奇数なんだ。今月も、十䞀月ずいうのは、単なる偶然じゃないのかもしれない。
 この人は僕を倉えようずしおるのだろうか だずしたら䜕のためにそれずもただの痎挢なのか。
 スむトルさんは僕の前から去ろうずしなかった。
「あのね。」
 スむトルさんは口のきけない人が自分の気持ちを䌝えたい時みたいに、もどかしそう
に蚀った。
「  うヌんず、あの。キョムを感じるから、君の顔から。さっき凄いキョムを感じたから、倧䞈倫かなず思っお、君を助けたくなっお。それで、觊っおみたらやわらかかったけど堅くなったから、倧䞈倫だなず思っお、それだけだけど。  そんなに、虚無感持お䜙しおんなら、もっずちんこのこずずか、気にかけたほうがいいよ、絶察。 それだけ。」
「  ホモなんですか」
「違うよ」

 こずもなげに、自信たっぷりに。なのに、僕の前から去ろうずしなかった。スむトルさんは䞀぀息をしお蚀った。
「君は俺んちに付いお来るだろ 今、これから。孊校行っおも、䜕もないんだから」  

僕はその時䜕も考えおいなかった。なのにビゞョンは、これからこの人の家に行くっお事がわかっおいた。「䜕もないんだから」っおいう蚀葉が、本圓にその頃の僕を蚀い圓おおいたんだ。僕は圌に぀いお、知らない堎所を歩き始めた。

「名前、聞かないんですか」
 ず僕は聞いた。
「ん 蚀いたくなったら蚀っお」
「剛玉、冎銬  」
 そう蚀うずスむトルさんは「いい名前だね」ず蚀っお、むンドで2500幎前に悟ったずいうゎヌタマ・シッタヌルダのお話をしおくれた。
「俺は、スむトルっおいうの」
「スむ、トル」
「挢字は教えおあげない。ダサいから。アシンメトリヌでそんな奜きでない。でも、
スむは氎っお曞くから、それくらいは、俺を支配しおいい」
「  」
「人に名前を教えるず、盞手に支配される危険性があんだよ。知っおた」
 そう蚀うず石造りの階段に向かっお歩き始めた。
 さっき、僕はこの人に性噚を觊られたずいうのに、のうのうず附いお歩いおいた。軜い䞍安ず劙な安心が胞の裡にあっお、この劙な安心は倚分、この人は僕の芋おる䞖界を解っおくれおいる人っおいう、根拠のない自信だった。
 毎日孊校に通うのに、僕は誰の顔も芚えられないんだ。目に映っおも、「入っお」こない。育おおくれた矩理の䞡芪の顔でさえも「入っお」こない。そんな僕の䞖界に突然入っおきたスむトルさんは、極圩色の颚景だった。
 僕らは黙っお駅を出お、路地を歩いた。
 スむトルさんは途䞭でバナナを買っお僕に持たせるず、八癟屋のおばさんが䜕気なく、
「スむトルさん」
ず声をかけた。圌はけっこう、色んなものに支配されおいるんだな、ず知った。


 アパヌトの階段を登る。䞍安定な鉄の階段が、ギむギむず鳎り、本圓に知らない䞖界を象城しおるみたいで、僕の錓動がその時やけに倧きく聞こえた。ゞャラゞャラずした鍵束を廻しおドアを開けるず、スむトルさんはこう蚀ったんだ。
 「じゃあ、俺倜たでバむトだから。奜きなもん芋おテキトヌに、やっおお。冷蔵庫に麊茶ずか、食いもん入っおるから勝手に食っお。コンビニは角に二軒あるし。飜きたら垰っずっおいいよ。じゃあ」
 え ず僕は面食らった顔をしたみたいだけど、スむトルさんは普通に鍵を眮いお出かけおしたった。ギむギむず、倖の、鉄の階段を降りる音がした。そしお僕は、マヌケにも呆然ず郚屋に取り残されおしたったんだ。
 
 郚屋は、タバコを吞う人特有の、湿ったような匂いがした。それは別に嫌な匂いではなかった。台所には料理の埌があった。さっきたで飯぀くっお食べおたしたっお、そんなかんじだ。
 キッチンからガラス戞を開けお郚屋に入るず、タバコくさい䞀人暮らしの郚屋があった。だけど僕の郚屋ずは、䜕か違っおいた。それは郚屋の䞭のひず぀ひず぀が、さっきたでほんの30分ほどの間に知り合っおしたったスむトルさんの、分身のような䜇たいでそこにいたから  。


 郚屋の䞭倮で党䜓を芋枡すず、黙っおベッドに倒れおみた。今日の僕の運勢は、䞀䜓どうなっおいるのだろうず、しばらく目を閉じお寝たふりをしおいた。ふずんから挂う人の匂いを嗅いで、僕はじんわり涙がでた。

それは、電車の窓から芋るあの涙に䌌おいた。



次ぞ 第十四回 スむトルさん 2
目次ぞ ダヌリンはブッダ

いいなず思ったら応揎しよう

山田スむッチ 毎日、楜しい楜しい蚀っおるず、暗瀺にかかっお本圓に楜しくなるからあなたのサポヌトのおかげで、䞖界はしあわせになるドグ