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『黒き鳳凰の不揃いな翼』が暴く、むき出しの皮膚と冷たい雨


伝統の漆喰しっくい壁がじわりと水分を吸い込み、汚れた灰色に変色していく。
川越の路地裏には、観光バスの重い排気音と、自撮り棒が擦れ合う音が充満する。大通りから響くのは、電子合成された琴の音。
格安着物レンタル店が垂れ流す環境ノイズは、かつてそこにあった職人たちの呼吸を押し潰す。
街頭防犯カメラの乳白色プラスチックカバーだけは、一切の雨滴を弾いて滑らかに光り続けていた。

管理された乳白色の天蓋

画面の向こうに用意された「おすすめ」を、指先でただスクロールしている。
摩擦を排除されたスマートフォンの液晶。
そこには、加工アプリで引き伸ばされた「完璧に幸福そうな笑顔」が並ぶ。

誰もが同じ服をまとい、同じポーズで写真を撮り、同じ定型文を消費する。

表情を失った若者たちの眼球は乾ききり、まばたきをするたびに、まぶたの裏に走る砂の痛み。
この滑らかで無機質な調和は、人間の生の輪郭を音もなく削ぎ落としていく。

火傷の痛みと鉄錆の味

菓子屋横丁の奥深く、錆びついたシャッターを半分の高さまで下ろす男がいる。
伝統を守る職人、椿朝陽。百度を超える砂糖の塊を素手で捏ね続けてきた。
指先の皮膚は硬く焼けただれ、年輪ねんりんのように硬化し、もはや温度を感じ取れない。
融資打ち切りの宣告書が、胃の奥に冷たい泥を溜めていく。駅前でしゃがみ込む少女、高萩咲。
咲は、爪の甘皮あまかわを前歯で引きちぎり、口いっぱいに広がる生温かい血の味を噛み締めていた。
鉄錆の味だけが、咲を電子の檻から引き戻す唯一の感触なのだ。

切り裂かれる無菌室

街を効率的な数式へ嵌め込もうとする実業家、大野宗一郎。
執務室は、光を乱反射する乳白色のセラミックで満たされ、一切の影が存在しない。
提示されるのは、伝統を捨て、量産型の安価なゼリーを手売りする契約。
朝陽は、その完璧な合理性を前に激しい眩暈を覚えた。
差し出された冷たいコップの、不純物を完全に奪われた水。
あまりの清潔さに、朝陽ののどは強烈な拒絶反応を示して激しくむせ返る。
無音 of the 死臭から逃れるように、工房へ戻った。

不揃いな翼が描く夜明け

深夜の工房、沸騰した黒い竹炭の砂糖。
朝陽は、火傷だらけの素手をその灼熱の塊へと突き入れた。
肉の爆ぜる激痛が脳髄を覚醒させ、冷たい鉄の裁ちハサミが狂った速度で動き始める。
切り出されたのは、不均一な翼を持った、巨大な「黒い鳳凰」。
咲は、切り落とされた鳳凰の鋭い尾羽を口に含んだ。
脳を麻痺させていたスマートフォンをコンクリートに叩きつければ、蜘蛛の巣のようにひび割れた液晶から、濁った乳白色の液体がにじみ出る。

消えない砂糖の余熱

川越から遠く離れた、古い水路が巡る名もなき寂びた街。
瓦の崩れた廃屋の片隅で、再び小さなガス台の炎が爆ぜた。
朝陽の包帯からは今も黄色い膿が染み出しているが、その手はハサミを力強く握りしめている。
子供たちが、泥のついた指先で熱い鳥の飴細工を受け取り、口に含む。
脳を直接叩くような強烈な甘みと熱さ。
不揃いな呼吸は、吹き付ける冷たい風に乗り、静かに世界へと響き渡る。



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蘇芳 誠(すおう まこと) 「利益」をもたらすコンテンツは、すぐに廃れます。 不況、インフレ、円安などの経済不安から、短期的な利益を求める風潮があっても、真実は変わりません。 人の心を動かすのは「物語」以外にありません。 心を打つ物語を発信する。 時代が求めるのは、イノベーティブなブレークスルーです。