創作大賞感想 推しという名の幻想
五感へ訴えてくる「泥沼」の臨場感
みくまゆたんさんの「推しという名の幻想」を拝読させていただきました。
現在進行形で破竹の進撃を続ける、今、noteで最もホットなクリエイター。
それが、みくまゆたんさんです。
光栄なことに、何度かスペースやGooglemeetでお話をさせていただいておりますが、その言行一致の行動力に、いつも刺激を頂戴します。
刺激と言えば……ちょくちょく現れるご主人さんも、かなりの「キャラクター」をお持ちで、噂によると小説執筆にご興味を持たれているとか。
そうした部分も含め、これからのみくまゆたんさんのご活躍から、ますます目が離せません。
思わず脇道に逸れてしまいました……。
さて、本作を読み始めてまず圧倒されるのは、主人公が置かれた環境の凄まじいまでの生々しさです。
都心の喧騒から外れた、古い木造アパート
茹だるような夏の熱気
額から流れる汗が眼球に沁みる痛み
部屋に充満する生ぬるいゴミの匂い
思わず目をそむけたくなるような、息を止めたくなるような、こうした「不快な現実」の描写が徹底しているからこそ、画面の中で甘く囁く推しの放つ「青白く冷たい光」の対比が、より一層鮮明に際立ちます。
読者は、主人公が安物の缶ビールを煽り、半額シールの貼られた硬いおむすびを喉に押し込むその喉ごしまでも共有させられることになります。
この生理的なリアリティが、物語が進むにつれて加速する狂気への説得力を「臨場感」として体験させられることになるわけです。
引き込まれるテンポ
本作はテンポの作り方も絶妙です。
導入部では、スローテンポで主人公の日常の閉塞感を丁寧に描写し、現実から乖離していく、心理的な準備期間を克明に描き出していると感じました。
中盤はいわゆる「推し活の投げ銭合戦」によって、テンポが速まります。
デジタル通貨が飛び交い、コメントが流れる描写で高揚感を生み出すとともに、読者を主人公の「依存サイクル」へと引き込んでいく。
そこから多層的な視点の切り替えで、物語に「タメ」と「深み」が加わり、怒涛のクライマックスへと続いていく……。
そしてラスト。
ここでまたテンポを落とし、これでもかと強烈な余韻を残す。
これはそのまま、主人公の「執着」という感情の揺らぎに合わせられているようで、読者は否が応にも作品世界に引き込まれる。
この計算され尽くした作品のテンポが、本作の心理サスペンス要素と相まって、より一層「怖さ」を倍増させているように思いました。
思わず考えてしまう
「推し」という現代的なテーマを扱いながら、本作が描いているのは、誰もが心のどこかに抱える孤独や承認欲求、そして「好き」という感情が行き着く先の、「一つの可能性」です。
この物語に登場する人物に、明確な「善」もなければ「悪」もない。
ただ、誰もが持っている孤独、痛み、虚飾、弱さ、そして愛情を、自分なりに体現しているに過ぎない。
だからこそ、この物語は決して他人事ではなく、読んでいるうちに「自分だったらどうだろう」と何度も考えさせられてしまう。
五感を刺激する濃密な描写と、計算し尽くされた構成によって、読者をじわじわと泥沼へ引きずり込んでいく心理サスペンス。
息苦しいほどの臨場感と、読み終えたあとも長く心に残る余韻を、ぜひ多くの皆さんに味わっていただきたい作品です。
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