台湾の南の人々のいとなみ。『フォルモサ南方奇譚』倉本知明
台湾の南、高雄。ポップな表紙のページをめくると、最初にある写真からすごくステキです。観光ガイドでよくみる高雄の景色ではなくて、地元の人が住んでいて、いつも見ている日常の風景がそこにあります。
著者の倉本先生は、愛用のスクーターで地元をまわり、あちこちに眠っている古い話や、神様のいいつたえを聞いて回ります。そして、地元の歴史書なんかと照らし合わせて、想像も加えて深みのある話を聞かせてくれます。ノンフィクションなのに、なぜかとてもファンタジーっぽいのが不思議。
例えば、台湾で亡くなった日本兵の霊を慰めるために、わざわざ日本酒をお供え物をしてくれる台湾人の話。日本だと「慰霊」がメインになりそうだけれど、台湾の場合「祟らないように」だからリアリスティック。うっかり日本酒ではなく台湾のお酒をそなえたりすると、妙なことがおきたとか、おきなかったとか。
現実と虚構の狭間に落ち込んだみたいな物語は、台湾なら現実にありそうな気がしてしまいます。呉明益さんのマジックリアリズムな小説みたい。でも、各章にちゃんと地図があるので、現実と地続きの話だとわかります。
高雄にいるドラゴンの話。私はこれが一番好きでした。観光したことのある公園の近くに、こんなおもしろい言い伝えがあったなんて驚きです。この本を片手に、ぜひまた高雄に遊びに行きたくなるような、愛嬌のある龍の物語。
それから、台湾のシラヤ族は足が速くて、中には中国大陸の駿馬よりも速く走れる人がいたそうです。彼らの物語は、南米のものすごく走るのが早い人達の本を思い出させます。シラヤ族は近代になると郵便業務を受け持ったというのは納得ですが、原住民同士の対立なんかもあって、そのあたり複雑さが辛かったです。
台湾の原住民は、オーストラリアやニュージーランドに住んでいた人たちとDNAが近いらしく、大昔に海を渡ってやってきた人々。台湾には大航海時代にスペイン人がやってきて、オランダ人もやってきて、やがて中国から漢族や客家がやってきて、近代には日本人もやってきて。
なまじ航海上重要な場所にあっただけに、台湾もまた血で血を洗うような多ニンゲンの対立が続いてきました。良い悪いではなくて、言葉や文化が違う人たちがぶつかると、必然的にそうなってしまう人歴史。読んでいるうちに、頭の中はひらすら映画『セデック・バレ』が浮かんでは消えていきます。
琉球の人たちが台湾の近くで遭難して、たどり着いた台湾南部で多数が殺されてしまった事件は、ただただ文化の違いが原因。もし、誰か通訳のできる人がいてくれたら、事件は置きませんでした。
そして、この事件をきっかけに日本は台湾へ出兵しましたが、それを勧めたのがオランダ人のお雇い外国人。彼は以前、台湾の原住民の人たちと良好な関係を結んでいて、台湾を離れたあとは日本の明治政府に超高給で雇われて、台湾出兵を促したとか。オランダもイギリスも、東インド会社って嫌すぎる。
そして、その後日本が台湾を植民地として統治します。その過程でも、当然ながらたくさんの「土匪」を討伐します。台湾各地の反乱の英雄たちの話は、なんだか水滸伝の物語みたいと思ったら、百年以上前の日本人もそう思っていたようです。
中国から渡ってきた漢族や客家の人たち、台湾原住民のいろんな部族の入り組んだ力関係。それほど大きくない台湾の、さらに南部だけでもかなり複雑。そんな人たちがまとまらないように分離工作したり、投降をうながしたり。
倉本先生の文章は、最初、軽く読み進められるのですが、内容はだんだん重くなっていきます。最後は、台湾の製糖工場から自分たちの土地を守った農民たちと、彼らを助けた日本の弁護士の話。読後感は若干苦いけれど、絶対、たくさんの人に読んで欲しいです。
台湾の南といえば、映画『海角七号』がありますが、あの世界のステキな景色と、この本に詰まった歴史のノンフィクションを重ねると、またいろいろ味わい深いです。
