中東緊迫と円急伸、米長期金利は5%接近で市場動揺 クアルコムはAWSと最大600億ドル供給契約へ|2026.9.9
原油高・円高・米金利高という三重の衝撃、東京市場も朝から終始動揺
中東情勢の緊迫化を受けた原油価格の上昇、日銀の利上げ観測を背景とした急激な円高、そして米長期金利の5%接近という三つの材料が同時に市場を揺さぶっている。8日のニューヨーク市場では米国債の売りが続き、10年債利回りが約20年近く定着してこなかった5%の節目に迫った。
株式市場では主要3指数がそろって続落し、ソフトウエア株が下げを主導した一方、半導体関連には資金が向かった。為替市場では円が対ドルで7カ月ぶりの高値付近まで上昇し、日本の投資家心理にも影響を及ぼしている。9日の東京市場は前日の急落から持ち直す展開となった。
中東情勢が一段と緊迫化、原油は90ドル台後半に上昇
米軍によるイランのカーグ島(主要な石油積み出し拠点)近海への攻撃、およびフーシ派によるサウジアラビアの石油タンカーへの攻撃を受け、WTI原油は94.33ドル、北海ブレント原油は98ドルを突破した。エネルギー価格の上昇はインフレ再燃への懸念を呼んでいる。
8日のニューヨーク株式市場でも、S&P500種エネルギー株指数は中東の緊張激化による原油高を受けて1%上昇し、マラソン・ペトロリアムが2.4%高、オキシデンタル・ペトロリアムが1%高となった。小麦は747ドル、銅は6.7ドル付近まで上昇しており、供給サイドからのインフレ圧力を裏付ける動きとの見方も出ている。中東情勢の先行き不透明感は、東京市場でも前日の株価下落要因の一つとして意識されている。
円相場が対ドルで7カ月ぶり高値、152円台へ急伸
外国為替市場では、円が対ドルで7カ月ぶりの高値付近で推移した。日銀の利上げペース加速への期待や、日本の投資家による海外資金の還流(リパトリエーション)観測、円キャリートレードの巻き戻しなどを背景に、円は先週以降で約5%上昇している。アジア時間の取引では円が一時1ドル=152円89銭まで上昇し、7月の日米協調介入時の水準を上回って2月以来の高値を付けた。その後は上げ幅を縮小し、ニューヨーク市場終盤では153円81銭前後、終値ベースでは153円96銭から154円01銭のレンジで取引を終えている。
バノックバーン・グローバル・フォレックスのチーフ市場ストラテジスト、マーク・チャンドラー氏は、先週見られた強力なショートスクイーズが継続しているとみられ、政府による介入の兆候はほとんど見られず、円がキャリートレードの調達通貨として使われてきた反動としての市場調整という側面が強いとの見方を示した。
片山さつき財務相は8日の閣議後会見で、秩序ある為替相場の維持に努めるとし、7月末の日米協調介入以降、対応方針は一切変わっていないと述べた。ユーロは対円で1ユーロ=178円83銭と、9カ月ぶりの円安値付近で推移した。
米長期金利が5%接近、市場関係者に警戒感広がる
米10年国債利回りは4日に4.8%を付け、2023年10月以来の高水準を記録した。約20年近く定着することがなかった5%の水準に迫っており、この節目を超えた場合の市場への影響に注目が集まっている。借り入れコストの上昇を通じて企業や消費者の負担が増し、株式市場に打撃を与えかねないと懸念するアナリストがいる一方、人工知能(AI)関連投資ブームが市場を支えるとの見方も根強い。
ソシエテ・ジェネラルのアルバート・エドワーズ氏は、米30年国債利回りの株式配当利回りに対する倍率が、2000年のITバブル崩壊以来の高水準に達したと指摘し、割高なバリュエーション自体が弱気相場の引き金になるわけではないが、市場を悪材料に対してより脆弱にすることは確かだと警告した。
第1四半期の名目国内総生産(GDP)成長率は前年比6.07%、第2四半期は6.56%となり、依然として利回りを上回っている。エコノミストらは、経済成長率が借り入れコストを上回る状況であれば財政赤字が拡大しても債務負担は急激に悪化しにくいと指摘するが、利回りが成長率を上回れば債務の持続可能性が低下するとの懸念も示されている。米財務省が算出する長期実質金利の平均値は、昨年末の2.55%から今週には2.92%へ上昇した。TDセキュリティーズUSAの米金利戦略責任者、ゲンナジー・ゴールドバーグ氏は、最近の超長期債利回り上昇は主として実質金利の上昇によって引き起こされていると述べている。
ガンドラック氏、FRB据え置きなら債券売り再燃と警告
著名投資家で米債券運用大手ダブルライン・キャピタルの最高経営責任者を務めるジェフリー・ガンドラック氏は8日、FRBが来週の政策会合で市場の予想に反して金利を据え置いた場合、米長期債利回りの新たな上昇を招き、歴史的な債券売りが一段と深まる可能性があるとの見方を示した。同氏はウェブキャストで、市場は約60%の確率で利上げを織り込んでいるが、自身は反対に傾いていると発言し、インフレの根強さや経済活動指標の底堅さにもかかわらずFRBに行動する意思があるか懐疑的だとした。
2年債利回りの水準を踏まえると、フェデラルファンド(FF)金利は現在よりおそらく50ベーシスポイントほど高くあるべきだとし、政策金利は利回り曲線の短期ゾーンと再び乖離していると述べた。FF金利は8日時点で3.63%、2年債利回りは4.998%だった。30年債利回りについては、2020年の低水準から8日時点の約5.25%まで大幅にリプライシングされた後も、依然として構造的に脆弱だと指摘した。
同氏は債券売りの背景として、多額の米国債発行と、特にAI関連の借り手による社債の供給増という組み合わせを挙げ、市場はこれほどの量の債券を消化するのに苦戦していると述べた。構造的に高い実質利回り、根強いインフレ圧力、巨額の財政赤字は、タームプレミアムの高止まりが長期化する可能性を示唆しているとし、長期国債よりも短いデュレーションの債券、現地通貨建て新興国債券、実物資産を選好しているとした。
米国株式市場は続落、ソフトウエア株が重荷となる
8日の米国株式市場は続落した。ダウ工業株30種平均は前日比1.18%安の5万2786.07ドル、ナスダック総合指数は0.32%安の2万6421.41、S&P総合500種は0.58%安の7673.52で取引を終えている。セールスフォースとインテュイットが約4%安、サービスナウが5%下落し、S&P500種ソフトウエア・サービス株指数は1.4%安と2日続落した。OpenAIが先週最新モデル「GPT-6 Astra」を発表したことで、AIが専門ソフトウエア企業の提供サービスと競合し得るとの観測が再燃したことが背景にある。
アージェント・キャピタル・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジェド・エラーブローク氏は、Astraはソフトウエア業界の破壊的変化への懸念を再燃させたとし、半導体株やデータセンター向け設備投資の恩恵を受ける銘柄が好調な半面、ソフトウエア株が振るわないというしばらく続いていた古いトレンドを再開させたと述べた。
米労働省が先週発表した8月の雇用統計で就業者数の伸びが予想を大幅に上回ったことを受け、市場では15〜16日開催のFOMCで利上げが実施されるとの観測が強まっている。CMEのフェドウオッチによると、金利先物市場が織り込む来週のFOMCでの利上げ確率は60%となっている。アップルは、ジョン・ターナス新最高経営責任者の下で最新のスマートフォンを披露するとみられるイベントを翌日に控え、1.2%下落した。この日の米取引所の合算出来高は157億株となり、直近20営業日の平均である149億株を上回った。S&P総合500種では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を2.4対1の比率で上回った。
クアルコムがAWSと最大600億ドルの半導体供給契約
半導体大手インテルは9%急伸し、クアルコムは3.2%上昇した。クアルコムは8日、アマゾン・ドット・コムに対し、長期的な提携の下で最大600億ドル相当のAIデータセンター向け半導体および関連製品を供給する可能性があると発表した。この提携では、AWS向けカスタムAIチップおよび最大1.6Tbpsの光接続ソリューションを複数世代にわたり共同開発するとしている。
クアルコムはアマゾンに対しQCOM株を最大2500万株、1株161.26ドルで取得できるワラントを発行する。時価総額換算では約40億3000万ドル相当にあたる。ワラントの有効期限は2036年9月3日までで、初回分の375万株(全体の15%)はアマゾンの初期購入コミットメントに基づき即座に権利が確定し、残りの85%はアマゾンの実際の購入実績に連動して段階的に権利が確定する仕組みとなっている。
クアルコムの最高財務責任者は同日、収益計上は2027会計年度第1四半期、すなわち2026年12月期から始まると説明しており、この提携が将来の構想にとどまらず既に量産段階に入りつつあることを示している。発表を受けクアルコム株は取引時間中に最大9.5%上昇する場面があった。市場関係者の間では、モバイル向け半導体が中心だったクアルコムがインフラ企業としての性格を強めている表れであり、AI半導体を巡る競争軸が汎用GPUから顧客企業ごとに最適化されたカスタムチップへと広がりつつあることを映す動きとの見方が出ている。
東京市場、前日急落からも持ち直し半導体株が堅調
9日の寄り付きの東京株式市場で日経平均株価は、前営業日比0.28%(182円11銭)安の6万5087円22銭と続落してスタートした。もっとも安寄り後はすぐに下げを取り戻す展開となり、午前9時5分現在では前日比0.3%高の6万5400円台まで戻す場面もあった。
前日8日の東京市場では、円急伸や米長期金利上昇、中東情勢の緊迫化という複合要因が重なり、日経平均は前営業日比1130円51銭安の6万5269円33銭で取引を終えていた。年初来高値は6月22日に付けた7万2831円73銭、年初来安値は3月31日の5万0558円91銭となっている。9日の取引では、前日の米国株式市場で半導体関連株が高かったことを受け、東京市場でも同関連銘柄への買いが先行した。個別ではトヨタ自動車が横ばい、ソニーグループは軟調だったものの、アドバンテストやレーザーテック、ソフトバンクグループはしっかりとした値動きを見せた。
東洋証券ストラテジストの大塚竜太氏は、中東情勢の緊迫化で前日は取引後半に値を崩したが、この日も同じ要因が株価の重しになりやすいとした上で、為替相場は落ち着いた感じがある一方、日銀の利上げ観測についてはかなり織り込まれたとみられ、TOPIXは軟調な展開が予想されるものの、前日の米株市場で半導体関連株が高かったことが日経平均を押し上げる可能性があると述べた。この日の日経平均の予想レンジは6万4500円から6万6000円とされ、ラガルド欧州中央銀行総裁による独連銀での講演やアップルの新製品発表イベントも材料視されている。
40兆ドル債務とAI起債ラッシュ、M&A市場にも影響
米財務省は8月19日、連邦政府の総債務が初めて40兆ドルを突破したと発表している。超党派の民間団体「責任ある連邦予算委員会」の代表は、この節目について政府の帳簿上の数字にとどまらず経済全体で実感されるものになると警告し、ドイツ銀行の米国担当チーフエコノミストも、40兆ドルという水準自体よりも国債利回りの上昇そのものがより重要だと指摘している。データセンター建設費用を賄うため、AI関連の借り手による社債発行が増加していることも、国債市場との資金の奪い合いを通じて利回り上昇の一因になっているとの見方がある。
こうした借り入れコストの急上昇は、企業合併・買収(M&A)市場にも影を落としている。大型案件が相次ぐ年になるとの期待で始まった今年のM&A市場だったが、レーバーデー直前の時点で投資家や銀行関係者の間には不安感が広がっているという。あるヘッジファンド運用者は、例年であれば夏季休暇明けの取引活発化や案件増加の節目となるレーバーデー明けにもかかわらず、案件成立までの期間が数カ月単位で長引く可能性を見込む投資家が増えていると指摘した。価格調整や取引条件の工夫で対応できるとの声もあるが、買い手が提示できる金額は明らかに低下しているとされ、別の投資家は、何をするにもコストが高くなっており、M&A活動にも影響を及ぼすだろうと語っている。
日米の主要セクターへも波及、円高が輸出企業を直撃
一連の市場変動は、日米の主要セクターにも波及している。市場関係者の分析によれば、為替感応度の高い輸出セクターは163円台から152円台への急激な円高シフトにより収益モデルの再構築を迫られており、多くの輸出企業が今期の想定為替レートを160円近辺に設定していたことから、152円台までの円高進行は8円のギャップだけで数百億円規模の営業利益下振れ要因になり得るとの指摘がある。自動車セクターは為替と米加関税の二正面作戦を強いられているともされる。
半導体・AIインフラ分野では、クアルコムとAWSの提携に象徴されるように、汎用GPUへの依存を減らし特定の顧客企業向けに最適化したカスタムチップ(ASIC)へとシフトする動きが加速しており、この流れがNVIDIAの価格支配力に対する長期的な構造変化をもたらし得るとの分析もある。個別銘柄の具体的な値動きについては報道各社による裏付けが十分でない部分もあるが、ヘルスケア・消費財セクターやモビリティ産業でも、決算や新製品を巡る材料をきっかけに評価が大きく揺れ動く場面が伝えられている。
市場では、今週発表されるPPI・CPIの結果や来週のFOMCの判断を見極めながら、金利・為替・地政学リスクという複数の材料をにらんだ神経質な展開が続くとの見方が強まっている。

