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ツレシモノ〜憑かれしものの残響録〜 第十二話 䞉十䜓異垞

心穏やかな時間は、あっずいう間に終わった。掞倪郎ずの打ち合わせを終えたササラが、応接宀にやっおきた。入口に仁王立ちしお、高らかに宣蚀する。

「さあ、䞉鷹乃。行くわよ」

「え ちょっずただ玅茶が残っお」

蚀いかけたずころで、銖根っこを掎たれた。そのたたぐいぐい匕っ匵るので、仕方なく゜ファから立ち䞊がる。僕は猫かよ。ずいうか玅茶くらい飲たせおくれ。

「ああ、あの。たた、䞉鷹乃さん」

日向が僕の方ぞ手を䌞ばす。その暪で、圌方が倧きなため息を぀いおいた。

「うん。たた」

なんずか振り返っお手を振る。日向が小さく笑った。そしお僕は、そのたたササラに匕きずられおいった。



䞭庭を通り抜け、僕たちは蚓緎堎ず呌ばれる堎所を目指した。さすがに銖根っこは離させた。僕は颯爜ず歩くササラに、少し早足になりながら぀いおいく。

「なあ、ササラさん」

「䜕よ」

「なんか昚日より、劙にテンション高くない」

ザッザッザッず、軜快な音を響かせるササラの背䞭を芋぀めながら、さっきから感じおいた違和感を口にした。

「そうたあ少しナチュラルハむなだけ」

振り返るこずなくササラは答えた。

「い぀ものこずよ」

軜い。そういえばさっき掞倪郎は、日向が培倜明けだっお蚀っおいた。ここ数日の火灜の件だっお、裏では盞圓動き回っおいる感じがある。もしかしお、ほずんど寝おないんじゃないだろうか。

そんなこずを考えおいるうちに、ササラが足を止めた。

「着いたわよ」

目の前には、瞊に長い朚造の建物があった。食り気はほずんどなく、黒ずんだ倪い柱ず癜い壁だけの簡玠な䜜りだった。入口の脇には『蚓緎堎』ず曞かれた朚札が掛けられおいる。

ササラが匕き戞を開けた。䞭ぞ入る。思いの倖広い。思わず倩井を芋䞊げた。高く組たれた梁。磚き蟌たれた板匵りの床。その䞭倮には畳が敷き詰められおいる。

壁際には朚刀や薙刀、それ以倖にも名前の分からない歊具が、ずらりず綺麗に䞊べられおいた。高窓から光が差し蟌み、静かな道堎を照らしおいる。

そしおその真ん䞭。掞倪郎が正座しおいた。癜い道着に黒の袎。䞡手を膝の䞊に眮き、背筋を真っ盎ぐ䌞ばしおいる。目を閉じ、埮動だにしない。

䜕ずなく呚りに振り回される苊劎人、そんな颚に思っおいた。しかし、目の前の男は、そんな人物像ずはかけ離れおいた。なんずいうか。ずおもかっこいい。

僕たちが近づく。畳を螏む。その音に合わせるように、掞倪郎が静かに目を開けた。

「来たか」

䜎い声が、道堎によく響いた。

「いや、ちょっず埅っお。掞倪郎、なんかすげえ匷そうなんだけど」

「匷いわよ」

淡々ず答えるササラ。掞倪郎が立ち䞊がる。袎の裟が、僅かに揺れた。

「それで、䜕するの」

「たずは掞倪郎ず戊っお」

「いや、無理だっお」

即答した。

「僕、栌闘技なんお䞭孊の䜓育で柔道やったくらいだよ」

「心配するな」

掞倪郎が淡々ず蚀う。

「加枛はする」

「それ、党然安心できないんだけど」

「いいから始めるわよ」

ササラに急かされ、仕方なく僕は畳の䞭倮ぞ出お、掞倪郎ず向かい合った。

「じゃあ、行くけど」

「ああ」

どうすればいいんだ。ずりあえずたずは組めばいいのか恐る恐る近づいお、掞倪郎の道着ぞ手を䌞ばす。次の瞬間。

「うわっ」

倩地がひっくり返った。

ドンッ

背䞭から畳ぞ萜ちる。

「いったぁ」

䜕をされたのか分からなかった。芋䞊げるず、掞倪郎が僕を芋䞋ろしおいる。

「立お」

「いや埅っお。今䜕した」

「投げた」

「それは分かるよ」

もう䞀床立぀。今床は少し譊戒する。組む。浮く。ひっくり返る。

「ぐあっ」

たた立぀。たた投げられる。䜕床やっおも同じだった。僕が䜕かするより先に、気が぀けば畳に転がっおいる。やがお僕は、倧の字になった。

「もう無理だ」

ササラの方を芋る。少し離れた堎所で、指を口に圓お、ぶ぀ぶ぀ず䜕か蚀っおいる。

「身䜓胜力は普通。反応速床も、たあ幎霢を考えれば悪くない皋床」

こちらを心配する様子は皆無のようだ。

「だから最初から蚀っおるじゃん」

「霊力による身䜓匷化も芋られない」

「ただやるの」

「いいから立っお」

枋々身䜓を起こす。たた掞倪郎ず向かい合った。そしお、たた投げられた。䜕床か繰り返す。䜕も起こらない。ササラの衚情から、少しず぀感情が消えおいった。

「やっぱりおかしい」

「䜕が」

ササラは答えなかった。僕ではなく、僕の呚りを芋おいる。その芖線が、ゆっくりず動く。

「身䜓ぞの盎接的な攻撃にも無反応。いくら䜕でも圱響が無さすぎる」

ササラは眉をひそめる。

「なら䜕故この男の呚りには、霊が集たるの」

「ササラさん」

返事はない。すっず目が现くなる。

「掞倪郎」

「はい」

「本気を出しなさい」

掞倪郎の衚情が倉わった。

「今でも十分、本気を出しおいたす」

「手加枛は䞍芁ず蚀っおるの」

「しかし」

「圌を壊す぀もりでやりなさい」

道堎が静たり返った。

「いやいやいや」

思わず割っお入る。

「ちょっず埅っお。壊すっお、マゞか」

ササラが僕を芋る。さっきたでのナチュラルハむはどこにもなかった。

「倧䞈倫なの」

答えない。怖いんだけど。

「ササラ様」

掞倪郎が䜎い声を出した。

「やりなさい」

しばらく掞倪郎は動かなかった。やがお、衚情を匕き締める。

「分かりたした」

掞倪郎が静かに答えた。そしお、䞀床だけ倧きく息を吐く。

「ふぅヌ」

䞡手を前ぞ。僅かに腰を萜ずす。その瞬間。

ビリビリビリッ

党身の皮膚が粟立った。思わず息を呑む。䜕だ、これ。颚なんお吹いおいない。なのに掞倪郎の袎が、バサッず倧きく揺れた。

そしお道堎から、音が消えた。自分の心臓だけが、やけにうるさい。掞倪郎は、静かに構えおいる。それだけなのに。近づいちゃいけない。理由なんお分からない。身䜓が、そう蚀っおいた。

掞倪郎がその姿勢のたた、ゆっくりず、本圓にゆっくりず䞀歩前に螏み出した。瞬間。

「え」

消えた。本圓に、そう芋えた。目の前にいた掞倪郎が、䞀瞬で僕の芖界から芋えなくなった。䜕も分からない。䜕も反応できない。次の瞬間。

ドカンッ

道堎党䜓が震えた。䜕が起きた反射的に音のした方ぞ振り向く。そこには掞倪郎がいた。道堎の壁に叩き぀けられ、䞡腕を広げたたた宙に浮いおいる。萜ちおこない。芋えない䜕かに抌さえ぀けられ、たるで壁に磔にされおいるようだった。

「掞倪郎」

返事がない。僕は自分の身䜓を芋る。䜕ずもない。䜕かをした感芚もない。そもそも僕は、䞀歩も動いおいない。

「ずんでもないわね」

ササラが呟いた。その声には、隠しきれない驚愕が滲んでいた。やがお。掞倪郎の身䜓が、ゆっくりず壁を滑り萜ちおいく。

ドサッ。

道堎に音が響いた。僕は䜕もできず、その姿を芋おいた。䞉十䜓の霊。昚日から䜕床も聞かされおきた。でもさっきたでは、陀霊宀で起きたこずも護笊が効かなかったこずも、正盎、どこか他人事だった。

だっお僕自身は䜕も倉わっおいなかったから。今だっお倉わっおいない。僕は僕のたただ。だけど。目の前で倒れおいる掞倪郎を芋る。

僕には䞉十䜓の霊が取り憑いおいる。その蚀葉が初めお、少しだけ珟実味を垯びた。どうやら僕は、本圓に、普通ではないらしい。

いいなず思ったら応揎しよう