やっと我が家の"エイ"が退院して来ましたというお話。
我が家の"エイ"英語でスティングレー。
そうエイである。あのエイだ。
何をどう見てエイなのか分からないけど、コンパクトながら安定感のある走りに定評があるのである。
親父から受け継いだ。ケイ。
乗り心地は悪くないが、荷物は乗らない。
だけど余計な物を入れない派の僕としては丁度よいのである。
思えば1年前。僕の釣り仲間と、夜中から朝方にかけて、青物狙いに行った日の事を思い出す。
朝の3時にフィールドインし、奇跡的取れたベストポジション。
ワクワクドキドキしながら、堤防に椅子を起き、せっせと餌の確保をする。所謂泳がせ釣りというやつだ。
一騎当千。わらしべ長者釣り。誰でも簡単に大物が狙えるという夢のような釣法であるのだが…。問題が一つ…。
「餌が釣れなきゃ意味がない」のである。
そんな生けバケツの中を優雅に泳ぐ可愛い一匹のアジ。
季節は秋。ハイシーズンである。
乏しい釣果に、お互いの肩は下がり、どちらの仕掛けにアジを使うのか?についてここはじゃんけん…。見事に負け越した。
辺りは次第に明るくなり、意気揚々と仲間は竿を振り、仕掛けが海の中に消えていく。
「今日はいけるかな?」なんて期待も、秋のハイシーズンにしては活餌が確保出来ない状況では、一目瞭然であるのだった。
流れる潮を眺めて、静粛な間が辺りを冷やしていく。
秋口もそろそろ冬に近づいて、着込んだ防寒着の間に吹き込む風が冷たかった。
「なぁ、そう言えばさ、あんたの車。なんて言ったっけ?」
「ああ、スティングレーね」
「そうそうそう。それだ。」
硬いタックルボックスに腰掛けたせいか、尾てい骨が痛み、身じろぎをし、座り直す。
「スティングレーってさ、英語じゃんな」「それどういう意味?」
パチクリしながら答えを待つその表情はまるで、餌を待つイワシの様に見えてクスリと笑しそうになったが真面目に答えた。
「エイだよエイ。」
「あああ〜エイね!」「エイ、トォ、ヤァーみたいな?」
なんでそういう解釈になるのか理解に苦しんだが、キョトンとした表情に呆れて
「エイって魚のな」「あの、尻尾に毒針があるやつ」
「え?エイってスティングレーっていうの?かっこええ」「でもさ、エイって英語みたいじゃん。俺ずっとそうだと思ってたわ」
確かにエイって感じの見た目だよな…。スティングレーってちょっと上品だもん。
そんなやり取りを交わしていると、竿先が水面へとお辞儀をした。
「お、おい?来たんじゃないの!?」
一同パニック。どうしよ、どうしよとあたふたする友人に
「竿を持って合わせないと。それ完全に食ってるって!!」
竿を持ち上げて思いっきりフッキングした。
ぎゅるるる〜ととてつもないドラグ音が響き渡り、何だ何だと、釣り人たちが集まって来る。
「で、デカいぞ!」「これブリサイズじゃね!?」
興奮する仲間。その展開を見つめる僕。ソワソワするギャラリー達。
リール巻けないんだけど、リール巻けないんだけど〜と情けない声を上げながら、ひゃーひゃーはしゃぐ仲間。
少しづつ近づいている。確実に足元付近まで来たはずだ。
そして水面を割るように、水しぶきが上がった。
微かな魚影を見た仲間は叫んだ。
「ヒラメ。ヒラメだよぉーう!!」
ギャラリー大興奮。タモやりますかぁ〜タモ手伝いましょうかぁ〜と、気が付けば辺りを包囲していた。
「やっば。竿持たん!!」
弱気な仲間に「大丈夫、絶対にバレないから、慎重に」
と掛け声を一つ、頑張れ〜頑張れ〜とギャラリーたちも仲間を鼓舞している。
リールが熱を持つ。ギャラリーと僕の視線も交わる。
頑張れ〜。頑張れ〜。今晩はエンガワが食べられるんだぞ!ご馳走だぞ!ヒラメだぞ!美味しいんだぞ!
やかましい僕を尻目に、とうとうヒラメが顔を覗かせた。
既に僕のタモを抱え、水面に顔を近づけているギャラリー。
「もう少し。もう少し手前です!!」「そうそうそう。こっち!!」
だが皆薄々気がついている。その魚影変なんです…と。
ヒラメはヒラメではあるが、ヒラメではない…。
「スティングレー…」
エイっと竿を上げて、エイっとタモがスルスル水面に落ちる。エーっ!!て声が聞こえる。いや、エイって言ったのかもしれない。
タモに収まった立派なスティングレー。お尻から入れたせいで、奇妙な両眼がぎょろりと覗いている。
尻尾を不機嫌にバタバタさせて、冷めきった周囲と、熱狂する仲間。
「ヒラメ始めて掛けたわ!!」
キャイキャイはしゃいでいるが、エイである。
そう頑張ってもエイなのである…。
タモが確実に捉えた。見事にタモでキャッチ。。
スルッ、スルッと持ち上がる。
「あー。エイだわ」「うん。エイだね〜」「こりゃ気の毒だ。」
仕掛けは見事にぐちゃぐちゃで、気が付けば蜘蛛の子が散る様に、周囲は静かになっていた…。
「あのさ。」「エイって英語でなんだったっけ?」
「スティングレーな」
「そうそう。スティングレー…。」
目が虚ろだ。
「やっぱりさ…。エイって感じだよな」
「そうだね。エイって感じだな。」
…。
「で、でもさ。」
「食えるよな!!」「なっな!!」「美味しいって聞いたぞ!!」
…。
「美味しいに決まってるじゃんか。」「あのアジを食うくらいだぜ?」「なっな?」
尻尾を切り落とし、エイヒレを解体した。
残りはせんべいにすると聞かなかったが、やめておけと忠告した。
クーラーボックスいっぱいに詰まったエイ。何故か半身をなすりつけられた。
「食べようぜ!」「食べて感想を言い合おうぜ!」
長い帰路をスティングレーで走らせた。
気分はブルーである。食べたくない魚をどうするのか?
刺し身にするのか?煮るのか?
スティングレーは爽快なモーター音を響かせて、さんさんと輝く朝日を背中に受けて、散々な一日は幕を下ろしたのであった…。
エンジンも、クーラーも、ブレーキパッドも十分。
まるで生き返ったようである。
アクセルを踏む力が強くなる。ハンドルさばきも軽快だ。
少しだけ磯臭さが残っている。いつもの釣り道具が一式、トランクに隠れていたせいだ。
強烈なアンモニア臭。吐き気を催したエイヒレの煮付け。
僕は食べた。涙を流しながら頂いた。
最後まで、最後の一切れさえも、刺し身で食べた。
人生で最も不味かった魚。最も不味かった刺し身…。
下処理も違えば、ただの公害レベルであった。
また秋がやって来る。僕たちはまた懲りもせず、堤防へ向かうだろう…。だからこそ、僕は完全復活した"エイ"で堤防へ向かってやるつもりだ。
あの時の味を思い出させる為に…。あの時の惨劇を思い出させる為に…。
最後に。
皆さん。エイを釣ったら逃がしてあげましょう。
もし食べるならば、キチンとした知識を持ち捌いてあげましょう。
多くの人が僕たちみたいな目に合わないことを願い、このエッセイを終えようと思います。
よろしくお願い致します…。
やっと我が家の"エイ"が退院して来ましたというお話。おわり
エイってどうもエイリアンみたいで苦手だ…。
ん?エイリアン?
そうかだからエイなのか!?
"エイ"リアン…?
リアンは…?
オバタ"リアン"みたいな?
なんやねんそれwwww
