日記:私の鉱物蒐集
はじめて鉱物イベントに行ったのは2022年の春だった。今が2026年の2月。
記録魔なので過去の購入履歴を振り返って合計してみたところ、ざっと30万。すごい。すごいのかな?他者と比較するとこのインターネット大航海時代、上を見るときりがない。4年で30万をどこに使うかというのも人それぞれでしょう。日々の生活へ?交友?社会的価値をあげる投資?自分のための娯楽?他者のため?
4年前の初回、会場をぐるぐるして、選定基準が一切分からない…!ぜんぶ石だしぜんぶ綺麗だ…!と思っていた頃を思うと、今では会場をぐるりとして値札を見ずとも大体の価格帯が当てれるようになり、なぜこの標本が安いのか高いのか?どこに価値が見出されているのか?の理由付け想定を複数述べられるようになり、妥当であると納得して買えるようになった。ある程度目利きが身についたということなんだろう。ついたのか?知識のない素人だ。あくまで過去の自分との比較でやや身についた。
石の愛好家にもざっくり3種類いて、原石(産出したままの鉱物標本の状態)好き、ルース(原石からカット、研磨を経たジュエリーに加工される前の状態)好き、ジュエリー好きがいると思う。
もちろん全部好きな人もいるし、愛し方はそれぞれだが、私の場合は鉱物標本(できれば母岩付き)orジュエリーを好む。ルースにしたからにはなるべくジュエリー加工まで済ませて身につけたいタイプ。
コレクションの中から気に入っている一部を載せたいと思います。なぜ気に入っているのか、を言語化しておく。
貝の火
クリスタルは古代ギリシャで溶けない氷と呼ばれた。krystallos(氷)が語源で、ギリシアの人が雪の中から水晶を見つけた際に氷が石になったと理解して呼んだのが由来とされる。
オパール(蛋白石)を、宮沢賢治は貝の火と表した。永遠に凍る氷、永遠に燃える炎。氷は後述するのでまず火から。
角度によって色を変える特性は遊色効果と呼ばれる。色が石の中で舞い遊ぶ様子。
一般に思い浮かべられるのはホワイトオパールな気がするが、ブラック・ファイア・ウォーター・ボルダーオパールなどさまざま。
私が所持品のなかでもっとも気に入っているのは以下。うす青く光る貝の化石。

白亜紀(約6600万年前から1億4550万年前)~ジュラ紀(1億4550万年前から2億130万年前)の時代の貝殻が地中に埋まり、化石化し、のちに粘土層などがさらに上層に体積することによって生じる圧力と様々な化学変化、およびに奇跡的にも近い偶然の作用などが重なり、オパールの主成分でもある二酸化ケイ素がもともとの貝のカルシウム成分ととってかわる(置換)ことによって生まれるのがシェルオパール(Shell opalまたはOpalized shell)です。
石のすべてに言えることだが、写真ではよさがあまり映らない。なぜなら、おおかたの宝飾的価値のある石はいかに輝くかが評価の主軸であり、つまりは“光”、瞬間ごとの変容が重要だからだ。眼前でちらちら揺れ動く光、きらきら瞬く光、ぎらぎら目を焼く光。とくに、遊色効果やシラー、アステリズム、変彩効果など特殊な宝石効果をもつ石たちは撮るのが難しい。
写真の一枚絵がうつくしい標本は、現物を見るとありえないぐらい燦然と輝いているものだ。もちろん、プロが技術の粋を込めて最高の一瞬を切り取ったパターンや、もとの質が悪いのを加工でごまかしているから写真の方がよいパターンもある。
私の所持するこの標本に関しては、載せた写真ではよさが全然うつせていないなと感じる。
この貝は23年の10月、京都の石ふしぎ展で買った。クラックがありカラットも小さめなので目を剥くほど高いわけではないが、当時学生の自分にとってはかなり清水の舞台だった。
当時、Opalized shellを以下の条件で探していた。
◆乾いた状態で遊色がはっきりでているもの(質の悪いオパールも水に漬けると強く輝く。なので水の入った瓶に欠片を詰めて売られていたりする)
◆白濁せず、透明感のある白であること。できれば明るい場所では乳白色、暗い場所ではうす青く光るようなもの。ぎらぎらに光るものより、ちらちらと光るものがよい。
◆欠片ではなく、貝の全容の輪郭が残っているもの(半分欠けたもの、とかではなくまるまる一個がよかった)
◆磨きが一部分であること(この後に裏面の写真を載せるが、例えば貝の化石を全部磨いてまるい玉にしてしまっては、見た目では貝の化石と分かる要素がゼロになっちゃわないか?)(普通のオパールを貝っぽい形に削って磨いて騙って売っちゃう場合もある)(ただ、まったく磨かない場合は宝石は綺麗に光らない。塩梅が重要)


表は宝石として磨き、裏は化石標本のままの状態。理想的。
あくまで私の好みでの判断基準はこう。好きな石をすきに愛でるのがよい。
以下の石も気に入っている。卵を割ったら銀河が中に満ち満ちていたようだ。じっと眺めていると、銀河が溢れてこぼれ伝ってきそう。

以下の石も気に入っている。形状が洞窟っぽい。青の洞窟、と呼ばれる名所は世界各地にあるが、どこかに一度行ってみたいものだ。動画が分かりやすいけど、noteは動画が載せられないから写真で切り取る。角度によって、緑や紫っぽくなったりもするが私は青いときがすき。
洞窟をのぞき込むと、奥の奥で青い光が揺れている。とろんとした感じで光るのがいい。

オパールは湿度管理が重要。水分過多も太陽光(水分蒸発)も気を付ける必要があるが、その手間のかかり方もかえっていい。すきなものには手間をかけたい。
雪山の景(見立ての美学)
前述の項目で伝わったと思うが、私は見立てで石を愛でるのもすき。
見立てとは“みたい”、“のよう”、“っぽい”のことで、結晶が放射状にのびるのが太陽に喩えられたり(ソーラークオーツ)、白くてまるっとした石がうさぎの尻尾に喩えられたり(オケナイト Rabbit’s Tail)。

代表的な見立ての名づけだと、“砂漠の薔薇 Desert Rose”。
以下は、ミネラルマルシェ(鉱物イベント)で袋詰めでたくさん売られていたものを友人と共同購入し、ファミレスでじゃんけんして勝者が初手でひとつずつ取り合う遊びをしたときの写真。これが薔薇っぽい、それ狙ってた、なんて言い合って。こういう遊びずっとしてたいね。


中央は小さい花びらが巻き、外へ花開く感じがまさに。

水に溶けたミネラルが結晶に成長するものなので、砂漠といえども水がない(またはなかった)地域からは出てこない。そのため、「採取された場所に、かつて水が存在した証拠」としても扱われることが有る。
一説に、「かつてオアシスの在った場所で、水が干上がることによって水に含まれた化学物質などが結晶化し、形成される」とも言われる。
水がないと薔薇は咲かない。うつくしい示唆だ。産出化石によって地層の年代や当時の気候が分かるような、証拠としての鉱物。
それぞれの石の購入時期や理由も覚えているものだ。

・画像の上の緑はセラフィナイト(斜緑泥石)で、その柔らかい羽のような模様(フェザーインクルージョン)から“天使の石”と呼ばれてたりする。ウサギノネドコ京都店の鉱物展で購入。
・手前のうす青と赤褐色は、celestine(天青石)とCITRINE(和名は黄水晶だが、茶褐色から薄黄まで振れ幅がある)(その下にAMETHYSTE CHAUFFEEの記載があったけど、複合?加熱加工済み?ってことだと思う)。パリ旅行でルーブル美術館の地下街(Les Minéraux du carrousel du Louvre : lesmineraux.fr)の鉱物店で購入したものだ。標本としては珍しくないが、記念になるかと思って。
・その右は、標本ラベルをそのまま書くと[Pyrite Ball in Matrix Indianapolis, Marion County,Indiana Open Adit West • eBay ID: open-adit
www.MineRatMinerals.com]。パイライト(黄鉄鉱)はありふれた鉱物であり、一般的な六面体標本であれば二千円も出せば手に入る。この標本は珍しい球状であり、周りに泥岩の母岩付きであるところがユニークで気に入った。国内の石フリマで購入したが、ラベルにあるとおりもとは国際個人輸入用サイトの eBayからの購入だろう。



天の川に見立ててもよい。
この章のテーマは“見立て”だが、ここからが章タイトルの“雪山”の見立て。

Malad Quarry, Malad, Mumbai suburban district, Maharashtra, India
中央二個のまるっともけもけした白の球状のもので、
うさぎの尻尾に喩えられてRabbit’s Tailとも呼ばれる。
この標本は母岩の上に水晶とクオーツが共生しており、きらきらとふわふわのコントラストが映える。

ブルーグレーの地面の上、オケナイトのまわりには白砂糖がまぶされているように点々と白が散っている。これはなに?(無知)

オケナイトはたいてい黒、灰色の母岩の標本なのでこのように淡くグリーンがかった母岩は珍しく感じる。全体的に寒冷色でまとまっていてうつくしい。
こちらの記事内(https://note.com/wasurenasai/n/nb78639572fe9?sub_rt=share_pw)にも書いたが、現実の予定ではなく物語的夢想でいえば、終わるなら冬の雪山がもっともよく、そのような終わりは端正な一場面だろうと思っている。もちろん実物の死は悼ましいし自己完結せず他者に関わってくるので滅多なことは言えない、ので、現実を忘れた記述として。
以下が、雪山の景色が見える八つの標本。
色合いは基本的に白、黒、灰、茶。そして、寒色が極まった景色はたまに蒼ざめて見える、なのでうす青、碧、翠の印象の標本も加える。




以下八つ!これから増えたり入れ替えたりするかもしれないが、現状満足している。


私はくらい夜に心臓が逸ったらこれらを棚から出して机に置いて、順繰りにひとつずつ眺めて、あわさった全景をとおく眺めて、しずかな夜を取り戻す。石はたいていの場合、太陽の明るい日に陽光にあてるのがもっとも輝くけれど、音のない夜に青白い照明で眺めるのもまた良い。雪山に行きたい、そこで終わりたい。
理想の冬山のために順次追加や入れ替えはあるかもしれないが、今のところ上段の右から二番目がもっとも気に入っている。これも高価だったが手元に求めてよかった。
以下はこまかい説明。購入時のラベルをそのまま起こしているので、英語表記だったり日本語表記だったりしている。
【上段左から】
・中国湖南省Xianghualing鉱山 フローライト(蛍石)
フローライト自体はクオーツと同様に希少性の低い鉱物だが、なかなかお目にかかれない抜群の透明度。下部がガーデンクォーツ状になっていてコントラストを産んでいる。(鉱物粘土での固定は、中央のごく一部のみ)シャープで端正。
・Mina Etienne, San Luis Potosi, Mexico hyalite opal
和名だと玉滴石の名の通り、水滴が垂れていくような結晶。母岩の茶色から中間層の石灰的白色、最後に遊色のないオパールの透明への移り変わり。その透明性からグラスオパールとも呼ばれる。店に並んでいたとき、崖を雪崩れていくような標本と、ひとつの球状の塊が透き通る標本と甲乙つけがたかったのであわせて購入し、一つの台に載せて重ねた景色にしています。
・ペルーフワンザラ鉱山産 フローライト+テトラヘドライト+カルサイト
黒の岩肌に雪、透き通った氷を思わせる景色、雪山の奥の奥まで踏みいった登山者が、洞の一部を小さく切り取って持ち帰ったような標本。横に飾るのではなく、縦に立てた標本にしたのは大正解と思う。
・パキスタン産 アクアマリン+モスコバイト(雲母)
御徒町実店舗にて購入。整った六角形の柱状結晶で透明度が高く、雲母の銀の花びらの多層的重なりも魅力的。私は共生鉱物がとにかくすきなので、市場にこの型が出回りだしてから買うと決めていたが、鉱物イベントを何度も巡ってたくさん見てもぴんとくるものがなく、御徒町のメイン通りの奥の奥で自分にとっての理想的な形に出会えた。AFGHAN BROTHERSというお店でした。
【下段左から】
・米国ユタ州Ajax鉱山アラゴナイト(霰あられ石)
鍾乳洞において育った鍾乳石の場合は「山サンゴ」と呼ばれたりもする。本標本はかなり細かく伸びた放射状の結晶がかわいらしい。撫でたいが、ティッシュが引っかかっても折れる程度に硬度がないので取り扱いに注意が必要。暖色の白。
・Quartz Dugway Range, Juab,Utah, USA
ほたるみねらる実店舗にて購入。クオーツは普遍的構造の単体だと稀少性が低くなりがちだが、インクルージョン入りの個体、ファントムクォーツ、双子水晶などさまざまな色を見せてくれる魅力的な鉱物。本標本は、非常にこまかい結晶の繊細な品。こちらは指先で触れる程度なら折れない。寒色の白。
・ペルーフワンザラ鉱山産 フローライト+カルサイト+スファレライト
黒の山頂のふもとに雪、氷が被るような景色、前述が目の前の岩肌の一部を切り取った標本ならば、こちらは平地からとおく離れた山脈を眺めた際のひとやまを切り取ったかのような抽象化された景色の印象。数十㎞離れた地点からの冬山の輪郭を思わせる。
・グリーンアポフィライト(魚眼石)
加熱により葉片状に割れることから、ギリシア語の"Apo"(離れる)と"phyllon"(葉)にちなみ命名されたそう。和名は、英名 "Fish-eye stone"の訳。輝きが魚の眼に似ていることからだそう。死んだ魚のような目、の定型句から連想される白濁したとろんとした光を指すんだろうか?それとも、水中を疾く駆ける魚の透き通った目の輝き?結晶の透明度による気はするが、本標本はやさしい淡緑。
基本的に、鉱物標本は以下の条件で価格が上がっていく感じなのかなと認識している。素人目線なのでプロからしたら違うと思う。すみません。どうなのかな。
・結晶の透明度が高い(不純物がない)(インクルージョンはまた別個の価値がある)
・質量(カラット)がある
・磨きが適切であり、過度な加工(染色や加熱)がない天然の状態
・母岩付きの共生鉱物
・景がいい(外観が整っている、もしくは魅力的に奇妙である)
・その鉱物の通常の結晶構造ではない(レア)
・希少な産地である。例で言えば、既に採掘停止の閉山した鉱山でしか採れなかった今後の供給がないなど(産出情報が明確なのは地質学的価値もある)
値段ではないが、いいなと思って手に取ると順当に高いことが多い。
時間(永い時が経過した硝子は銀と虹色に、樹木は琥珀色になる)

浪漫があるので気になる方はなりたちを調べてみてください。
以下投稿内の『真珠の博物誌』引用欄に記載したが、真珠のプロによると真珠に近い存在らしい。

自分で掘った。以下投稿記載。
今回は以上!だだっと書いたのでまとまらない書きぶりになっちゃった。
なぜ鉱物を買うのか。
この石にとっての、無数の滞在のうちの短い一つになりたい。
千年、万年、一億年の石の歴史の中で、私の部屋で50年の短い滞在をしてほしい。
永い時を経る石にとっての一瞬を私のもとにとどめる、所有のよろこび。
刹那と永遠の両極に惹かれる。硝子はいつか欠ける日の予感がうつくしく、海は果てまで続く満ち引きの途方もなさがうつくしい。石を眺めれば刹那と永遠の両方を感じる。久慈琥珀は約一億年前(8,500万年前から9,000万年前の白亜紀後期)のものとされています。落として割れたら一億年がここで途絶えるのか。
