名前を付けると、世界は少し変わる。― 私だけの「コマキン・メルヘン建築」
街を歩いていると、勝手に名前を付けたくなる建物がある。
私が一番気に入っているのは、
「コマキン・メルヘン建築」。
もちろん、そんな建築様式はない。
私が勝手にそう呼んで、ひとりで楽しんでいるだけである。
「コマキン」は、明治に活躍した建築家・駒杵勤治(こまぎね・きんじ)のことだ。
明治三十五年に東京帝国大学を卒業し、茨城県技師として迎えられ、わずか二年ほどの間に県内の学校などを設計した。
そんな経歴よりも、私には建物の雰囲気の方が気になった。
どこか童話の世界から抜け出してきたようで、少しだけ現実離れしている。
だから勝手に、「コマキン・メルヘン建築」と呼ぶことにした。
最初に出会ったのは、水戸の住宅街だった。
ごく普通の家並みの中に、その建物だけが何事もなかったような顔で立っている。
まるで、おとぎ話の舞台が住宅街に迷い込んできたようだった。
建物に性格があるなら、この建物は、空気を読むことにはあまり興味がないタイプなのだと思う。
その感じが、妙に好きになった。

調べたところ、現存する「コマキン建築」は、三つだけ。
三つだけと知ると、全部見てみたくなった。
土浦へ。
常陸太田へ。
建物を見に行ったというより、勝手に付けた名前が本当に似合うのか、確かめに行ったようなものだ。
三つとも、やっぱりどこか似ていた。
大きな窓。
赤茶色のアクセント。
童話の世界を思わせる雰囲気。

三つの「コマキン・メルヘン建築」を全部巡った。
ゲームなら「コンプリート」と表示されるところだろう。
スタンプラリーなら景品もある。
でも現実には、何もなかった。

「見終えた」という事実だけが、静かに残った。
