【エッセイ】 フィリピーナに嫉妬した私
バブル景気で勢い付いていた頃の彼氏は硬派な男。
気の利いたセリフこそ言わないが、ふとした瞬間の優しさが女心をくすぐった。
フィアットをこよなく愛して、イタカジがお決まりのスタイル、顔は藤井郁弥さんによく似ていた。
※フィアット = イタリア車
※イタカジ = イタリアンカジュアルの略
彼は友達付き合いを大事にしていた。
彼の家には誰かしら友達が来ていたし、友達との飲み会も定期的に行っていた。
ある時、飲み会での出来事を私に話してくれた。
「アキラ(仮名)がさ、飲み屋の女の子に本気になっちゃってさー」
そう言う顔がニヤニヤしていたのを、私は見逃さなかった。
アキラというのは彼の幼馴染み。
いつもの飲み会の後で行った、フィリピンバーの女の子を好きになってしまったらしい。
次の週末もアキラの片思い報告。
その次の週末も・・・。
そのまた次も・・・。
これはおかしい!
飲み会は月一回が定例だ。
しかしここ毎週開催されている。
バブル景気だとはいえ、絶対におかしい!!
テーブルの上にある彼の煙草の箱に、小さなメモが入っているのを発見した。
Malou 010-63-0123-456✳︎✳︎✳︎ ・・・
英字は明らかにピーナの名前。
数字は010-63 までがフィリピンの国際識別番号。
それに続くのがMalouちゃんの個人番号だろう。
アキラの片思いは口実。
オノレもヨロシクやってたのか・・・と確信した。
私は静かにボールペンを取り出した。
彼がここに戻るまでに、素早く犯行を終わらせるためにペン先に集中した。
6 を 8に…。 3 も 8に…。
Malouの書いた文字に手を加え、何食わぬ顔で煙草の箱に戻した。
しばらくして、ピーナたちの帰国が決まった。
店の女の子たちは総入れ替えになったらしい。
アキラは失恋決定。
しかしMalouの気持ちは、ここにある煙草の箱の中に密かに、大切に収められている。
さあ、彼氏よ!
Malouのメモの番号にかけると良い!
元文字の 010-63 ならフィリピンだ。
それにちょっとだけ加筆してあげたから 010-880 はバングラデシュだ!
国際交流を楽しむがよい……。
その後、彼氏からフィリピンバーの話題は出なくなり、そのうち私たちの心も離れた。
あの時代にスマホやネットが普及していたら、マニラでMalouちゃんと再会できたかもね・・・。
了
几戸姶洛
◉あとがき
Malouは仮名です。フィリピン国籍は正。
別れた理由はMalouではありません。
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