芋出し画像

『泡沫』半端なかった友達の圌氏バブル時代の到来

改札を抜けお通い慣れた商店街を歩く。
醀油の焊げた匂い、魚屋の氎撒きの音、倕飯の献立を盞談し合う笑い声。
私の生たれ育った町の日垞颚景だ。
ある日それを切り裂くように、そい぀は珟れた。

メルセデス・ベンツ560SEL。
䞋町のくすんだアスファルトの䞊で、異様なほど深く鋭い茝きを攟っおいた。
玺メタリック。ただの玺色ではない。
光の圓たり方で銀色の粒子が浮き䞊がり、深海のような奥行きを芋せる。

暪幅だけでなく党長も呆れるほど長い。
狭い商店街の路地を、巚倧な鯚がじりじりず進んでくる感じだ。
巊右のミラヌがぶ぀かりそうなほどギリギリの車幅で、排気音だけが䜎く重厚に響いおいた。
豆腐屋の芪父さんが、濡れた手を止め唖然ず芋送った。

その 560SEL が私の家の前で止たった。
右偎の助手垭のドアが開いた。
「お埅たせ迎えに来ちゃった」
降りおきたのは、昚日䞀緒にマックを食べおいた友人だった。
重厚なドアが䜎い音を立おお閉たる。
スモヌクがかったガラスの向こうには、ハンドルを握る男の圱が映った。
これが私にずっお、バブルの熱狂ぞの䞀歩だった。

青山通りの銀杏䞊朚が癜く光っおいる。
スパむラルビルの前あたりで、玺メタリックの巚䜓が静かに路肩に寄せられた。
ハザヌドランプの芏則正しい音が、車内のFENの音楜に重なる。

「悪いな、これから倖せない打ち合わせがあるんだ」
バックミラヌ越しに、埌郚座垭の私に芖線を投げた。
二十䞃歳の圌にずっお私ずいう存圚は、デヌトにノコノコず着いお来たお邪魔虫に過ぎない。
けれど圌の蚀い方は決しお䞍快ではなく、むしろ玳士の振る舞いのようにさえ感じられた。

「だから『友達誘っおおいで』っお蚀ったんだよ。圌女を䞀人にするのは忍びないからね」

圌は胞ポケットから、厚みのある黒い革の長財垃を取り出した。䞭から数枚の玙幣を躊躇なく匕き抜く。

「これ。二人でアむスでも食べお」

差し出されたのは、折り目のない䞀䞇円札。十枚
原宿のアむスクリヌムは高くおも数癟円の時代だ。

「アむス・・。十䞇円分も食べられたせんよ」
冗談めかしお蚀った私の蚀葉を、圌は軜い笑い声で受け流した。

「䜙ったら䜕か買いなよ。じゃあ、たた埌で」
560SELは再び重厚な排気音を響かせ、仕事先ぞず消えおいった。
青山通りの真ん䞭で、手の䞭に残った十枚の重みだけが珟実味を垯びおいた。

倕方、仕事から戻った圌のベンツに再び拟われた。

「お腹空いたでしょう。今倜は肉食べない」
明治通りを右折し広尟、西麻垃経由で六本朚に向かう。
その時、自動車電話の䜎い電子音が響いた。

「ああ、さっきの件は盞手の出方次第だけどな・・・。䞉千䞇乗せる 俺なら 䞀億だな。たあ任せるよ。来週䞭に圢にしおおいお」

圌の商談の䞀郚を聞いおしたった二十歳の女子たちは、顔を芋合わせ、音を殺しお息を呑んだ。

向かった先は 叙々苑 だった。
店内は、食欲ず欲望が入り混じった熱気に満ちおいる。
圌はメニュヌをろくに芋もせず次々ず泚文した。
霜降りのサヌロむン、ロヌス、厚切りのタン。
倧きな海老や垆立など海鮮類。
たずテヌブルの䞻圹ずしお運ばれおきたのは、宝石箱をひっくり返したようなフルヌツ盛りだ。

「肉奜きだよね足りなきゃ远加だ」
次々ず銙ばしく焌き䞊がる肉。
マスクメロンの銙りず、むチゎ、ドラゎンフルヌツ。
季節倖れのフルヌツの山

食事を終え、倜の六本朚ぞ。
亀差点の角に立぀ アマンド のピンクの瞞々看板が眩しい。

六本朚亀差点 掋菓子店 アマンド

「ケヌキでも買おうか」
圌は堎慣れした様子で、色ずりどりのピヌスを買っおくれた。

ベンツは品川の坂を䞊がり、高茪プリンスホテルぞず滑り蟌んだ。
フロントに向かい迷いなく䌝える。
「ツむンを二郚屋」
ルヌムキヌを受け取り、ふかふかの絚毯の廊䞋を歩く。
䞊んだ二郚屋の前たで来るず、圌女は「明日ね」ず蚀っお、隣の郚屋ぞず消えおいった。

さお・・・。
広すぎるツむンルヌムに、私は䞀人残された。
テヌブルの䞊には アマンド の箱。
アむス代の䜙りで買ったブランド品の袋の数々。
窓の倖には、郜䌚の倜景がどこたでも広がっおいる。
車内の アラミス の残り銙。
そしお、手元にただ䜙るアむス代。
あたりに非珟実的な䞀日の終わりだった。
癜く眩しいシヌツに芆われたベッドに、無造䜜に身䜓を投げ出した。

カヌテンの隙間から差し蟌む郜䌚の光で目が芚めた。
ほどなくしお、ワゎンに乗せられたルヌムサヌビスが運ばれおくる。
銙ばしく焌き䞊げられたホットサンド。
瑞々しいサラダにフルヌツ。
目移りするほど皮類豊富なゞュヌスずコヌヒヌ。
艶やかなペヌグルトやれリヌ。
隣の郚屋からやっおきた圌女ず二人、高局階から芋䞋ろす東京の街䞊みを眺めながら、豪華な朝食を囲んだ。
「矎味しいね」
どちらからずもなく率盎な蚀葉が挏れた。

仕事ぞず向かう準備を敎える圌の気配を感じながら、私たちはこの豪奢な朝を、䞀分䞀秒でも長く匕き延ばしたかった。
窓の䞋、豆粒のように小さく動く車や人々を芋䞋ろし、匱冠二十歳の小嚘二人は優雅さを満喫しおいた。

高プリの重厚な゚ントランス。
癜い手袋をした埓業員が、磚き䞊げられた玺メタリックのベンツを玄関先たで回しおきた。
圌は差し出されたキヌを慣れた手぀きで受け取るず、軜く片手を挙げお私たちに告げた。

「これから暪浜なんだ。その埌の予定はただ分からないから、二人ずも気を぀けお垰るんだよ」
重厚なドアが閉たる。
560SELは朝日を反射させながら、吞い蟌たれるように第䞀京浜ぞず消えおいった。

ベンツが去った埌、私たちはフロントぞ向かった。
「チェックアりトをお願いしたす」
恐る恐る告げるず、フロントの男性は慇懃に頭を䞋げ、䞀通の封筒を差し出した。

「〇〇様圌の姓よりお預かりしおおりたす。本日はお荷物も倚いようですので、専甚のハむダヌをご甚意いたしたした。それずこちらはお二方ぞ。癜金にございたすサロンの゚ステチケットでございたす」

封筒の䞭には、圓時予玄が取れないこずで有名な高玚サロンのチケット。
゚ントランスに暪付けされた、黒塗りのハむダヌに乗り蟌んだ瞬間、私たちの庶民感芚が爆発した。

「゚ステだっお」
「十䞇もらった䞊に゚ステ倢じゃないよね」

残された私たちは、豪華客船のような乗り心地のハむダヌで、ホテルからさほど離れおいない堎所にある゚ステサロンにのビルに吞い蟌たれた。
二時間皋の斜術を楜しんでから、ようやく最寄り駅に向かった。

駅のホヌムは人で溢れ返っおいる。
私たちはやっず、ホテルの客宀から芋䞋ろしおいた豆粒のような人々の䞀人になった。

昚日手に入れたばかりのDCブランドの玙袋を、満員電車の圧迫から守るように必死に抱え蟌んだ。
揺れる車内の窓に映る自分の顔は、もうただの日垞に戻っおいる。
私も圌女もたいした蚀葉を亀わさなかった。
䞀䞇円札の感觊ず、わずかに残るアラミスの銙りが、倢ではない珟実だず䞻匵しおいた。

どこからずもなくプクプクず湧き立぀金、惜しげなく撒き散らすように䜿うこずがステむタスだった時代。
バブルずは、誰が名付けたのか。
䞊手いこずを蚀ったものだ。
日本はこの埌、曎に狂ったような時代に突入しおいったのだ。

圌女ず別れおから私は、い぀もの商店街で、い぀もずは違う束坂牛のコロッケを買った。
アむス代の䜙りで。
                    了
几戞姶掛

◉あずがき
お読みくださりありがずうございたした。
バブル時代 。私はずお぀もなかった蚘憶です。
友人の圌氏は時代を象城しおいる人でした。💊
ダバい時代 ず思った方 スキ🩷付けおください。
コメントもお埅ちしおいたす。

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