はっくしょーん!と、一善しニ悪…
『一善しニ悪三惚れ四風邪』
ふと、この言葉を思い出した。
私のくしゃみの音が、あまりにも大きいということからだ。
そう言われれば、確かに大きい。
長いマスク生活と仕事も終わり、今は鼻を刺激するものの多い場所(田舎)で活動しているせいか、最近やけによく出るのだ。
そしてどうせするなら、気持ちよく、遠慮なくくしゃみをしたい。
もちろん人前では、口を押さえてわからないように「クチュ」としているが、家族の前ではそんな遠慮は要らない。
「へーくしょん!」
あゝ、気持ちよく出た。
すかさず、
「大きいくしゃみだなぁ」
と、眉間に皺が寄っているのが目に浮かぶような声でツッコミが入る。もちろん夫からだ。
ところが、一度で止まらない時がある。
へーくしょん!
ふぇーくしょん!
ぶぇーくしょん!!
次第に大きくなる音。
(くしゃみ、連続三回か……)
そこで思い出したのが、子供の頃に言っていたあの言葉だった。
『一善しニ悪三惚れ四風邪』
一回は良い噂、二回は悪い噂。
三回すると誰かが自分に惚れていて、四回すると間違いなく風邪をひいている、というあの言い伝えだ。
不思議なものだ。記憶の奥底に眠っていた言葉が、ふとした拍子に飛び出してきた。
(三回くしゃみをしたから、誰かが私のこと、好きになってくれたのかも)
そんな風に考えていた子供の頃の照れ隠しが、今思うととても可愛らしい。そんな時代もあったなと、ひとりで笑ってしまう。
そこで、本当にそんな言葉があるのだろうかと気になって調べてみた。
すると、なんと、
『一誹り二笑い三惚れ四風邪』
(いちそしり、にわらい、さんほれ、しかぜ)
という、本物のことわざが存在していたのだ。
日本人の目のつけどころには、本当に感心させられる。くしゃみをただの生理現象として捉えるだけでなく、ちょっと恥ずかしい瞬間に別の意味を持たせて楽しむ。その繊細な感性に、私は深く感動してしまった。
「くさめ、くさめ」と表現していた遥か昔から、私たち日本人の感性は卓越していたのだろう。
しかし、それにしてもなぜ「くさめ」なのだろう?
また別の疑問が湧いてくる。本当に昔の人は「くさめ」と発音していたのだろうか。
例えば、日本では犬が「ワンワン」と鳴くけれど、外国では「バウバウ」と聞こえるように、国や時代によって音の捉え方は変わる。
もしかしたら「くさめ」も、昔の人の耳にはそう聞こえたのだろうか。あるいは何か別の由来があるのだろうか。私の記憶の奥底にあるような気がするのだが、ここは想像を膨らませて楽しもう。
ただ、どうしても今の私は、上品に「くさめ」とは言えそうにない。
やっぱり、思いっきり大きな音で「はっくしょーん!」と言いたいのだ。
あ、なんだかまた鼻がムズムズしてきた。
はっくしょーん!
……一回出た。
あぁ、今頃だれかが、私の良い噂でもしてくれているのかなぁ。
