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逆風のなかの果実 ~第十七章~

第十七章: 希望 - それぞれの想い

あかりの想い

知事会見が行われたその日の18:00過ぎ、あかりは駅ビル内のコーヒーチェーン店にいた。

甘党の彼女は、無料で増量できるキャラメルソースとホイップクリームをたっぷり加えた激甘キャラメルマキアートを飲みながら、ある人物の到着を待っていた。

これから、目一杯頭をフル回転させるので、その前に糖分を補給しておこうという、あかりなりの気合いの入れ方だった。
激甘キャラメルマキアートを半分くらい飲んだとき、その人物は現れた。

スタバでの密会

地方紙相模日報の小泉記者だった。
 あかりは、小泉が席につくと、まるで堰を切ったかのように言葉を吐き出した。
「小泉さん、今日の毎朝新聞読みました?それに、知事の会見。私たち、これからどうなるんですか?」
 
小泉は彼女の切羽詰まった表情を見て、優しい声で言った。
「あかりちゃん、ちょっと待って。まずは、ゆっくり話しましょう。」
その言葉には、彼女を思いやる温かさがあった。
 
あかりと小泉は、イチゴの生パスタの取材を通じて知り合った。小泉はイベントや販売会のたびに、あかりたち農業研究部の取材に訪れ、何度も記事にしてくれた。

彼女は、あかりたちの純粋で屈託のない姿に好感を抱き、あかりは凜とした小泉に憧れを抱くようになった。
 
ゴールデンウィークに行われた大型ショッピングモールでのイベント取材の際、小泉はすでに緑野農業で起きている事態を知っていた。しかし、その時点では不確かな情報が多く、記事にするには早すぎると感じていた。それでも、少しでも情報を得ようとイベントに足を運んだ。

小泉の想い 

その時、小泉の目に飛び込んできたのは、農業研究部の三人の姿だった。彼女たちは、緑野農業で起きている事件について何も知らない。今日、自分たちがイチゴの生パスタや野菜を販売できない理由も理解していない。
それでも、彼女たちは大人たちの事情とは無関係に、精一杯の笑顔で接客や誘導をしていた。
 
その姿に心を打たれた小泉は、居ても立ってもいられず、あかりのもとへ駆け寄った。
「頑張っているね」と声をかけ、続けて「何か困ったことがあったら、ここに連絡してね」と、自分の連絡先が記された名刺を渡した。
 
あかりは、小泉の気持ちを知るよしもなく、ただ「はい」と素っ気なく返事をするだけだった。
 
そして、今日、知事の会見を見て不安に駆られたあかりは、小泉からもらった名刺のことを思い出し、小泉に連絡したのだ。
 
「あの、小泉さん、私、何をしたらいい?」あかりは不安そうに尋ねた。
 
小泉は、あかりからの連絡を受けたときに、ある程度の事態を予測していたので、優しく問いかけた。
「あかりちゃん、逆に聞くけど、どうしたい?」
 
「みんなと一緒に、農産物の販売がやりたい。お客さんと楽しくお話がしたいんです。」
あかりの目にはうっすらと涙が浮かんでいたが、その奥には強い決意が見えた。
 
小泉はカバンから便せんと封筒、ボールペンを取り出し、
「だったら、今のあかりちゃんの気持ちを知事にぶつけてみたら。ここに便せんがあるから、知事に手紙を書こうよ。」
 
「でも、高校生の私が書いた手紙なんて、知事が読んでくれるの?」
あかりは力なくつぶやいた。
 
「だから、私が記事を書く。あかりちゃんの思いも、その思いを綴った手紙を知事に送ったことも。そうすれば、知事だってあかりちゃんの手紙を無視できなくなるよ。」
 
その言葉を聞いたあかりは、便せんに力強く言葉を綴り始めた。自分の思いを込めた手紙が完成し、封筒に入れて帰りに投函することになった。
 
帰り際、小泉は微笑みながら言った。
「あかりちゃんの手紙が届くころに合わせて、私も記事を書くよ。頑張ってね。」
 
その言葉に励まされたあかりは、心に温かい希望を抱きながら小泉と別れた。
彼女の思いが、未来を変えていく予感がした。

ゆうなとさくらの想い 

あかりが小泉に会っていた頃、農業研究部の残りの二人も悶々とした気持ちで過ごしていた。 

ベッドの上での作戦会議

ゆうなはベッドの上で座り、スマホを手に取り、農業研究部が運営するSNSを眺めていた。

そこには、イチゴの生パスタを通じてつながった多くの人々から、心配や励ましのメッセージが寄せられていた。彼女は、一つ一つのメッセージに丁寧に返信しながら、
「私たちも、こんなに頑張ってきたんだなぁ」
としみじみと思い、出会った人の多さに驚きを隠せなかった。
 
そのとき、ふと何かに気づいたゆうなは、慌ててスマホで情報を調べ始めた。
いつも独特なアイディアで周囲を驚かせてきた彼女が、再び会心のアイディアを思いついた瞬間だった。
 
一方、さくらは家族と夕食を囲んでいた。母親が心配そうに言う。
「あんたの学校も大変なことになったね。農業研究部の活動はどうなるの?」
「わかんない。」といつもの口調で答えるさくら。父親が続けて尋ねる。
「じゃぁ、今年の緑農祭は中止か?」
すると、さくらは驚きの声を上げた。
「えぇーっ!まじかっ!そんなの絶対やだよ!」と叫びながら、すぐにスマホを取り出した。
 
「食事のときくらい、スマホをしまいなさい」
と母親が注意するが、さくらは
「ちょっと待って、今大事なところだから」と言い、SNSにメッセージを投稿した。
 
『緑農祭絶対やりたーい。私たちの緑農祭をみんなで守ろう!』

磐田の行動 

磐田は、車を少し離れたコインパーキングに止め、人気のない夜道を一人歩いていた。雑居ビルの入口に立つと、彼はインターホンを鳴らした。

一人暗い道を歩く磐田

「緑野農業の磐田です」と名乗ると、すぐに応答が返ってきた。
 
「どうぞ、カギは開いていますから、お入りください。」
 
入口には「日新新聞 相模支局」と書かれていた。磐田はこの新聞社の支局を訪れていたのだ。日新新聞には、彼が高校時代に所属していた野球部の同級生が福岡支局にいる。磐田は、県内農場長会議が開催された3月28日にその友人を介して、相模支局の記者水野と接触した。

ただし、公務員の服務規程に抵触する可能性があったため、磐田は誰にも告げず、勤務時間外の20時以降に会っていたのだ。

密会

「日新新聞に協力してもらったにもかかわらず、毎朝新聞にすっぱ抜かれてしまいましたね」と、磐田は恐縮した様子で言った。
 
「でも、毎朝の記事は取材が甘いですからね。こちらは磐田さんに直接聞いて、じっくりと取材をしてきましたから。教育課程に詳しい大学教授からのコメントももらっていますし、切り札もあります。それと、磐田さんにお願いしていた調査の結果はどうでしたか?」
 
「ばっちりだよ」と磐田は自信満々に答えた。
 
「4日後ですね」と水野が言い、二人は顔を見合わせて力強くうなずいた。
 
磐田は日新新聞相模支局を後にし、駐車場に向かって歩き始めた。
その途中、彼はどこかに連絡を取っていた。

暗闇の中、連絡を取る磐田

4日後、それぞれの想いが重なり、奇跡を起こす。

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