見出し画像

🌱なおはるnote 第562話 お地蔵さんに笠を配るの巻

雪の降る大晦日だった。
なおはる爺さんとなおはる婆さんは、
峠のふもとの小さな家に2人で暮らしていた。
田畑もろくに持たず、爺さんが編む笠を
町で売って、その日その日、なんとか
食いつないでいた。

今年もいよいよ大晦日になったが、
家には正月の餅一つない。
「爺さん、今日こそ売れるといいねえ」
「うん。精一杯、編んだからな」
爺さんは夜なべして編んだ笠を5つ、
背負って町へ向かった。

婆さんは戸口まで見送り、
雪の中を歩いていく爺さんの背中を、
いつまでも見ていた。

町は大晦日で賑わっていたが、
誰も爺さんの笠には目もくれなかった。
声を張り上げても、道行く人は正月の
買い物に忙しく、通り過ぎていく
ばかりだった。

日が暮れかけ、雪も強くなってきた。
爺さんは仕方なく、笠を担いだまま、
来た道を戻り始めた。

峠道にさしかかったところで、
爺さんは足を止めた。道の脇に、
6体のお地蔵さんが並んでいる。
長年そこに立ち続けている

お地蔵さんたちは、頭から肩まで
真っ白な雪をかぶっていた。
「これは、寒かろうなあ」

爺さんは背負っていた笠を下ろした。
誰も買ってくれなかった笠だが、
お地蔵さんの頭には合いそうだった。
一つ、また一つと、雪を払ってから
笠を被せていく。

6つ目の笠を6体目のお地蔵さんに
被せようとしたところで、
笠が足りないことに気づいた。
爺さんはしばらく考えた。

自分がかぶっていた頭巾を外し、
最後のお地蔵さんの頭にそっと乗せた。
「これで、少しはましだろう」

爺さんは手ぶらになった体で、
また峠道を歩き出した。
雪は爺さんの禿げた頭にも容赦なく
降りかかったが、なぜか足取りは軽かった。

家に着くと、婆さんが戸口で待っていた。
「婆さん、笠は売れなかったよ。
それどころか、峠のお地蔵さんたちが
寒そうだったんで、みんなに
被せてきてしまった。
自分の頭巾まで渡してしまったよ。」

爺さんは正直にそう言った。
婆さんは少しの間、爺さんの手ぶらな
姿を見つめていたが、やがてふっと笑った。

「そうかい。それはいいことをしたねえ。
おかえりなさい、冷えたでしょう」
そう言って、囲炉裏に爺さんを座らせた。

その夜、二人は餅もない大晦日の膳を、
それでも笑いながら囲んだ。
婆さんは爺さんを一度も咎めなかった。

夜が更け、二人が眠りについた頃、
家の外でかすかな音がした。
ずっしりとした何かを下ろすような音、
いくつも、いくつも。

翌朝、戸を開けた爺さんと婆さんは、
目を疑った。米俵、野菜の束、
そして小判の包みまでが、
戸口に山と積まれていた。
雪の上には、大きな足跡が峠の方角へと
続いていた。

「これは、まさか」
「ああ。あのお地蔵さんたちだよ、きっと」
二人は峠の方を向いて、深く頭を下げた。
その年の正月、なおはる爺さんと
なおはる婆さんの家からは、久しぶりに
温かい湯気が立ち上っていた。

よかった。よかった。


いいなと思ったら応援しよう!