中国事業は撤退か、投資継続か日本企業の経営者が見るべき3つの判断軸
「中国から撤退するべきか。それとも投資を続けるべきか」
日本企業の経営者から、こうした問いを聞く機会が増えました。しかし私は、この二者択一だけでは、いまの中国事業を正しく判断しにくいと感じています。
中国市場全体を一つにまとめて評価するのではなく、「どの事業を残すのか」「中国拠点に何を担わせるのか」「中国企業とどのような関係を築くのか」まで分解して考える必要があるからです。
JETROが2025年8~9月に中国進出日系企業を対象に実施した調査では、今後1~2年の事業方針を「拡大」とした企業は21.3%で、調査開始以来の最低水準でした。一方、「現状維持」は64.3%、「縮小」と「第三国・地域への移転・撤退」の合計は14.4%です。
つまり、積極投資には慎重でありながら、全面撤退にも動かない企業が多い。これが現在の中国事業の実像です。JETRO「2025年度 海外進出日系企業実態調査(中国編)」
では、経営者は何を基準に判断すればよいのでしょうか。私は、次の3つに分けて考えることを提案します。
1.国ではなく、事業単位で採算性と競争力を見る
最初に確認すべきなのは、「中国市場は成長するか」ではなく、「自社のこの事業は、中国で利益を出し続けられるか」です。
同じJETRO調査では、2025年の営業利益を黒字と見込む在中国日系企業は63.2%で、前年の58.4%から回復しました。精密・医療機器では黒字比率が81.3%、食料品では事業拡大意向が53.6%に達しています。
ただし、ここで注意したいのは、業種平均だけで自社の結論を出さないことです。精密・医療機器の回答は16社、食料品は28社、小売業は10社です。これらの数字は市場の方向を知る手掛かりにはなりますが、そのまま個社の投資判断には使えません。
経営会議では、少なくとも次の項目を事業別に確認する必要があります。
過去3年間の営業利益とキャッシュフロー
中国企業と比較した品質、技術、納期、価格の優位性
中国顧客向け売上の伸びと顧客集中度
規制対応や本社管理を含めた実質的な事業コスト
今後追加投資した場合の回収期間
撤退・縮小した場合の契約、雇用、税務上のコスト
JETRO調査では、事業を拡大すると回答した企業の66.9%が、その理由に「現地市場ニーズの拡大」を挙げました。重要なのは、中国という国の大きさではなく、自社が捉えられる具体的な需要があるかどうかです。
食品、化粧品などでは、越境ECを通じて初期投資を抑えながら需要を検証できる場合もあります。ただし、越境ECであっても、商品分類、表示、広告、通関、プラットフォーム規則などの確認は必要です。「越境ECなら規制を回避できる」と考えるべきではありません。
2.中国拠点に残す機能を選び直す
二つ目の判断軸は、中国拠点の役割です。
かつて中国進出の中心的な理由は、人件費と生産コストでした。しかし現在は、中国企業の開発速度、顧客ニーズの変化、デジタル販売、生産設備の集積などを踏まえ、販売、製品開発、調達、研究開発の拠点として中国を捉え直す必要があります。
もちろん、すべての生産機能を中国に集中させることにはリスクがあります。米中対立、追加関税、輸出管理、物流の寸断などに備え、一部の生産や調達をASEAN、インド、日本などへ分散することは合理的です。
ただし、サプライチェーンの分散と中国事業の縮小は同じではありません。
例えば、量産品の生産は第三国へ分散する一方、中国には次の機能を残すという設計が考えられます。
中国顧客向けの販売とアフターサービス
現地ニーズに合わせた製品開発
高付加価値品の生産
中国サプライヤーの発掘と評価
デジタル販促や新サービスの検証
拠点のKPIも、「日本より何%安く生産できたか」だけでは不十分です。「中国向けに開発した製品の売上比率」「新製品の開発期間」「中国顧客の継続率」「中国で得た知見を他地域へ展開した件数」などに置き換える必要があります。

3.中国企業を競合、顧客、協業先の三方向から見る
三つ目は、中国企業との関係です。
2025年度のJETRO調査では、在中国日系企業の74.5%が、中国企業を最大の競争相手と回答しました。製造業では8割を超えています。価格だけでなく、開発速度、現地ニーズへの対応、意思決定の速さでも、中国企業の存在感は大きくなっています。
一方、中国企業を競合として見るだけでは、事業機会の半分しか見ていないことになります。
中国企業は、日系企業にとって次のような相手にもなり得ます。
高品質な部材や設備を購入する顧客
中国市場を開拓する販売・開発パートナー
ASEANなど第三国へ進出する際の協業先
コストや開発速度を補完する調達先
実際、JETRO調査でも、競争への対応として「現地企業との協業・連携」を重視する業種があることが示されています。
ただし、協業を急ぐべきだという意味ではありません。相手企業の実質的支配者、資金力、知的財産の帰属、データの取り扱い、輸出管理、競業避止、契約終了時の措置まで確認することが前提です。先端技術や重要データを伴う案件では、法務、税務、経済安全保障などの専門家による確認も欠かせません。
経営者が取るべき3つの行動
中国事業を見直す際には、次の順番で進めると判断しやすくなります。
第一に、中国事業を法人単位ではなく、製品、顧客、地域、機能の単位まで分解します。
第二に、それぞれを「投資継続」「条件付き継続」「縮小・移転候補」に分類します。業種平均ではなく、自社の利益、競争力、規制リスク、追加投資の回収可能性に基づいて判断します。
第三に、全面撤退を決める前に、生産移転、販売機能の維持、少数精鋭化、ライセンス、販売提携、現地企業との共同開発など、より可逆性の高い選択肢を比較します。
JETROの別の2025年度調査では、対中ビジネスを拡充・維持する理由として「市場規模・成長性」を挙げた企業が54.8%に上りました。一方、対中ビジネスを縮小・撤退する企業では、「地政学リスクの高まり」が約6割で最大の理由となっています。JETRO「2025年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
市場としての魅力と、事業継続上のリスクが同時に存在する。それが現在の中国です。
したがって、経営者が判断すべきなのは「中国を選ぶか、捨てるか」ではありません。
どの事業を、どの機能で、どこまで中国に関与させるのか。その配置を、撤退基準まで含めて設計することです。

中国戦略は、全面撤退か全面投資かという一度きりの決断ではなく、事業を分解し、条件を定め、定期的に入れ替えていく経営プロセスになったのだと思います。
中国事業の見直しでは、まず「国」ではなく「事業・機能・顧客」に分けて考えることが出発点になります。皆さまの会社では、中国拠点に今後どの機能を残す予定でしょうか。差し支えない範囲でコメント欄からお聞かせください。
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