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鑑賞の作法と、マダムの「し〜っ!」 ―― ギャラリーで生まれる小さなドラマ


個展の楽しみのひとつは、作品を通じて会場へ足を運んでくださる方々と交わすコミュニケーションだ。思いもよらない感想や解釈に出会うことも多く、僕にとってはかけがえのない時間でもある。

時折、お客様からこんな質問をいただく。

「先生の一番のお気に入りは、どれですか?」

……これは正直、とても困る💦 マジ困る… だって並べて見ていただく以上、すべての作品が手塩にかけた「一番のお気に入り」だからだ。しかし質問してくださる方は、何か特別な秘密の答えを期待して、じっとこちらの目を見つめてくる。

そんな時、僕はこう返すことにしている。

「そうですねぇ……どれだと思いますか? ぜひ当ててみてください!」

そう言ってそっとその場を離れると、皆さん実に真剣な眼差しで、もう一度一枚ずつの絵と向き合ってくださる。 しばらくして今度は僕から「あなたの一番のお気に入りはどれでしたか?」と尋ねるのだ。 そこから始まる会話は、絵の見方に正解を求めるものではなく、見る人自身の感性と絵が出逢う時間になる。嬉しくなって、つい頼まれもしない制作秘話までベラベラと喋りすぎてしまうのが僕の悪い癖なのだが。

思い返せば20年ほど前、東京で何回目かの個展を開いた時のこと。
少し広めの会場に、見るからにお喋りが大好きなグループが来場された。
案の定、早々に捕まった僕は、絵の話から世間話、果ては旅の四方山話へと脱線し、止まらないお喋りの渦に巻き込まれてしまった。

どうしたものか……と内心困り果てていたその時。 つかつかと一人のご婦人が歩み寄ってきた。
大きな帽子を被った、見るからに品の良いご高齢のマダム。

マダムは僕たちの顔をぐるりと見回すと、人差し指をすっと口元に当てて、静かに言い放った。

「し〜っ! 鑑賞中です。お静かに!!」

……一同、蜘蛛の子を散らすように(というか蟹のように横歩きで🦀)ささーっと解散した。

その後、マダムは真っ赤な顔をして僕の元へ駆け寄ってこられた。

「ごめんなさい! まさかあなたが作家の先生だとは知らず、大変なご無礼を……!」

「いえいえ! とんでもない、助けていただいて感謝しています」

それ以来、マダムは個展のたびに必ず足を運んでくださる大切なお客様となった。 ただ、マダムのお姿が見えると、僕は会場中に
「誰も喋るなよ……!」と鋭い視線を配り、自分自身も直立不動のぎこちない動きで、程よい距離を保ちながら後ろをそろりそろりとついて歩くことになる💦

静寂に包まれ、張り詰めた空気が漂うその時間だけは
「ああ、これぞ本物の展覧会だ」
という特別な空気が満ちていく。

どうかこの瞬間だけは、無遠慮な友人が「おーい! 来てやったぞ!」などと大声で扉を開けてきませんように……と、心の中で必死に祈りながら。

絵の前に立ち、静かに心を通わせる時間も。
ふとした会話から生まれる笑顔も。
どちらも展覧会という場所がくれる、愛おしい景色なのだと思う。

『Holy Night』水彩/ジーザスパステル F10

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vasenoir 村田 旭 僕はもう充分歳なので、、 頂いたチップは若手の応援の為に使わせて頂きます!! ありがとうございます

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