サインの重み、あるいは旅立つ絵画の命
一年間にどれくらいの作品を描くのだろうか・・・
スケッチやドローイングまで数えれば、かなりの枚数になる。
けれど、最後にサインを入れ、世に送り出す作品は一年に八十点ほど。
そして僕の場合は
描き終えたからといって、すぐにサインを入れることはない。
しばらくアトリエの壁に掛け、
毎日眺め、何度も作品と対話をする。
「これでいいかな。。。」
そう心が静かに定まった瞬間、
はじめて筆で名前を書く。
その時間は、いつも息が止まるほど緊張する。
なぜなら、その一筆で
僕の「作品」は「商品」という役割も背負って旅立つからだ。

作品と商品。
この二つの言葉の間で揺れる気持ちは、
絵を描き始めた頃から、今もずっと変わらない。
絵描きさんにとって永遠の課題なのです、、これは。
けれど最近は、その境界は一本の線ではなく、
ゆるやかなグラデーションなのだと思えるようになった。
絵に価格が付き、誰かの手へ渡る。
一般には、それを所有権の移転ということなんだけど。
でも、僕は少し違う気がしている。
絵画は、そこで終わらない。
新しい家の壁に掛けられ、
朝陽の光や夕暮れの柔らかな影を浴びながら、
何十年もの時間を、その家の人と一緒に生きていく。
嬉しい日も、悲しい日も、
言葉にならない静かな時間も見つめ続ける。
僕の手を離れた「商品」は、
暮らしの空気や思い出と混ざり合いながら、
少しずつ、その家だけの「作品」へ育っていく。
そう思うと
最後の一筆の瞬間、更に身が引き締まる
そして、絵描きって、、
何のかんの言ってもやっぱり
すごく良い人生の選択だと思う。。。
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