妻は「見返りは あるほうが いいなあ」と 言います。
娘がひとりで運転中、歩道にうずくまっている知らないおばあちゃんを見つけた。
すぐに車を止め、駆け寄った。
聞けば家は近所だと言う。
なんとか後部座席に乗せ、おばあちゃんの自宅まで送り届けた。
家には誰もいなかった。
力なく横たわるおばあちゃん。
緊急連絡先が貼ってあったので連絡した。
施設の人が二人やってきた。
後は二人にお任せして家に戻った。
しかし、その後、おばあちゃんからもその家族からも施設からも何の連絡もなかった。
娘は
「なんか、ふつうお礼の連絡があるよね。いいことしたのになんかねえ」
と言っていた。
数日後、娘が財布を落とした。
行った場所を探しても見つからない。
交番に行った。
カードも停止した。
翌日、交番から連絡があった。
財布が届けられているという。
届けてくれた人は、自分の名前を伝えなくてもいいですと言っていたそうだ。
「恩送り」だ。
「恩送り」とは、自分が見知らぬ人から受けた親切は、こんどは誰かにお返しするという江戸時代からの日本の美徳だ。
「陰徳」とも言われた。
最初から見返りを期待しないですむので、期待はずれに気持ちが乱れることもない。
心地良く暮らしたいという「先人たちの知恵」だろう。
娘は
「おばあちゃんを車に乗せるとき、ああ、こりゃ菓子折りだなと、チラッと思った」
と、照れた。
