芋出し画像

劻に煜られ、女子倧生に刺され、矎容郚員に救われる


うちの劻は、ずきどき倫を雑に煜る。

ある日、倕飯を食べながら䜕の流れだったか忘れたけれど幎霢の話になった。
若い頃はどうだったずか、今はもう完党に䞭幎だずか、そういう家庭内でしか蚱されない䌚話である。

そのずき劻が、味噌汁を飲みながら蚀った。

「たぁでも、せめお若い子からはモテるくらいにならないずね」

せめお若い子からはモテるくらいにならないずね。

ずいぶん乱暎な励たしである。
励たしなのかどうかも怪しい。
たぶん半分は冗談で、半分は「最近ちょっず気を抜きすぎでは」ずいう生掻指導だったのだず思う。

蚀われたこちらはそうはいかない。
男はどうでもいい䞀蚀をポケットに入れお持ち垰り、あずで勝手に育おる生き物である。

若い頃はありがたいこずにモテた。商業出版で恋愛本たで出した。こう曞くず、マりント取りの感じの悪い䞭幎に芋えるが、本圓だから仕方ない。

もう昔の話だ。過去の栄光モテ話を握りしめたたた生きる男は、だいたい䌚話のどこかがカビ臭い。叀い歊勇䌝は抜かなくおいい刀みたいなものだ。芋せた瞬間にたわりの空気が「はいはい」になる。

だからこそ、少し本気で思っおしたった。
昔じゃなくお、今どうなのか、ず。
劻もそう思ったのだろう。

いや、倉な意味ではない。若い女性に恋愛察象ずしお芋られたいずか、そういう話ではないのだ。ただ、奜意は持たれたほうがいいのではないか。

なのに珟実の私は、アラフォヌどころではなかった。さっきたでアラフォヌの぀もりでいたが、よく考えたらアラフィフだった。
よく考えなくおもアラフィフだった。
自意識だけが30代に居座っおいお、肉䜓ず戞籍がだいぶ先に行っおいる。

◆

ある日、職堎にいる20代の女子倧生バむトの子を芋お、ふず思った。

確かめおみたい。

今思えば、その「確かめおみたい」が、だいぶ危ない。たいおいの事故は、ここから始たる。

職堎のバむトの子に蚀った。

「ねえ、おれずデヌトできる」

「え、ダスさんずですか え、私が あ、仕事あるんで行っおきたすね」

きれいに逃げられた。
防灜蚓緎の避難レベルだった。

職堎の私はかなり冎えない。
よれよれスヌツに、がさがさの髪。
プラむベヌトでは発信しおたり、コミュニティを䞻宰したり、講挔しおいるこずも、ここでは誰も知らない。

知らなくおいい気もする。仮に知ったずころで目の前にいるのは、少し疲れおいる䞭幎男性だからだ。

トヌクには少し自信があった。でもそのトヌクにたどり着く前にガラガラ閉店した。

勝負は始たる前から決たっおいる。

いきなり玠手で行っお、䜕ずかなるわけがない。盞手は20代で、こちらは気を抜くずただの「ちょっず距離感の危ないおじさん」だ。

必芁なのは䌚話力じゃなかった。
配慮ず導線である。

なので、コンビニに行く぀いでに聞いおみた。

「䜕か食べたいものある」

「え、いいんですか お父さんみたい」

お父さん。

蚀葉ずしおはやわらかい。
やわらかいのに、腹に入るず重い。
マシュマロの顔をした鉄球みたいな蚀葉だ。

「お父さんっお䜕歳くらいなの」

「45か46くらいだったず思いたす」

幎䞋だった。

䞀瞬、職堎の床がすこし沈んだ気がした。
そうか。
私は「幎䞊の男」ですらなく、もう「父芪の棚」に眮かれる幎霢なのか。

長男は高2だし䜕もおかしくない。おかしくないのに心だけがただ勝手に30代を名乗っおいた。心ずいうや぀は䜏民祚を芋ない。

恥ずかしくなった。
䜕をやっおいるんだろうず思った。
䜕も起きおいないのに、ひずりで未遂セクハラみたいな顔をしおいる。

ずころが、そのあず圌女が蚀った。

「でも、奢っおくれるならデヌトくらいできたすよ」

たさかのOKである。
もちろん瀟亀蟞什だ。
そんなこずはわかる。
わかるのだが、人は自分に郜合のいい瀟亀蟞什だけは䞀床きちんず受け取る生き物でもある。

「え、ほんずですか。嬉しいです」

私は敬語になっおいた。うれしい時の䞭幎は少し䞁寧になる。

「でも、おっさんっぜい人ず䞊んで歩くのはキツいっすね」

完璧だった。
䞊げお、萜ずす。
正論で、壊す。

「そりゃそうだよね。友だちに芋られたらたずいよね」

「倉なバむトしおるっお思われそうですもん」

それは本圓にそう。

私はその日、自分が若くないこずを知ったわけではない。そんなものずっくに知っおいた。ただ自分の幎霢っお、鏡で芋るより他人の䞀蚀で知るんだなず思った。

垰り道、メンズコスメを調べた。
アンチ゚むゞングずか、スキンケアずか、そういう矎容単語を必死に摂取した。

モテたいずいうより。
もう少しだけ、ちゃんずしお芋られたい。

枅朔で、話しかけやすくお、できれば「キツい」ずたでは思われたくない。

若い頃みたいなモテ方は、たぶんもうしない。でも幎霢には幎霢の芋え方がある。仕様倉曎だ。

ずりあえず私は癟貚店のコスメ売り堎に向かった。䞭幎はお金ならある。

人生はずきどき、化粧氎から始たる。

◆

コスメ売り堎は、どうしおあんなに光っおいるのだろう。床も、棚も、人も光っおいる。䜕なら「毛穎」ずいう単語すら、あの空間に入るず少し茝いおすらいる。

さっきたで職堎で「お父さんみたい」ず蚀われおいた男が来る堎所ではない。堎違いもここたでくるず立掟な芳光である。

入口で䞀床ひるんだ。
垰ろうかなず思った。
ドラッグストアでニベアでも買っお垰れば、それはそれでいい人生なのではないかず。

今日は違う。
今日の私は女子倧生に「おっさんず䞊んで歩くのはキツい」ず蚀われた男である。

芚悟を決めお足を螏み入れた瞬間、すぐに来た。

「いらっしゃいたせ。本日は䜕かお探しですか」

矎容郚員さんだった。

癜い。
いや、肌の話ではない。存圚が、癜い。
枅朔感が服を着お、その䞊からさらに枅朔感を矜織っおいる。顔のパヌツが党郚「ちゃんずしおたす」ずいう方向を向いおいる。
こちらはちょっず油断するず「昚日、床で寝たした」ず蚀われそうな顔である。

「ええず、その  」

ここで芋栄を匵るのは危険だ。プロに䞭途半端な嘘は通じない。野球未経隓者が甲子園の監督にフォヌムの話をするくらい無理がある。

「若返りたいんです」

矎容郚員さんは䞀瞬も笑わなかった。それどころか医垫が問蚺祚を受け取る時みたいな萜ち着いた顔でうなずいた。

「かしこたりたした。どういった点がお気になられたすか」

どういった点。
すごい質問である。
党郚です、ず蚀いたい。

人生の埌半に差しかかった男の「気になる点」を䞀項目で枈たせるのは乱暎すぎる。
顔、銖、髪、姿勢、疲れ、諊め。
どこからが矎容で、どこからが哲孊なのかもわからない。

「ええず  こう  党䜓的に  “おっさん”が出おたしお」

私はもう少しマシな蚀い方ができないのか。
noteで鍛えた語圙力は、なす術もなく迷子だ。

矎容郚員さんは、たたしおも笑わなかった。この人、盞圓に蚓緎されおいる。癟貚店に配属された特殊郚隊である。

「也燥やハリ感の䜎䞋、くすみ感などでしょうか」

翻蚳しおくれた。
ありがたい。
こちらの雑な絶望を倉換しおくれた。
これがプロである。

「たぶん、それです。あず、こう  女子倧生から芋お“なんかキツい”感じを、少しでも薄めたくお」

矎容郚員さんのた぀毛が、ほんのわずかに揺れた。たぶん動揺ではなく情報凊理である。
この客はいったい、誰ず、䜕が、あったのか。
そしお、なぜこんなに正盎なのか。

「普段、スキンケアは䜕かされおいたすか」

基瀎問蚺だ。
ここで「掗顔くらいですかね」ず軜く答えるず、たぶん向こうは「ああ  」ずなる。
しかし事実は事実である。プロを前に嘘は぀けない。

「顔は掗っおたす」
「はい」
「お颚呂で」
「はい」
「ボディ゜ヌプで」

その瞬間。
矎容郚員さんの顔に、ほんのわずかだけ人間が出た。
0.2秒くらい、「えっ」が芋えた。
すぐ消えたけど、私は芋逃さなかった。
今のは確実に「えっ」だった。

「お顔は専甚の掗顔料をお䜿いいただいた方がいいですね」

やさしい。
蚀い方がやさしい。
初倏の蝶々みたいな口調で泚意しおくれる。

「やっぱり違うんですか」
「かなり違いたす」
「そんなに」
「かなりです」

「かなり」を2回蚀われた。
ボディ゜ヌプ掗顔は、かなりなのだ。
これたでの顔面人生がかなりで凊理された。

ショックだけど、孊びもある。
人はかなりの埌にしか進歩しない。

矎容郚員さんは棚から䜕本か持っおきお䞊べた。
掗顔。化粧氎。矎容液。乳液。
急にパヌティメンバヌが増えた。

「たずは掗顔ず化粧氎、乳液からで十分ですよ」
「十分」
「はい。最初から党郚やろうずするず続かないので」

芋抜かれおいる。
私が3日で飜きる男だず芋抜かれおいる。
客の毛穎を芋る前に、性栌を芋おいる。

「ちなみに、どれくらいで倉わりたすか」

䞭幎男性が矎容に求めるものは、だいたい魔法である。
半幎かけお䞁寧に敎える、ではない。
3日で䜕ずかしおほしいのである。
無茶である。

「肌は今日からでも手觊りは少し倉わりたす。ただ、芋た目ずしお実感しやすいのは数週間からですね」

誠実。
ここで「明日には別人です」ず蚀わないのが信頌できる。倢を売り぀けるのではなく珟実を磚いおくれる人だ。

「数週間」
「はい。あず、睡眠ず食事も倧事です」
「出た」
「はい」
「いや、矎容の話っお最終的にい぀も生掻習慣に戻っおくるなず思っお」
「戻っおきたすね」
「ですよね」
「肌は正盎なので」
「぀らいですね」
「぀らいですね」

初めお共犯関係が生たれた気がした。
この人は敵ではない。ただしプロである。

「あず、可胜であれば日焌け止めも」
「男もですか」
「男もです」
「毎日ですか」
「毎日です」

毎日だった。
玫倖線は男女平等なのだ。
倪陜、そこだけ埋儀にフェアである。

私は売り堎の小さな鏡を芋た。そこには少し疲れた男がいた。

若くはない。
でも、別に終わっおもいない。
ただ、今たで“䜕もしおこなかった顔”をしおいた。

「じゃあ、その  日焌け止めは今床にしお、最初の初心者パヌティみたいなや぀で」
「かしこたりたした」

矎容郚員さんが商品を包みながら聞いた。

「きっかけ、䜕かあったんですか」

䞀瞬だけ迷ったが、ここたで来たら隠しおも仕方ない。プロを前に嘘は぀けない。

「職堎の倧孊生に、お父さんみたいっお蚀われたしお」
「なるほど」
「そのあず、おっさんっぜい人ず歩くのキツいっお」
「  なるほど」

この「なるほど」には、たくさんの意味が入っおいた。同情。理解。少しの気の毒。そしお「それは堪えたすね」である。

䌚蚈のあず玙袋を受け取る。
そこに少しだけ未来が入っおいる感じがした。

垰り際、矎容郚員さんが蚀った。

「無理に若く芋せるより、枅朔感があるだけで印象はすごく倉わりたすよ」

その蚀葉はやけに静かに玠盎に刺さった。
若返るんじゃない。ちゃんずする、でよかったのだ。

店を出おガラスに映った自分を芋る。
芋た目はただ䜕も倉わっおいない。
ただ玙袋を持っおいるだけで、少しだけ“あがいおいる人”に芋えた。

その倜、化粧氎を手に取った。
適量、ず曞いおある。

私はこの幎たで、適量ずいう蚀葉からずっず逃げお生きおきた。お酒も努力も愛情も、だいたい倚すぎるか少なすぎるかだった。

ずりあえず、少し倚めに出した。
もうこの時点で前途はあやしい。
顔に぀ける。
ぺたぺたする。
鏡の䞭の私は、昚日ず同じ顔で、昚日より少しだけ本気だった。その日はアンチ゚むゞングずいうより反省䌚に近かった。

◆

翌朝。
掗顔をする。矎容郚員さんに教わった通り、もうボディ゜ヌプは䜿わない。
あれは顔に察しお、ずいぶんかなりだったらしい。

長幎いっしょに颚呂ぞ入り、䜕の疑いもなく顔面たで任せおいたが、あい぀はどうやら䜓の人だった。郚眲が違ったのである。

掗顔料を泡立おる。
泡ずいうものはあれだけでもう自分を倧事にしおいる感じが出る。昚日たでの私は顔を掗っおいたずいうより、顔を凊理しおいた。
今日は、いたわっおいる。

化粧氎を぀ける。
乳液も぀ける。
鏡を芋る。

  わからん。

正盎、たださっぱりわからん。
肌が倉わったのか、ただ顔が少し湿っおいるだけなのか刀別䞍胜である。

でも、手觊りは少し違う気がする。
気のせいかもしれない。

こういうずきの䞭幎男性は倉化を芋぀けたいあたり、身䜓のどこかが「効いおる」ず思いがちだ。耳たぶの様子たで探る。
それでもいい。
矎容の最初の䞀歩なんお、だいたい思い蟌みから始たる。

服も少しだけ気を぀かった。
新しめのシャツを遞び、髪も敎える。
敎えるず蚀っおも、爆発を鎮圧した皋床だが、明らかにマシである。少なくずも「ちょっず海颚の匷い岞壁から来たした」みたいな頭ではない。

家を出る頃には、私は少し期埅しおいた。

䜕を、ずは蚀わない。
いや、蚀う。
蚀われたかったのだ。

「え、ダスさん、なんか今日぀や぀やしおたせん」

この䞀蚀を。

別に倧げさでなくおいい。
「なんか雰囲気ちがいたすね」でもよかった。
「よく寝たした」でもいい。
芁するに肌の倉化に気づいおほしかったのである。

男ずいう生き物は他人にあれだけ鈍感なくせに、自分の努力だけはすぐ芋぀けおほしがる。じ぀に勝手だ。

職堎に着く。
バむトの女子倧生がいた。

いた。

なるべく自然を装った。
おはようございたす。
向こうも、おはようございたす。
ここたでは普通だ。
問題は、このあずである。

盞手の目線が䞀瞬こちらに来る。
来た。
来たしたよ。
芋た。今、芋た。
これは来る。
来るぞ。

「今日、敎備する所が倚いらしいです」

業務連絡だった。

ちがう。
そうじゃない。
敎備の話ではない。
私は今、肌の話をしおいるのだ。
こっちは顔面敎備に新しい予算を投䞋しおいる。そっちは斜蚭敎備の話をしおいる。䌚話のレむダヌが違う。

「そうなんだ」

仕事の話を無芖するわけにはいかない。

だが内心では、ただ終わっおいなかった。
ただ䞀蚀目だ。
あずから本題ぞ入るこずもある。
きっずそうだ。

しばらくしお、事務所で二人きりになる瞬間があった。
奜機である。
顔がよく芋える距離だ。
自然光ではないがオフィスの照明も悪くない。

圌女がこちらを芋お蚀った。

「ダスさん、これシヌル貌っずいおもらっおいいですか」

シヌルだった。

今日の私は、぀や぀やではなくぺたぺたシヌルだった。

それでもただ諊めなかった。人間、期埅しおいるずきだけ垌望に察しお異垞な執着を芋せる。

数時間経過しおも、誰も䜕も蚀わない。
誰䞀人、私の肌のうるおい革呜に觊れない。
昚日たでず同じ男ずしお扱われる。
実際、ほが同じなのだろう。
䞀晩で䞭幎男性の印象が劇的に倉わるなら、矎容業界はもっず奇跡の垃教をしおいる。

しかし私は䜕を期埅しおいるのだろう。
二十数幎たずもに䜕もしおこなかった顔面が、たった䞀晩で「おっ」ずなるわけがない。炊飯噚ですら早炊きに限界があるのに。

終業間際、女子倧生バむトが、ふずこちらを芋お蚀った。

「ダスさん、今日なんか  」

来た。

来た来た来た来た。
遅かったが来た。
぀いに来た。
人は本圓に嬉しいずき、䞀瞬だけ呌吞を止める。

「今日なんか、機嫌いいですね」

肌ではなかった。
぀やでもなかった。
私はご機嫌だったらしい。

芋た目が䞀日で倉わらなくおも、䜕かを始めた人間は少しだけ機嫌がよくなる。昚日たで諊めおいたこずに手を぀けた人間には、うっすら前向き埮粒子が出る。
あれを、圌女は芋おいたのだ。

「そう」

「なんか、昚日より話しかけやすいです」

その䞀蚀はなんだか効いた。

結局、モテるずか若返るずか、そういう掟手な話ではなかったのだ。

肌を敎えるず顔が倉わる前に態床が倉わる。態床が倉わるず空気が少し倉わる。人が芋おいるのは案倖そこなのかもしれない。

たぁそれでも、鏡を芋た私は思った。

いや、でも、
ちょっずは぀や぀やしおない

◆

手応えを感じた私は調子に乗っおあの店ぞ2回目の盞談に行った。

いや、手応えず蚀っおも倧したものではない。
「今日なんか機嫌いいですね」
「昚日より話しかけやすいです」
たったそれだけだ。

たったそれだけなのに、䞭幎男性には十分すぎた。砂挠で小さな氎溜たりを芋぀けたラクダくらいには元気になれる。人は垌望が少ないほど、小さな倉化を倧事に抱く。

私は、その日かなり浮かれおいた。

先日たでは「女子倧生から芋おキツいおっさん」だった男が、「昚日より話しかけやすい人」になったのである。
倧進歩である。
れロず1の差は倧きい。人類だっお最初の䞀歩はたぶんそんなものだ。倧志を抱こう。

䟋の店ぞ向かった。先日、私の顔面の歎史に「掗顔料」ずいう文明をもたらしおくれた矎容郚員さんのいる店である。

前ず同じあの人がいた。
癜い。やっぱり癜い。

私は少しスキンケアをしたくらいで、なぜか少し仲間みたいな顔をしおいる。図々しさにも保湿が必芁だず思った。

こちらに気づいたようで、にこやかに䌚釈した。私は告げた。

「先日はありがずうございたした」

すでに䞀回この人に「若返りたいんです」ず告癜しおいる。矎容売り堎においお、あれはほが半裞である。
だから2回目は少し気が楜だった。
恥は䞀床かくず通行蚌になる。

「いえ、ずんでもないです。その埌いかがですか」

病院の再蚺みたいだ。
経過芳察である。

「それがですね」

ここで私は少し声を萜ずした。
なぜか報告䌚の感じが出る。

「職堎の若い子に“昚日より話しかけやすい”っお蚀われたしお」

矎容郚員さんはきれいな笑顔でうなずいた。

「すごくいい倉化ですね」

すごくいい倉化。
蚀われおみればそうである。
私は内心「぀や぀やしおたせん」埅ちだったが、第䞉者の口から敎えおもらうず話が急にちゃんずしお芋える。
この人はすごい。
私の雑な感情をずっず翻蚳しおくれおいる。

「たぁ、本圓は芋た目の倉化を期埅しおたんですけど」
「お気持ちはずおもわかりたす」
「でも、機嫌がよく芋えたらしいです」
「スキンケアを始めるず、気持ちが前向きになっお衚情が倉わる方、倚いですよ」

たたしおもこちらのしょうもない浮かれを正しい話に着地させおくる。
この人、矎容郚員ずいうより半分カりンセラヌではないか。

私はちょっず気をよくしおしたった。人は自分の倉化を肯定されるず、すぐに次ぞ行きたくなる。
筋トレ初日の男がプロテむンに拘るのず同じである。ただ腕立お8回しただけなのに、気持ちは湘南の海ぞ行っおいる。

「それで、今日はもう䞀段階いきたくお」
「はい」
「もう少しこう  “ちゃんずしおる感”を足したいんです」
「なるほど」

矎容郚員さんは少し考えおから、芖線を私の顔に眮いた。
職人の目だった。
私の顔を芋おいるのに責めおいる感じがたったくしない。
ありがたい。
䞭幎男性は女性に顔を芳察されるだけで少し反省した気持ちになる生き物なのである。

「もし続けられそうでしたら、やはり次は日焌け止めですね」
「日焌け止めですか」
「はい。これからの玫倖線察策は、かなり倧事です」
「でも私、基本むンドアで」
「通勀でも圓たりたすし、窓からも入りたす」
「窓から」
「はい」
「玫倖線っお、タケコプタヌを付けたドラえもんみたいに来るんですね」

矎容郚員さんが少しだけ笑った。
勝った。
いや別に戊っおはいないのだが、この人の笑いを取れるずちょっずうれしい。でもここは、よしもず挫才劇堎ではなく、しっずり保湿聖地である。

「あず、可胜なら眉も少し敎えるず印象倉わりたすよ」

来た。
新しい扉だ。

「眉っお、敎えるもんなんですか」
「はい。眉ががんやりしおいるず、疲れお芋えやすいので」
「䜕もしなくおも疲れおるのに、眉たで加担しおくるんですね」
「芋た目は、わりず正盎です」

眉ずいうものを私はこれたで完党に“生えおくるもの”ずしおしか認識しおいなかった。雑草の扱いである。
たしかに若い人っお眉がちゃんずしおいる。ちゃんずしおいる人は、眉もちゃんずしおいる。あれは偶然ではなかったのだ。

「自分でできたすかね」
「最初は難しいので、サロンやカりンタヌで芋おもらう方も倚いです」
「眉を、芋おもらう䞖界  」

人生にはただただ知らない業界がある。
最近たで私は顔をボディ゜ヌプで掗っおいた男なのだ。眉の盞談窓口が存圚する瀟䌚にただ気持ちが远い぀いおいない。

矎容郚員さんは棚から日焌け止めをいく぀か出しお説明しおくれた。
ゞェルタむプ。乳液タむプ。ベタ぀きにくいもの。すぐ萜ずせるもの。

矎容の䞖界はふわっずしおいるようで案倖かなり珟実的だ。倢を売っおいるようで、実際は「続けられるか」「萜ずしやすいか」「朝に面倒じゃないか」の話をしおいる。
こういうずころに私は信頌を寄せる。

「ちなみに、どのくらいで“ちゃんずしおる感”っお出たすか」

たた魔法みたいなこずを聞いおしたった。
この悪い癖は盎らない。努力は短期で回収したいし、成果は他人の口から聞きたい。

矎容郚員さんは困った顔をせず、静かに蚀った。

「倧きく倉えるずいうより、少しず぀“雑に芋えない”方向に寄せおいく感じですね」

雑に芋えない。

若く芋えるでもなく、むケオゞになるでもなく、雑に芋えない。

思えば私は、ずっずそこをサボっおいた。
若い頃にちょっずモテたこずがあるせいで、䜕もしなくおも䜕ずかなる気がどこかに残っおいた。

でも今は違う。幎霢を重ねた人間に必芁なのは、茝きより敎備なのだ。

䞭叀車だっおピカピカの新車にはなれないけど、きちんず手入れされおいたら「お、いいですね」ず蚀われる。たぶん人も同じだ。

「じゃあ、それください」
「ありがずうございたす」

商品を包んでもらいながら、私は少し迷っお聞いた。

「こういうの、急に始める男っお、やっぱり倚いんですか」

矎容郚員さんは埮笑んだ。

「倚いですよ。䜕かきっかけがあっお来られる方が倚いです」
「たずえば」
「写真をみお驚いたずか、昔の自分ずの違いを感じたずか、誰かに蚀われたずか」
「誰かに蚀われた、は匷いですね」
「匷いですね」

やっぱりそうなのだ。
人はだいたい、自分では倉わらない。
誰かの䞀蚀で鏡を芋る。
私もそうだった。
劻の雑な煜りず、女子倧生の正論。
あれがなければ、今も私はボディ゜ヌプで顔を掗い、気持ちだけ30代を名乗っおいたず思う。
店を出る前に蚀った。

「ありがずうございたす。なんか  人生を少し立お盎しおる感じがしたす」
「それはよかったです」

店を出る。ガラスに映った自分は矎容前ず矎容埌で劇的には倉わっおいない。

でも、なんだか雑ではなかった。
それだけで少し足取りが軜い。

モテたい、なんお蚀葉で始たった話だったけれど、ほんずうは違ったのかもしれない。若い子にどう芋られるかじゃなく、幎霢に察しお雑なたたの自分が少しず぀恥ずかしくなっおきたのだ。

ちゃんずする、は地味だ。
地味だけど、効く。

矎容っお顔を倉える技術ずいうより、生掻の雑さを䞀個ず぀拟い䞊げる䜜業なのだろう。

新しく買った日焌け止めを棚に眮き、しばらく眺めた。
癜いチュヌブが䞀本あるだけなのに、ちゃんずした人生の入口みたいに芋えた。

たぁ、明日の朝には
「どの順番で塗るんだっけ」
ず混乱する気もしたけれど。

◆

数日埌、劻が蚀っおきた。

「なんか最近、ちゃんずしおきおお腹立぀」

耒めるなら耒めるで、もう少し祝いの空気を出しおほしい。
人は芋た目を敎えたあず拍手に近いものを期埅する。なのに返っおきたのは、ご立腹だった。

「いや、あなたが蚀ったんやん。せめお若い子からはモテるくらいにならないずっお」

「だからっお、ほんずにやる人いる」

いるのである。
雑な䞀蚀を胞ポケットで発酵させお、本気にしおしたう䞭幎男性が。ここに。

「で、どうなの。若い子にモテたの」
「いや、別にそういうわけじゃ」
「じゃあ䜕」
「䜕っおいうか  」

䜕なんだろう。
女子倧生に話しかけお、父芪䞖代だず知っお、矎容郚員さんに教わっお、眉の䞖界が存圚しお。

そんなこずをしおいるうちに、だんだん話が倉わっおしたったのだ。

若い子にモテたいわけじゃなかった。
むケおじになりたいわけでもなかった。
幎霢に察しお雑にしたたた生きるのが、少し恥ずかしくなっただけだった。

いや、たぶん、それだけでもない。

毎日いっしょにいお、いちばん私の“雑さ”を芋おきた人に「最近ちゃんずしおる」ず気づいおもらうこずだったのだず思う。

「  たぁ、誰かに喜んでほしかったのかも」

私がそう蚀うず、劻は䞀瞬だけ黙っお味噌汁を飲んだ。この人はすぐ甘いこずを蚀わない。蚀わないたた、ちょっずだけ口元がゆるむ。

「ふヌん」
「䜕、その反応」
「いや、遅いなず思っお」
「遅いっお」
「もっず早く気づきなよ」

若い頃みたいにモテるかどうかなんお、そんなに倧事じゃない。倧事なのは、くたびれたたた雑に幎を取らないこず。
目の前の人に、ちゃんず感じよくいるこず。
そういうこずだったのだろう。

矎容っお若返るためのものじゃないのかもしれない。誰かに芋せびらかすためでもない。暮らしの䞭で、もう䞀床ちゃんずするためのものなのだ。

私がほんずうにモテたかったのは、女子倧生にではない。

ずっず前から家にいる、この人にだったのだ。

#創䜜倧賞2026
#゚ッセむ郚門

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