壁に眠るスピーカー │ チロリアンランプの思い出
今日はしとしとと雨が降っている。
湿度が高く、外はまるで蒸し風呂のようだ。
除湿して涼しい部屋から外へ出ると、途端に眼鏡が白く曇る。
蒸し風呂といえば、お風呂場である。
我が家は築25年ほどの古屋だが、当時としては最新型のユニットバスを導入した。
お風呂場の壁にはスピーカーが内蔵されており、脱衣所に設置したオーディオ機器と接続して音楽を楽しめるというものだった。
今では珍しくないのかもしれないが、当時はまだYouTubeなどもなく、とても画期的な設備だったように思う。
娘が小さい頃は、よく一緒に童謡を聴きながらお風呂に入った。
英語の童謡もお気に入りで、特によく覚えているのが「曜日の歌」である。
「Sunday、Monday、Tuesday……」と軽快に歌が流れるのだが、娘はなぜか「さんじゅうまんで、じゅうさん」と歌っていた。
「三十万で十三⁉」
思わず吹き出し、「お前はジョン万次郎か」と心の中でつっこんだことを、今でも覚えている。
もう一つ印象に残っているのが、日本の数え歌「かものヒナ」だ。
一から十三まで数えていく歌なのだが、娘は途中からその先が数えられなくなってしまう。
そんな様子を見て、「そろそろ幼児教室かな」と真剣に考えたこともあった。
きっと今どきのお風呂は、モニター付きでテレビやYouTube、DVDなども楽しめるのだろう。
それはそれで便利だし、つい長湯をしてしまいそうだ。
でも、最新の設備はいつか古くなる。
それでも、お風呂に入るたび、壁の中に静かに眠っているあのスピーカーのことを思い出す。そして、童謡に合わせて歌っていた娘の小さな声まで、一緒に蘇ってくる。
思い出というものは、不思議なものだ。
目には見えなくても、確かにそこに残り続けているのだから。
