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第12回 ブラック代表のテレビ業界を働き方改革したら…

怒られない、定時で帰れる、優しい現場。
でもその裏で、誰も言わない“静かな問題”が起きていた。


昔の地獄は、今やファンタジー

最近のテレビ現場、だいぶ優しくなった。
ぶん殴られたり蹴飛ばされたり、眠れず、帰れず、風呂に入れない…。昔の武勇伝(という名の地獄話)は、もはやファンタジー扱いである。

泊まり込み? ない。早朝ロケの前夜以外は必ず帰宅。
怒鳴られる? 即パワハラ案件。ディレクターの首が飛ぶ。

今のADは8時間勤務。
時間になったら、まだ働いているディレクターに「お疲れ様です!」と明るく声をかけてタイムカードを押して帰っていく。

編集はまだ終わってないし、ロケ隊もまだ帰ってきてない。でも、帰る。なぜなら勤務時間がそこで終わりだから。当たり前の話だが、昔のテレビ界を知るものからすれば夢のような世界。
…これはこれで、潔くて清々しい。

ちなみに。
実はこれ、制作会社で働いているか、局で働いているかで環境は大きく違うと思う。今書いたのは局で働くスタッフのこと。
コンプラ意識が高い(というか叩かれたくない)局では勤務時間がかなり厳密にチェックされている。
しかし制作会社では、まだこれほど徹底されてはないはず。そのため、同じ派遣会社のADでも、勤務先が違うだけで労働環境はぜんぜん違う。とはいえ、制作会社でも暴力・暴言Dはもう絶滅したんじゃないかと思う。


今の現場は“やさしさ”でできている

それにしても、プロデューサーもディレクターもほんとにみんな優しい。
「これお願いできる?」の言い方も丁寧だし、
「わかんないです…」と言われても、誰もキレたりしない。
むしろ「そっか、ごめんね説明足りなかったよね」って、言った側が謝る。

昔なら、怒られるのがイヤで事前に全部調べてから報告に来てたADが、
今は“わからなかったら素直に聞く”スタイルである。
いや、全然いいことなんだけど。
ちょっとだけ、「…もうちょっと粘らん?」と思う瞬間もある。

今は上司の方が気を使ってる。
ちょっとでも言葉がキツかったら、後でPから「それ圧になってない?」って言われるし、
「昔ならこうだったのに」は禁句。
だから、なるべく距離を取って、必要以上のことは言わない。
飲みに誘う? いやいや、令和にそんな空気ないっす。


ホワイト化の裏で…

ここまで読んで「いい現場じゃん」と思った方、正解です。
働く人が守られて、ちゃんと休めて、怒鳴られなくて、理不尽もない。昔より、100倍まとも。
ほんとに、そう。…なんだけど。

ふとした瞬間に、こんなことを思う。

「このAD、ほんとにディレクターになれるのか?」


優しさの中で、経験の入口が消えていく

昔は、やらざるを得なかった。
泊まりでロケ素材を全部整理して、誰よりも流れを把握してたのがAD。
「今度のロケ、お前が仕切ってみろ」ってムチャぶりされたら、泣きそうになりながらも根性でやるしかなかった。

失敗して怒られたけど、なぜ怒られたかは明確だったし、
何より、「次はやれるようになろう」って気持ちにはなれた。

そして、やりきったことで自信が芽生え、ディレクターになるために必要な技術を覚えていった。何もかも自分でやるから、番組が完成するまでのすべてをその目で見て、体験することができた。

でも今は、任されない。
途中で帰るのが前提だから、最初から責任ある仕事は回ってこない。
仮にやりたいと思っていたとしても、ディレクターはこう思う。
「頼んでいいのか?」
「プレッシャーにならないか?」
「パワハラにならないか?」
優しさが、経験の入口を塞ぐ。

その結果、どうなるか。
年数だけは積んでるのに、「自分の担当以外は全然わからない」という人が普通に出てくる。
仕方ない。それが今の構造だ。
誰も悪くない。でも、それでプロになれるのか?


教えたい。でも、どう教えればいいのか

たまに、本当にごくたまに、自分から「やらせてください」と言ってくる若手がいる。
「挑戦してみたいです」「一度仕切ってみたいです」って。
正直、めちゃくちゃ嬉しい。
そういう子には、こちらも全部教えたくなるし、応援したくなる。

でもそれって、結局“本人の気合次第”になってるのも事実で、
育成じゃなくて、自力サバイバルになってないか?と思ったりもする。

本当は、「ちゃんと任せて、ちゃんと失敗させて、ちゃんと一人前になる」っていう育成ルートが必要なはずなのに、
今は“怒らない”“干渉しない”“とにかくトラブルにならない”が最優先。

優しさの中で、誰かがひっそりと育ちそこねてる。
みんな、なんとなく気づいてはいるけど、どうすればいいのかわからないのが正直なところ。


テレビの10年後を考えてしまう

若手がいっさい育たなかったら…。
10年後、現場にいるのは50代のおじさんディレクターばかりになってしまう。
そのとき、テレビが“オールドメディア”って言われても、もう反論することはできない。テレビの終焉かもしれない。

でも、それはまだ未来の話。
どこかにいるはずだと信じたい。
今のおじさんたちを余裕で超えていく、次世代のディレクターを。

その座を狙う生きの良い若手が現れたら、自分の知っていることは何でも全部教えたいと思ってます。
ちょっと面倒でも、ちゃんと育てたい。
この連載には、そんな思いも少し込めてたりします。

テレビはまだ死なない


この連載「神回を生み出すために全力疾走」では、バラエティ番組の舞台裏を毎回テーマ別に書いています。
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