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#36 人を消す夜──出演者が炎上した時、編集室で起きていること

不倫、パワハラ、セクハラ…。
コンプラ違反で芸能人が次々と消えていく昨今。
「何かあったらしい」──その一報で、現場は一瞬でざわつく。

最初に連絡をくれるのは、たいてい所属事務所。
翌日の週刊文春に記事が出るときは内容を伝えられるが、そうではないパターンのときは、第一報で詳細が明かされないこともある。

「ご迷惑をお掛けします」「本人が会見を開く予定です」──
そんなざっくりした報告だけが届く。
情報を拡散しないよう、プロデューサーと総合演出だけで情報共有。

「何をやらかした?」
「放送は差し替え?」
「どのレベルの話だ?」

慌てて関係者に電話連絡を取るが、だいたい手がかりはなし。つまり、何か悪いニュースが入るのは間違いないが、それ以上何もわからない状態。
判断材料がないが、放送が近い場合はとりあえず色々なパターンを想定しながら対応が始まる。

  • 問題が軽ければ通常放送→注釈テロップで対応可能

  • 想定より重ければ、出演部分を全差し替え

何があっても対応できるよう編集所を押さえつつ、もし差し替えになった場合、代わりに放送できるものがないか考える。

とりあえず編集所を押さえ、
もし差し替えになった場合に備えて“放送できる代替VTR”を探す。

過去の総集編か再放送くらいしか手はない。
そのネタ選びを始めるころには、ネットニュースで少しずつ情報が漏れ始める。
胃が痛くなるような時間を過ごしながら、担当ディレクターに総集編の編集の指示を出す。


存在を消す、という仕事

トラブルがあった出演者の番組で、どんな編集が行われているか。
最近の風潮では、出演者が何か“やらかす”と即座に袋叩きに合う。
番組側に火の粉が飛ぶのを防ぐには──基本は、存在を消す。

VTR中心の番組なら、対応は比較的簡単。ワイプからその人を外し、音声も使わない。
出演者全員の音声は別チャンネルで収録されているので、“その人のマイクを使わない”だけで、音も姿も消すことができる。

問題はスタジオ中心の番組。
特にMCクラスがやらかすと、どのカメラにも映り込み、
トークの起点が常にその人なので、構成そのものが崩れてしまう。

でも大物ゲストが出ている回だと、お蔵入りにもできない。
だからギリギリまで粘って、使える形に整える。
そこから始まるのが、“存在を消す再構成”だ。

まず、スタジオパートを減らす。
VTRを少し伸ばしたり、次回予告を長めに入れたりして“薄める”。
どうしても使わざるを得ない場合は、ナレーションで質問を振る形式に変更し、他の人達のトークだけを活かす。

映像は、問題の人物が写っていないカットを使う。
または映像を引き伸ばして、問題の人物をカットする。
あるいは、その人が写っている部分だけを物理的に消す。

“消す”といっても、モザイクやぼかしではかえって目立つので、トークのテーマ映像やイラストを横に出して2面構成にするなどして、なんとか隠す。
これでおそらく、初めて見る人には不自然さは感じられないレベルに消すことができる。

実は──人ひとり消すのは、それほど難しくない。
難しいのは、“消したことを悟らせない”ことだ。
それが、炎上時のディレクターに求められる技術。

ちなみに。
日テレの番組は収録のVTR台数が少ないことが多く、どの素材にも問題の人が映る。そのため他のカメラに切り替えるのが難しく、「あの人」のときは結構苦労していた記憶がある。


完全犯罪を目指して


修正が終わると、今度は全関係者が細部をチェックする。
服の端や髪の一部まで。
消し忘れがないか、音声が残っていないか。
証拠隠滅を図る。

そしてすべての修正を終えたあと、いつも思う。

「こんなに簡単に、人を消せてしまうんだな……」

数日前まで、一緒に笑って収録していた仲間なのに。
多少の問題を起こしても、そんな簡単には切り替えられない。裏切られた怒りよりも、ただ静かな寂しさが残る。

オンエア後、SNSで「全然違和感なかった」「普通に面白かった」と言われた時、心底ホッとした。
あの緊急編集が“なかったこと”に見えるのが、最高の褒め言葉だ。


仕事と、感情のあいだで


犯罪を犯した人が糾弾されるのは仕方ない。
でも、警察が動きもしない事案で、ここまで叩かれる必要があるのかなとも思う。

「身内をかばうな」と言われるかもしれない。
それでも、身内ぐらいはかばいたい。
ついさっきまで同じ現場で戦っていた仲間だから。

嫌な時代になったな、と思う。
でも、それでも仕事は待ってくれない。
僕らは2日後の放送を止めるわけにはいかない。

だから、すぐに消す。
冷静に、淡々と。
2日後のオンエアを守るために。

出演者を“消す”というのは、残酷な作業だ。
でも、その裏には、番組を守ろうとする無数の手がある。
画面の明るさの裏で、誰かが静かに戦っている。


テレビの裏側は今日もドタバタ。
誰かを消しながら、誰かを守って、
それでも面白い番組を作ろうと足掻いています。
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