テレビがいちばん怖がっているもの──探偵!ナイトスクープ炎上から考える
最近、「探偵!ナイトスクープ」のある回が、大きな反響を呼んでいる。
というより、炎上している。
内容の是非について、ここではあまり触れない。
というのも、僕自身そのVTRを見ていないからだ。
だから「これは良い」「これはダメ」と断じるつもりはない。
ただ、今回の騒動を外野から見ていて、ひとつ強く感じたことがある。
これは、今のテレビがいちばん神経をすり減らしている場所に触れている話だ。
表現の自由やコンプライアンスとは、少し違う。
番組がキッカケで、一般の人が叩かれてしまうこと。
今、テレビはここをいちばん怖がっている。
番組を見て、いろんな意見を持つのは自由だし、健全だと思う。
ただ、放送後に起きる反応は、もはや番組の手を離れている。
ナイトスクープの件も、番組内容そのものより、その後に起きている現象のほうが重たい。
朝日放送は、依頼のお手紙の文章を番組側が書いたこと、帰り際の母親の言葉が、編集で意図的に見せられたものであったことについて、訂正・説明に近い文章を出した。
この文章を素早く出したのは、「放送が間違っていた」という主張よりも、番組がキッカケで、両親が過剰に叩かれている状況をなんとか沈静化したい
という意思だと思う。
もし、このまま批判がエスカレートして、当事者に何か取り返しのつかないことが起きたら。
それは、番組にとっても最悪の事態だ。
実は数年前、僕が関わっている番組でも、似たような「小さなボヤ」が起きたことがある。
放送前、多少は批判的な声が出るかもしれない、とは思っていた。でも、実際に起きた反応は、その想像をはるかに超えていた。
一般の人が、明確に「叩かれる側」になってしまった。結果的に、番組として謝罪することになった。
そのとき、僕ははっきりと感じた。
世間の空気は、確実に変わってきている。
しかもその変化は、年々少しずつ進んでいる。
だから今は、人によって「ここまではセーフ」「ここからはアウト」という意識のラインが、もう揃っていない。
だから、今のテレビはやたらと慎重だ。
それは臆病になったからではない。
番組が原因で、一般の人が不幸になる場面を、現実として何度も見てきたからだ。
たとえば、人気の男性アイドルが女性ファンに大サービスする企画。
その場では夢のある映像が撮れるし、アイドルの優しさも伝わる。
でも今、それをやったらどうなるか。
放送直後に女性ファンが特定され、
「なんでお前だけが」
「ふざけるな」
という怒号が飛ぶ。
過去のSNSを掘り返され、人格攻撃が始まる。
だから、そういう企画はやらない。
これはタレントを守るためじゃない。
一般の人を守るための判断だ。
昔からジャニーズ事務所は、ここの意識が高かった。もう少しゆるくてもいいのに…と感じていたが、最近は制作側もかなり強く意識するようになった。
タレントは、もうかなり令和仕様になっている。
言葉遣いも、距離感も、コンプラ意識も高い。
でも、一般の人はそうじゃない。
悪気なく話した言葉が、テレビの前の誰かにとっては「許せないもの」に見えてしまう。
たとえ本人も言われた家族も気にしていなくても、誤解されそうな発言は切る。
悪いイメージを見せて笑いにするのは、本当に難しくなった。
ここで、ナイトスクープの話に戻る。
今回の件も、何も考えずに放送したわけではないと思う。むしろ逆で、局内ではかなり揉めた可能性が高い。
今のテレビで、家庭の問題や親の振る舞い、ヤングケアラー的にも見える構図をノーチェックで世に出すことはまずない。
ロケ後、編集段階で
「ここは危ないんじゃないか」
「誤解されないか」
という議論は、必ずあったはずだ。
それでも放送した。
ということは、
どこかに
「この家族を、あえて世に出す意味がある」
「黙って見過ごすより、光を当てたほうがいい」
という判断があった可能性がある。
それが現場ディレクターの思いだったのか、プロデューサーの決断だったのか、番組全体の総意だったのかは分からない。
ただ、放送後の反響は、その想定をはるかに超えた。
訂正・説明文が出たこと自体が、
番組側も「ここまで燃えるとは思っていなかった」
と感じていた証拠だと思う。
番組が叩かれるのはまだいい。
矢面に立ったのが家族だというのは、テレビがいちばん避けたい形だ。
善意だったかどうかは、正直分からない。
でも、善意だった可能性は十分にある。
ただ、今の時代、善意は免罪符にならない。
テレビは、問題提起はできる。光を当てることもできる。
でも、その先で起きる個人への攻撃や分断までは、コントロールできない。
だから現場は、どこまで踏み込むか、どこで引き返すかを、毎回、手探りで決めている。
ナイトスクープの件は、その境界線を、ほんの少し越えてしまった。
──少なくとも、今の空気の中では。
これは、あの番組だけの話じゃない。
明日、別の番組でも起こりうる話だ。
テレビがいちばん怖がっているのは、炎上そのものではない。
番組を作った結果、誰かの人生が壊れてしまうことだ。
※次回は、
「手紙の書き直し」や「母親のコメントを足す編集」は本当に問題だったのか。もう一段、現場目線で考えてみます。
