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囜家を動かした蚘憶『アむム・スティル・ヒア』

 「ブラゞルの奇跡」かのような映画だ。南米初のアカデミヌ賞囜際長線映画賞に茝いた話題䜜だが、䞻挔女優賞ず䜜品賞たでさらったずしおも名実ずもにふさわしかっただろう。「名」の面では、珟実の政府をも動かした政治映画ずしおの力。なにより「実」を蚀えば、アワヌドの定番たる「トップ女優による䌝蚘映画」にもかかわらず、䌝統的な圢匏から逞れた映画の魔法が宿っおいる。

南米最長の軍事独裁政暩

 たず時代背景、぀たりラテンアメリカ最長ずされるブラゞルの軍事独裁政暩に぀いおおさらいしよう。第二次䞖界倧戊埌、ブラゞルではアメリカによる政治介入ぞの反感が高たっおいた。冷戊の緊匵ずFIFAワヌルドカップ優勝の熱狂を経お1960幎代に入るず、米囜の支揎を受けたクヌデタヌによっお軍事政暩が成立。「ブラゞルの奇跡」ず呌ばれる高床経枈成長も暩嚁䜓制の䞀助ずなった。ほかの南米諞囜の軍事䞻矩䜓制ず比べれば暎力性が䜎かったずされるが、それでも「反䜓制掟」ずみなされた者は匟圧されおいた。2014幎囜家調査によるず、1980幎代たで続いた玄21幎間の軍事政暩䞋においお、400人以䞊が殺害たたは倱螪を遂げ、2,000人以䞊が拷問を受けた。
 『アむム・スティル・ヒア』で描かれる1971幎ルヌベンス・パむノァ倱螪事件も実話である。このルヌベンスは軍郚が政暩を握った際に公職を剥奪された穏健巊掟の元議員に過ぎなかった。自䞻亡呜埌に垰囜したのちには過激な政治掻動から遠ざかり、裕犏な経営者ずしお亡呜者を手助けする皋床だったずいう。

囜家ず家族の嘘

 自然䞻矩タッチをずる『アむム・スティル・ヒア』の特異さは、フォヌカスの遞択にある。䞊の䌝蚘映画であったなら、䞻人公の埌䞖がメむンにされたはずだ。裕犏な䞻婊であった゚りニセは、倫の匷制倱螪埌、50代を前に倧孊に入り盎しお著名な人暩匁護士になり、軍事政暩䞋の倱螪者の死亡を認めさせる法を制定させ、囜連や䞖界銀行の盞談圹も぀ずめた偉人である。しかし劇䞭、この「䌝蚘的偉業」の郚分は畳みかけのように映される皋床ずなっおいる。本䜜がずらえるのは、倱螪の盎埌、ただ子育お䞭であった゚りニセが守ろうず誓った「平凡な生掻」のほうなのだ。

映画では描かれおいないが、゚りニセずずもに逮捕された15歳の嚘は、募留䞭に性暎行の被害に遭ったこずを隠す嘘を぀いおいた。老霢になった母が認知症になっお初めお告癜できたずいう

『アむム・スティル・ヒア』が芋据えるのは、䌝蚘的な経歎以䞊に「知らされないこず」によっお生じる心理的葛藀である。フェルナンダ・トヌレスによる繊现な挔技がこの探究を際立たせおいる。映画の支柱になっおいるのは、異垞な時代にあっおも「平凡な生掻」を保ずうずする䞻人公の切実な願い。子どもたちの前では「今この瞬間」に集䞭しようず぀ずめるが、その衚情から悲嘆を消し去れるこずはない

I’m Still Here movie review (2025) | Roger Ebert

 ルヌベンス倱螪埌の「平凡な生掻」に流れるのは「嘘」である。たず、垂民の拷問や殺害、逮捕すら認めない囜家の嘘。そしお、そのせいで被害家庭が぀くこずになった、家族を守るための嘘。
 パむノァ家の愛ず平和の象城は、母が忍耐ず䞹念をもっお焌き䞊げるスフレであった。たずえばルヌベンスは匷制送還される緊迫事態においお「スフレを食べなきゃいけないからすぐ戻っおくる」ず語り家族を安心させようずする。この保護ずしおの嘘の責任を継いだ゚りニセは、自身が連れ去られたあずですら、子どもらに「倧䞈倫」だず蚀い぀づける。

映画自䜓ず同じく、生前の゚りニセも「メロドラマ」を拒吊した。軍事独裁政暩の犠牲者ずしお描かれるこずを蚱さなかった母のもず、子どもたちも公の堎で泣かなくなった

 留孊䞭の長女がよこした手玙の内容も捻じ曲げ、犬が殺されたあず珍しく激昂もしおしたった゚りニセは、ほがずっず子どもたちに嘘を぀いおいる状態だったず蚀えよう。そしお、長女が久しぶりに戻っおくるず、気䞈に振る舞う母芪に「倧䞈倫か」ず聞く。「倧䞈倫」なように振る舞い぀づける゚りニセは、スフレを䜜っおあげられない。

家族ず囜家の蚘憶

 埌半フォヌカスをあおられるのは、倱われゆく蚘憶である。たずえば、長女が譲り受けたコヌトは友達の手にわたる。思い出の家も売り出されおしたう。ずきが過ぎお1990幎代、人暩匁護士・掻動家ずなった゚りニセは、囜家に倫の死を認めさせる「悲願」を叶えるが、同時に、写真を芋おも家族ずの蚘憶を思い出せなくなっおいく。思い出を残すはずのビデオテヌプにしたっお、再生機噚がどこかに行っおしたったりするのだ。

晩幎の゚りニセを挔じるのはフェルナンダ・トヌレスの実母であり囜民的女優フェルナンダ・モンテネグロ

 映画の最埌の2010幎代には、囜家委員䌚がルヌベンス殺害の容疑者が特定されたニュヌスが流れるものの、老いた゚りニセは重床の認知症をわずらっおいる。このずきには、家族の誰も、家族の象城であったはずのお母さんのスフレを぀くるこずができなくなっおいる──埌幎の発芋によるず、それは䞀般的なスフレではなくセロリのムヌスだったそうだ。
 息子のマルセロは、母の蚘憶の忘倱をきっかけに原䜜回顧録『Ainda Estou Aqui』を著した。映画版の制䜜にしおも、個人の蚘憶に根づいおいる。玄15幎ぶりに囜内映画制䜜に埩垰するこずずなったりォルタヌ・サレス監督ずは、屈指の金融䞀族の米駐圚倧䜿の息子であり、パむノァ家の子どもたちの幌なじみなのだ。あの邞宅で過ごしたこずもあるずいう。

 制䜜から公開にかけおのタむミングは、監督の蚀葉を借りれば「残念ながら完璧」であった。ずいうのも、近幎のブラゞルでは、1960幎代を思い起こす䞍吉な圱がしのびよっおいるのだ。2019幎から倧統領を぀ずめた元軍人の──故郷の蟲業ず政治をしきっおいたパむノァ䞀族を怚んでいたずも蚀われる──ゞャむヌル・ボル゜ナヌロは、軍事独裁政暩時代を懐かしみながらクヌデタヌを「自由の日」ず呌び、圓時の囜家による犯眪を調査する委員䌚を解䜓した。
 2022幎、このボル゜ナヌロが遞挙で負けるず「盟友」ドナルド・トランプ米倧統領ず同じように結果自䜓を吊定した。こうしお、翌幎、過激支持者による議䌚襲撃事件が発生する。
 ぀たり、ブラゞル瀟䌚は、軍事政暩の恐怖の蚘憶を倱い぀぀あった。議䌚襲撃埌に撮圱をはじめおいった映画クルヌは、政治危機ぞの意識、そしお゚りニセぞの畏敬の念によっおたずたったずいう。サレス監督は語る。「『アむム・スティル・ヒア』のような䜜品は、忘华に抗う手段になりうる──映画は蚘憶を再構築するのです」。パむノァ家流に蚀えば、スフレのレシピを曞き留めないず、その味もい぀か忘れられおしたう。だから、蚘憶を受け継がなければならない。

蚘憶の継承

映画公開埌、芳光名所ずなった゚りニセ・パむノァの墓

 『アむム・スティル・ヒア』の物語は、映画自䜓が終わったあずも぀づいおいった。2024幎にブラゞルで公開されるず、二ヶ月で300䞇人を動員する瀟䌚珟象玚のサプラむズヒットを蚘録。人気ゞャンルでもない政治䌝蚘䜜にも関わらず、コロナ犍以降もっずもヒットした囜内映画ずなったのである。TikTokでは、若者たちが軍事政暩䞋で逮捕された祖父母や䞡芪の蚘憶を語っおいくムヌブメントも圢成された。
 トヌレスに蚀わせれば「右掟も、巊掟も、䞭道も」この映画に心を動かされおいった。過激掟ではない平和なパむノァ家におずずれた突然の恐怖は、圓時発芚した「新倧統領暗殺を含むクヌデタヌ未遂蚈画」の衝撃ず重なるものでもあった。容疑者の䞀人は前ボル゜ナヌロ政暩の囜防倧臣。1985幎の軍事独裁政暩の終焉以来はじめお民間逮捕された四぀星将校ずなった。

第97回アカデミヌ賞囜際長線映画賞の受賞に歓喜するリオの人々

 「忘れられゆく蚘憶の再構築」を目暙ずした『アむム・スティル・ヒア』は、囜家をも動かすこずになる。映画が瀟䌚珟象ずなった2024幎末、囜家評議䌚の評決により、ルヌベンス・パむノァを含めた軍事政暩䞋の死者ず行方䞍明者は「囜家による暎力の被害者」だず぀いに認められたのだ。
 ブラゞルが本䜜のアカデミヌ賞にわいた翌幎の初旬には、新政暩のもず゚りニセ・パむノァの名を冠した「民䞻䞻矩防衛賞」が創立された。たるで、ふたたび軍政の気配がただよう䞭、圌女の声が聞こえおくるかのように──「私はただここにいる」。

゚ンドロヌルで远悌された゚りニセ・パむノァ

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