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Excelが得意な人ほど改善が止まる——アパレルの属人化を解消する順番

どの会社にも一人はいます。シートを自在に扱う人。
複雑な集計を厦わずに作り、聞けばすぐに数字を出してくれる。シーズンの切り替わりで品番が一気に増えても、その人のファイルがあるから回っている。
まずはっきり書いておきますが、この人の存在は会社にとって間違いなく価値です。専任のIT人材がいない中小企業で、現場の人が自分で工夫してここまで回してきたことは、むしろ評価されるべきことだと思います。
ただ、その上で書きたいことがあります。
優秀な人が支えている状態は、会社全体の改善を止めてしまうことがあるということです。そしてそれは、その人のせいではありません。

得意な人がいると、問題が問題に見えなくなる

本来なら、非効率な業務は現場から悲鳴が上がって可視化されます。「この作業はおかしい」「時間がかかりすぎる」と声が出る。
ところが得意な人がいると、その人が吸収してしまう。
本来なら3時間かかる集計が、30分で終わる。導入すれば自動化できるところが、関数とマクロで回ってしまう。結果、システム化の必要性が誰の目にも見えなくなる。
経営側から見れば「回っている」ので、投資の優先順位は下がります。数百万円のシステムを検討する理由が見つからない。
人が優秀だからこそ、問題が見えなくなる。これが一つ目です。

改善の提案ができなくなる

二つ目は、ファイルが触れないものになっていくことです。
長く使われたファイルは、関数が何層にも重なり、シートが横に並び、手動更新の箇所が数か所ある。他の人が開いても、どこを触っていいのか分からない。
すると何が起きるか。
改善のアイディアが出ても、その人以外の全員が提案をしなくなります。触れないものについて意見は言えないからです。「こうしたら楽になるのでは」と思っても、自分で確かめられないので口に出せない。
改善の当事者が、実質的に一人だけになる。しかもその一人は、日々の運用で手一杯です。

実は、本人が一番困っている

ここがこの記事で一番書きたいことです。
属人化は会社のリスクとして語られますが、一番重い負担を背負っているのは本人です。
休めない。月末やシーズンの切り替わりには絶対に席を外せない。
引き継げない。手順を説明しようにも、自分でもなぜこうしたのか覚えていない部分がある。
新しい仕事に移れない。部署を変わる話が出ても、「あの業務はどうするのか」で止まる。
そして、成果が見えにくい。評価されるのは「あの人がいるから大丈夫」という漠然とした安心感だけで、新しいことをやった人のほうが目立ちます。
属人化された業務を抱えている人は、会社のリスクである以上に、本人のキャリアの重しを背負っています。
だからこの問題は、「あの人に依存しすぎている」という批判ではなく、「あの人を自由にする」という目的で取り組むべきだと思っています。

「属人化を解消しよう」では何も変わらない

では、どうするか。
まず、号令では変わらないということを確認しておきたいです。
「属人化を解消する」「マニュアルを作る」「属人化リストを作成する」。この手の施策は、大抵途中で止まります。対象が広すぎて、どこから手を付ければいいのか分からないからです。
しかも、この手の施策は大抵本人にマニュアルを書かせます。一番忙しい人に、一番面倒な仕事を追加することになる。

小さく始める順番

現実的な順番は、3つです。

① 「3日休んだら止まる業務」を1つだけ書き出す

全体を洗い出す必要はありません。一番困るものを1つでいい。
この問い方が良いのは、答えがすぐに出るからです。「属人化している業務を挙げて」と聞くと手が止まりますが、「3日休んだら何が止まりますか」なら即答できる。

② その1つを、他の人が触れる形に直す

やることは地味です。
セル結合をやめて1行1レコードにする。手動更新の箇所を関数に置き換える。シートを分けて、入力・計算・出力を分離する。
魅力的な作業ではありませんが、ここが済むと、他の人が意見を言えるようになります。改善の当事者が一人から増える。
なお、この手の作業は今なら生成AIに相談しながら進められます。「こういう表を、こういう形に直したい」と伝えれば、手順も関数も返ってきます。

③ 本人にやらせない

これが一番重要です。
作業をするのは別の人。本人は「この数字はこういう意味で、ここに例外がある」と説明する側に回る。
理由は2つあります。一つは、本人は既に忙しいこと。もう一つは、他の人が手を動かさない限り、その人にしか分からない状態は終わらないからです。
説明してもらいながら別の人が作る。この進め方が、結果的に一番早いと思います。

おわりに

得意な人を手放しにするのは、その人を大事にしていることにはなりません。
他の人でも回せる状態を作ることが、その人を次の仕事に進ませる唯一の方法です。属人化の解消は、その人から仕事を取り上げることではなく、もっと価値のある仕事に時間を使ってもらうためのものだと思っています。
中小のアパレル企業では、人手を増やすことは簡単ではありません。だからこそ、今いる人が何に時間を使っているかが、会社の伸びしろに直結します。
このアカウントでは、アパレル業界で今日から使えるExcel・スプレッドシートの効率化、生成AIの実務活用、そして失敗しないシステム導入の考え方を書いています。

補足です。

記事で書いた「3日休んだら止まる業務」の洗い出しですが、実際にやろうとすると
「どう書き出せばいいか」で手が止まることが多いです。

そこで、業務の棚卸しに使えるシート(記入例つき)を作っています。
必要そうだと思われた方は、スキかコメントで教えてください。
反応があれば公開します。

Xでも発信しています。よかったら覗いてみてください。
https://x.com/tsumugi_apx

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