暑さ対策シンポジウムで感じた期待とリアル 「ひんやりっと認証」は日傘業界を変えるか?
こんにちは、傘業界30年/アンベル株式会社代表・傘クリエイターのつじのよしひろです。
この記事でわかること
8月21日開催「第三回 暑さ対策シンポジウム」で共有された熱中症・暑さ対策の最新動向
新認証制度「ひんやりっと」の革新性と、メーカー視点から見た検査費用・時間のリアルな課題
行政が掲げる「熱中症予防」と、消費者が求める「日焼け防止・涼しさ」という第一の目的の微妙なズレ
主要日傘ブランドの業界団体非加盟問題と、今後の健全な品質表示へ向けた展望

2026年8月21日(金)、衆議院第一議員会館において開催された一般社団法人日本ヒートアイランド対策協議会主催の「第三回 暑さ対策シンポジウム」に参加してきました。
※片山さつき大臣も登壇するほどの本気のシンポジウムでした。
傘をつくる人間として、そして日々日傘市場の熱気と変化を現場で体感しているクリエイターとして、非常に学びが深く、業界の未来について深く考えさせられる時間となりました。
会場でまず強調されたのは、「地球温暖化」という段階はすでに過ぎ去り、いまや「地球沸騰化」の時代に突入しているという厳しい事実です。
特にコンクリートやアスファルトに囲まれた都市部は、日差しによる照り返しやエアコン室外機からの排熱が重なり、歩行者にとって命の危険を伴うほどの過酷な環境になっています。専門家の講義では、統計的に男性の熱中症死亡率が高いこと(自身の熱への強さに対する過信や、対策を講じる遅れが一因とされています)や、熱中症で人が命を落とす身体的なメカニズムなど、極めて重要な知見が共有されました。
また、環境省や気象庁が運用する暑さ指数(WBGT)においては、33以上で通常の熱中症警戒アラートが発令されます。さらに、それを超える過去に例のない危険な暑さに備えて「特別警戒アラート(WBGT 35以上)」の制度も新たに制定されました。
幸いにも現時点では、この特別警戒アラートの発令実績はありません。しかし、こうした厳格なアラートが用意されること自体、事態がいかに深刻であるかを物語っています。国や協議会が熱中症による死亡事故を防ぐために真剣に取り組む姿勢には、モノづくりに携わる者として全面的に賛同いたします。
しかし、現場で傘を開発・製造しているクリエイターの立場から見ると、行政のメッセージと市場の現場には、ある一つの「意識のギャップ」が存在していると感じます。
「熱中症予防」と「日焼け防止」——消費者ニーズの微妙な食い違い
行政や協議会が前面に掲げるテーマは、命を守るための「熱中症予防」です。
では一方で、実際に店頭やECサイトで日傘を購入している一般消費者の本音はどうでしょうか。
多くの方が日傘に求めている第一の目的(ニーズ)は、「絶対に日焼けをしたくない(UVカット)」や「直射日光を遮って、とにかく涼しく歩きたい」という点にあります。最初から「熱中症で倒れないようにするために日傘を買おう」という危機意識を持って購入している方は、実状としてまだ少数派と言わざるを得ません。

「熱中症対策」を訴求する行政側と、「美肌・快適さ」を求める消費者側。両者の目的には微妙な食い違いがあります。
しかし、この殺人的な酷暑が今後も当面続くことは間違いありません。入口の動機が「日焼け防止」であれ「涼しさ」であれ、結果として消費者に日傘の使用を促し、日差しから身を守ってもらうこと自体は、極めて重要で必要なプロセスです。
問題は、その日傘の「品質」や「機能」をどのように正しく評価し、ユーザーに届けるかという点です。
製品状態でのWBGT検査「ひんやりっと認証」の画期性と、現場の現実
今回のシンポジウムで特に注目を集めたのが、暑さ対策商品の登録・認証制度「ひんやりっと」の取組状況と今後の展望でした。
傘のプロとしての観点から見て、この制度の非常に素晴らしい点は「生地単位の遮熱率」ではなく「完成品としての遮熱効果率」をWBGT指数ベースで試験するという画期的な手法を採用している点です。

従来の一般的な遮熱試験は、平らに伸ばした生地の一部を切り取り、そこに光や熱を照射して測定するものが主流でした。しかし、実際の傘は開いたときに曲面を描き、傘の下に空間が生まれます。影の広がりや内部に熱がこもるかどうかは、生地単体のデータだけでは決して測れません。
製品として組み上がった状態かつWBGT(暑さ指数)に基づいた空間試験を行うことは、ユーザーの実際の使用イメージに限りなく近く、真の涼しさを測る上で非常に信頼性の高い試みであると評価できます。
しかし、製品を作り出すメーカー視点に立つと、大きな運用上の壁が見えてきます。
もしこの「ひんやりっと認証」を、生地の色ごと(ブラック、ホワイト、ベージュ、ネイビーなど)に個別に試験・取得しなければならない仕組みだとすると、メーカー側には膨大な「検査費用」と「検査にかかる時間」が発生します。
特に、ファッション性や季節感に合わせて多色展開しているブランドや、小規模ながらこだわりを持ってモノづくりを行っているメーカーほど、全色の認証を取得・維持するのは財務的にも開発スケジュール的にも大きな負担となります。検査の厳格さを保ちつつ、メーカーが現実的に参入しやすい運用コストとスピード感をいかに実現できるかが、普及の決定的な鍵になるでしょう。
主要プレイヤー不在?日傘業界が直面する構造的課題
もう一つ、本日のシンポジウムに参加しながら強く感じたのは、「誰がこの正しく科学的な基準を世の中に浸透させていくのか」という業界全体の構造的課題です。
現在、AIなどで「日傘の主要プレイヤー(知名度やシェアが高い企業・ブランド)」を検索すると、以下のような名が挙がります。
株式会社ワールドパーティー(Wpc.など)
株式会社サンバリア100
ムーンバット株式会社
株式会社ウォーターフロント
株式会社Rose Blanc(芦屋ロサブラン)
(次点:モンベル、untuletなど)
しかし業界の実状として、老舗の洋傘メーカーであるムーンバット株式会社などを除く多くの主要プレイヤーは、こうしたヒートアイランド対策協議会や日本洋傘振興協議会といった業界団体に所属していません。

どれほど素晴らしい認証制度や確かな検査方法が確立されたとしても、実際に市場の大部分を占めているトッププレイヤーたちがこの枠組みに参加・活用しなければ、一般消費者へその価値が届くことはありません。
昨今は日傘ブームに伴い、傘の専業ではない異業種からの新規参入も相次いでいます。その結果、市場には科学的根拠の乏しい表示や、行き過ぎた過熱広告が溢れているケースも散見されます。
だからこそ、単に生地の「遮光100%」「遮熱効果」といった数値スペックだけをアピールするのではなく、製品全体として真に使う人の安全と快適さを守る「正しく確かな品質表示」が業界全体に広がることを願ってやみません。
協議会側と主要なメーカー双方が歩み寄り、業界全体で信頼できる品質の輪を作っていけるか。私自身も傘クリエイターとして、妥協のないモノづくりを追求しながら、この取り組みの今後の動向を注視していきたいと思います。
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執筆者プロフィール:つじの よしひろ 傘業界に携わり30年。アンベル株式会社 代表取締役/傘クリエイター。 「世界最軽量級の折りたたみ傘」をはじめ、機能性と耐久性を追求したオリジナル傘の企画・開発を手掛ける。使い捨て傘を減らし、愛着を持って長く使える傘文化の定着を目指して発信中。
