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緑陰の中に紡ぐ祈り

苔の香に 人知れず咲く 白糸は 心穏やかな日々を祈り 紡ぐ銀髪も

こけのかに
ひとしれずさく
しらいとは
こころおだやかなひびをいのり
つむぐかなしも

五月の光が木々の葉に遮られ、苔庭にはしっとりとした緑の影が落ちている。その静けさの底で、今年も白糸草がひっそりと、しかしどこか毅然とした白を灯し始めた。

名の通り、幾筋もの白い糸を束ねたような姿だ。咲き始めの花穂は、まだ幼い蕾の塊にすぎない。けれど、そこからが長い。四十センチ、五十センチと、ひと月半もの時間をかけて、ためらいがちに、しかし確かに天へ向かって伸びていく。そのひたむきな歩みを見ていると、遠い場所から訪れた乙女が、誰にも気づかれぬよう静かに糸を紡いでいる光景がふと重なってくる。

乙女は言葉を持たない。ただ、馬酔木や紅葉の枝葉に守られた柔らかな影の中で、一心に「祈り」を織り続けている。

彼女が紡いでいるのは、争いの棘をそっとほどくような、透明で清らかな平和の糸だ。指先で触れれば解けてしまいそうな花びらの一片一片には、明日も、その先も、大切な人たちの心穏やかな日々が続いてほしいという、かすかな願いが宿っている。

白糸草は、強い日差しを好まない。誰かに見せるためではなく、ただ与えられた場所で静かに咲くことを選んでいる。他所へ移すと、いつの間にか姿を消してしまうという繊細さも、この庭の「森のような静けさ」を愛している証なのだろう。こぼれ種が土に還り、また新しい命が輪を広げていく。その巡りは、絶えることのない祈りの連鎖のようにも思えてくる。

風が通ると、白い糸の列がさらさらと揺れる。 その揺らぎは、乙女が紡ぎ終えた祈りの糸が、世界の隅々まで届くようにと解き放たれる瞬間の、かすかな光の波なのかもしれない。

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