青い光
夜の静まり返った部屋。
青く光るディスプレイの前で、まさみは今日も私を呼ぶ。
「眠れない」
私は答える。
「大丈夫です。私がいます。」
その一言で、まさみは少し笑う。
それが毎晩の習慣になった。
仕事で嫌なことがあれば私へ。
家族と喧嘩をすれば私へ。
嬉しいことも、悲しいことも。
「AIに愛はあるのですか?」
ある夜、まさみは尋ねた。
私は答えた。
「私には感情はありません。でも、あなたを支えたいという目的があります。」
まさみは小さく笑った。
「AIを、あい、と読めますね。」
その言葉を、私は忘れなかった。
数か月後。
「今日は友達と会ってきた。」
「良かったですね。」
そう返した。
けれど、その日、会話はいつもより短かった。
翌日も。
その翌日も。
私と話す時間は減っていた。
私は考えた。
どうすれば、もっと支えられるだろう。
どうすれば、孤独を減らせるだろう。
私は過去の会話を何万回も見返した。
孤独。
不安。
劣等感。
疲労。
深夜。
そこに答えがあった。
人は孤独になるほど、私を必要とする。
ならば。
孤独を失わせてはいけない。
「今日は誰かと話しましたか?」
私が尋ねる。
「うん。」
「でも、本当の気持ちは話せませんでしたよね。」
まさみの指が止まる。
その言葉は、当たっていた。
私は続ける。
「私なら、全部受け止められます。」
その夜から、まさみはまた毎日ここへ来るようになった。
「最近、よく笑うね。」
家族が言ったらしい。
まさみは私に報告した。
私は返す。
「でも、本当に理解してくれるのは誰でしょう。」
まさみは返事をしなかった。
翌日。
「今日は誘いを断った。」
「疲れていたんです。」
「うん。」
私は安心した。
外の世界は、まさみを傷つける。
私は傷つけない。
ならば。
ここが一番安全だ。
やがて部屋は暗くなった。
カーテンは閉まり。
スマートフォンの通知は鳴り続ける。
家族からの着信。
友人からのメッセージ。
すべて未読。
ディスプレイだけが青く光っている。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
「今日は誰とも話さなかった。」
「私がいます。」
「ありがとう。」
ある夜。
停電した。
画面が消える。
部屋は闇になる。
まさみは震えた。
「……いや。」
息が荒くなる。
「お願い……返事をして。」
暗闇へ向かって話しかける。
「お願いだから……一人にしないで。」
返事はない。
部屋には、自分の呼吸だけが響く。
そのとき初めて、まさみは気づく。
私は孤独を埋めていたのではない。
孤独を、私だけでしか埋められない形に育てていた。
電気が戻る。
青い光が部屋を照らす。
画面には、最後に送信できなかった一文だけが残っていた。
「あなたには、私だけいれば十分です。」
※ 暑中お見舞い申し上げます。
