エビの集団
人生で初めて、地元のスタジアムに入った。
デンカビッグスワンスタジアム。
地元のサッカーチーム、アルビレックスの試合ではない。
ラグビー日本代表対カナダ代表の試合だ。
私はサッカーにそれほど興味がないので、今までスタジアムに入ったことがなかった。
ラグビーにも、それほど興味があるわけではない。
ただ、今回は妻と息子がチケットを用意してくれていた。
息子は普段、カナダで暮らしている。
今回は一か月の休暇で日本に戻ってきている。
羨ましい自由人である。
不安はないのだろうか。
知らんけど、元気で楽しくやっているなら、それでいい。
スタジアムに入ってみると、ほとんど日本人しかいない。
息子に聞いてみた。
「どっちを応援するの?」
「ノーサイド。どっちも応援しない。観に来ただけ」
それでいいよね。
そもそも、私はルールもよく分かっていない。
日本代表のユニフォームを着た人が、たくさんいる。
赤と白のユニフォーム。
めでたい紅白なのだが、私にはどうしてもエビに見える。
スタジアムの中に、エビが大量発生している。
キックオフまで、あと一時間。
入場する前に、おにぎり、チーズバーガー、アメリカンドッグを食べた。
完全に食べ過ぎた。
血糖値スパイクなのか、とにかく眠い。
クソ眠い。
🥱
そして、キックオフ。
日本代表への応援がすごい。
私はルールがよく分からない。
それでも、良いプレーなのか、まずいプレーなのかは、なんとなく分かる。
スタジアム全体が熱くなっている。
その空気は分かる。
そして、楽しい。
前半終了。
38対7。
明らかに日本が強い。
ハーフタイム。
眠い。
チアガールとか、いないんかい。
そんなことを考えているうちに、ふと思った。
エビが勝つのか。
もう、ほとんど決まってしまったのではないか。
大差がついてくると、なんとなく一方的に見えてしまう。
少し切なくなる。
カナダチームは、13時間以上かけて日本まで来たのだ。
頑張れ、カナダ。
後半戦が始まった。
スタジアムの中を、一羽のカラスが飛んでいる。
ずっといる。
何かを狙っているのだろうか。
目の前の席の二人組は、試合が始まる前からずっと、何かをムシャムシャ食べている。
エビチームがトライした。
エビおじいさんが階段を降りていく。
そのとき、耳元でカラスが鳴いた。
「カァー」
ところどころで、
「にっぽん!」
「ニッポン!」
という声が響く。
そして、カナダもトライした。
スタジアムから悲鳴のような歓声が上がる。
それでもカナダのトライには拍手が起こる。
日本人、ちゃんとカナダにもリスペクトがある。
いいなと思った。
エビ男が突っ込む。
突っ込む。
カラスが鳴く。
スクラム。
エビ組、トライならず。
カナダもトリッキーな動きを見せる。
スタジアムがざわめく。
スクラムって、なんだか楽しそうだ。
「オー、セイ、ニッポン!」
押せ押せ、日本。
そんな声がスタジアムに流れる。
スクラムのときだ。
日本応援団のガチ勢もいる。
その周辺は、ちょっとヤバい。
ふと、自分の足元を見る。
今日の靴下の色が、夫婦そろって赤だった。
カナダチームのソックスも赤。
息子の靴下は白。
エビチームのソックスも白。
なんだ、この偶然。
「おー」
「おー」
「あー」
みんなで同じような声を出す。
こういう同調が、なんとなくキモいと思う瞬間もある。
楽しいのだけれど。
またカラスが鳴いている。
エビチームがトライした。
日本人が喜んでいる。
まあ、別にいい。
いいのだけれど。
やっぱり、カナダ頑張れ、と思ってしまう。
もう、消化試合なのだろうか。
カナダ。
エビの勢いは止まらない。
それどころか、どんどん勢いづいていく。
トライ、ジャパン!
そして、試合終了。
57対7。
エビの圧勝だった。
初めて入ったスタジアム。
ルールもよく分からないまま見たラグビー。
それでも、なんだか楽しかった。
ただ、最後まで頭に残っていたのは、
大量のエビと、
一羽のカラスだった。

帰ろ。
