政治が決める。経済が動く。
四人がテーブルを囲んでいた。
「今日の円相場、153円台前半です」
「……」
「円高ですね」
「そうなんですか?」
「少し前まで、160円近くまで円安が進んでいましたから」
「じゃあ、海外旅行は安くなる?」
「円高になれば、海外で使うお金は少し有利になります」
「じゃあ、全部安くなるんですね」
「全部ではありません」
「どうしてですか?」
「経済だからです」
「便利な言葉ですね」
「円が高くなっても、原油は高いままです」
「原油?」
「ブレント原油が、一時100ドルを超えました」
「円は高いのに、原油は高いんですか?」
「そうです」
「じゃあ、ガソリンは?」
「原油価格だけで決まるわけではありませんが、影響は受けます」
「円高なのに、ガソリンが安くならないこともある」
「そういうことです」
「……」
「なんだか、話がややこしくなってきましたね」
「最初から経済の話ですから」
「では、政治は何をしているんですか?」
「政治は、何かを決めます」
「例えば?」
「税金をどうするか。給付をするか。補助金を出すか」
「食料品の消費税を下げる話もありますね」
「はい」
「それなら、食料品が安くなる」
「理屈では、そうなります」
「また、理屈ですか?」
「ただし、財源が必要です」
「財源?」
「国のお金です」
「国のお金が足りなければ?」
「別の税金を考えるか、国債を発行するか、支出を減らすか」
「安くする話なのに、最後はお金の話になる」
「政治ですから」
「経済じゃないんですか?」
「政治も経済も、だいたいお金の話です」
「……」
「日銀も、9月17日と18日に会合を開きます」
「利上げですか?」
「市場では、0.25%の利上げが予想されています」
「金利が上がると、どうなるんですか?」
「借りている人には負担が増えるかもしれません」
「預金には?」
「金利が上がれば、少し有利になる可能性があります」
「じゃあ、銀行にお金を置いている人は喜ぶ」
「借金をしている人は困る」
「同じ利上げなのに、立場によって違うんですね」
「経済ですから」
「その言葉、何でも説明できますね」
「説明できていない気もします」
「……」
「つまり、政治が何かを決める」
「経済が、その影響を受ける」
「でも、経済は政治の思い通りには動かない」
「円高になっても、原油が高いことがある」
「税金を下げても、財源の問題が出てくる」
「金利を上げても、喜ぶ人と困る人がいる」
「……」
「今日の話、難しいですね」
「数字が多いですから」
「153円」
「100ドル」
「0.25%」
「……」
「もう帰っていいですか?」
「まだ終わってません」
「でも、今日の話は分かりました」
「何がですか?」
「円高でも、全部安くなるわけじゃない」
「そうですね」
「政治が決めても、経済は動く」
「そうですね」
「じゃあ、帰りましょう」
「何でですか?」
「経済ですから」
四人は、しばらく黙っていた。
「……」
「帰らないんですか?」
「……」
「……」
「じゃあ、明日もお願いします」
「何をですか?」
「経済です」
「……」
「もう帰りましょう」
四人は、ようやく席を立った。
