イギリスに明るい未来はあるのか:ゆっくり衰退する大英帝国はもう一度立て直せるか Make Britain Great Again?



イギリスを見ていると、「国は一夜にして崩壊するわけではない」ということがよく分かる。

電気も水道も動いている。

選挙も行われる。

世界的な大学も金融街も残っている。

ロンドンには世界中から人と資本が集まる。

音楽、映画、ドラマ、文学、スポーツ、ファッションなど、文化的な影響力も大きい。

しかし、普通に暮らす人々の生活は少しずつ苦しくなっている。

実質賃金は伸びにくい。

住宅は高く、家賃も上がる。

病院の待機リストは長い。

家庭医の予約を取るのも簡単ではない。

地方自治体は財政難に陥り、道路、学校、福祉、公共交通の維持に苦しむ。

鉄道、水道、エネルギーなどのインフラにも老朽化と高コストの問題がある。

EU離脱によって主権を取り戻したはずなのに、企業は新しい貿易手続きと人材不足に直面した。

移民を減らすという政治的約束とは反対に、EU域外からの移民は増えた。

税負担は重くなったのに、公共サービスが良くなったという実感は乏しい。

イギリスは、貧しい国ではない。

戦争で国土を破壊されたわけでもない。

資源、大学、企業、人材が消えたわけでもない。

それでも国全体が、少しずつ機能を失っているように見える。

イギリスの未来は、本当に衰退しかないのだろうか。

イギリスも低出生率と高齢化から逃れられない

イギリスの合計特殊出生率は、近年1.5前後まで低下している。

人口維持に必要な2.1を大幅に下回る。

ロンドンなど一部の都市では、さらに低い水準になっている。

住宅費が高い。

保育費が高い。

若者の雇用が不安定である。

大学卒業後に学生ローンを抱える。

子どもを持つには、より広い住宅が必要になる。

祖父母が遠方に住んでいれば、育児支援を受けにくい。

こうした事情は、日本、韓国、カナダなどと共通している。

イギリスの人口が増えてきたのは、出生数が多いからではない。

移民を受け入れてきたからである。

移民がいなければ、働く世代はより速く減少し、NHS、介護、建設、農業、物流、大学などは人材不足に陥る。

イギリスの政治では「移民を減らす」と繰り返し語られる。

しかしイギリス経済は、すでに移民なしでは維持できない。

EU離脱は何を解決したのか

2016年の国民投票で、イギリスはEUからの離脱を選んだ。

背景には、

EUの規制から自由になりたい。

国境管理を取り戻したい。

EUへの財政負担を国内へ回したい。

移民を抑えたい。

自国で貿易政策を決めたい。

という不満と期待があった。

しかし実際にEUを離脱すると、イギリス企業は新しい書類、検査、通関、規格への対応を求められた。

EUはイギリスにとって最大級の市場である。

海を渡ればすぐに巨大市場があるのに、その市場へのアクセスを自ら複雑にした。

大企業は手続きの費用を吸収できる。

しかし小さな食品会社、農家、漁業者、輸出企業にとって、新しい事務負担は重い。

EU離脱によって、イギリスが直ちに崩壊したわけではない。

一方、離脱によって約束されたほどの大きな経済的利益も見えにくい。

イギリスは主権を取り戻した。

しかし主権を持つこととそれを使って良い政策を実行することは別である。

移民を減らすはずが、別の移民が増えた

EU離脱後、EU市民が自由にイギリスで働く仕組みは終わった。

その結果、農業、飲食、物流、建設、医療、介護などで人手不足が生じた。

政府はポイント制の移民制度を導入し、EU域外からの労働者、留学生、医療・介護人材を受け入れた。

つまり移民が消えたのではない。

移民の出身国と資格が変わった。

政治的には移民削減を掲げながら、経済と公共サービスを維持するため移民を受け入れる。

この矛盾が、政府への不信を強めた。

住民は、

移民を減らすと言ったのに増えている。

住宅、学校、病院が混雑している。

賃金が上がらない。

と感じる。

一方、移民側は、

必要な労働力として呼ばれたのに、社会問題の原因として非難される。

在留資格が雇用主に依存する。

高い家賃と生活費を負担する。

と感じる。

本当の問題は、移民そのものではない。

人口と労働需要に合わせて、住宅、医療、教育を増やせなかった国家の供給能力である。

NHSはイギリスの誇りであり、最大の不安でもある

NHSは、イギリス社会を象徴する制度である。

原則として、必要な医療を支払い能力にかかわらず受けられる。

米国のように、病気になったことで巨額の請求を受ける不安は小さい。

国民にとってNHSは、単なる医療制度ではない。

社会全体で人の生命を支えるという国家の約束である。

しかし、その約束が揺らいでいる。

専門医の診察を待つ。

手術を待つ。

救急外来で長時間待つ。

救急車が来るまで待つ。

退院後の介護先が決まらず、病床が空かない。

家庭医へ連絡しても、すぐには診てもらえない。

医師、看護師、救急隊員が疲弊し、ストライキを行う。

医療が無料であることと、必要な時に提供されることは同じではない。

イギリスでは、自己負担より供給不足が問題になっている。

病院だけ増やしても解決しない

NHSの危機は、病院予算だけの問題ではない。

高齢者が退院できない。

自宅で生活できない。

介護施設や訪問介護が足りない。

家族だけでは支えられない。

その結果、本来は急性期治療を終えた人が病院に残る。

病床が空かないため、救急外来から入院できない。

救急車が患者を病院へ引き渡せない。

救急車が現場へ戻れない。

医療と介護の分断が、システム全体を詰まらせる。

イギリスの社会的ケアは、NHSとは異なり、自治体による資力調査や自己負担が関わる。

医療は原則無料でも、生活を支える介護は同じようには保障されない。

この境界が、高齢化によって限界を迎えている。

必要なのは病院だけではない。

住宅、介護、リハビリ、食事、移動、見守りを地域で一体的に提供する仕組みである。

医療人材を海外から奪い続けるモデル

NHSと介護は、海外出身の医師、看護師、介護職に大きく依存している。

インド、フィリピン、ナイジェリア、パキスタンなど、多くの国から医療人材が来ている。

移民人材がいなければ、NHSはさらに深刻な人手不足に陥る。

しかし、所得の低い国が育てた医師や看護師を、高所得国イギリスが吸収することには倫理的な問題もある。

送り出し国でも医療人材が不足しているからである。

さらに移民介護職を厳しい労働条件と低賃金で雇い、在留資格を雇用主に依存させれば、搾取が起きやすい。

イギリスが必要な人材を国内で育成せず、海外から補充するだけでは持続可能ではない。

医学部、看護、介護の教育枠を増やす。

離職を減らす。

事務負担を減らす。

長期間働き続けられる待遇を整える。

移民人材にも家族生活と定住への道を保障する。

これらを同時に進める必要がある。

住宅を建てられない国

イギリスの住宅問題は深刻である。

ロンドンと南東部では住宅価格と家賃が非常に高い。

一方、地方には経済的に停滞した地域や、質の低い住宅もある。

住宅需要がある場所で、十分な住宅を建設できない。

計画許可。

近隣住民の反対。

グリーンベルト。

インフラ不足。

建設人材不足。

自治体の能力低下。

さまざまな要因が住宅供給を妨げる。

既存の住宅所有者は、資産価値の低下や地域環境の変化を恐れて、開発に反対する。

しかし住宅を建てなければ、若者も移民も医療従事者も住めない。

住宅不足のまま人口だけを増やせば、家賃が上がる。

移民を減らしても、出生率低下と人手不足が進む。

イギリスの未来は、住宅を必要な場所へ建てられるかに大きく左右される。

ロンドンとそれ以外の国

イギリス経済は、ロンドンへ集中している。

金融。

法律。

コンサルティング。

IT。

文化。

政府。

世界的な大学。

高賃金の仕事がロンドンと南東部へ集まる。

一方、かつて製造業や鉱業で栄えた地域では、安定した雇用が減り、公共サービスも弱くなった。

ロンドンの数字が良ければ、国全体のGDPは高く見える。

しかし地方住民は成長を実感できない。

EU離脱への支持が強かった地域には、

ロンドンのエリート。

大学卒業者。

金融業。

政治家。

によって自分たちが忘れられているという感覚があった。

政府は地方活性化を掲げてきた。

しかしスローガンだけで、企業、大学、交通、医療、文化を地方へ移すことはできない。

長期的で安定した投資が必要である。

地方自治体の財政危機

イギリスでは、地方自治体の財政難も深刻化している。

子どもの保護。

高齢者介護。

障害者支援。

住宅。

ごみ収集。

道路。

図書館。

公園。

地方自治体は、生活に直結する多くのサービスを担う。

しかし中央政府からの財源が厳しくなり、社会的ケアの需要は増えている。

法的に提供しなければならない福祉サービスへ予算を集中すると、図書館、文化、公園、道路補修などが削られる。

破産に近い状態となり、特別な措置を取る自治体も出ている。

地域の共同体を支える施設が消えれば、孤独、健康悪化、若者の流出が進む。

その結果、医療や福祉への需要がさらに増える。

短期的な財政削減が、長期的な社会的費用を増やす。

水道も鉄道もなぜこんなに高くて不安定なのか

イギリスでは、民営化されたインフラのあり方にも批判がある。

水道会社が配当を支払いながら、老朽管への投資が不足し、漏水や下水放流が問題になる。

鉄道は、運行会社、車両会社、線路管理などが複雑に分かれ、運賃が高いのに遅延や運休が起きる。

民営化すれば、競争によって効率が上がると期待された。

しかし自然独占に近いインフラでは利用者が別の水道会社や線路を選べない。

規制が弱ければ、企業は長期投資より配当や短期利益を優先する。

規制を複雑にすれば、責任の所在が分からなくなる。

イギリスの問題は、すべてを国有化すれば解決するという単純なものでもない。

重要なのは、誰が長期投資の責任を持ち、失敗した時に誰が損失を負担するかを明確にすることである。

税金は高いのに、サービスは悪いという不満

高齢化、医療、年金、債務利払いの負担によって、イギリスの財政には余裕がない。

税負担は歴史的に見ても高い水準にある。

しかし国民は、税金に見合う公共サービスを受けていると感じにくい。

医療を待つ。

道路に穴がある。

列車が遅れる。

学校施設が老朽化する。

警察へ連絡しても対応が遅い。

地方自治体のサービスが削られる。

政府が増税すれば、家計と企業が苦しくなる。

減税すれば、NHSや地方自治体の財源が減る。

借金で賄えば、利払い費が増える。

低成長の国では、どの選択も痛みを伴う。

最終的には、税率の議論だけではなく、同じ人数と予算でより良いサービスを提供する生産性改革が必要になる。

生産性が伸びない長い停滞

世界金融危機以降、イギリスの生産性と実質賃金の伸びは弱い。

働いても、以前の世代ほど生活が豊かにならない。

住宅費、エネルギー費、食費が上がれば、名目賃金が増えても生活の余裕は生まれない。

なぜ生産性が伸びないのか。

企業の設備投資が弱い。

政策が頻繁に変わる。

職業教育が十分でない。

地域間の交通が悪い。

住宅費が高く、人材が生産性の高い地域へ移動できない。

EU離脱によって貿易と投資に摩擦が生じた。

中小企業がデジタル技術を十分に導入できない。

複数の要因が重なっている。

イギリスはサービス業の国であり、工場を増やすだけでは解決しない。

医療、介護、教育、行政、物流、建設など、国内サービスの生産性を高める必要がある。

大学は世界最高峰だが、経営は不安定

イギリスには、世界的な大学が多数ある。

オックスフォード。

ケンブリッジ。

ロンドンの有力大学。

地方にも研究力を持つ大学がある。

英語で教育と研究を行い、世界中から学生と研究者を集められる。

これは米国に次ぐ大きな強みである。

しかし大学の財政は不安定になっている。

国内学生の授業料が実質的に目減りする一方、大学は高い授業料を払う留学生へ依存してきた。

移民政策によって留学生や家族帯同が制限されれば大学の収入が急減する。

地方大学が縮小・破綻すれば、その影響は教育だけにとどまらない。

大学は地域の雇用主であり、病院、企業、文化、住宅市場を支える中核機関でもある。

イギリスが移民を減らすために留学生を抑制すれば、大学と研究という長期的な国力を失う可能性がある。

研究を事業へ変えられない問題

イギリスの大学からは、優れた科学研究が生まれる。

生命科学。

医薬品。

AI。

量子技術。

材料科学。

宇宙。

しかし研究成果を国内で巨大企業へ育てることは、米国ほど得意ではない。

有望な企業が米国企業に買収される。

成長資金を求めて本社を米国へ移す。

研究者はイギリスにいても、利益と知的財産の支配は国外へ移る。

イギリスには研究がある。

金融もある。

しかし研究資金と成長企業を結びつける仕組みが弱い。

年金資金、金融街、大学、NHSのデータを適切に組み合わせれば、バイオ、医療、AIで大きな産業を育てられる可能性がある。

金融街が不動産と既存企業だけでなく、国内の新産業へ長期資金を供給できるかが重要である。

ロンドン金融街はまだ強い

EU離脱後、ロンドンの金融機能がすべてEUへ移るという予測もあった。

実際には、一部の機能と雇用はパリ、フランクフルト、ダブリンなどへ移ったが、ロンドンの金融街は依然として強い。

英語。

法制度。

人材。

投資家。

会計、法律、保険、コンサルティングの集積。

タイムゾーン。

国際的な生活環境。

これらを同時に持つ都市は少ない。

ロンドンは、欧州、米国、アジアの市場を結ぶ位置にある。

しかし金融街の成功が、地方の生活改善へ自動的につながるわけではない。

金融業で得た税収と人材を、住宅、交通、研究、地方産業へ投資できるか。

ロンドンだけが世界都市として繁栄し、その他の地域が停滞する状態を変えられるか。

そこが問題である。

英語は巨大な国家資産である

イギリスの最も過小評価されている資産は、英語である。

英語は、国際ビジネス、科学、航空、外交、インターネット、エンターテインメントの共通語である。

世界中の学生が、英語を学ぶためイギリスを訪れる。

海外企業は、欧州や世界市場の拠点として英語圏を選ぶ。

イギリスの大学、映画、音楽、出版、ニュース、スポーツは、翻訳なしで世界へ届く。

日本、韓国、中国、フランスなどが多額の費用をかけて英語人材を育成しているのに、イギリスは国民の多くが最初から英語を使える。

これは非常に大きな優位である。

イギリスが閉鎖的にならず、世界中の人材を受け入れ続ければ、英語を中心とした知識と文化の拠点であり続けられる。

文化産業は製造業と同じくらい重要である

イギリスには、音楽、映画、テレビドラマ、文学、演劇、ゲーム、デザイン、ファッション、広告、スポーツなど、強力な文化産業がある。

プレミアリーグは、世界中の視聴者と資金を集める。

イギリスのドラマ、音楽、俳優、作家は国際市場で通用する。

王室、歴史的建築、博物館、地方の景観も観光資源になる。

文化は単なるぜいたくではない。

観光、教育、広告、デジタル配信、商品、都市ブランドを通じて外貨を稼ぐ産業である。

AI時代には、既存の作品、言語、物語、デザインの価値がさらに高まる可能性がある。

ただし芸術教育、地域文化施設、公共放送などを削り続ければ、将来の文化産業を育てる土壌が失われる。

洋上風力という大きな可能性

イギリスは、北海を中心に洋上風力発電を拡大してきた。

風が強く、海岸線が長いという地理的条件を持つ。

再生可能エネルギーを増やせば、化石燃料輸入への依存を減らし、電力価格を安定させる可能性がある。

洋上風力には、

タービン。

基礎構造。

海底ケーブル。

港湾。

保守船。

デジタル監視。

蓄電池。

水素。

など、多くの関連産業がある。

しかし発電所を建てるだけでは、国内産業にはならない。

タービンや主要部品を輸入し、利益が国外へ流れれば、国内に残る価値は限られる。

港湾と製造業へ投資し、旧工業地域を再エネ産業の拠点にできれば、地方再生にもつながる。

原子力と電力網をどうするか

イギリスでは老朽化した原子力発電所の閉鎖が進み、新しい原子力発電所の建設には時間と費用がかかっている。

洋上風力と太陽光は重要だが、天候によって発電量が変わる。

安定した電力を確保するには、

原子力。

蓄電池。

送電網。

需要調整。

欧州との電力連系。

ガス火力。

を組み合わせなければならない。

AIのデータセンター、電気自動車、ヒートポンプ、産業電化が進めば、電力需要は増える。

安く安定した電力を供給できなければ、製造業もデジタル産業も育たない。

エネルギー政策を政権ごとに変更せず、数十年単位で進める必要がある。

イギリスは4つの国でできている

イギリスは、イングランドだけの国ではない。

スコットランド。

ウェールズ。

北アイルランド。

それぞれに歴史、政治、制度、アイデンティティがある。

スコットランドでは独立を求める議論が続く。

北アイルランドでは、EU離脱後もアイルランド島の国境をめぐる特別な制度が必要になった。

ウェールズにも、経済格差と言語文化の問題がある。

イングランド内部にも、ロンドンと北部、都市と農村の対立がある。

経済が成長し、公共サービスが改善している間は、国家の違いを調整しやすい。

低成長で分配できる利益が減れば、地域間の不満が強まる。

イギリスの将来は、経済だけでなく、4つの国が同じ国家に残ることへ納得できるかにも左右される。

欧州へ戻ることはあるのか

近い将来、イギリスがEUへ正式に再加盟する可能性は高くないだろう。

再加盟には、国内政治だけでなく、EU側との交渉も必要になる。

以前と同じ特別条件が認められるとは限らない。

しかし正式加盟しなくても、EUとの関係を改善する余地は大きい。

食品や製品の規格を近づける。

研究協力を進める。

若者と学生の交流を増やす。

防衛と安全保障で協力する。

専門資格を認めやすくする。

国境手続きを簡素化する。

主権を守りながら、実務上の摩擦を減らすことはできる。

EU離脱を永遠の文化戦争にするのではなく、費用と利益を現実的に調整する段階へ移る必要がある。

ウクライナ戦争と欧州安全保障

イギリスは、欧州の中でも強い軍事力と核兵器を持ち、情報機関、外交ネットワーク、国連安全保障理事会の常任理事国という地位を持つ。

ウクライナ支援でも積極的な役割を果たしてきた。

米国が欧州防衛への関与を弱めれば、イギリスの役割はさらに大きくなる。

しかし国防費を増やせば、医療、教育、住宅、地方財政との競争になる。

財政に余裕がない中で福祉国家と軍事力を同時に維持しなければならない。

防衛産業、航空宇宙、サイバー、原子力などを国内産業と結びつけられれば、雇用と技術開発にもつながる。

ただし国際的な地位を守るために、国内生活を犠牲にし続ければ、国民の支持は失われる。

イギリスは本当に衰退国なのか

イギリスは、かつてのような世界帝国へ戻ることはない。

製造業の多くは縮小し、世界経済に占める割合も下がった。

EU離脱によって、欧州市場との関係も複雑になった。

インフラと公共サービスには明らかな劣化がある。

この意味では、相対的な衰退は現実である。

しかし衰退と崩壊は違う。

イギリスには、

世界的な大学。

金融。

生命科学。

AI。

航空宇宙。

防衛産業。

洋上風力。

英語。

文化産業。

法制度。

外交ネットワーク。

がある。

世界中から人が学び、働き、投資したいと考える国でもある。

問題は、国力がなくなったことではない。

持っている国力を、普通の住民の住宅、賃金、医療、交通へ変換できなくなったことである。

今後10年の最もありそうな未来

最も可能性が高いのは、急激な崩壊でも華麗な復活でもない。

低い経済成長が続く。

人口は移民によって維持される。

NHSの待機問題は改善と悪化を繰り返す。

税負担は高いままになる。

住宅供給は少しずつ増えるが、ロンドンなどの価格は高い。

EUとは部分的に関係を修復する。

金融、大学、AI、生命科学、文化産業は国際競争力を保つ。

洋上風力と原子力への投資が進む。

一方、地方自治体と社会的ケアの苦しさは続く。

つまり、管理された停滞である。

国は動く。

しかし生活が目に見えて良くなるほどではない。

この状態が長く続けば、既存政党への不信が強まり、移民排斥や急進的な政治勢力が伸びる可能性がある。

悪い未来

悪い未来では、政府が住宅とインフラを建設できないまま、移民だけを政治問題にする。

NHSの人手不足を海外人材で補いながら、移民への敵意を強める。

留学生を減らし、大学財政が悪化する。

研究者と企業が米国やEUへ移る。

水道、鉄道、電力への投資が遅れる。

地方自治体がサービスを削減する。

高齢者が病院から退院できず、NHSの待機リストがさらに長くなる。

EUとの摩擦が続き、米国からも安定した支援を得られない。

スコットランドや北アイルランドで国家統合への不満が強まる。

それでもロンドンの一部と富裕層は繁栄する。

国全体が崩壊するのではなく、世界都市の中の豊かなイギリスと、公共サービスが弱った地方のイギリスへ分断される。

これが最も危険な未来である。

明るい未来

明るい未来では、イギリスは帝国の再現を諦め、「中規模の高付加価値国家」として現実的な戦略を取る。

EUとの実務的な摩擦を減らす。

ロンドンだけでなく、マンチェスター、バーミンガム、リーズ、リバプール、ニューカッスル、グラスゴー、カーディフ、ベルファストなどへ大学、産業、行政機能を分散する。

駅周辺へ住宅を大量に建てる。

大学、NHS、金融を結びつけ、生命科学とAIの企業を育てる。

洋上風力、原子力、送電網へ長期投資する。

移民を一時的な低賃金労働力ではなく、家族を持つ住民として受け入れる。

医療と介護を一体化し、高齢者が病院に滞留しない地域ケアをつくる。

文化、英語、教育を輸出産業として守る。

イギリスには、この転換を実現する制度と人材がまだある。

イギリスに明るい未来はある

イギリスには明るい未来がある。

ただし、かつての大英帝国へ戻る未来ではない。

世界中を支配するのではなく、世界中の人が学び、研究し、投資し、作品をつくる場所として生き残る未来である。

イギリスの問題は、貧困そのものではない。

住宅を建てられない。

病院から高齢者を退院させられない。

研究を国内企業へ育てられない。

ロンドンの富を地方へ広げられない。

移民を必要としながら、歓迎できない。

という実行と調整の失敗である。

つまり、解決不能な問題ではない。

政治的に難しく、時間がかかり、誰かが既得権を手放さなければならない問題である。

住宅所有者は、近隣の住宅建設を受け入れる必要がある。

政府は、短期的な人気取りよりインフラ投資を優先する必要がある。

医療は、病院中心から地域ケアへ移る必要がある。

大学は、留学生の授業料だけに依存しない仕組みが必要である。

国民は、移民なしでは社会を維持できない現実と向き合う必要がある。

イギリスは、ゆっくり衰退しているように見える。

しかし、その衰退は運命ではない。

世界最高峰の大学、金融、科学、英語、文化、法制度を持ちながら、それを生活の改善へ変えられていないだけである。

未来をつくる材料は、すでにそろっている。

問題は、過去の帝国を懐かしむのをやめ、現在の国民が普通に住み、働き、治療を受け、子どもを育てられる国を、もう一度つくれるかどうかである。

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