「医師不足」ではなく「FTE不足」の時代へ:英国GPのパートタイム化が日本に突きつける現実



英国の新聞 The Telegraph に、こんな見出しの記事が掲載されました。

GP(家庭医)はNHSへの信頼を失いパートタイム勤務へ移行している

https://www.telegraph.co.uk/business/2026/07/12/gps-go-part-time-as-doctors-lose-faith-in-the-nhs/


https://www.telegraph.co.uk/business/2026/07/12/gps-go-part-time-as-doctors-lose-faith-in-the-nhs/

記事によれば、英国ではフルタイムで働くGPは2019年の27%から2026年には19%まで低下しました。

つまり、今や5人に1人しかフルタイムで働いていないということになります。

SNSでは「医者が楽をしている」「最近の若い医師は働かない」というコメントも見かけました。

しかし、この数字をそのように解釈すると、本質を見誤ります。

私はこのニュースを見て、日本の医療もまったく同じ方向へ進むだろうと感じました。


人数は増えても、医療は増えない

医療政策では

Headcount(人数)

FTE(Full-Time Equivalent:常勤換算)

は全く別物です。


例えば

昔は

100人の医師が

全員週5日働いていたとします。

すると

100人 × 1.0 FTE

=100FTE

になります。

しかし現在

120人に増えていても

平均勤務が0.7FTEなら

120 ×0.7

=84FTE

です。

人数は20%増えているのに、実際の医療供給量は16%減っている。

これが英国で起きていることです。


「医師不足」というより「実働不足」

日本でも

「医師数は過去最多」

というニュースがあります。

それ自体は事実です。

しかし

現場で感じるのは

「全然人が足りない」

という感覚ではないでしょうか。

この矛盾はFTEという概念を理解すると説明できます。

人数は増えていても一人ひとりの勤務時間が短くなれば医療提供能力は減ります。

つまり本当に不足しているのは医師数ではなく、実働時間なのです。


なぜパートタイム化するのか

英国GPが怠けているわけではありません。

背景には複数の要因があります。

まず患者が高齢化し、一人で抱える疾患数が増えました。

糖尿病だけではなく

認知症

精神疾患

社会的孤立

生活困窮

介護問題

まで相談されます。

さらに

電子カルテ

紹介状

処方更新

保険関連業務

検査結果説明

行政対応

など診療以外の仕事が膨大です。

診療時間以上に書類を書いているというGPも少なくありません。

その結果

バーンアウトが起こります。

「週5日は続けられない」

そう考える医師が増えているのです。


日本も同じ方向へ進んでいる

日本でも

働き方改革が始まりました。

宿日直規制

時間外労働上限

育児との両立

介護との両立

女性医師の増加

男性医師の育休取得

これらは社会として歓迎すべき変化です。

一方で

当然ながら

一人あたりの勤務時間は減ります。

昔のように

「毎日病院に寝泊まりする」

という働き方は続きません。

それ自体は健全なことです。

しかし医療供給量は減ります。

ここを理解しないまま

「医師数は増えているから安心」

と考えるのは危険です。


地域医療はさらに厳しい

都市部では

一人辞めても代わりが見つかります。

しかし地方では違います。

例えば

常勤医4人の病院で

一人が週4勤務になるだけで

病院全体の実働は約5%減ります。

さらに二人が育休や時短勤務になれば

夜間救急は維持できなくなります。

これは医師不足ではなく

FTE不足です。


医療政策も「人数」から「実働」へ

厚生労働省も医師偏在対策を進めています。

しかし今後は

医師数だけではなく

FTEベース

で政策を考える必要があります。

例えば

  • 地域ごとのFTE推計

  • 女性医師・育児世代を含めた勤務実態

  • 高齢医師の勤務時間

  • タスクシフトによるFTE補完

  • AI・DXによる事務作業削減

こうした視点が不可欠になるでしょう。


英国のニュースは、日本の未来かもしれない

The Telegraphの記事は

「医師がパートになった」

という話ではありません。

医師が制度に疲弊し、持続可能な働き方を選ばざるを得なくなっているという話です。

そして、それは決して英国だけの問題ではありません。

日本でも若い医師ほど

ワークライフバランスを重視する傾向があります。

女性医師はもちろん、

男性医師も育児や家庭生活を大切にする時代です。

それは社会として歓迎すべき変化です。

だからこそ、医療政策も「昔の医師像」を前提にしてはいけません。


おわりに

「医師は過去最多なのに、なぜ現場は人手不足なのか?」

その答えはシンプルです。

私たちは「人数」を見ていて、「実働」を見ていないからです。

これから本当に必要なのは、

医師数を数えることではありません。

地域に何FTEの医療が存在しているのか。

その視点こそが、超高齢社会の医療政策を考える出発点になるのではないでしょうか。



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