僕は上場企業社長250名と対峙した【第24話】|社長の言葉が届く会社と、届かない会社の構造的な違い
社長が全社集会で語った言葉が、翌日には現場の末端まで浸透している会社がある。一方で、社長がどれだけ熱く語っても、半年後には誰も覚えていないという会社もある。250名の社長と対峙する中で、この差はどこから生まれるのかをずっと考えてきました。結論から言えば、それは言葉の巧さの差ではありませんでした。社長の言葉が届くかどうかは、言葉そのものではなく、言葉が届く「構造」があるかどうかで決まっていたのです。
僕はTrex(Tレックス)。IT企業を15年以上経営しています。起業前は日常的に英語を使う職に就き、上場企業の経営者250名以上に直接取材を行ってきました。この連載では、その取材で見えてきたことを、できる限り正直に書いていきます。詳しいプロフィールはこちら
💬 言葉が届く会社には「中継地点」がある
取材の中で、社長の言葉がしっかり届いていると感じる会社には、ある共通点がありました。それは、社長と現場の間に「中継地点」が存在していたということです。社長が発した言葉を、そのまま上から流すのではなく、自分の言葉に置き換えて現場に伝える人がいる。幹部やマネージャーが、社長の意図を噛み砕き、それぞれの部門の文脈に合わせて翻訳する。この中継の仕組みがあるかどうかで、言葉の届き方がまったく変わっていました。
ある社長はこう話していました。「社員が200名を超えたあたりから、僕の言葉がそのまま届かなくなりました。全社朝礼で話しても、現場のリアクションが薄い。最初は伝え方が悪いのかと思って、何度もスピーチの練習をしたんです。でも変わらなかった。あるとき、ある部門だけ僕の方針がきちんと浸透していることに気づいた。その部門のマネージャーに聞いたら、毎週のチームミーティングで僕の話を自分なりに解釈して、チームの仕事とどうつながるかを説明してくれていたんです。それを聞いて、僕は自分の言葉を届けるのではなく、届けてくれる人を育てるべきだったと気づきました」と振り返っていました。
社長の言葉がそのままの形で現場に届くことは、実はそれほど重要ではありません。むしろ、社長の意図が現場の仕事に接続された形で届くことのほうがはるかに大切です。中継地点となる人が社長の考えを理解し、それを自分のチームの具体的な行動に落とし込める。そういう翻訳の連鎖がある会社では、社長の言葉は形を変えながらも、意図としてはしっかりと末端まで届いていました。
👀 届かない会社に共通していた「一方通行」の構造
逆に、社長の言葉が届かない会社にも明確なパターンがありました。それは、コミュニケーションが完全に「一方通行」になっているということです。社長が話す。社員は聞く。しかし、社員から社長への言葉は届いていない。この一方通行の構造がある限り、社長がどれだけ良いことを言っても、現場には響かないのです。
なぜ一方通行だと言葉が届かないのか。それは、人は「自分の話を聞いてくれない人の話は聞かない」からです。取材を通じて、このシンプルな原則を何度も確認しました。現場の声が社長に届いていないと感じている社員は、社長の言葉を真剣に受け止めようとしません。形式的には聞いていても、心には入っていかない。それは反発ではなく、無関心です。自分の声が届かない場所から降りてくる言葉に対して、人は自然と距離を取るようになるのです。
取材した中で、まさにこの構造に苦しんでいた社長がいました。「経営方針発表会を毎年盛大にやっていたんです。資料も丁寧につくって、時間をかけて説明した。でもある年、無記名アンケートを取ったら、方針の内容を正確に覚えている社員がほとんどいなかった。ショックでした。でも冷静に考えてみたら、僕は一年間、現場の声を直接聞く機会をほとんど作っていなかった。社員にとっては、年に一度だけ壇上から降りてくる言葉でしかなかったんです。聞いてほしければ、まず聞かなければならない。そのことに気づくまでに、恥ずかしながら何年もかかりました」と語っていました。
🤝 言葉が届く社長は「聞く仕組み」を持っていた
社長の言葉が届く会社には、もう一つの共通点がありました。それは、社長が現場の声を聞く仕組みを意図的につくっていたということです。これは「たまに現場を歩き回る」というレベルの話ではありません。社長が定期的に現場の声に触れる機会を、制度として設計していたのです。
ある会社では、月に一度、部門を問わず若手社員数名と社長が直接話す場を設けていました。別の会社では、社長宛の匿名フィードバックの仕組みがあり、社長自身がそれを毎週読んで全体にコメントを返していました。また別の社長は、四半期ごとに全拠点を回り、各拠点で最低二時間は現場の社員と直接対話する時間を確保していると話していました。
こうした仕組みが機能すると、社長の言葉の質そのものが変わります。現場の実情を知った上で語られる言葉は、抽象的なスローガンとは重みが違います。「売上を伸ばそう」ではなく、「先月、現場で聞いたこういう課題を解決するために、この方針を進めたい」と語れる。聞いている側は、社長が自分たちの現実を見ていると感じるからこそ、言葉を受け取ろうとするのです。
聞くことと届けることは、別々の行為のように見えて、実は同じ回路の中でつながっています。現場の声を聞くから、現場に響く言葉が生まれる。現場に響く言葉があるから、現場はまた声を上げようとする。この循環が回っている会社では、社長の言葉は特別なイベントではなく、日常の対話の延長線上にありました。逆に、この循環が途切れている会社では、社長がどれだけ雄弁に語っても、それは壇上から降ってくる独り言にしかなっていなかったのです。
🔥 言葉が届く組織をつくるために、社長がしていたこと
取材を重ねる中で、社長の言葉が組織に届くかどうかは、最終的には社長自身の姿勢にかかっていると感じるようになりました。言葉の巧みさや、プレゼンテーションの技術ではありません。社長が日常的に現場と向き合い、現場の言葉を聞き、それを踏まえた上で自分の考えを発信しているかどうか。この循環があるかないかが、言葉の届き方を根本から左右していました。
言葉が届く社長に共通していたもう一つの特徴は、自分の言葉と行動の一致に対して、非常に厳しい基準を持っていたことです。「挑戦しよう」と言いながら、失敗した社員を責める社長の言葉は届きません。「現場を大事にする」と言いながら、現場の報告を後回しにする社長の言葉も届きません。言葉と行動が一致しているかどうかを、社員は驚くほど正確に見ています。取材した社長の一人は「社長の言葉は、行動で裏付けられたときにだけ届く。行動が伴わない言葉は、むしろ信頼を削る」と話していました。
届く言葉と届かない言葉の違い。それは結局、言葉の「前」と「後」にどれだけ誠実な行動があるかということに尽きます。言葉を発する前に、現場の声を聞いているか。言葉を発した後に、その言葉通りに動いているか。この二つが揃ったとき、社長の言葉は初めて組織を動かす力を持ちます。250名の社長と対峙する中で、言葉の力とは話術のことではなく、信頼の蓄積のことだと、僕は確信するようになりました。
この連載では、上場企業の社長室で聞いた話を、できる限りそのままの形でお届けしています。次回は「長く成長し続ける経営者に共通する『学び方の癖』」を掘り下げます。
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