ロンドンでマタニティライフ㉖
前回の記事から、気づけば約3か月も空いてしまった。
初めての子育てが始まり、毎日赤ちゃんのお世話に追われ、その後は日本への一時帰国もあり……書きたいことはたくさんあるのに、出産したら本当に自分の時間がなくなる。笑
少し時間が経ってしまったが、ここからまた記憶と当時のメモを辿りながら、ロンドンでの出産、そして産後の生活について続きを書いていきたい。
NHSでの帝王切開後の入院生活
完全母子同室と翌日退院
無事に赤ちゃんが取り出され、お腹を縫ってもらい、帝王切開の手術が終了した。
「やっと終わった…」
という大きな安堵感と、
「本当に産まれたんだ」
という、まだ現実とは思えないような不思議な気持ちが入り混じっていた。
完全外国語環境での出産に疲労困憊であったが、それよりアドレナリンでテンションが上がっていたように思う。
しかし、NHSでの出産はここで終わりではない。
むしろ私にとっては、ここからの方が大変だったかもしれない。
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Recovery roomで過ごす時間
手術終了後は、Recovery room(回復室)へ移動した。
自分ではほとんど身体を動かせないため、スタッフ総出で手術台から移動式のベッドへ身体を移してくれる。
「頑張ったね!」
「赤ちゃん元気だよ!」
「髪がフサフサ!ゴージャス!」
などなど、たくさん声をかけて褒めてもらった。
手術中は緊張でそれどころではなかったので、ようやく「終わったんだ」と少しずつ実感が湧いてきた。
まだ下半身の感覚はほとんどなく、身体もずっしりと重たい。
Recovery roomへ移動すると担当スタッフが変わり、
・血圧
・出血の状態
・麻酔の効き具合
などを定期的に確認してくれた。
そして赤ちゃんが胸元へ連れて来られ、skin to skin(いわゆるカンガルーケア)を行った。
ついさっきまでお腹の中にいた子が、突然目の前にいる。
小さくて、頼りなくて、なんだかチワワみたいで、どうしたらいいかわからなかった。
触ったら壊れてしまいそうで、恐る恐るそっと触れる。
自分のお腹の中にいた子が今ここにいるという事実が、まだうまく理解できない。
なんとも不思議な感覚であった。
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NHS名物?トーストと紅茶
しばらくすると、若いスタッフがやってきた。
「紅茶飲む?」
「トーストもあるよ」
噂には聞いていた。
SNSの英国出産レポなどでもよく登場する、NHSのトーストと紅茶である。
出てきたのは、カリカリに焼かれたシンプルなトースト。
「ミルク入れる?」
と聞かれ、ミルクティーもいただいた。
日本の病院で聞くような豪華な祝い膳とはかなり違う。
しかし、絶食後だったこともあり、これが本当においしかった。
手術が終わってまだそれほど時間が経っていなかったので、「もう食べていいんだ!」と少し驚いた。
基本的にイギリスでは、術後の状態に問題がなければ、帝王切開後はできるだけ早く飲食を開始するようにという話。
さらに、日本から持参していたウィダーインゼリーも飲んだ。
パウチ型のゼリー飲料はイギリスでは日本ほど一般的ではないので、これは本当に持ってきてよかったもののひとつである。
絶食後の身体にも入れやすく、とても助かった。
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Postnatal wardへ 、まさかの部屋がない!
数時間後。
産後のバイタルが安定していることを確認され、産後病棟(Postnatal ward)へ移動することになった。
移動中、赤ちゃんは私のとなり。
私はベッドに寝たまま、赤ちゃんと一緒に病棟へ運ばれていく。
ところが到着すると、新たな問題が発生した。
どうやら、
「部屋が空いていない」
らしい。笑
スタッフは私たちが入れる部屋を探しに行き、私は赤ちゃんの隣で病棟の廊下でしばらく待機することになった。
途中、
「これ置いておくね⭐︎」
と、ベッドの上にRed Book(赤ちゃんの健康記録を残す、日本の母子手帳に少し近いもの)をポン!と置いていきどこかに消えるスタッフ。
赤ちゃんを産んだばかりの母親と新生児が、ベッドごと廊下で放置?されている笑
今振り返ると、日本では絶対になさそうな光景である。
ただ、廊下を通るスタッフや患者さんたちが、
「Congratulations!」
と次々声をかけてくれた。
目立ちたがり屋の私なので、オウオウ!ハーイ!今産んだのよ!などこの状況を楽しんでいた。
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完全母子同室、いきなりスタート
ようやく病室へ案内してもらった。小さなお部屋に先ほどのハイリスク妊婦さんもいる。
そしてここから、本当の意味での「赤ちゃんとの生活」が始まった。
日本では、新生児室で赤ちゃんを預かってもらいながら、授乳やオムツ交換などを少しずつ練習していくイメージを持っていた。
しかし、NHSは別のようである。
すでに赤ちゃんがすぐ隣の小さなベッドにいる。
「おめでとう。では育児スタート!」
そんな感じである。
目の前には、ほにゃほにゃの小さな赤ちゃん。
つい数時間前までお腹の中にいたのに、もうここにいる。
もちろんかわいい。
しかし、それ以上に最初に思ったのは、
「……えーと、どうしたらいいんだろう?」
であった。
なにしろ、こちらも帝王切開を終えたばかり。
・麻酔がまだ残っている
・足が思うように動かない
・傷痛すぎる
・でも赤ちゃんは泣く
麻酔で全く起き上がれず、むしろ自分が世話されないとだめなほうである
正直、入院中で一番大変だったのはこの時間だったと思う。
Midwifeは必要に応じて様子を見に来てくれる。
ただ、基本的なスタンスは、
「必要なら呼んでね」
である。
つまり、自分から助けを求める必要がある。
さらにこの日は、近くにより手厚い管理が必要そうな妊婦さんがおり、スタッフもかなり忙しそうであった。
ナースコールを押しても、なかなか来てもらえない
夫はベッドの横にある、小さくて硬い付き添い用のベッドで一晩過ごしてくれた。
今振り返っても、夫がいなければかなり厳しかったと思う。
基本的に付き添いは想定されていないようだが、前日に確認しておいて本当によかった
泣く赤ちゃん。
どうしたらいいのか分からない私たち。
まったく出ない母乳。
いつ、どうあげていいかわからないミルク。
慣れないオムツ交換。
未経験知識ゼロの状態でいきなり現場に送り出され、想像以上に慌ただしい夜が始まった。
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液体ミルクは持って行って本当によかった
今回の入院で、「これは持ってきて本当によかった」と強く思ったものがある。
液体ミルクである。
私は母乳もあげたいと思っていたが、出産直後からすぐに母乳が出るわけではない。
赤ちゃんは号泣
こちらは手術直後で身体も思うように動かない。
ナースも助産師も来てくれない、、泣
多分お腹空いてるのかな?とは思うが、どうしていいのかまったくわからない
そんな状況だったので、すぐに飲ませられる液体ミルクが手元にあったことには本当に助けられた。
途中で哺乳瓶が足りなくなり、夫に「どこかで消毒できないか」と聞きに行ってもらったところ、電子レンジで使用するタイプの消毒バッグをもらうことができた。
それを使って哺乳瓶を消毒し、液体ミルクを注ぎ、また飲ませる。
そんなことを繰り返しながら一晩を過ごした。
母乳を希望しているかどうかにかかわらず、万が一に備えて授乳方法について事前に確認し、必要なものを準備しておくことは大切だと感じた。
少なくとも私の場合、液体ミルクがなかったら相当困っていたと思う。
また、
・オムツ
・赤ちゃんの着替え
・おしりふき
などの消耗品も、基本的には自分たちで用意するようにとのこと
特に赤ちゃんの服は、想像していたより多めに持って行ってよかった。
吐き戻しもあるし、何しろ親である私たち自身が初心者である。
オムツ交換や授乳にも慣れておらず、思いがけず服を汚してしまう。
「新生児なんてほとんど動かないし、着替えはそんなにいらないのでは?」
と思っていたが、まったくそんなことはなかった。
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初めての夜 ― 赤ちゃんが泣き止まない
当然ながら、全く眠れなかった。
赤ちゃん号泣、
私たちも何をしていいのか分からない。
見よう見まねでミルクをあげてみる。
しかし、うまくいかない。
また泣く。
夜勤のMidwifeやスタッフに聞きたくても、忙しいのかなかなか捕まらない。
他の部屋からも、一晩中あちこちで赤ちゃんの泣き声が聞こえていた。
みんな同じなんだな……
と思う一方で、これだけの人数を少ないスタッフで見ているのなら、Midwife側も相当大変なのだろうと思った。そして、国の予算でどうにかスタッフを増員してくれ!と強く感じた
朝方になり、赤ちゃんの泣きがもはや叫びに近くなってきた頃、年配のMidwifeがやっと様子を見に来てくれた。
どうしたの?あらあらすごく泣いてるわね〜と
赤ちゃんを見ながら、抱き方や授乳のコツを教えてくれた。
ただ、他にも対応する人がたくさんいるためか、ある意味スパルタで、バッ!と教えてどこかへ消えていった
ゆっくり付き添いながら一から教えてもらう、という雰囲気ではなかった。
いくらイギリスとはいえ、産後はもう少し手厚くいろいろ教えてもらえるものだと思っていたな……
というのが、そのときの率直な感想であった
この時はかなり疲れていて、日本に帰って生むんだったと1番強く思った瞬間だったかも、、
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翌朝は赤ちゃんのチェックが目白押し
ほとんど眠れないまま朝になった。
すると今度は、朝から次々とスタッフがやってくる。
どうやら産後翌日は、母子ともに確認することがたくさんあるようだ。
赤ちゃんの状態確認に加えて、
・聴力検査
・授乳のサポート
・オムツ交換の説明
などが次々と行われた。
「昨日の夜に教えてほしかった……!」
と思う部分もあったが、ここでようやく少しずつ赤ちゃんのお世話について教えてもらえた。
聴力検査では一度再検査となった。
生まれたばかりなのに何が分かるのだろう、と思いつつ、やはり「再検査」と言われると心配になる。
後日改めて検査を受けたところ問題なしとのことで、ようやく安心した。
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朝食もやっぱりトースト
朝食にも、再びトーストが出てきた。
シンプルなカリカリのトーストに、ジャムをたっぷり塗って食べる。
それだけでは足りなかったので、友人が日本から持ってきてくれた、どん兵衛も食べた。
病棟にはお湯を使える場所があったので、インスタント食品はかなり便利だった。
産後はとにかくお腹が空いたので、食べ慣れた日本の味がものすごくおいしく感じた。
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病室にニューボーンフォトのカメラマンがやってきた
そして入院中、少し意外な人もやってきた。
ニューボーンフォトのカメラマンである。
病院内で赤ちゃんの写真を撮影し、
「気に入ったら後で購入してね」
というシステムらしい。
せっかくだし……と撮ってもらった。
そして、まんまと購入した。笑
良い商売だと感心!
生まれた翌日の姿を残すことができたので、結果として良い思い出になったと思う。
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NHSの産後は「早く回復させて退院」
帝王切開後のNHSで印象的だったのが、とにかく回復に向けた動きが早いことである。
私が経験した流れをまとめると、
・できるだけ早く食べることを開始する
・できるだけ早く身体を動かす
・問題がなければ早く退院する
という感じだった。
切開直後から、
「明日は歩いてね!歩かないと帰れないよ!」
と言われていた。
帝王切開をした翌日にもう歩くのか、と驚いたが、実際に少しずつ身体を起こして歩き始める。
もちろん最初はかなりゆっくりである。
カテーテルを抜いた後には、自力で排尿できているかの確認も必要だった。
私の場合は出血について確認してほしいことがあり、何度かスタッフを呼んだものの、忙しいのかなかなか来てもらえなかったこともあった。
結局、自分からスタッフを探しに行ったこともある。
妊娠中にも何度も感じたが、産後もやはり、
「待っていれば誰かが全部やってくれる」
というシステムではない。
気になることがあれば自分から伝える。
分からなければ聞く。
必要なら何度でも声をかける。
そうしないと本当に誰も助けてくれない!病院だけど。
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翌日退院へ向けて
最終的に、赤ちゃんにも私にも大きな問題はなく、退院許可が出た。
しかし、
「では帰りましょう」
とすぐ帰れるわけではなかった。
退院の手続きが必要だからベッドで待ってて〜とのこと
病棟自体がかなり忙しかったこともあり、退院手続きはなかなか進まない。
結局、病院を出られたのは翌日の19時頃であった。
途中、
「もう一泊する?」
とも聞かれた。
一瞬迷ったが、夫も一晩ほとんど休めず、かなり疲れていた。
私自身の体調にも大きな問題はなく、どうせ病院にいたところでなにもサポートは期待できない。病院にもう一泊するより、
「それなら家に帰って休もう」
という気持ちになった。
こうして、帝王切開の翌日に赤ちゃんを連れて自宅へ帰ることになった。
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NHSと日本、産後の考え方の違い
今回の経験で、日本とイギリスでは産後の病院の役割にかなり違いがあるように感じた。
日本の出産について私が持っていたイメージは、
「まず母体を休ませて回復させ、その間に授乳やオムツ交換などを少しずつ練習し、赤ちゃんとの生活に慣れてから退院する」
というものだった。
一方、今回私がNHSで経験した出産はだいぶ違っていて
医学的に母子ともに問題がなければ、
「なるべく早く日常生活へ戻る」
という考え方に近い。
もちろん病院や本人・赤ちゃんの状態によって対応は異なると思うが、私にとってはかなりスパルタに感じる部分もあったし、自分から助けを求めないといけないところは辛かった。
特に帝王切開直後から赤ちゃんのお世話が開始することは辛く、もし家族がいない人はどうするんだろうと思った。
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はじめての入院を終えて
怖かった手術が終わり、無事に赤ちゃんに会えた。
その安心も束の間、生まれた瞬間から育児が始まり、初めての夜は想像していた以上に大変だった。
泣き止まない赤ちゃんを前に夫婦で途方に暮れたり、Midwifeを探したり、慣れない手つきでミルクを作ったり。
帝王切開の傷を抱えながら歩き始め、その翌日の夜にはもう赤ちゃんを連れて家に帰る。
振り返ると、ものすごく濃い約1日半であった。
ロンドンでの妊娠・出産を通して何度も感じたが、NHSでは医療者にすべてを任せるというより、自分自身も自分と赤ちゃんのケアに主体的に関わっていく必要がある。
それは妊娠中だけではなく、出産した瞬間からも同じだった。
ここまでくるのが本当に大変であったが、なんとか赤ちゃんを連れて病院を出ることができた。
病院に来たときはお腹の中にいた赤ちゃんが、帰りには腕の中にいる。
そのことが何よりも不思議だった。
産科を出てタクシー乗り場に向かう途中、本当にいろんな人たちからお祝いの言葉をもらった。比較的大きな総合病院のため、たくさんの患者さんがいる。大変な病気と闘っている人も多いだろう。生まれたての赤ちゃん!なんだかはげまされるよ、と言ってくれるおじいちゃんもいた。
タクシーにベビーシートを装着。
しばらく義実家にお世話になる予定だ。
こうして私たち3人での生活が始まった。
