人権を尊重する官公庁と、どこにも通じない手綱について。
法務省がまたひとつ、実に味わい深いおとぎ話を思いついたらしい。
仮釈放中の性犯罪者に衛星利用測位システム、いわゆるGPSを持たせる実証実験を始めるのだという。
再犯の兆候を掴み、保護観察官が親身に指導して更生へと導く。
机の上の書類としては実に見事な設計図だが、その美しい構想の根底には、思わず乾いた笑いが漏れてしまう一文がそっと添えられていた。
「本人の同意を得られた人のみを対象とする」
他人の「不同意」を踏みにじり、相手の意思を暴力と脅迫でへし折った手合いに対して、国家が深々と頭を下げて「監視機器をお持ちいただくことに同意していただけますでしょうか」と伺いを立てている。
これほど完成されたブラックジョークを、私は最近のコメディ映画でも見たことがない。
同意という概念を靴底の泥程度にしか思っていなかった獣たちが、自らの自由な狩りを縛る首輪の装着に、満面の笑みでサインするとでも本気で思っているのだろうか。
「はい喜んで、私のプライバシーを国に差し出します」
と素直に頷く人間がいるとすれば、それはもはや性犯罪者ではなく、単なる従順な公僕の素質がある模範囚だけだ。
悪意と欲望を腹の底に飼い慣らした本物の手練れなら、そんな面倒な首輪に首を差し出すはずがない。
結果として集まるのは、最初から再犯のリスクなど微塵もないような、借りてきた猫の記録ばかりになる。
そしてお役人たちは、綺麗に並んだ移動ログを眺めながら
「実証実験の結果、対象者に問題行動は見られず、高い防止効果が確認された」
と、無邪気な成功報告書を書き上げるのだろう。
彼らが本当に追跡すべき危険な衝動は、書類のチェックボックスの外側にこそ、野放しのまま息を潜めている。
他人の境界線を踏み越えることに一切の躊躇がない人間に対し、行政はどこまでも礼儀正しく、手続きの美しさに酔いしれている。
善意と形式美で作られた檻はいつだってスカスカで、狡猾な獣たちはその隙間から悠々とすり抜け、今日も街の暗がりへと消えていく。
私はデスクの隅で、スマートフォンの位置情報サービスをオフにする。
自分の居場所すら誰にも教えたくないような矮小な人間でさえこれなのだから、暗闇を好む者たちが光の下へ名乗り出るはずもない。
霞が関の立派な会議室で練り上げられた壮大な茶番劇を思い浮かべながら、私は冷え切った緑茶をすすり、無力な正義の滑稽さに小さくため息をつくのである。
