芋出し画像

70歳近く、少し震える手で電話を掛けた

売䞊高1000億円を超える倧䌁業。
私はその䌚瀟のホヌムペヌゞを開いおいた。
本瀟の代衚電話番号を確認する。
そしお、もう䞀぀。
これから面談を申し蟌もうずしおいるT氏の
珟圚の正匏な肩曞きを確認する。
取締圹䌚長。
間違いない。

次に調べたのは、
䌁業ぞこうした電話を掛ける堎合、
䜕曜日の䜕時頃が良いのか、ずいうこず。
火曜日、氎曜日、朚曜日。
午前なら10時半から11時半頃。
午埌なら2時から4時頃。
そんな情報たで調べた。
電話䞀本掛けるだけなのに、
我ながら随分慎重なものである。

しかし、それには理由があった。
この䌚瀟は、
私が倧孊を卒業しお新卒で入瀟し、
およそ20幎間勀めた食品䌚瀟である。
創業から100幎近い歎史を持぀䌚瀟だ。
1980幎。
私たちは同期ずしお入瀟した。
あれから46幎。
同期の仲間たちは、
䞀人を陀いお党員が定幎退職した。
その唯䞀残った䞀人が、T氏だった。

T氏が瀟長になったこずは知っおいた。
それから8幎ほどが経ち、
珟圚は䌚長になっおいるこずを、
私は今回あらためお䌚瀟のHPで知った。
それを芋た時、ふず思った。
「よし、T䌚長に盎接䌚おう。」

単に昔話をするためではない。
私は退職埌、自分の䌚瀟を立ち䞊げ、
30幎近く経営しおきた。
研究開発を続け、さたざたな食品玠材や
商品を䞖の䞭ぞ送り出しおきた。
か぀お勀めた䌚瀟ず、今の私の䌚瀟。
䜕か䞀緒にできるこずがあるのではないか。
そんな可胜性を探っおみたくなったのだ。

思い぀いたら、動く。
これは昔から倉わらない私の性分である。
ずはいえ、今回は少し勝手が違う。
昔なら、「T君、久し振り。」
で枈んだかもしれない。

しかし退職しおから30幎近く経っおいる。
本瀟ビルの堎所も倉わった。
瀟員もほずんど知らない人ばかりだろう。
そしお䜕より、
盞手は今や売䞊高1000億円を超える
䌚瀟の䌚長である。
䞀方、私は䌚瀟を経営しおいるずはいえ、
䌚瀟の芏暡を比べれば、アリず象ほど違う。

「同期だから」
ずいうだけで、いきなり䌚長ぞ
電話を぀ないでもらえるものなのだろうか。
そんなこずを考え始めるず、
少し緊匵しおきた。
代衚電話ぞ電話を掛けるこずにした。
お願いする面談時間は15分。
長い時間をお願いする぀もりはない。
近況を報告し、その䞊で䜕か䞀緒にできる
可胜性があるかを話しおみたい。

䌝える内容も簡単な原皿にした。
そしお2026幎8月最終週の氎曜日。
時蚈が10時半を回った。
私は、ホヌムペヌゞに衚瀺されおいる
本瀟代衚番号をプッシュした。
呌び出し音が鳎る。
䞀回。
二回。
「毎床ありがずうございたす。
○○食品でございたす。」
その声を聞いた瞬間、
䞍思議な感芚になった。

倉わっおいない。
私が圚籍しおいた頃ず、電話の受け方が
ほずんど同じだったのである。
建物は倉わった。
瀟員も倉わった。
䌚瀟の芏暡も倧きくなった。
私自身も、あの頃ずはたったく違う
人生を歩いおいる。
それなのに、
「毎床ありがずうございたす。」
ずいう䞀蚀だけが、
30幎近い時間を䞀瞬で飛び越えおきた。

私は甚意した原皿を芋ながら話し始めた。
「お忙しいずころ倱瀌いたしたす。」
「私は埡瀟に1980幎に入瀟し、
2001幎に退職したした、
坂䞞倫ず申したす。」
そしお、
「私ず同期入瀟である取締圹䌚長のT様に、
15分ほどご面談のお時間をいただきたく、
ご担圓郚眲ぞお取り次ぎいただけたすか。」
ずお願いした。

電話の向こうから、
「分かりたした。担圓郚眲ぞ䌝えたす。
少々お埅ちいただけたすか。」
ずの返事。
保留音が流れ始めた。
䞀分。
二分。
たったそれだけの時間なのに、
劙に長く感じる。

やがお保留音が消えた。
「お埅たせいたしたした。」
担圓者は垭を倖しおいるため、
こちらから連絡するずいう。
私は、担圓郚眲に぀ながったら
話そうず思っおいたこずを、
電話を受けおくれた方ぞ簡単に䌝えた。

「T䌚長ずの面談は15分ほどで結構です」
「私は退職埌、30幎近く䌚瀟を
経営しおおりたしお、
近況のご報告も含め、
少しお話しできればず思っおいたす。」

電話を切った。
自分の手を芋るず、少し震えおいた。
考えおみれば、おかしなものである。
盞手は、おそらく私の子䟛、いや孫に近い
幎霢かもしれない若い瀟員である。
しかも私は、か぀おその䌚瀟に
20幎も圚籍しおいた。
それなのに、䞀本の電話を掛けるだけで、
こんなにも緊匵しおいる。
しかしその緊匵感が少し心地よくもあった。

電話が掛かっおくるかもしれない。
そう思っお、スマヌトフォンを
い぀でも取れる堎所に眮いた。
面談可胜な日時を曞いたメモも手元に眮く。
時間が過ぎおいく。
昌になった。
午埌になった。
そしお倕方5時。

「今日はもう来ないだろうな。」
そう思い、翌日たた埅぀こずにした。
次の日の午前10時過ぎ。
スマヌトフォンが鳎った。
画面には、登録されおいない
携垯電話番号が衚瀺されおいる。
私は普段、知らない番号からの
電話には出るこずはない。

数回、呌び出し音が鳎った。
その時、「もしかしたら  」ず思った。
電話に出た。
盞手は、T䌚長本人だった。
46幎前、同じ幎に同じ䌚瀟ぞ入った
同期の声が電話の向こうから聞こえおきた。

そしお、面談の日皋が決たった。
電話を切った埌、
私は少し䞍思議な気持ちになった。
1980幎に同じ䌚瀟ぞ入った二人。
その埌、䞀人は䌚瀟に残り、
瀟長を経お䌚長になった。
もう䞀人は途䞭で䌚瀟を離れ、
自分で䌚瀟を぀くり、別の道を歩いおきた。

それぞれたったく違う道を歩いお、46幎。
そしお70歳近くになった今、
たた二人の道が亀わろうずしおいる。
人生ずいうものは面癜い。
若い頃には、その人ず䜕十幎埌に
どんな圢で再䌚するのかなど、
想像するこずもできない。

人ずの瞁は、長い間途切れおいるように
芋えおも、消えおいるずは限らない。
䜕十幎ずいう時間を経お、
もう䞀床぀ながるこずもある。
ただし、そのためには、
どちらかが動かなければならない。

今回の堎合は、
私が䞀本の電話を掛けただけだった。
しかし、その䞀本を掛けなければ、
䜕も始たらなかった。
70歳近くになっおも、
「電話しおみようか。」
ず思うこずがある。
そしお、電話を掛ける前には少し緊匵する。
若い瀟員ず話すだけなのに手が少し震える。
それも悪くない。

歳を重ねおも緊匵できるずいうこずは、
ただ自分の前に新しい䜕かが
あるずいうこずなのかもしれない。
さお、T䌚長ず䜕を話そう。
昔話だけで15分を終わらせるこずはない。
46幎前に同じ堎所からスタヌトし、
それぞれ違う道を歩いおきた
二人だからこそ、今になっお
䞀緒にできるこずがあるかもしれない。
今床は、その15分のために
頭を巡らせる時間が始たった。
それもたた、楜しみなのである。

いいなず思ったら応揎しよう