世界を眺め
導入 署名のあと、相場が動いた週
合意は先週、紙の上にあった、今週、それが値段になって表れた。
26日、Brentは72ドルまで落ち、戦争前の2月27日以来の安値をつけた。
週間の下げは1割を超え、ここひと月で最も深い。市場は、外交官が積み上げるより先に「平和」を計算し終えてしまった。
数字が先に走る一方で、現場はまだ追いついていない。
サウジはラスタヌラで久々にタンカーへの積み込みを始め、湾岸の輸出は戦前のおよそ75%まで戻った。
けれど25日、コンテナ船エヴァー・ラブリーがオマン沖で被弾し、トランプはイランを停戦違反と責めた。
値段は落ち着き、海はまだ落ち着かない。署名の効き目が相場に出た週――それが6月第4週である。
1.アメリカ 勝った戦争を、値段の話に変える
ワシントンは戦勝の余韻を、二つの方向に使い始めた。
外には次の標的、内にはガソリン代である。
外向きには、トランプがイランを「じきにバックミラーの中」と切り捨て、戦時に緩めたロシア産原油への制裁を、油が戻れば再び科すと予告した。
イランの次はロシア――その順序が、もう隠されなくなった。
内向きには、相場の急落を有権者向けの一手にした。トランプは「原油はこんなに下がっているのに、ガソリンが下がらない」と石油大手の便乗値上げを名指しし、司法省に調査を命じた。
そのくせ請求書は重い。国防総省は、今回の対イラン戦の費用を中心に、およそ800億ドルを議会に要求している。
足元の交渉では、ルビオが湾岸三カ国を回り、覚書を売って歩いた。
海峡の通行料を求めるイランに、「国際水路に料金はかけられない」と釘を刺している。
勝利の物語を、税の話と次の戦線の二本立てに編み直す――それが今週の手つきだった。
2.ロシア 戦勝の油が、敵の収入を細らせる
イランが片づいた瞬間、世界の制裁マシンはモスクワへ向き直った。
G7は声明で「いまこそ加圧の時」と明言し、石油・ガス部門の制裁強化を掲げた。
同じ週、英国はロシアの「影の船団」――北極LNG2の制裁下タンカーを含む――への新規制裁を発表し、迂回の血管を一本ずつ締めにかかった。
そして相場が、思わぬ援軍になった。
海峡が開いて油が下がれば、戦時に膨らんだ輸出収入はそのぶん痩せる。
砲弾ではなく、値段がモスクワの財布を削る構図である。
前線は相変わらず夜ごと燃え、停戦の出口は見えない。
それでもトランプは「ロシアは取引すべきだ」と言い始めた。卓は東から北へ、はっきりと移った。
3.ヨーロッパ 守る側に回った欧州の、ひとつの皮肉
米が退いた穴を、欧州が肩で受けている。
G7はホルムズについて「通行料も制限もない自由航行こそ国際貿易の土台だ」と確認し、仏英が主導する多国籍の海上イニシアチブが、商船を護衛し通航再開を支える役を担う。
ウクライナでも、最大の出し手はいまや欧州である。
ところが制裁の設計が、自らの足を引っかける。EUの価格上限は中東の高騰を映して、7月15日までに自動で44.10ドルから最大70ドルへ上がる仕組みだ。
だがそれでは、油安の局面でかえってロシアの取り分を増やしてしまう。
ブリュッセルはG7と組み、引き上げを2027年1月へ延ばそうと動いている。
ロシアを締めたいのに、ルール通りなら締まらない。
守る椅子に座った欧州は、その椅子の重さを今週はじめて実感している。
ここから先は
¥ 330
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!
