素人がプロに勝つ日
ー素人がプロに勝つ日ー
お疲れ様です。^_^
今日は、私が35年間パン屋を経営してきた中で、何度も目にしてきた話です。
皆さんは、
素人がプロに勝つことなどあると思いますか?
私は長年、パン屋を業務委託化(フランチャイズ)して運営してきました。
最初から加盟者を募るフランチャイズをやろうと思っていたわけではありません。
20代前半、経営経験など皆無、自分自身もパン屋の素人でした。
食べていくために始めたパン屋でしたが、幸い1号店は繁盛しました。
しかし、本当に苦労したのは店を繁盛させることではありません。
店を維持すること。
つまりそれは、作り手の雇用を守ることでした。
組織でもない昔で言えば、小さな寺子屋同然の私の店で永遠に働くものなど
いない。
だから、皆に、将来は自分のお店を持つ為の教育に徹してきました。
これが、寺子屋流の職人達への雇用維持の唯一の方法でした。
というより、それしか方法がなかったという方が正しいでしょう。
私は一人ひとりの夢を聞き、自分と同じように「自分の店を持ちたい」という夢を応援…。いやその方向に差し向けてきたのかも知れません。
やがて結果的に店舗が増え、社員から業務委託オーナーになる人も増えていきました。
ある日、入社してまだ1か月も経っていない未経験の若者に、
「君、自分で店をやってみないか。」
そう声を掛けました。
すると、先輩のオーナーたちは、
「なんで、あんな来たばかりの素人に店を任せるんですか。」
と早すぎるでしょと批判する者がいました。
ただ、彼の職場体験で見た身体の動き、
売上、原価等の計数管理の飲み込みの早さ、早期に任せる判断材料はありました。
それに、現実はそんな原石はそう簡単に見つからず、採用する私の方が彼を射止めたかったということです。
さて、ここでは、
それを批判するベテランをA君、その新人をB君とします。
A君はパン作りの達人でした。
焼き色。香り。
焼き上がりの音。
それに聞き耳をたてるほどの職人です。
厨房の中で最高の商品を作ることに誇りを持っていました。
一方、B君はまだ技術では到底かないません。
ですが、彼は厨房にいる時間より、売場にいる時間の方が長いくらいでした。
パンを並べるトレーを、彼は「お皿」と呼んでいました。
朝一番。
あんパン24個。
メロンパン24個。他etc…。
買い回りが進むと、それぞれ12個ずつ減っています。
すると彼は、迷わず一つのお皿にまとめます。
売場がいつ見ても美しく、商品が豊富に見えるように。
誰かに教えられたわけではありません。
お客様の目線で売場を見ていたのです。
陳列をしていると、お客様から声を掛けられます。
「このパンは、どんなパンですか?」
彼は振り返る前から笑顔です。
「いつもありがとうございます。この商品は……です。」
「一度、ご試食されますか。」
そう説明した瞬間、厨房のタイマーが鳴ると、
販売員に、
「こちらのお客様に、この商品をご試食してもらってください」
と大きな声で告げると、
一目散に厨房へ戻る。
また売場へ戻る。
「如何でしたか?」
お客様が
「美味しい、是非いただくわ。」
B君は、満面笑顔で
「ありがとうございます!」
彼は、そんな全力の日々を繰り返していました。
一日の歩数なら、おそらくA君の倍以上歩いていたと思います。
パンを作りながら、彼はお客様を作っていたのです。
一年。
二年。
B君の技術はどんどん上達し、やがてベテランとの差はほとんどなくなりました。
レシピは同じです。
多少見た目が悪い日があっても、それ以上にお客様との信頼関係がありました。
そして、売上はベテランを追い越しました。
さらに彼の姿は、販売スタッフにも影響を与えます。
接客は、マニュアルや言葉以上に行動で伝わるのです。
私はこの眩しい光景を、何度も見てきました。
そして、それが唯一の安堵の場面でした。
商売とは、商品を作ることだけではありません。
固定客様を作ることです。
固定客様は、販売員だけが作るものではありません。
職人でも作れます。
技術で負けても、人では負けない。
だから商売は、誰にでも平等にチャンスがある。
私自身も素人から始まり、35年間その姿を何度も見てきました。
素人がプロに勝つ日。
それは、
技術を超えるほど、お客様に愛された日なのだと思います。
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