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なぜ「ガス人間」で東宝はNetflixと組んだのか。消え始める映像業界の境界線

Netflixのオリジナルシリーズとして公開された「ガス人間」が、様々な形で話題になっています。

「ガス人間」の配信が開始されたのは7月2日ですが、初週から日本のNetflixのシリーズTOP10では1位を獲得。さらに韓国やタイ、フィリピン、台湾、香港などでも週間トップ10入りし、非英語シリーズの週間グローバルランキングで7位を獲得しているのです。

「ガス人間」は、何といっても小栗旬さんをはじめ、蒼井優さんや広瀬すずさんなど豪華キャストが出演しているのも魅力ですし、世界的大ヒット作を手がけたことでも知られるヨン・サンホ氏と「ガンニバル」などのヒット作で知られる片山慎三監督のタッグということでも配信前から注目を集めていました。

ただ、一歩引いて「ガス人間」を観たときに注目したいのが、この作品が東宝とNetflixが初めてタッグを組んで生み出した作品という点です。

今回の「ガス人間」による両社のタッグは、今後の日本の映像業界の境界線の変化を象徴する作品になる可能性がありますので、ご紹介したいと思います。
 

Netflixと東宝はライバル?パートナー?

一般的には、動画配信サービスを運営するNetflixと、劇場映画を主力事業とする東宝といえば、どちらかというとライバルと考える方が多いのではないでしょうか。

特に、コロナ禍においては、ディズニーが自社の映画をDisney+で独占配信したり、劇場公開と同時公開するなどして、ディズニーと大手映画館が冷戦状態になった歴史があることなどを踏まえると、動画配信サービスと映画館はライバルどころか明確に「敵」と考える人も少なくないはずです。

ただ、実はNetflixと東宝は2021年には「東宝スタジオ」内のスタジオ2棟を複数年に渡り賃借することを発表するなど、もう5年以上制作拠点における提携関係にありますし、2026年1月にはさらにその関係を拡大する発表をしています。

また、東宝の過去作品も多数Netflixで配信されており、両社は実は着実に提携関係を深めてきたパートナーであるというのが実態ではあるわけです。
 

Netflixは世界に東宝のIPを広げる?

今回の「ガス人間」については、東宝からヨン・サンホさんにオファーがあり、そのヨン・サンホさんが当初は劇場公開映画として企画していたものの、「ガス人間」の世界観を実写で表現するにはどうしても十分な予算が必要になるため、「Netflixシリーズとして作る」とヨン・サンホさんから東宝に提案して受け入れられたそうです。

上記のインタビューでもヨン・サンホさんが「大きな決断をして下さったと思います。」と発言されているように、東宝の劇場映画の企画をNetflixシリーズに変更するのは非常に大きな決断だったはずで、当時の東宝側でも様々な議論がなされた上での決断だと想像できます。

一方で、東宝としてもNetflixシリーズに挑戦することで、1960年に公開した映画「ガス人間」をリブートし、世界のNetflixユーザーに届けることができるということが魅力的に感じられたことも大きかったと想像されます。

今回、「ガス人間」が日本だけではなく海外でもランク入りする展開になったことで、そうした両社の決断は報われる結果になっていると言えるでしょう。

もちろん、東宝は日本においては映画業界をリードする圧倒的なリーダー的存在ではあるのですが、そうした東宝が、劇場映画だけにこだわるのではなく、「ガス人間」を通じてNetflixシリーズを組み合わせた作品作りに踏み出しているところが、重要なポイントと言えます。
 

映画と配信の相乗効果

実は、既に劇場公開映画と動画配信サービスは、お互いに相乗効果を生む存在であることも明らかになってきています。

象徴的なのはディズニーが、自社の配信サービスであるDisney+を活用することで、「インサイドヘッド2」や「ズートピア2」など、自社のシリーズ作品の興行収入を前作を大きく上回ることに次々と成功するなど、動画配信サービスで積み上げたファンに劇場に足を運んでもらうノウハウを積み上げている点でしょう。

また、最近ではNetflix独占配信映画だった「超かぐや姫!」が、Netflixの配信開始から1ヶ月経ってから期間限定の小規模上映で劇場公開されたにもかかわらず、満席が続出したことで公開が拡大し、累計興行収入27億円超えの異例の大ヒットを記録しています。

もはや明確に動画配信サービスと劇場公開映画の境界線は消え始めています。

東宝にとっても、Netflixにとっても、今回の業界の境界線を越えた提携は、お互いの未来のために重要な提携になる可能性があるわけです。
  

Netflixで世界にファンを増やした「ゴジラー1.0」

実は両社の提携は、既に他の部分では着実に成果を出しています。

象徴的なのは映画「ゴジラー1.0」のNetflixでの躍進です。

映画「ゴジラー1.0」が日本のNetflixで視聴できるようになったのは、今年の5月のことですが、実は日本以外の全世界では2024年6月1日に映画「ゴジラー1.0」の配信が実施され、90カ国で週間ランキングのトップ10入りするなど大ヒットをしていたのです。

この結果、映画「ゴジラー1.0」は2024年上半期の半年間で2740万ビューを叩き出し、2024年上半期のNetflixの映画の50位にランク入りする快挙を成し遂げています。

映画「ゴジラー1.0」は米国でも劇場公開され、約260万人以上を動員し、約5,700万ドルと言う日本の実写映画としては歴史的な大ヒットを記録することに成功していますが、実はNetflixでその10倍以上のファンを増やしている可能性があることになります。

こうしてNetflix経由で「ゴジラ」のファンが世界中に増えていることは、今年の11月に公開予定の「ゴジラー0.0」に間違いなく大きな影響を与えることになるはずです。

ディズニーが、Disney+経由で自社の劇場公開映画に足を運ぶファンを増やすことに成功しているように、東宝もNetflix経由で、「ゴジラー0.0」を映画館で観ようと考えるファンを増やすことに成功している可能性があるわけです。
 

「ガス人間」は「変身人間シリーズ」のリブートにつながるか

そういう意味では、今回の「ガス人間」は、東宝にとっては単なる1シリーズではなく、東宝が1950年代後半から1960年代にかけて制作した「変身人間シリーズ」の世界のファンを増やすきっかけになる可能性がある作品でもありますし、さらに広い意味ではゴジラ以外の日本の特撮映画の世界のファンを増やすきっかけになる可能性がある作品でもあります。

特に、今回の「ガス人間」は、映画「ゴジラー1.0」でアカデミー賞視覚効果賞を受賞した東宝と白組のタッグで、高度なVFXにも挑戦している点も非常に重要です。

このまま「ガス人間」とNetflixが、世界に日本の特撮作品のファンを増やしてくれれば、引き続きNetflixで「変身人間シリーズ」が制作される可能性も高まりますし、そこでファンを増やした後に東宝として新たに劇場公開映画に展開する余地も見えてくることになります。

そういう意味で、今回東宝とNetflixが初めてタッグを組んで生み出した「ガス人間」の反響は、今後の日本の実写映像作品にとって重要な分岐点になる可能性があるわけです。

まずは、引き続き「ガス人間」の世界での反響を楽しみにウォッチしたいと思います。

この記事は2026年7月13日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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徳力基彦|エンタメビジネスウォッチャー ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます。 このnoteでは、日本のエンタメのミライを密かに応援すべく公開メモを綴っています。 XのスペースとYouTubeライブで雑談部屋も開いてますので、よければ是非ご参加下さい。