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かぐや姫が遺した不老不死の薬と、帝が本当に欲しかった「こころの特効薬」

こんにちは。本日は、中秋の名月も近づく美しい月夜の季節にちなんで、誰もが知る『竹取物語』の結末を、作業療法士の視点から読み解いてみたいと思います。

私は、精神科病院に勤めた経験があるのですが…
あなたは腕の良い精神科医とは、どんな先生だと思いますか?

答えは「薬のコントロール(調整)が上手な先生」です。

患者さんの状態に合わせて、的確に薬を調整することが精神科医に最も求められる技の一つです。
けれど揺れやすい人の感情や思考を捉えて薬を処方するのはとても難しいことです。

お薬が効きすぎてぼんやりしてしまったり…
利き目抜群だけど、副作用が強く出てしまったり…
心の専門家である医師たちでさえも、一人の人間の心を救う「たった一つの正解の薬」を見つけることは簡単なことではないのです。

そんな「心と薬」の難しさに想いを馳せるとき、私は決まってある日本の古典物語を思い出します。それが本日取り上げる『竹取物語』です。

🌙実は知られていない、帝とかぐや姫の「三年間の絆」と物語の最後

月へ帰るかぐや姫は、時の権力者である帝(みかど)に「不老不死の薬」を遺していきます。
しかし帝は、かぐや姫がいないのに、長生きして何になるのかと、その薬を駿河の山(現在の富士山)で焼いてしまいました。

私はこの結末を見るたびに思います。
不老不死の薬なんて、帝はこれっぽっちも欲しくなかったのではないかと。

多くの人は、かぐや姫が帝の求婚を冷たく断って月に帰ったと思っています。しかし、実はそうではありません。
二人は三年もの長い間、幾度も熱心に文(お手紙)を交わし合い、心の交流を続けていたのです。
そして彼女が月へ帰るとき、次のような歌を帝に遺しました。

今はとて 天の羽衣着る折ぞ 
        君のあはれを思ひ出でぬる

いよいよ今、月へ帰るために天の羽衣を着るその瞬間に、あなたのことを愛していたと気づきました

という意味ですが、地球の記憶をすべて失ってしまう羽衣を着るまさにその直前に、「あなたをこんなに愛おしく想っている」と言い残し、さらにセットで不老不死の薬を置いていく。
かぐや姫とはなんと罪深い女性なのでしょう。

帝にしてみれば、深く愛した女性が、自分の記憶を失って宇宙へ消えてしまった…
それなのに自分だけがこの地球で、彼女を失った絶望を抱えたまま永遠に生き続けるなんて、これほど残酷な処方箋はありません
だからこそ帝は、その薬を拒絶して焼いたのです。

🌙帝を救う薬はあったのか?

では不老不死以外に帝を救う薬はあったのでしょうか?
また言い換えれば一体どんな薬があれば、帝の傷ついた心は救われたのでしょう?

例えば、かぐや姫との辛い別れの記憶をすべて消し去ってしまうような「記憶喪失になる薬(忘却の薬)」があったとしたら、帝はそれを飲んだでしょうか。
いいえ、きっとそれも帝は燃やしてしまったに違いありません。
なぜなら、あの三年間もの間、何度も文を交わし合って紡いだ愛おしい思い出を、帝が「なかったこと」にしたいはずがないからです。

では、目を閉じればいつでもかぐや姫の姿に会える、「幻覚を見られる薬」はどうでしょうか。
これもやはり、帝は拒んだと思います。
まぼろしを見ている間は満たされても、ふと我に返ったとき、目の前の現実の冷たさに、より一層の寂しさが募ってしまうだけだからです。
現実逃避の薬では、心の傷は本当には癒えません。

では、不老不死でもない。忘却でもない。幻覚でもない。一体何が良いのか?

私は、これしかないと思います。
それは現代でいう「精神安定剤」です。

古典世界の物語への処方箋としては、あまりに現実的な結論かもしれません。
しかし寂しさで胸が張り裂けそうな帝の心をそっと鎮めるためには、何よりのお薬となったはずです。

大切な思い出を消すわけでも、幻に逃げるわけでもない。ただ、この耐え難い胸の痛みを少しだけ和らげ、静かに夜を眠らせてくれる優しいお薬
それこそが、彼が真に求めていた処方箋だったのではないかと私は思います。

🌙あなたが思い浮かべた薬はなんですか?

現代の精神科医が日々悩んでいるように、目に見えない「こころの傷」にピッタリ合う薬を見つけるのは本当に難しいものです。

ところであなたは、お話の途中で
「帝にはどんな薬があればよかったのだろう」と想像されましたか?

私の思う「精神安定剤」のように現実的な薬を思い浮かべた人もいれば、全く違う「新しい恋が始まる薬」や「笑い薬」を思い浮かべた人もいるかもしれません。

そして、いまあなたが頭の中で「帝にはこんな薬があればよかったのに」と思い浮かべたその薬(アプローチ)こそが、あなた自身が失恋したとき、あるいは大切な思いが叶わなかったときに、あなた自身の心を救ってくれる「こころの特効薬」なのではないか、と思うのです。

秋の夜長、美しい月を見上げながら、自分なら帝にどんな薬を調合してあげるか、少しだけ想像してみてください。
そこに、あなた自身も気づいていない「心の癒やし方」という、自分自身の心の鏡が隠されているかもしれません。

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