これで本当に良いの?内閣府の新景気指数
7月17日の日本経済新聞朝刊に掲載された、内閣府の新景気指数が本日午後に開催された景気動向指数研究会においてお披露目されました。もともと、内閣府が毎月算出している景気動向指数には、鉱工業生産、つまり財の生産動向の影響を受けやすいという批判がありました。その批判に対応して景気動向指数は、指数の入れ替えなどをしてきたのですが(その議論を行うワーキンググループ(WG)に私自身、何度か参加させていただいております)、新指数は全く新しい発想で作られています。
私自身、この新指数の議論にちょこっと参加して批判もしてきたのですが、情報オープンになったので、「これで良いのか」という点について思うところを書かせていただきます。
景気動向指数研究会とは?
今回、新指標がお披露目された場が内閣府の景気動向指数研究会です。以下のリンク内の資料にある定義によれば、「幅広い観点から景気転換点の設定や景気動向指数のパフォーマンス等について議論するため、経済社会総合研究所長の研究会として開催されている」とあります。この景気動向指数研究会は日本の景気がいつ山だったのか谷だったのか判定したり、景気動向指数の中身について議論したりしています(ちなみに、私めはこの研究会から景気動向指数の改定に関する検討を依頼されたWGに何度か参加させていただいております)。
経済の総体的な量(総体量)の変動って何?
もともとの景気動向指数は様々な経済データの変動の共通部分を抜き出そうという発想で作られていました。ですから、一致指数に選ばれている10の指標の過半数が下向きになれば景気後退、上向きになれば景気拡張という判断をし、その転換点が景気の谷や山になってきたわけです(ヒストリカルDIの話を雑に説明して、専門家の皆さん、スミマセン)。
それに対し、今回の新指標は下記リンクの資料の3ページにあるように「経済の総体的な量(総体量)の変動を反映」させるのがポイントなんだそうです。私はこの総体量というのが何を指しているのか最後まで十分に理解できなかったのですが、次の「生産(供給)、分配(所得)、支出(需要)の三面からそれぞれ捉える」というフレーズからGDPみたいなものかな?と理解しました。
注目されるであろう8頁の図
マスコミが最も注目するのは下記のリンクの8頁の図でしょうね。今回の新指数と実質GDP、そして現在の景気動向指数(CI一致指数)を並べています。現在の景気動向指数をみると2018年10月に景気が山をつけて後退局面に入ったというのは納得なのですが、実質GDPや新指数は消費税率が10%に引き上げられた2019年10月までは明確な低下を示していません。むしろ、新指標では上昇しているようにも見えます。
2012年11月を谷として始まった戦後16番目の景気拡張局面は、”アベノミクス景気”とも称されましたが、残念ながら戦後最長を更新できませんでした。新指標なら更新していたという話になるのでしょうか?であれば、ほとんど下向きになっていない2012年3月から11月の短い景気後退は存在せず、リーマン・ショックから緩やかな景気拡大が続いていて戦後最長になったという話でも良さそうな気もします。
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/220719shiryou2.pdf
三面から捉える必然性はどこにあるの?
さて、再び8頁の図を見ましょう。よく見ると、2017年あたりから新指標は実質GDPから上放れしています。
新指標は生産面、分配面、支出面の3面の指数を合成しているので、それぞれの指数を見てみましょう。9頁に出ています。17年から大きく上方トレンドになっているのは分配面です。この分配面を新指数に入れるべきではないのではないかと、私はWGで最後まで言い続けていました。議事録にも残して欲しいと言いましたが、公開されるかどうかはわかりません。
この分配面の指数は2つの点で問題があります。1つは、名目値と実質値の混在です。名目値とは私たちが生活で実感している金額(例えば、「バイト代5万円もらった」とか)なのに対し、実質は物価変動の影響を取り除いたものです。14頁にあるように、分配面の指標は私たちの給料総額にあたる雇用者所得については実質化されているのに、企業の営業利益は実質化されていません。従来の景気動向指数にも名目と実質の混在はあり、私はできる限り解消すべきと申しあげてきました。
もう1つの問題は、営業利益は四半期データであり、「線形補間」という仕組みで月次化していることです。営業利益はもともと景気動向指数に含まれていましたが、他の9つの経済データが月次で得られるのに対し、営業利益は加工して月次化していることに批判もありました。
そもそも、生産面、分配面、支出面の3面から捉えるというのはGDPの三面等価の話がベースになっていると推察されます。しかし、現実のGDPの推計では分配面のGDPは生産面のGDPに等しいとみなして推計され、支出面と生産面のズレは「統計上の不突合」として処理されています。しかも、年単位のデータで、です。
さらに言えば、現在のGDP統計速報(四半期ごとに公表されるやつです)は、生産面と支出面の両面の情報を用いて推計されています。GDPみたいなものを作るなら生産面と支出面だけ使えばいいのではないかと何度も主張しましたが、私のような下っ端の言葉は届きませんでした(涙)。
名目と実質の混在は生産面にも
名目と実質の混在はほかにもあります。生産面の内訳だと「建設出来高(民間及び公共)」のみ名目です。17頁の図をみると他の指数(鉱工業生産指数と第三次産業活動指数)に比べて建設出来高の上方トレンドが目につきます。建設工事のコストが上がっていることも影響してます。民間建設出来高は支出面にも入っています。参考指数として算出を開始するのであれば、このあたりはきちんとしておいた方が良いのではないでしょうか?
建設出来高を実質化して生産面だけでいいのでは?
私自身は、こんなにたくさんの指数を作らなくても(現場も大変でしょう)、生産面だけでいいのではないかと思っております。ただし、建設出来高は実質化が必要でしょう。えらい先生方が決められたことは覆らないとは思いますが、参考指数である間にきちんと検討を進めていただきたいですね。私は意見を求められればいつでもお答えするつもりですが、この記事を書いたことで出禁でしょう(笑)。
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