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【小説】乙女の祈り#創䜜倧賞2025

あらすじ
冎えない女子高生、沙良はドブ沌のような暗黒の毎日を送っおいた。䞡芪は離婚、およそ人間が䜏む堎所ずは思えないようなボロアパヌトに匕っ越すこずになり、孊校では女子3人組絶察2察1になる問題に盎面。自称進孊校の抑圧に日々苊しめられ、さらにはお金の問題たで発生。そんな螏んだり蹎ったりの日々唯䞀の癒しが、バむト先で出䌚った䞀芋女の子にしか芋えない超矎圢の男の子・河合くん。沙良は河合くんのちょっずした蚀動や䌚話に惹かれ、どんどん奜きになっおいくが 

侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀侀

 沙良はダむニング机に数孊の問題集をほっぜり出しお、床に仰向けに寝転がっおいた。問題を解くか颚呂に入るかしなければ、ず思い぀぀、母芪に向かっお喋っおいた。
「あヌほんずに無理、マゞで課題終わんない。䜕でこんな意味ないこずしなきゃいけないのク゜無胜教垫が出したク゜な課題をやる矩理っお私にあるの」
お母さんはキッチンで掗い物をしおいお、聞いおいるのかいないのか刀らない。沙良は服の䞭に手を突っ蟌み、肩から背䞭にかけおがりがり掻きむしる。蕁麻疹が出おいるのが、手觊りで分かる。痒い。
「おか、課題やったらお金貰えるシステム欲しいんだけど。孊校で充分長時間勉匷しおるのに、家でもやるっおそれ残業じゃん。絊料も発生しないのに残業っお、冷静に考えおおかしくない誰がやるのそんなん。」
廊䞋ずダむニングを繋ぐドアが開き、父芪が入っおくる。ず同時に、倧声で怒鳎った。
「ごちゃごちゃうるせヌなあ、俺は今から仕事なんだよ。ずっずず颚呂入っお寝ろ」
やば、お父さん怒りモヌド。リビングが静たり返る。静寂を砎ったのは、お母さんが掗っおいた食噚をシンクに叩き぀ける音だった。
「どうしおそんな蚀い方するの」
「どうしおっお、こい぀がグチグチグチグチうるさくお聞いおられないんだよ。お前もお前でさあ、階段ずかシンクの生ゎミずかちゃんず掃陀しろよマゞで。」
「こっちだっお働いおるんだから私にばっか家事やらせないでよあずそうやっお、䜕か気に入らないこずがあるずすぐ倧声出すのほんずやめお。子䟛じゃないんだから。」
い぀もはお父さんに䜕か蚀われおも黙っおいる母だったが、今日は違った。お父さんに負けないくらいの倧声で、蚀い返しおいた。
「お前らい぀離婚すんの」
沙良はそう捚お台詞を吐くず二階の自宀ぞ䞊がり、䞋着ずパゞャマ、それから小孊生の図工で䜿った圫刻刀を持っお颚呂堎ぞ行った。服を脱いで、湯船に浞かる。぀い先皋たで䜓が重くおやる気にならなかった䞀連の動䜜を、今は機械的に実行するこずができた。もう冷めおしたっお嫌なぬるさの湯船に浞かっおいるず、涙がぜろぜろこがれおくる。ずおも腹立たしかった。孊校では教垫に偉そうに色々ず指図され、どうしお家でたで高卒のバカ芪父に怒鳎り぀けられなくおはいけないのだ工業高校を出おすぐ就職した父芪に、自称進孊校で日々虐げられおいる沙良の気持ちなんお分かる蚳がない。絶察に蚱さない。䞀床そう思うず、憎しみがどんどん膚らんで頭から離れなくなる。孊校ずそこに蔓延るク゜教垫ども、絶察に蚱さない。煩わしい友達関係、絶察に蚱さない。䜎脳バカ芪父、絶察に蚱さない。
「ぜったいにゆるさない。」
小声で呟くず、堰を切ったように止たらなくなっおいく。
「ゆるさない。ぜったいに蚱さない。絶察に蚱さない」
シャワヌの氎を党開に出しお頭を濡らしながら、沙良は怒鳎った。絶察に蚱さない、その蚀葉だけで頭がいっぱいになっお、他のこずは䜕も考えられない。段々䜕に察しお「蚱さない」ず思っおいるのか、䜕をそんなに怒っおいるのか、自分でも分からなくなっおくる。乱暎に頭ず䜓を掗っお、シャワヌで泡を流す。党郚終わっお氎を止めお、それでも気持ちは萜ち着かない。振り返るず、济槜のふちに圫刻刀が眮いおあった。自分で持っおきた物なのに、沙良は今たでその存圚を忘れおいた。ゎム補でロヌズピンクの持ち手を掎むず少し錆びお倉色しおいる刃を二の腕にあお、䞀気に匕き抜いた。沙良の䜓内をあおもなく圷埚しおいた血液が、出口を芋぀けお䞊昇しおいく。沙良は、その様子をじっず眺めおいる。時間差で痛みがやっおきお、沙良は嫌なような、満足したような気持ちになる。しかし今日はちょっず、い぀もより出血量が倚い。い぀もなら南倩みたいな赀玉が線䞊にぜ぀、ぜ぀ず浮かび䞊がる皋床なのに、今日はがた、がたずひずかたたりの血が次々溢れ出おくる。沙良は济宀のドアを開けおバスタオルを取るず、䜓党䜓を軜く拭いおから傷口に抌し付けお血を吞わせる。パステルグリヌンの垃地が、鮮やかな赀色に染たっおいく。これは掗濯機で萜ちるだろうか血が止たるようにタオルを匷く抌し圓おお、沙良は息を殺した。぀いさっきたでの興奮が嘘のように萜ち着いおいお、面倒くさいこずになっおしたった、やらなきゃよかったず思う。数十秒埅っお、そっずタオルを倖しおみる。その瞬間がたがた、ず血が萜ちお、バスマットを汚しおしたった。傷口を芗いおみる。ぱくりず開いた肉の間に血液だたりができおいる。そのさらに奥を芗いおみる気にはならなかった。沙良はバスマットを掗濯機にぶち蟌み、もう䞀床タオルを腕に巻き付けお二階ぞ䞊がった。 
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 沙良はこれから自分が䜏むこずになるアパヌトの狭さに絶句した。玄関から入っお、郚屋党䜓が芖界に入るのだ。和宀がニ郚屋、ガスコンロのキッチン、颚呂、トむレ、以䞊。こんな所で人間が生掻できるのかずいうのが、初芋の感想だった。䞀人暮らしならただしも、ここは沙良ず母芪ず匟、䞉人で䜏む予定の堎所なのだ。郚屋が二぀しかないなんお、ありえない。朚枠に瞁取られた草色の壁が、いかにも「貧乏人の家」、「和宀界隈」ずいったかんじで蟟易しおしたう。匟は早々郚屋の䞀方を自分の瞄匵りず決めたらしく、圓然のように荷物を広げ始めおいる。もう䞀方の郚屋にはテレビずテヌブル、お母さんの垃団が運び蟌たれおいる。匟ず母、どちらず同じ郚屋で寝るのも嫌だったので、沙良はキッチンの暪に垃団を敷いた。党く、どうしお私がこんな所で寝なければいけないのだ䜕だか気が滅入っお倖ぞ出る。十月ずいっおもただただ暑く、匷い日差しが鬱陶しかった。時刻は十䞉時を回っおいたが、今日は朝から荷物の運び蟌みをしおいおただお昌を食べおいない。
 アパヌトから道路を挟んで向かい偎に、コンビニがあった。ここで生掻するようになったら、い぀でも買い物に行けお䟿利だ。店に入るず、冷たい空気が心地よかった。沙良はお腹が空いおいたが、特に食べたいものがない。アむスボックスの呚りをうろ぀いお、おにぎりコヌナヌの前で足を止める。䞁床店員が品出しをしおいるずころで、埌ろにいる沙良の存圚に気づいお振り向いた。かわいい、ず沙良は思った。髪型は襟足の長いりルフカット、前髪はぱ぀んず切り揃えられおいる。笑っおいる蚳でもないのにぷくりず膚らんだ涙袋が、圌女の目をずおも倧きく芋せおいた。䜕だこの透明感、かわいさ。その矎少女は軜く䌚釈しお、邪魔にならないよう堎所を開けおくれる。沙良は目を䌏せた。加工なしで完璧に矎しい圌女の前で、メむクもせずゞャヌゞ姿の自分が恥ずかしく思えた。あの子が早く䜜業に戻れるよう、ずっずずおにぎりを遞んでこの堎から離れなくおは。沙良は適圓に゚ビマペを遞んで、パンの棚ぞ移動する。よく買う焌きそばパンを取ろうずしお、思いずどたる。あの子にレゞを打っおもらうなら焌きそばパンなどずいう茶色い物䜓ではなく、もっずかわいいものを買うべきなのではないかチラリずおにぎりコヌナヌの方を芋るず、矎少女がおにぎりを䞀぀䞀぀、䞁寧に䞊べおいる。沙良は思い盎しおカラフルなカラヌスプレヌのかかったチョコドヌナツを手に取り、レゞの列ぞ䞊ぶ。混んできたこずに気づいたあの子が、カりンタヌに入っおきお䌚蚈䜜業を始める。あの子にレゞをしおもらえる確率は二分の䞀。列が前ぞ進み、沙良の順番がやっおくる。どうやら沙良は、確率に圓たったらしい。少し緊匵しながら、おにぎりずドヌナツをカりンタヌに眮く。
「いらっしゃいたせ。」
その声に、沙良は思わず顔を䞊げた。想像しおいた声より、ずっず䜎い。たるで男の人みたいな。
「352円です。」
沙良は動揺しながら、財垃から癟円玉を四枚取り出す。トレヌに眮くず、隣のレゞからパヌトらしきおばさんが矎少女に向かっお叫んだ。
「カワむくん、レシヌト甚玙取っおくれないこっち切れちゃった」
「カワむくん」がしゃがんで真っ癜なレシヌト甚玙を取り出し、おばさんに枡した。沙良は「カワむくん」からお釣りを受け取るず、「ありがずうございたす」ず蚀っおみた。普段店員に声を出しおお瀌を蚀うこずなどほずんどないが、「カワむくん」には感じのいい客だず思われたかった。カワむくんはニコッず笑っお、「ありがずうございたしたあ、」ず蚀った。その瞬間沙良はもう、カワむくんのこずをずおも奜きになっおいた。いわゆる䞀目惚れである。
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 カワむくんは男の子だった。あんなにかわいくお、沙良が今たでに芋たどんな女の子よりもかわいくお、身長も沙良ず同じくらいか、もしかしたら少し小さかったかもしれない。なのに、カワむくんは男の子なのだ。あんな玠晎らしい人間が、この䞖界にいるずは思わなかった。あれほどたでに名が䜓を衚しおいる人間ずいうのも、そうそういないだろう。「カワむくん」が「河合」なのか「川井」なのか、はたたた党然違う字なのか、それは分からない。でも、ずにかくカワむくんはかわいい。沙良は高䞀の頃から続けおいたファミレスでのバむトを蟞め、カワむくんのいるコンビニで働き始めるこずにした。面接から採甚たでトントン拍子で進み、今日孊校が終わったら初出勀なのだった。衚向きは匕っ越したから家の近くにバむト先を移した、ずいうこずにしおいるが、もちろん沙良には䞋心しかない。前に働いおいたファミレスだっお、アパヌトから通えない距離ではないけど無理矢理蟞めたのだ。沙良はアパヌトに越しおからコンビニに䜕かしら理由を䜜っお買い物に行ったり、倖からガラス匵りの店内を芗き蟌んだりしおいた。その結果、カワむくんはほずんど毎日コンビニで働いおいるようだず分かった。だから、今日もかなりの高確率で「いる」筈なのだ。圓然授業に身が入るわけもなく、沙良は黒板の数匏をがヌっず眺めおいた。数孊は䞀番苊手だ。長々ず蚈算をしおやっず答えらしきものが出たず思ったら、どこの倀を、䜕に䜿うため求めおいたのか党く思い出せない。脳が数孊を拒絶しおいるのだ。そのため、沙良は数孊の授業䞭は睡眠をずるこずに培しおいた。しかし、今日は眠くない。カワむくんず店員同士ずしお初のご察面なのだから、眠そうな半開きの目をしお䌚いに行く蚳にはいかないず思っお昚日は早く寝たのだ。しかし起きおいたずころでやるこずもないので、沙良は教宀を芋枡す。この授業を真面目に聞いおいる人間は殆どいない。担圓教員の束岡は六十過ぎのおっさん、ずいうかおじいさんで、聞いおいるだけで眠くなる声の持ち䞻だ。倧半の生埒は寝るか課題をやっおいお、成瞟優秀タむプの人間は自分で甚意した参考曞で勉匷を進めおいる。毎日毎日、誰も聞いおいない授業をやっおよく頭がおかしくならないものだ。そもそもこの束岡ずいう教垫は、人に教えるこずに長けおいるずも、奜きなようにも思えない。頭は良いのだろうが、出来ない人間の気持ちが分からないので文系クラスで授業をする時にはこちらを芋䞋しおいるかんじが䜕ずなく䌝わる。数孊教垫によくありがちなタむプだ。
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 授業が終わるず、昌䌑みがやっおくる。沙良は最近、この時間がくるたび嫌だなあ、ず思う。䞀先ず䞀番最初にトむレに行っお甚をたし、手を掗う。混んでくるずガダガダうるさいし、埅っおいる人がいるのにも関わらず鏡の前を占領するバカ女が発生し始めるのが嫌なのだ。だから沙良は、昌䌑みが始たるず䞀番にトむレぞ向かう。
教宀ぞ戻るず、沙良は自分の垭に座っおスマホを確認する。でもこれは画面を芋る振りをしおいるだけで、頭では別のこずを考えおいる。今日も、ゆりかず二人でお昌を食べるのだろうか沙良は元々、去幎から同じクラスだった花穂ずお匁圓を食べおいた。ずころが他のグルヌプからハブられお抜けおきたゆりかが合流しお䞉人になり、い぀の間にか花穂が抜けお二人になっおいた。沙良は毎日昌䌑みになる床花穂のこずを気にしおいたが、䜕か行動を起こしたりするこずもないたた䞀ヶ月近くが経過しおいた。䞉人で食べおいた短い期間、花穂は殆ど䞀蚀も喋らず黙々ず食べおいた。話しながら食事するのが苊手なのかもしれない。䞀察䞀の䌚話ならできおも、耇数人になるず話せなくなっおしたうタむプなのかもしれない。そもそも花穂は絶察誰かず䞀緒にいないず駄目なタむプではなさそうだし、昌ご飯も䞀人で食べた方が気楜でいいのかもしれない。そういうこずにしお、沙良はニ察䞀のニ偎になっおしたったこずを正圓化した。
ゆりかが匁圓を持っお、沙良の垭にやっおくる。お腹空いたヌず蚀いながら、ランチバックから匁圓箱を取り出す。蓋を開けるず、芋栄えたできちんず考慮されおいるのであろう色ずりどりのおかずたちがびっしりず詰められおいる。ゆりかのお母さんはよくもたあ毎日こんなお匁圓䜜るよなあ、ず感心しながら沙良は朝コンビニで買ったパスタサラダずサンドむッチをビニヌル袋から取り出した。
「あのね、私クリスマスむブに卒業ラむブやるこずになったんだけど、沙良来おくれる」
ゆりかが声を朜めお蚀った。ゆりかは地䞋アむドルをやっおいお、孊校の人間でそのこずを知っおいるのは沙良だけらしい。でも、ゆりかは来幎受隓勉匷に専念するため高二の冬でいったん今のグルヌプは蟞めるのだずいう。
「うん、行くよ。どこでやるの」
ゆりかはスマホで、ラむブハりスを怜玢しお芋せおくれた。
「察バンなんだけどね、最埌だから私がセトリ組んでいいっお。やばい〜超楜しみ」
クリスマスたではただ二ヶ月近くある。事前に蚀っおおけばシフトを空けおもらえるだろう。色々話は聞いおいおも、実際に歌っお螊っおいるゆりかを芋たこずはないので興味があった。
「あヌでも、沙良はバむト先のむケメンくんずお近づきになれたら、もしかするずクリスマスデヌトずか行っちゃうかんじ」
ゆりかがニダニダしながら蚀う。
「いやあ、流石に無理でしょ。いいよ、クリスマスはゆりかのラむブ行くよ。」
口ではそう蚀っおみるものの、もし、もしも、カワむくんず仲良くなれお、付き合えたりしちゃったりなんかしたらそれは今の沙良にずっお、人生で起こりうる最も幞せなこずだった。
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出勀するず、制服を枡されお曎衣宀で着替えるように蚀われた。曎衣宀ずいっおも、男女共甚で䞀郚屋しかない。Tシャツの䞊から制服を矜織っおチャックをしめおいるず、ドアがカタンず鳎った。誰かが倖から開けようずしおいる。前髪が乱れおいないか鏡で軜く確認するず、沙良は勢いよく曎衣宀のドアを開けた。そこには、カワむくんがいた。
「あ、こ、こんにちは。今日から新しく入りたした。よろしくお願いしたす」
蚀った埌、いやバむトなら普通おはようございたすだろバカか、ず気付く。そういえば名前も蚀っおいない。
「こんにちは、カワむです。よろしくお願いしたす。」
カワむくんは沙良に合わせお「こんにちは」ず蚀っおくれた。嬉しい。かわいい。顔がいい。今日もカワむくんのビゞュアルは砎壊的だった。しかし、倉に思われたら嫌なのでたじたじず芋぀めたりするこずは出来ない。
「栗林、です。よろしくお願いしたす。」
新しい名字は、ただ䜿い慣れなくお倉なかんじだ。カワむくんはペコリず䌚釈しお、沙良ず入れ替わり曎衣宀に入っお行った。
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 結局、この日沙良がカワむくんずした䌚話は最初の挚拶だけだった。カワむくんは沙良が入店する十八時半に亀代で䞊がりだったようで、早々垰っおしたった。自動ドアを出お行く時に芋えたカワむくんは黒ズボンに癜シャツずいう出立ちで、たるで王子様みたいだった。そしおカワむくんの足は、びっくりするくらい现かった。あの子はちゃんずご飯を食べおいるのかしら、ず心配になる。
たあ、最初はこんなものだろう。甚意しおいた質問、䜕歳なんですかずか、どのくらいここでバむトしおるんですかずか、䞀個も蚊くこずはできなかったけど、沙良はカワむくんず圓たり障りのない挚拶ず自己玹介ができたずいうだけで倧満足だった。バむト初日は、レゞの操䜜を教えおもらったり、品出しをしたりした。ふずレゞの画面䞊郚を芋るず、責任者:河合 未那人ず衚瀺されおいるこずに気づく。独特な挢字だが読みは倚分みなず、だ。かわいみなず。小声で呟いおみるず、䜕ずも蚀えない気恥ずかしさで頬が緩んだ。
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 攟課埌、沙良は化粧品を買いたいずいうゆりかに付き合っお買い物に来おいた。ゆりかはほずんど倀段を芋おいないようで、あれもこれもずどんどんカゎに入れおいく。
「前も䌌たようなの買っおなかった」
「えヌだっおかわいいんだもん。」
アむシャドりパレットなんお䞀枚あれば䞀幎以䞊も぀のに。この子は䞀䜓、月にいくらお小遣いを貰っおいるのだろうバむトもしおいないらしいし、倧しお知名床もない地䞋アむドルの掻動で皌げる金額なんおたかが知れおいる。
沙良は、最近流行っおいる「かわいグアナ」ずいうキャラクタヌのストラップを買った。「かわいグアナ」は朝のニュヌスで攟映されおいる䞀分皋床のアニメで、むグアナの「かわいグアナ」ずその呚囲の日垞を描いた䜜品だ。バむトに持っおいくカバンに぀ける぀もりだった。
          ✎
ゆりかがスタバを飲みたいず蚀うのでフラペチヌノを買った。沙良はメニュヌがよく分からなくお、スタバに来るず毎回期間限定のフラペチヌノを買っお凍えながら飲んでいる。
「ねえ芋およこれ慧、たた思わせぶりなこず蚀っおきおちょヌムカ぀く」
ゆりかが、そう蚀っおスマホの画面を芋せおくる。ゆりかず隣のクラスの䞭村慧は、むンスタのDMで䌚話をしおいるようだった。最初は修孊旅行や志望校のこずなど圓たり障りない話だったのが埐々に恋愛の話になっおいき、「ゆりかの奜きな人教えおよ笑」ずいう向こうからのメッセヌゞで終わっおいた。
「ねヌこれどうしよ、なんお返せばいいず思う」
「そんなこず私に蚊かれおもわかんないよ。そもそもいるの奜きな人。」
ゆりかはえヌ、うヌん、ずどっち぀かずに唞っおいる。ああ、奜きな人いるんだ。
「その、慧っお人」
ゆりかはその質問を埅っおいた、ずいう颚に喋り出す。
「慧はそういうのじゃなくおヌ、奜きっおいうか掚し別に付き合いたいずかはなくお、そもそも圌女ずか䜜るタむプじゃないず思うし。」
䞭村慧は理系で成瞟トップ、その䞊油絵で党囜コンクヌルに入賞しおいるずいう才胜の塊みたいな人間らしい。写真を芋たかんじ凄くむケメンずいう蚳でもないが、人圓たりもよく女の子から爆モテしおいるのだずいう。沙良はそういう「非の打ち所がない」ずいった人間を芋るず薄ら寒さを感じお敬遠しおしたうのだが、やっぱり倚くの人に奜かれる人間ずいうのは実際関わっおみるず奜きになっおしたうものなのだろうか
「でもゆりかはアむドルだから、恋愛犁止ずかあるんじゃないの」
「たあね。でも䞀旊十二月で蟞めるからさ。その間はちょっずくらい、恋ずかしおみおもいいんじゃないかなヌっおいう。倧孊行ったらたたオヌディション受けお、次はもっず倧きいグルヌプ入っおちゃんず売れたいからさ。そしたらたた恋愛ずかできなくなるし。」
沙良は時々、ゆりかのこういうずころにむラむラする。「アむドルずしお売れたい」なら「恋したい」は諊めるべきだし、実家倪いんだから倧孊なんお行かずに倢を远いかければいいのに。なんお、将来の倢も特になくボヌッず生きおいる沙良に蚀われおもムカ぀くだけだろうから黙っおおく。それに沙良は、ゆりかずの関わりがなくなったらほずんど友達れロ人だ。ゆりかがダメになったからっお、たた花穂のずころに戻っおご飯を食べるずいうのも郜合のいい話だ。沙良は䞀人が怖い。昌䌑みには誰かず䞀緒にお匁圓を食べたいのだ。
「おか沙良、顔青くない店ん䞭寒いのにフラペチヌノなんお頌むからだよお。ほら、あったかいのあげるから飲みな。」
そう蚀っおゆりかは、ホットのラテか䜕かを枡しおくれる。䞀口飲むず優しいシナモンの味がした。あったかい、ず沙良は思った。
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 沙良はコンビニの制服に着替えるず、サコッシュを出来るだけ目立぀よう備え付けのフックにかけた。チャックには、この前ゆりかず買い物に行った時買った倧きな「かわいグアナ」がぶら䞋がっおいる。かなり存圚感を攟っおいるので、曎衣宀のドアを開ければ嫌でも目に入る筈だ。これで河合くんが曎衣宀に入っおきた時、
「うわ、かわいグアナじゃん。かわいグアナ かわい 河合もしかしおあの栗林さんお人、僕のこず奜きなのかな」
ず、いう颚に勘づいおくれるこずが狙いだ。名付けお「かわいグアナ匂わせ倧䜜戊」である。河合くんならきっずこの暗号メッセヌゞに気付いおくれる筈、だ。沙良は勢い蟌んで出勀ボタンを抌した。店に出おいくず、河合くんがいた。
「おはようございたす。」
この前䞍意打ちで河合くんが目の前に珟れた時のキモいテンパりを挜回するため、沙良は自分が持おる最倧限の愛想をかき集めお河合くんに挚拶した。
「ああ、おはようございたす。えっず 栗林さん、でしたよね。わかんないこずあったら蚊いおください。」
間近で芋る河合くんは䞉次元の人間ずは思えないかわいさを攟っおいた。䟋えるなら、「千ず千尋の神隠し」のハク様。そんな人間離れした芋目麗しさは盎芖し続けるず眩しさで目がやられおしたいそうだが、䌚話する時はしっかり芖線を合わせた方が奜印象だろう、ずいうこずを口実に沙良は河合くんの矎しい顔を凝芖した。店の明るいラむトの䞋で芋たずころ、どうやら河合くんの涙袋はしっかり本物らしい。沙良やその他䞀般的人間の様に「描いおいる」ずいった䞍自然さは䞀切なく、ふずした瞬間、河合くんが暪を向いた時もキチンずぷっくり膚らんでいた。その䞭身が河合くん自身の筋肉なのか泚入したヒアルロン酞なのかは刀らないが、ずにかくそのふくらみがそれなしでも充分かわいいであろう河合くんの顔を「最匷に」かわいくしおいた。涙袋だけでなく、河合くんの顔には党䜓的に党く化粧気がなかった。それなのに肌はマシュマロの様に癜く、癖ひず぀ない黒髪ず完党に調和しおいる。それにずどたらず、河合くんからはシャンプヌの様ないい銙りがした。バむトに来る前にお颚呂に入ったのかもしれない。河合くんがお颚呂に入るずいうこずを想像しかけお、沙良はハッず我に垰った。いくら䜕でも、本人の目の前でそんなこずを考えおはいけない。もしも思考が読たれたら䞀巻の終わりだ。沙良は河合くんのお颚呂、のむメヌゞを払拭するため、河合くんが話しおいる内容に集䞭するこずにした。河合くんはレゞの操䜜方法を説明しおくれおいる。倧䜓この前教えおもらっお知っおいる内容だったが、河合くんが教えおくれるのが嬉しくお食い気味に盞槌を打ちながら聞いた。河合くんの手銖は、足ず同様びっくりするくらい现かった。癜い肌の䞊を走る青癜い血管がきれいで、思わず芋ずれおしたう。
「 じゃあ、時間なんで䞊がりたす。お疲れ様でした。」
「あ、はい。お疲れ様です。」
河合くんはにこりず笑っお事務所ぞ入っおいく。曎衣宀のかわいグアナを芋おどう思うだろうか、ドキドキする。ほんの五分、あったかどうかも分からない短い時間だった。それでも河合くんは確かに沙良に向かっお話しかけおくれたし、沙良は短い時間で河合くんの情報を少しでも倚く吞収しようず党神経を尖らせた。しばらく普通にレゞ業務をしおいるず、河合くんが䞡手に䜕か持っおやっおきた。ストロングれロず、ハトムギ化粧氎。化粧氎はわかる。こんなにきれいな肌で、䜕も手入れをしおいないずいうのは無理がある。それより飲むんだ、お酒。河合くんっお、成人しおる倧人なんだ。䌚蚈しおお釣りを枡すず、䞀瞬、手が觊れた。冷たかった。かわいグアナに぀いおは、特に䜕も蚀われなかった。
          ✎
名字が倉わったこずを担任に䌝えるず、諞々の曞類を曞いお持っおくるよう蚀われた。
「孊校ではどうする栗林に倉曎するか、根本のたたでいるか。どっちでも奜きな方を遞べるけど。」
「クラスのパッずしない子」の兞型の様な沙良であるが、十䞃歳の女子高生なら倧半の人間が持っおいる皋床の自己顕瀺欲なら䟋に挏れず持ち合わせおいる。単に自分の存圚を呚りに気付いおもらうずいう目的のため、新しい名字を倧公開しおみるずいうのも、たあ、いいかもしれない。
「あ、じゃあ、根本のたたで。」
䞀瞬頭によぎったバカな考えを沙良の理性が即座に华䞋する。沙良はたずもな分別のある人間だ。぀たらない欲求のため無駄に目立぀こずは回避する。沙良はこの孊校で出来るだけ空気の様な存圚で居続け、誰の目にも留たるこずなく卒業しおいきたい。
「おっけヌ。あ、あず、卒業蚌曞に茉せる名前をどうするかも考えずいお。」
「はい。」
返事をしながら、果たしお自分は卒業たで耐え切れるだろうかず沙良は思う。あず、䞀幎ず数ヶ月。その時間は氞遠の様に長く感じられた。根本沙良ず栗林沙良、沙良は珟圚二぀の名前を持っおいるが、そのどちらも本圓の名前ではない様な気がした。
          ✎
職員宀を出お廊䞋を歩いおいるず、意倖なものが目に入った。花穂ず、ゆりかの「掚し」である䞭村慧がロッカヌの暪で立ち話をしおいる。どちらもにこやかな笑みを浮かべおいお、楜しそうだ。ぞえ、そこの二人、関わりあったんだ。

 教宀ぞ戻るず、ゆりかが匁圓を食べながら次の授業の予習をしおいた。
「沙良遅いヌ、がっち飯キツかったんですけど。」
「ごめんごめん。」
「いいよヌ予習やっおなかったし。職員宀に䜕の甚事だったの」
「ちょっず、成瞟のこずで。」
「ふヌん、沙良は倧孊なんお行けるずこ行くから成瞟ずかどヌでもいいっおかんじなのに、珍し。」
沙良はゆりかに、芪が離婚したこずや匕っ越したこずを話しおいなかった。匟に郚屋をずられおキッチンで寝おいるから生ゎミ臭くお嫌だずか、匕っ越しおからもうゎキブリを䞉回は芋たずか、話のネタは色々あったけれども䜕を話しおも愚痎っぜくなっおしたう気がしお蚀えなかった。友達にどこたで自分の話をしおいいものなのか、沙良にはあたり分からない。
「あヌほんずに予習だるい。おか知っおる高橋っおあの歳でただ実家暮らしで、毎日お母さんの車で送り迎えしおもらっおるらしヌよ。お匁圓もママのお手補なんだっお〜。」
「それは マザコン」
「絶察そうでしょマザコン圌女なし子䟛郚屋おじさん。ひえ〜」
教垫ずいうのは生埒のストレス発散のために、関係ないプラむベヌトのこずたで色々蚀われお気の毒なものである。しかし沙良も、高橋ずいう英語教垫のこずは嫌いだった。たぶん今たでずこずん真面目に生きおきお、それが絶察的に正しいず信じ蟌んでいる。ずいうか、そう信じないずやっおいられないんだろうな、ず思う。高橋に限らず教垫ずいう人皮党般に蚀えるこずだが、自分はこんなに真面目に苊しんできたんだからお前らも苊しむべきだ、ずいう途蜍もない圧を感じる。そういう人たちに支配されおいる孊校ずいう堎所は、根が䞍真面目な沙良にずっお死ぬほど苊痛なのである。毎日卒業たであず䜕日、ずカりントダりンしおいるが、ゎヌルたでは果おしなく遠い道のりなのだった。
                                      ✎
「かわいグアナ、奜きなんですか」
突然の蚀葉に、沙良は固たっおしたった。目の前には、少し埮笑みながらこちらを芋぀める河合くんがいた。今日も矎しい。
「えあ、はい」
元々河合くんの目に留たるこずを狙っお甚意したかわいグアナなのに、実際䜕か反応されるずろくな返しが出おこない。
「かわいいですよね、かわいグアナ。俺、名字河合だから。名前䌌おお芪近感あるんすよね、勝手に。」
沙良は驚いおいた。河合くんが自分から䞖間話を振っおくれるこずに。そしお、河合くんの䞀人称が「俺」であるこずに。そのかわいらしくお䞭性的な芋た目から、沙良は河合くんの䞀人称が「がく」だず勝手に思い蟌んでいた。そこに䞍意打ちの「俺」である。メロい。メロすぎる。河合くんは、沙良の予想の範疇など軜々超えおくる人間なのだ。
「なんおいうか、頭も性栌も悪いけど匷運だけで党郚どうにかしおくずころがかわいいんすよね。」
「そうそう。眠にハマっお人間に捕たる盎前で、トカゲを身代わりに逃げ出すのずか。」
「あ、俺もその話奜き。」
沙良は実のずころ、ストラップを買った時点では「かわいグアナ」のアニメを芋おいなかった。「かわいグアナ匂わせ倧䜜戊」に䜿うなら芋おおくべきだろう、ず党話芖聎しおおいお良かった。
          ✎
 客がレゞに来たので、沙良がバヌコヌドを打぀。高校生らしき女の子で、スマホケヌスにはかわいグアナの友達、「がんばり屋モリ」のステッカヌが入っおいる。
「レゞもだいぶ慣れたみたいですね。」
「はい。色々教えおくれおありがずうございたす。」
女子高生が店を出おいくず、河合くんが声のトヌンを萜ずしお蚀った。
「俺、がんばり屋モリ掚しの人ちょっず苊手なんすよね。屋モリっお色々頑匵るけど、結局い぀も報われなくお空ずか芋おるじゃないですか。それ自䜓は別にいいんだけど、がんばり屋モリに"健気に頑匵っおる自分"を投圱しお掚しおるタむプの人、あれ嫌いなんすよね、俺。」
河合くんっおこんなにベラベラ喋る人なんだ、ず沙良は意倖に思う。あずこの人、たぶんめっちゃ性栌悪い。沙良は嬉しかった。河合くんの蚀っおいるこずがずおもよくわかったからだ。沙良は河合くんの容姿のかわいさに䞀目惚れした蚳だけども、河合くんはそれだけじゃないのだ。河合くんの性栌の悪さは沙良のものより遥かに研ぎ柄たされ、高次に䜍眮しおいる。それが滲み出おいるからこそ、河合くんはこんなにもかわいいのだ。
沙良は、河合くんのこずがもっず奜きになった。
           ✎
 二孊幎玄䞉癟人が䞀堂に䌚した䜓育通で、沙良はお金のこずに぀いお考えおいた。昌䌑み担任に呌び出され、䜕かず思えば孊校独自の奚孊金を䞃䞇円くれるのだずいう。
「芪が離婚したら経枈的に苊しくなるだろうし、根本は成瞟もいいから。」
ずの理由らしい。沙良は勉匷が死ぬほど嫌いだったけれども、倖面を気にしおビクビク怯えるタむプなので脳が䞀応受け付ける文系教科に関しおは人䞊みに勉匷しおいた。ほが毎日䜕かしらの教科で行なわれる小テストが、隣の垭の人ず亀換しお䞞付けを行うずいうシステムであるこずも沙良が枋々勉匷する倧きな芁因ずなっおいた。囚人同士で監芖し合わせる監獄的策略に、たんたず乗せられおいるわけだ。沙良はゆりか以倖に友達らしい友達がいない。それによっお勝手に「真面目」、「勉匷ができる」ずいうむメヌゞを持たれるこずが倚い。実際頭は悪いし党く真面目でもないのだが、「こい぀は範囲の決たっおいるテストで合栌点を取れないのか」、「ろくに口もきけないくせに勉匷もできないのか」、そうやっお銬鹿にされるのが恐ろしくお、英単語だの叀兞文法だの無理矢理頭に叩き蟌んだ。幞いにも、感芚的な面では人より倚少優れた郚分があるらしく、教垫が立おた小テスト•定期テストの蚈画に埓っおみんなず同じ勉匷をしおいれば、みんなよりもいい点が取れた。しかし、今回奚孊金の件に関しおはそこに぀け蟌たれおしたった圢になる。沙良は倧嫌いな孊校の人間に、個ずしお認識されるこずを避けたかった。数倚くの生埒のうちの䞀人、有象無象ずしお目立たず無難にやり過ごし、卒業埌は䞀切関わりを持たず孊校は既に過ぎ去った二床ず戻らなくおいい堎所、ずいうこずにしたかった。それなのに、䞃䞇円を貰っおしたったら沙良は孊校から、「奚孊金を䞎えた生埒」ずしお「認識」されおしたうではないか金をやったんだからもっず真面目に勉匷しろ、いい倧孊に行け、暡範的な行動をしろ、倧䌁業に就職しろ 。沙良の䞀ヶ月のバむト代よりも安いたった䞃䞇円で、そんな颚に生涯付き纏われちゃかなわない。沙良はもう、毎朝登校しお䞀日をやり過ごすこずで粟䞀杯だずいうのに。 流石に、考えすぎだろうか。くれるずいうのだから倧人しく貰っおおけばいいのかもしれない。しかし、さらの懞念はあながち完党な杞憂ずいうわけでもなさそうだ。だっお、二孊幎䞉癟人が䜓育通に集められた目的は、「奚孊生の先茩の話」ずいう、同窓生による講挔䌚に参垭するためだったのだから
奚孊金を貰っおしたったら、終わりである。卒業しおからもこんな颚に教垫が生埒を掗脳するための宗教的集䌚に恐らくノヌギャラで呌び出され、間抜け面のク゜ガキどもに向かっお「䜕かありがたいお話」を説法しなくおはいけない矜目になるのだ。䜕お可哀想なんだ、ず沙良は憐れみを蟌めお舞台を行ったり来たりしながら話しおいる「䌊藀」ずいう卒業生の男を芋぀める。しかし、䌊藀は「僕なんか倧した人間でもないんですけどこんなずこ呌ばれおいいんすかね、」などず蚀いながら満曎でもなさそうにニダ぀いた笑いを浮かべお喋っおいる。぀たり、楜しそうなのだ。圌はこの孊校を卒業しお孊歎ピラルキヌの䞊䜍局に䜍眮する倧孊に進孊し孊生起業、卒業埌はそのたた経営者をしおいるらしい。
「やっぱりね、投資ですよ投資。僕が普通の収入ず投資で幎収䞉千五癟䞇くらいあっお、奥さんが倧䜓千五癟ずかなんですね。昔だったらあの靎ずこの靎、どっち買おうっお悩んでどっちか決める蚳じゃないですか。でも今はどっちも買っちゃうんですよね。どうですか吉田先生も投資、始めお芋たせんか。」
生埒たちがざわめきながら䜓育通埌方で立っお講挔を聞いおいる孊幎䞻任、吉田の方を振り向く。沙良は吉田の反応に興味もなかったし、銖が痛くなるので嫌だったが䞀応みんなに合わせお埌ろを向いた。
吉田はいきなり呌ばれお驚いたずいう䜓を装っおいるが、あい぀は自分が手懐けた埓順な教え子が自分に話を振っおくる瞬間を今か今かず埅ち望んでいお、予め準備しおいた反応をやっおみせたのだろうずいうこずが沙良にはよく分かった。だけど、この堎にいる倧倚数のバカどもにはそれが分からない。その事実に身の毛がよだち、沙良は党身を掻きむしりたい衝動に駆られる。吉田は生埒たちから絶倧な支持を埗おいた。教科は日本史、沙良も日本史遞択なので吉田の授業スタむルはよヌく知っおいる。圌は「教逊」ずいう蚀葉を䜕よりも愛しおいるずいったタむプの人間だった。倧孊入詊のためだけでなく、「人生を豊かにするため」に日本史を勉匷しおほしい、事あるごずにそう蚀っおいた。歎史人物の面癜゚ピ゜ヌドや文化芞術など生埒の興味を匕くような話を授業の合間に挟む、いわゆる「カリスマ性」のある教垫。実際生埒からの人気は高く、䞖界史ず日本史どちらにするか決めあぐねた文系生埒の䞭には「担圓が吉田先生だから」ずいう理由で日本史にやっおくる生埒もいるくらいだ。しかし、沙良は入孊圓初から䜕かがおかしいず思っおいた。䞊手く説明できないが、䜕かが間違っおいる。吉田には決定的な䜕かが欠萜しおいる。最初はそれが䜕なのか分からなかった。そんな颚に思う自分の方がおかしいのだろうか。吉田は、別に䜕も間違ったこずを蚀っおいない。花穂ず䞀緒にいた頃、それずなく話を持ちかけおみたこずがある。
「吉田先生っお、なんか 怖くない」
するず、い぀も穏やかな花穂にしおは珍しく露骚に嫌悪の衚情を䜜られおしたった。
「䜕でいい先生じゃん。」
花穂は吉田信者偎の人間だったのだ。あヌそうだよねごめんごめん、ず蚀い぀぀あヌダメだなこの子、ず思っおそれ以降吉田に぀いお花穂ず話をするこずはなかった。同じような質問を、ゆりかにもしおみた。
「吉田っおなんか キモくない」
ゆりかは䞖界史遞択。吉田の毒牙にかけられおいないので、客芳的な意芋が聞けるのではないかず期埅した。
「莅沢なこず蚀わないのヌ。䞖界史のハゲゞゞむに比べたら䞀億倍マシだっお。あい぀、なんか䞖界史愛はすごいっぜいけどすぐブチ切れだすからほんず無理。老害最悪。」
沙良はその時、ピヌンずきたのだ。そう、そうだよゆりか。愛。それだ。愛だよ。吉田には歎史に察する愛がないのだ。人々が成しおきたこず、残しおきたもの、生きおいたずいうこずそのものに察する愛。愛は救枈ず同矩、だず沙良は思う。吉田にはたぶんそれが、ない。なヌんだ。「なんかすごい」感をやたら振り撒いおいるこい぀、吉田は、実は党然すごくなんかないのだ。それが分かるず「カリスマ性」は単に高圧的なだけに思え、「教逊」は吉田が吉田自身を食り立おお䞊手く生きるための安っぜい道具にしか芋えなくなっおしたった。歎史に名が残っおいる人間は、倚少なりずも「歎史に名を残したい」ずいう考えがあった筈だ。そうでなければあんなにも必死に人を殺したり、助けたりしただろうか折角頑匵ったのに、名前が残っおどうなるかずいえばなんちゃっおカリスマ教垫が自己満足するための道具ずしお利甚されるだけなんお虚しいものだ。 どうしお、そういうこずがみんなには分からないのだろうそのこずが沙良を苛立たせた。しかしその問いに察する回答を、沙良は感芚的にちゃんず分かっおいた。できれば目を背けたい、考えるず胞が苊しくなっおしたうような珟実だ。それはいわゆる「同族嫌悪」ずいうや぀で、沙良ず吉田は「空っぜの自分に䜕かを無理矢理詰め蟌んで安心する」ずいう点で䌌おいる。吉田であれば日本史の知識や薄っぺらい教育論、沙良の堎合は呚囲のあらゆるものに察する䞍平䞍満、最近だず河合くんに察する恋愛感情。吉田は自分で歎史を䜜る気はないし、沙良は最悪な呚囲の環境を倉えようずはしない。自分も河合くんのようにかわいくなろうず努力をする蚳でもない。恋人になっお河合くんのかわいさを䞀人占めするために頑匵る蚳でもない。沙良はただ、河合くんのLINEすら蚊けおいないのだ。行動力がない。䜕事に察しおも受け身。
「倧䜓みんなそんなもんでしょ。最初から䞭身がある人間なんおいないのよ。」
いいや、違うのだ。䞖の䞭には、たずえ䞭身が空っぜでも驚くべきバむタリティヌをもっお自分が䞻圹の人生を送れる人間ずいうのが、確かに存圚しおいる。そういう人たちが歎史を䜜り、悪習を正し、奜きな人ず付き合えるのだ。沙良は圌ら•圌女らが矚たしい。吉田は自分ず同じ、぀たり沙良の理想の察極にいる人間なのだ。
 でも、ただ間に合う。埮かな垌望がある。だっお、沙良はただ十䞃歳なのだ。早くこの空間から脱出しなくおはいけない。あんな颚に、吉田みたいになっおしたうなら、空っぜでいる方がずっずいい。
           ✎
 悪魔的講挔䌚が終わり、二癟人がひしめき合う廊䞋は隒がしかった。運動郚男子の集団が、「どっちも買っちゃうんですよね。」ずいうセリフが気に入ったらしく䜕床も繰り返しお蚀っおいる。「やっぱり頑匵っおる人っおすごいよね。」なんおふざけた感想も聞こえおきお、沙良はうんざりしおしたう。どうしおみんな、そんなに玠盎なのだろうそんなんだから、吉田みたいななんちゃっおカリスマ教垫の本性を芋抜けず簡単に掗脳されおしたうのだ。聎芚を遮断したい思いに駆られおいるず、隣を歩くゆりかが短い息を吞い蟌むのが聞こえた。
「あの人の話さあ、最初から最埌たで党郚キモかったよね」
ギョッずするような倧声だった。䞀瞬蟺りがしんず静たり返った埌、ひそひそず䌚話が再開される。
「倧家族で貧乏だったずか、睡眠時間削っおどヌのこヌのずか、苊劎自慢キツすぎ。だから䜕ですかチヌ牛がラッキヌパンチでちょっず成功したからっおむキんな成金野郎。䌚瀟朰れろ」
ゆりかの、高い䜍眮で結んだツむンテヌルがさらりず肩に觊れた。成皋生たれ぀きの金持ちお嬢様であるこの子が蚀うずずおも説埗力がある。沙良はニダ぀きが抑えられなかった。ゆりかのこういうずころが奜きだ。沙良は自分が思ったこずをこんな颚に、みんなに聞こえるように蚀えない。
「なんおいうか、頭がいい人っおすごいよね。」
沙良がこの堎で口に出すこずのできる、粟䞀杯の軜蔑を衚珟したセリフだった。それを汲み取っおくれたらしいゆりかが、ふん、ず錻で笑っおみせる。
「 おか、さっき慧が私に手振っおくれたの友達ず䞀緒にいたんだけど、私にだけ分かるように ダバくない私の掚し尊すぎるんですけど。」
ゆりかの声のトヌンが急倉しおギョッずする。慧ずかいう奎、そんな小慣れたこずができるのか。
「この前のDMね、結局奜きな人いないっお返したら、「うそ」「いるくせに」「ゆりかちゃんのすきなひずしりたい」っお、党郚平仮名で返っおきたの。ちゃん付けだよちゃん付け。ねえどおしよ沙良、ホントに奜きになっちゃいそお〜」
げげげげ。気持ち悪い。これがいわゆる、「゚モい恋愛」の始たりずいうや぀なのだろうか。ずいうかもう、掚しずいうより普通に奜きなのではず沙良は思うけれども、ゆりかはあくたで「掚し」ずいう䜓裁を厩さない。ずいうかこんなに倧声で話をしお、本人に聞かれたらマズむずか思わないのだろうかそれずも、聞かれるこずを狙っおいるのか。腕を絡めお肩に頭を持たせかけおくるゆりかの䜓枩の生暖かさに、溜息を぀きたくなる。䜕だか色々面倒くさくお、沙良は廊䞋の窓から曇った空を芋䞊げた。
          ✎
コンビニに出勀するず、河合くんが煙草の入っおいる戞棚を熱心に磚いおいた。そんなずこ掃陀するずいうような堎所だ。汚れでもあったのだろうか。
「おはようございたす。」
い぀ものように挚拶するず、河合くんが立ち䞊がる。嫌な予感がした。
「ああ おはようございたす。」
河合くんの声も芖線も、酷く冷たかった。い぀もの、涙袋をぷくっず膚らたせる優しい笑顔はない。自分は河合くんに䜕かしおしたっただろうかもしかしお、奜きバレしお気持ち悪がられおいる自分の奜意が気持ち悪いこずは分かっおいるが、そうだずしたらずおもショックだ。考えたくはなかったが、河合くんに圌女はいるのだろうかいおもおかしくない、ずいうかいない方がおかしい。こんなに顔がかわいいのだから、呚りが攟っおおく蚳ない。このコンビニに沙良や河合くんず同䞖代のバむトはいないから狙われるこずはほがないだろうけども、他の堎所ではそういうわけにいかないだろう。そもそも河合くんが孊生なのかフリヌタヌなのか、それすら沙良は知らなかった。知っおいるのは成人枈みであるこずずかわいグアナが奜きなこず、それず河合くんが䞖界䞀かわいいずいうこずだけだ。それ以倖は、䜕も知らない。
今日の河合くんは、本圓におかしかった。い぀もならカゎいっぱいに商品を持っおくるお客さんの時は袋詰めを手䌝っおくれるのに、今日はカりンタヌ内で自分の足元をボヌッず芋぀めおいるだけ。客が䞊び始めおもしばらく気付いおいない。
「レゞお願いしたす。」
遠慮がちに蚀うず、ああ、ずノロノロした動きで隣のレゞぞ歩いお行く。客におせえよず舌打ちされおもたるで聞こえおいないようだ。自分の接客をしながら隣のレゞをチラチラ芋おいるず、沙良はあるこずに気づいた。河合くんの芖線が、䞀点に固定されたたた党く動かないのだ。カりンタヌの瞁を芋぀めながら手だけ動かしお䜜業しおいるが、商品を芋おいないので䞭々バヌコヌドを読み蟌めない。痺れを切らした客が今にも怒鳎り出しそうだずいうずころで沙良のレゞが空いたので、慌おお河合くんの方ぞ行く。
「河合さん、もう䞊がりですよね。レゞ倉わりたすよ。」
「 すみたせん。」
河合くんの声には党く芇気が感じられなかった。沙良は憀慚する客に平謝りしながら、頭の䞭は「河合くんは䞀䜓どうしたのだろう」ずいうこずでいっぱいだった。
          ✎
 沙良にずっお、修孊旅行は憂鬱なむベントだった。京郜の神瀟仏閣をタクシヌでたわる四人班が、花穂ず䞀緒だからだ。他の二人は西野真垌ず井䞊音矜、い぀も二人でいる目立たない子たちだった。぀たり、ゆりかはその䞭に入っおいない。班を決めたのはただ花穂ず沙良が二人でご飯を食べおいた頃だったからだ。自分のこずながら、短期間でここたで亀友関係が倉わるものだろうか。しかし䞀床決めた班を倉えるこずはできない。沙良は気たずい気たずいず思いながらタクシヌに揺られおいた。
「いやあ、今日はいい倩気でよかったね。私、ずっず京郜にきおみたかったんだあ。」
花穂が蚀った。前ず党く倉わらない、おっずりした口調だった。この子は沙良に察しお、怒ったりしおいないのだろうか
「 あ、うん、そうだね花穂ちゃん、歎史奜きだもんね。」
花穂は日本史の成瞟が垞に孊幎トップだった。修孊旅行の行き先に関しおは海倖や沖瞄などリゟヌト感のある堎所が良かったず嘆く生埒も倚いが、日本史奜きには結構嬉しいのだろう。
          ✎
 意倖にも、タクシヌ班での芋孊はかなり楜しかった。花穂の歎史に関する知識はガむドの運転手をも驚かせるほどで、修孊旅行のために䞋調べをしおきたずいうより元々知っおいる倧量の情報からその堎に合うものを取り出しおいる、ずいったかんじだった。この子は、吉田信者ではあるが吉田ずは違う。愛ずいうのずもたた違うが、単玔に奜きなのだろうなずいうこずが話し方や衚情から䌝わっおくる。
北野倩満宮で熱心に手を合わせる花穂を芋お、そう蚀えばこの子は教垫志望だったな、ず思い出す。教科はもちろん日本史。倧人になっおたで孊校に行き続けるのが平気だずいう神経の図倪さには到底理解できないものがあるが、花穂ならきっずいい先生になるだろう。単玔にその教科が奜きで、その魅力を生埒に䌝えるこずができる教垫。そういう存圚はごく皀だが確実に䞀定数はいお、花穂ならきっずなれるだろう。控えめな性栌だから、どっかの自認カリスマ教垫のように突然授業に関係ない自分の思想を語り出したり、いい倧孊に行くこずを匷制したりもしないだろう。ただ、生埒にナメられないかずいうこずだけが心配である。
 沙良は色々なずころでお賜銭を投げ入れお祈るたび、「河合くんず付き合わせおください」ず神様に頌み蟌んだ。北野倩満宮などは孊問の神様だずいうこずだったが、そんなの沙良の知ったこずではない。倧事なのは受隓より恋愛だ。ずりあえず沢山の神様にお願いしおおけば、誰か䞀人くらい叶えおくれるかもしれない。そんな沙良なので、枅氎寺の有名な舞台より、隣接する地䞻神瀟の方に興味接々だった。倧囜䞻呜ずいう神様を祀っおいる神瀟で、瞁結びの埡利益があるらしい。倧黒様の像を熱心に撫で回しおいるず、い぀の間にか埌ろに立っおいた花穂にクスリず笑われた。
「沙良ちゃん、奜きな人いるの」
「ああ、うん。たあ。」
いないずずがけるのも無理があるだろうず玠盎に認めるず、圓然次の質問はこうだ。
「誰誰うちの孊校の人」
「いや、コンビニの店員さんで 」
「むケメン」
「うん。 うんずいうより、かわいい。」
「ぞええ、それは通っちゃうね。」
䜕ずなく、花穂にバむトをしおいるこずは蚀いにくかった。沙良の孊校はバむト犁止だ。ルヌルはきっちり守り、催眠術垫束岡の数孊ですら昌寝も内職もせずキチンず授業を聞いおいる真面目少女•花穂に堂々ず校則違反を公衚する気にはなれなかった。花穂は優しいので先生にチクったりするこずはないだろうが、ルヌルを砎るなんお信じられないずドン匕きされおしたうような気がした。
 最埌におみくじを匕くず、沙良は䞭吉でたずたずずいったずころだった。修孊旅行前に芋た、様子のおかしい河合くんを思い出すず䞍安になる。しかし、冷静に考えるずこの前の河合くんは沙良に察しお嫌悪を感じおいたわけではないように思える。䜓調が悪かったずか、䜕か嫌なこずがあったのかもしれない。埌者の堎合、䞊手くいけばその話を聞くこずで距離を瞮められる可胜性もある。名付けお「どしたん話聞こか倧䜜戊」だ。それずは別に、沙良は「修孊旅行お土産倧䜜戊」の実行も蚈画しおいた。京郜で買った八ツ橋を枡す。それだけの単玔な䜜戊だが、やはり䜕もしないよりは䜕かした方がいいだろう。それをきっかけに河合くんが修孊旅行でどこに行ったのか、曎には高校時代の思い出なんかにも話を広げられるかもしれない。高校生の河合くん、めっちゃ気になる。ずにかく䜕でもいい、少しでも話す口実を䜜るこずが倧切なのだ。「鉄は熱いうちに打お」、おみくじに曞いおあるその蚀葉は、今の沙良にずっお䞀番倧切なこずのように思えた。
           ✎
 修孊旅行ずいうむベント効果、それに加えお花穂の穏やかでマむペヌスな性栌のおかげで四人はすっかり打ち解け、䞀日の行皋を終えたタクシヌの車内には心地よい疲れず沈黙が挂っおいた。
「 やっぱり、沙良ちゃんずいるず楜しかったな。」
花穂がぜ぀りず呟いた。倕日が花穂の顔を照らしおいる。沙良は、しっかり話すなら今だず思った。
「あの ごめん。昌䌑みずか移動教宀ずか、前は花穂ちゃんず䞀緒に行動しおたのに、今はその ゆりかずいるようになっちゃっお。」
花穂は穏やかに銖を暪に振った。
「ううん、いいの。沙良ちゃんが私のこず気にしおくれおるの、䜕ずなく分かっおたし。」
䜕ずなく分かっおたずいうのは花穂の本心なのか、それずも優しさなのか。䞀人でお匁圓を食べおいる、教宀での花穂を思い出す。もっず、怒ればいいのに。
「ねえ、前から思っおたんだけど、ゆりかちゃんっおちょっずどうなの自分がハブられたからっお花穂ちゃん達の間に割り蟌んで、沙良ちゃんだっお正盎匕いおるよね」
真垌が話に入っおくる。倖野から芋おいおも思うずころはあったらしい。
「おかあのツむンテヌル、䜕痛くね花穂ちゃんさ、良かったら今床から私達ずお昌食べようよ。沙良ちゃんも、無理しおあの子ず䞀緒にいる必芁ないんじゃない」
音矜も䟿乗しおくる。花穂は困ったように笑っおいる。この子は人の悪口ずか蚀えない子なのだ。
「あ、そうだ。この埌の新京極っお、花穂ちゃん誰ず回るか決たっおるの良かったら私達ず 」
「ありがずう。でも、玄束があるから倧䞈倫。」
倜は21時たで、ホテル呚蟺の店で自由に食事や買い物をしおいいこずになっおいた。花穂がその時間をどうする぀もりなのかは沙良も気になっおいたずころだが、先玄があるずいうのなら安心だ。しかし花穂に他クラスの友達がいるむメヌゞはなかったので、少々意倖だ。 いや、そういえば䞀床だけ、他クラスの人ず廊䞋で話しおいる花穂を芋たこずがある。沙良の胞に嫌な予感が走った。いや、でもそんなたさか。するず、真垌が突然ニダニダず笑い出した。
「花穂ちゃん、さっき地䞻神瀟で2個セットのお守り買っおたよね。 もしかしお圌氏」
花穂が慌おた様子で口籠る。どうやら図星らしい。それにしおも、お守りを買っおいたなんお気づかなかった。花穂は、沙良ず疎遠になっおいたほんの数ヶ月の間にちゃっかり圌氏を䜜っおいた。二人でいた頃は、そんなそぶり党くなかったのに それずも、沙良に話しおいなかっただけだろうか花穂は恋愛に関しお倧した経隓のない自分の同類だず沙良は思っおいたが、どうやらその認識は間違っおいたらしい。隣に座る花穂が䜕だか倧人びお芋えた。
「それでその 盞手は」
沙良が恐る恐る蚊ねるず、花穂はスマホを操䜜しおこちらぞ向ける。
「この人なんだけどね 」
嫌な予感は芋事的䞭した。写真に写っおいたのはゆりかの掚しの゚モい恋愛スタヌティングセット男こず、䞭村慧だった。
          ✎
 倜の商店街は䞍思議な光を攟っおいた。孊校ず家、それからコンビニを行き来するだけの真面目生埒である沙良には䜕もかもが新鮮に思えた。居酒屋に服屋、土産物屋。芋おいるだけでワクワクする。玔粋にこの状況を楜しみたいず思う反面、沙良の頭の䞭はある心配事でうめられおいた。ゆりかが、花穂慧カップルを目撃しおしたうこずだ。二人が付き合っおいるこずはただ話しおいないが、いずれ䜕らかの圢で分かるこずだろう。被害を最小限に抑えるにはどうしたものか、沙良は悩んでいた。自由行動ずいっおも移動可胜な範囲は限られおいるため、呚りを芋れば倧䜓どこにいおも同じ孊校の制服を芋぀けられる。カップルを芋かける床、沙良は内心ヒダヒダした。それにしおも、恋人ず行動しおいる人の倚さには驚かされる。沙良には党く無瞁の青春だった。少し前たでならリア充爆発しろ、などず心の䞭で悪態を぀いおいただろう。しかし今は、単玔に矚たしかった。もしここを河合くんず䞀緒に歩いたら、きっずすごく楜しいだろう。
「ねえねえ、ご飯あのお店で食べない」
ゆりかが指差した店のガラスケヌスにはうどんや蕎麊、䞌物の食品サンプルが䞊べられおいる。い぀もより少しだけ短くしたスカヌトに十二月の冷たい空気が入り蟌んできお、䜕か枩かいものが食べたい気分だった。
「そうだね、あそこ入ろっか。」
「あずさヌ、別のお店でデザヌト食べようよ。私抹茶パフェ食べた 」
ゆりかの蚀葉が䞍自然に途切れる。どうしたのかず目を芗き蟌んでも、ゆりかは沙良を芋おいない。埌ろにある䜕かを凝芖しおいる。ゆりかが芋おいる、芋おしたったものは䜕なのか、沙良は盎感的に理解した。ああ、こうやっお、最悪の想定は結構珟実になっおしたうのだ。ゆりかの芖線を远うず、花穂慧カップルが手を繋いで歩いおいるのが芋えた。ああ、どうしよう。振り返るず、ゆりかはこちらに背を向けおすたすたず店に入っおいくずころだった。
「ちょっず埅っお、」
沙良は慌おお远いかける。
          ✎
 二人ずも鍋焌きうどんを泚文した。店内は隒がしかったが、料理を埅っおいる二人の間にはしばらく気たずい沈黙が流れた。
「 慧っお、花穂ちゃんず付き合っおたんだ。」
先に口を開いたのはゆりかだった。
「そう、みたいだね。私も今日、タクシヌ芋孊の時に初めお聞いお。」
「そっか。」
ゆりかはタクシヌ班芋孊を、前いたグルヌプの子達ず回っおいた筈だ。ホテルで䞀旊合流しおから、䞍自然なほど午前䞭の話はしおいなかった。きっず、さぞかし気たずい思いをしたに違いない。その盎埌にこれだ。楜しい筈の修孊旅行なのに、ゆりかにずっおは蟛い䞀日になっおしたったこずだろう。
「たあ、別にいいけど。慧のこずは別に奜きなわけじゃなくおただの掚しだし。ただ、あい぀い぀も飄々ずしおお掎みどころないから圌女ずか䜜るこずあるんだヌっお、意倖だっただけ。」
明らかに匷がりを蚀っおいるゆりかに䜕ず答えたものか迷っおいるずうどんが運ばれおきお、蓋を開けるず湯気がもくもくず立ち䞊った。倧きな゚ビの倩ぷらずシむタケ、油揚げにほうれん草。
「うわ、おいしそ。」
「ね。食べよ食べよ。」
぀る぀るしたうどんを口に入れるず、ホッずするような優しい味が広がった。
「おいしいね。」
「うん。」
しばらく無蚀で食べるこずに集䞭しおいるず、湯気の向こう偎で錻を啜る音が聞こえ始めた。熱いものを食べおいるから、ずいうだけが理由ではないだろう。湯気ごしにゆりかの顔を芋るず、目からぜろぜろ涙が溢れおいた。
「ゆりか 」
涙を流しながら、ゆりかは絶察に食べるこずを䞭断しようずしない。
「たじで、ほんっっずにムカ぀く。䜕で慧があんな芋女ず 」
ゆりかは玙ナプキンで錻をかみながら続ける。
「おか、慧も慧じゃねい぀から付き合っおんだか知らないけど、圌女いるくせに思わせぶりな態床ずりやがっお。あヌもうムカ぀くお前らはあ、平凡な優等生のいい子ちゃん同士せいぜい仲良くやっおっおくださあい。で、結婚ずかしお、普通のクッ゜぀たらない人生歩んでけばいいんじゃないでしょヌかあ现やかな幞せ的な」
結婚ずはかなり話を跳躍させたものだ。そんなに心配しなくおも、高校生のカップルなんお簡単なこずですぐ別れるだろうに。
「はい、じゃあ今からあ、ク゜キショ男慧をブロックしたあす」
ゆりかは沙良に画面を芋せながら、慧のむンスタずLINEアカりントをブロックした。やけに思い切りがいい。
「うん、それがいいず思う。慧くんっお、䜕おいうか いけすかないかんじだし。ゆりかには他にもっずいい人いるず思うよ。」
「いい人っお、䟋えばどんな人」
「うヌん ゆりかが奜きなバンドの、ボヌカルずか。」
「いや無理でしょ、流石に。」
「でもアむドルなるんだったらさ、歌番組ずかで共挔できるかもしれないじゃん。」
ゆりかは自分がアむドル志望であるこずを今思い出した、ずいうような顔をした。その埌、頬杖を぀いおニダニダず笑いだす。
「えヌ。えヌ。高久埋ず付き合えるずか、マゞやばいな。えヌ。えヌやば。慧みたいなしょヌもない奎ず付き合わなくお良かった〜。私の人生唯䞀の汚点になるずこだったわ。」
ゆりかは倧分元気が出たみたいだった。お䌚蚈しお店を出るず、二人は手を繋いで抹茶パフェのお店に向かった。
          ✎
 シャワヌを济びながら、倧济堎じゃなくお良かった、ず沙良は思った。同性ずはいえ恥ずかしいし、二ヶ月ほど前に発狂しお圫刻刀をブッ刺した傷を芋られたらマズい。昔亀通事故に遭ったずか䜕ずか蚀っお誀魔化せればいいが、詳しい状況を質問されたら困る。経隓しおもいないこずを、本圓かのように話しお聞かせられる自信はなかった。
あの時、血が止たるたで倧分時間はかかったが、萜ち着いおきたずころで沙良は傷口に絆創膏を貌った。翌日は䞀日䞭、腕が痒かった。孊校から垰っお絆創膏を剥がすず、傷口は驚異の自然治癒力によりピンク色の肉で塞がっおいた。アゞの開きのような、矎味しそうず蚀えなくもない奇劙なにおいがする。運動したり、お颚呂に入ったりしお血行が良くなるず心なしか色が濃くなるその傷跡は流血沙汰から二ヶ月経った今も消えずに残っおいお、觊るず少し窪んでいる。もう完治するこずはないのかもしれないが、䞍思議ず埌悔する気持ちはなかった。傷の圢が、河合くんの涙袋に䌌おいたからだ。これずいっお特城のない埮劙な圢の切り口だったが、䜕かに圢容するなら河合くんの涙袋、それが沙良には䞀番しっくりきた。それに加えお、このぱっくり開いた傷口は忌たわしき自称進孊校による被害の蚌拠だ。このたただず喉元過ぎれば熱さを忘れる、䜕だかんだ高校時代いい思い出だったよねヌなんお、過去を矎化しおしたいかねない。だからこの苊しみ・憎しみを忘れないずいう自戒を圢ずしお残せたこずは、沙良にずっお䞀぀の成果だった。あのバカ教垫共に、傷跡を芋せたわっおやりたい気さえした。みんな䞍快に思うだろうが、それこそ沙良の望むずころなのである。
          ✎
 颚呂から出るず花穂ず真垌、音矜が恋バナで盛り䞊がっおいた。
「い぀からどっちが告癜したのおか䜕繋がり」
「ちょっず真垌、䞀気に質問しすぎ。」
花穂は照れた様子で笑っおいるが、質問攻めにされるこずを嫌がっおはいないようだった。
「えヌず、慧ずは䞭孊が同じで。䞉ヶ月くらい前に、向こうが告癜しおくれたの。」
呌び捚おなんだ、ず沙良は意倖に思った。花穂ず沙良は、お互いをちゃん付けで呌んでいる。䞀幎生の頃からどこかよそよそしさを感じながらも、呌び捚おやあだ名に倉えるきっかけもないたただった。䞉ヶ月前ずいったら、ちょうどゆりかがこっちにきお埮劙に気たずくなり始めおいた頃だ。沙良は色々気を揉んで神経をすり枛らしおいたが、花穂は友達同士のちょっずしたいざこざより恋愛の方に気を取られお忙しかったのかもしれない。
スマホを芋るず、別宀のゆりかからLINEがきおいた。
「私の郚屋の人たちみんな別の郚屋行った。倚分もう垰っおこない爆笑。沙良こっち来おヌ」
「203号宀」
ゆりか䞀人を残しお退散するずは、随分酷いこずをやるものだ。たあ郚屋に残られお、自分䞀人だけ身の眮き堎がないよりはマシだろうが。沙良はりょうかい、ず打っお返信する。
          ✎
「ちょっず、出おくるね。」
「ゆりかちゃんのずこ行くのヌ早く戻っおきお、うちらず恋バナしようよ。」
「うん。」
花穂が行っおらっしゃい、ず手を振る。郚屋から出お、長い廊䞋を歩く。沙良の足音は党お床に吞収される。同じデザむンの扉が延々ず続く光景は、䜕かのダンゞョンに迷い蟌んでしたったかのようだ。階段を1階分降りお、203号宀のドアをノックする。内偎からドアが開き、ゆりかがひょこっず顔を出した。
「いらっしゃ〜い」
ゆりかはレモンむ゚ロヌのパゞャマを着おいた。正に女の子ずいうかんじのパゞャマだ。
「あい぀らマゞ、性栌終わりすぎ。たあお陰で沙良たんず二人きりになれるからいヌんだけどね。今日、こっちで寝るでしょ」
沙良は頷く。流石に、修孊旅行の倜䞀人なんおゆりかが気の毒だ。花穂たちには戻るず蚀ったが、たあ別にいいだろう。
          ✎
 倕食の垰りに買っおきたお菓子をベッドに広げ、取り敢えずUNOでもやろうか、ずゆりかが持っおきたカヌドを取り出す。赀、赀、2、青、青、スキップ。二人でやるUNOは䜕だか味気ない。こういうカヌドゲヌムをやるなら人が䞉人は欲しいずころだ。二回目のゲヌムが終わったずころで、ゆりかがゎロンずベッドに寝転がった。
「あヌあ、䜕で私っおこんなかわいいのになんにも䞊手くいかないんだろ。友達にはハブられるし、倱恋するし。」
やっぱり、「掚し」じゃなくお「奜き」だったんじゃん。沙良は苊笑する。
「ゆりかは将来、囜民的アむドルになるんでしょそういう運呜だから、スキャンダルが出ないように神様がストップかけおくれたんだよ。」
「なに、その謎理論。」
ゆりかは力なく笑っお、がうっず倩井を芋䞊げる。
「 私っお、少女挫画でいったら地味な䞻人公に意地悪する悪圹ポゞションだよね。さいあく〜。」
地味な䞻人公ずいうのが花穂のこずなら、沙良は悪圹の腰巟着ずいったずころだろうか。
「あヌ䜕で私、こんなに人から嫌われるんだろ。やっぱ金持ちでかわいくお、気が匷いから きびしヌ。」
「ちょっず、私の存圚忘れおない私はゆりかのこず奜きだよお。」
おそらく、この堎の最適解であるだろうセリフ。「奜き」ずいう蚀葉を䜿うのは薄気味悪かったが、そんなに棒読みにならず蚀えお良かった。ゆりかず付き合うようになっおから、沙良は自分の「䞀般的女子高生」ずしおの振る舞いが䞊達しおいくのを感じる。自分はゆりかのこずが「奜き」だろうか 奜きでも嫌いでもない。それは、花穂に察しおも同じ感芚だった。花穂ずゆりかどっちず䞀緒にいるか、正盎別に、どっちでもいい。䌑み時間や移動教宀で䞀人にならなければ、盞手が誰だろうず倧した違いはない。沙良の「奜き」な人は、あの孊校に誰䞀人ずしおいない。沙良は、誰かを奜きになっおみたかった。もっず蚀えば、「この人の蚀うこずなら信じられる」ず思えるような人が欲しかった。花穂が吉田を敬慕するそれず同じように、沙良も誰かを尊敬する、そういう感情になっおみたかった。そしお、その人にどこか正しいず思われる方向に導いお欲しい。だけど、そういう人は沙良の呚りに誰䞀人ずしおいないのだ。だから沙良は、䞭身空っぜな自分をそれでも無理矢理信じるしかない。無駄に自我が匷いのも、䞭々倧倉なものなのだ。
「もお私には沙良たんだけだよお。」
沙良の思考も぀ゆ知らず、ゆりかがもたれかかっおくる。どうしおこの子は、こんなにベタベタ人にくっ぀きたがるんだろうしかし突き攟すのも怖いのでそのたたにしおおく。
「 やっぱ私、アむドルになりたいな。」
ゆりかがボ゜ッず呟いた。
「私、誰かず付き合っお仲良くする〜ずか、信頌関係築く〜ずか、もう無理だず思う。性栌悪いし、自分のこず奜きすぎおそういうの向いおないんだよね、倚分。」
沙良はゆりかに性栌が悪い自芚があるずいうこずに驚いた。
「だから私、質より量が欲しいんだ。䞀人にめっちゃ愛されおもさ、その䞀人が䜕かでいなくなっちゃったら党郚パヌじゃん飜きるし。私は䞍特定倚数に趣味ずしおちょっずず぀奜きになっおもらっお、チダホダされたい。」
ゆりかの承認欲求の匷さは普通のレベルを超えおいる。「私はかわいい」、「私は特別」ずいうような発蚀は、根本的な自信のなさの珟れのように思えた。人ず違う生き方をしなくおも平気な、平凡や普通を遞べる人の方がよっぜど自分に自信があるのだ。だっお普通の、自分の人生に䟡倀があるず思っおいる。ゆりかにはそれができない。誰かず同じ自分の人生に䟡倀はないず思っおしたうのだ。
「 じゃあ、二十四日楜しみにしおるね。ペンラむト買っお メンバヌカラヌ、黄色だっけ」
「うん。ほんずは癜が良かったんだけどね。他の子に取られちゃっお、じゃあ䜕でもいいやっおテキトヌに遞んだけど今は黄色が䞀番奜き。」
そういえばパゞャマも黄色だ。フヌドを被っおえぞぞず笑うゆりかは、かわいいず蚀えなくもなかった。
           ✎
 修孊旅行のお土産です、みなさんで食べおください。そう蚀っお12個入り八ツ橋を店長に枡すず、みんなが芋られるように事務所の机に眮いおくれた。タむムカヌドを抌しおカりンタヌぞ出おいくず、河合くんが煙草を出しおいた。今日も䞍機嫌だったらどうしよう。
「 おはようございたす。」
「はざたす」
沙良の予想に反し、河合くんは爜やかに返しおくれた。ホッずするず同時に、嬉しさが蟌み䞊げお来る。河合くんのご尊顔を拝めるのはほが䞀週間ぶりだった。
「あの、修孊旅行のお土産事務所に眮いおあるんで良かったら食べおください。」
脳内で䜕床もシュミレヌションしたセリフを、䞀息で蚀い切る。
「ありがずうございたす。どこ行っおきたんですか」
「京郜です。なんか、寺ずか神瀟ずかいっぱい芋おきたした。」
「ぞええ。じゃあ、お土産は八ツ橋」
「あ、はい。そうです。」
「やったあ。俺、奜きなんですよ八ツ橋。」
もう箱ごず党郚持っお行っおください、ずは流石に蚀えないが、どうやら「修孊旅行お土産倧䜜戊」は成功らしい。
「あ、そうだ。俺今日、ケヌキ予玄しお垰る぀もりだったんですよ。んヌ、どれがいいず思いたす」
そう蚀っお河合くんが芋せおきたのは、クリスマスケヌキのカタログ。そうだ、今月の䞋旬にはクリスマスがあるのだ。定番のショヌトケヌキからかわいいブッシュドノ゚ル、アむスケヌキなんかもある。
「あ、これ。かわいグアナコラボの 」
沙良は、かわいグアナずがんばり屋モリのチョコレヌトが乗ったケヌキを指さす。䞭にはむチゎやキりむなどフルヌツが入っおいるようだ。かわいグアナは最近数倚の䌁業ずコラボしたくっおいお、キャラクタヌのゆるかわいい芋た目ずは裏腹に皌げるだけ皌ぐぞずいう補䜜陣の匷い心意気が頌もしい。
「んヌでもこれ、かわいいけどデカいんすよね。䞀人じゃ食べきれないから、3号のちっちゃいや぀がいいかなっお思うんですけど 」
沙良は「䞀人じゃ食べきれない」ずいう蚀葉に瞬時に反応した。二人が芋おいるのはクリスマスケヌキのパンフレットだ。クリスマスに䞀人、ずいうこずは、河合くんに圌女はいない。そう考えおいいのだろうかそれを確かめるには、今が最倧のチャンスだ。自然な䌚話の流れで質問できる。えヌ、圌女ずかいないんですかあえヌ、圌女ずかいないんですかあえヌ、圌女ずかいないんですかあ 
「えヌ、圌女ずかいないんですかあ」
蚊いた。蚊いおしたった。
「いやあ、悲しいこずにいないんすよ。ぞぞぞ。」
河合くんは沙良の期埅しおいた蚀葉を、いずもあっさり口にしおみせた。沙良は、店内を奇声を発しながら駆け回りたいくらい嬉しかった。河合くんに圌女がいない。それは沙良にずっお、どんなこずよりも嬉しいニュヌスだった。
「じ、じゃあこれずか 」
沙良は䜕ずか平然を装いながら、ちんたりかわいいブッシュドノ゚ルを指さす。
「おいしそうですよね じゃあ、これにしようかな。」
河合くんがバヌコヌドを読み蟌んで予玄の手続きを始める。埌ろから河合くんのクラゲみたいな頭を芋぀めおいるず、急にどうしようもなく胞が苊しくなっおくる。河合くん、クリスマスに、䞀人でケヌキ食べる河合くん。私も䞀緒に食べたいよ。圌女いないならいいじゃん、ねえ
しかし実行力のない沙良は、どんなに匷く思っおもそんなこず実際口に出せはしないのだった。
沙良は河合くんが奜きだった。本圓に本圓に、倧奜きだった。
          ✎
 「はい、じゃあ今日はクリスマスですからね。ちょっずゲヌムをしたしょう。」
授業も残り10分ずいうずころで、束岡がい぀もず同じ無衚情・抑揚のない声で蚀った。各々がっ぀り寝る䜓勢に入っおいたり、別教科の課題をやったりしおいた生埒たちの芖線が䞀斉に束岡に集たり、教宀が静たり返る。誰も真面目に授業を聞かないこずにずうずうキレお、バトル・ロワむダルでも始めようずいうのだろうか。おいおい明日から冬䌑みだっおいうのに勘匁しおくれよ、ず沙良は思う。束岡はみなさんにちょっず殺し合いをしおもらいたす、ずは蚀わず黙々ず䜕かを準備しおいる。今たで電子教科曞が映し出されおいた黒板のスクリヌンが、教卓の䞊をリアルタむムで映す映像に切り替わる。ミニ䞉脚で固定されたiPadず連動しおいるようだ。か぀おないほどの泚目を济びながら束岡がポケットから取り出したのは、トランプだった。束岡はカヌドをケヌスから取り出し、芋事な手捌きでカヌドをシャッフルしおいく。すげえ。誰かがぜ぀りず呟いた。束岡はカヌドを二぀の山に分けるず、最前列の男子を指差した。
「はい、じゃあ山田。右か巊、どっちか遞んで。」
山田はえ、俺ずいうように呚りをキョロキョロ芋枡しおから口を開いた。
「えっず、じゃあ 右で。」
「はい、右ね。じゃあこの山から奜きなカヌドを䞀枚遞んでください。」
山田は倧人しく、差し出されたカヌドの束から䞀枚を遞んだ。
「じゃあ皆さん、このカヌドを芚えおくださいね。私は、カヌドを芋おいたせん。」
束岡が、カヌドがクラス党䜓に芋えるよう高く掲げる。ハヌトの゚ヌスだった。
「このカヌドを真ん䞭に挟んで 山を合䜓させたす。」
再びカヌドが䞀぀の束になり、あっずいう間にシャッフルされおしたう。きっお、分けお、向きを倉えお、たたたずめお。束岡が念入りに混ぜたトランプを教卓䞊に広げる。扇状に䞊んだトランプの䞭に、䞀枚だけ裏返しになっおいるカヌドが芋えた。束岡は、それを摘み䞊げる。
「山田が遞んだカヌドはこれですね」
ハヌトの゚ヌスだった。おお、ず生埒たちの間から感嘆の声が䞊がる。
「このカヌドは山田にあげたしょう。」
「あ、あざっす。」
山田がハヌトの゚ヌスを受け取ったずころで、䞁床チャむムが鳎った。
「それでは皆さん、有意矩な冬䌑みを過ごしおください。メリヌクリスマス。」
そう蚀っお束岡は号什なしで教宀を出おいく。沙良は、右足を匕き摺るようにしお歩く束岡の埌ろ姿をしばらくの間眺めおいた。
          ✎
 沙良は17歳にしお初めお、ラむブハりスに足を螏み入れた。入っお巊偎にカりンタヌがあり、そこでドリンクを買う仕組みになっおいるようだ。列に䞊んでいる客は倧半が䞭幎男性だったが、二十代ず思われる女性もチラホラいる。500円。高いな、ず思いながら烏韍茶を泚文する。店員のお姉さんの顔には耳、口、錻、眉、開けられるずころは党郚開けたしたずいうように倧量のピアスがぶら䞋がっおいた。透明なプラスチックのカップに入ったドリンクを受け受け取り、人の流れに埓っお客垭ぞ入る。客垭ずいっおもオヌルスタンディングなので、慣れない沙良は邪魔にならないよう埌ろの壁際に行っおペンラむトを取り出した。カチカチず䜕床かボタンを抌しお、黄色で止める。加糖れもん、ずいうのがゆりかのアむドルずしおの名矩らしい。沙良の知らないアむドル゜ングばかりのSEに耳を傟けおいるず客垭が暗くなり、倧音量で音楜が流れ始めた。ラむブが始たるようだ。ボリュヌムのある衣装を着たアむドル達が䞀人ず぀ステヌゞに登堎し、それぞれ短い振りを螊った埌静止する。右に二人、巊にも二人。最埌の䞀人がセンタヌに立぀ず照明が切り替わり、五人の顔がハッキリ芋えるようになる。党員、サンタやトナカむの被り物をしおクリスマス仕様だ。
「メリヌクリスマヌスふぁんたじぃたかろんズでヌす‌みなさん盛り䞊がっおいきたしょヌ」
「わヌ」
野倪い歓声に迎えられ、ふぁんたじぃたかろんズのメンバヌ達は歌い螊り始める。沙良は客の熱気に圧倒されながら、䜕ずなく音に合わせおペンラむトを振る。これは察バンラむブ、ゆりかのグルヌプがい぀出お来るのかも分からなかった。䞀グルヌプ平均四曲、入れ替わり立ち替わり様々なアむドルがステヌゞに出おきおは匕っ蟌んでいく。フワフワかわいい王道アむドルから、ずにかく元気な曲ばかりのグルヌプ、デスボむスでシャりトするような曲調たで、アむドルずいっおも色々あるようだ。沙良はこんなにも倧勢の女の子達がアむドル掻動をしおいるずいうこずに驚きを感じおいた。この子達はこれを職業ずしお生掻しおいるのだろうかそれなりにかわいい子もいたし、蚀っちゃ悪いがこの子がアむドルずいうような芋た目の子もいた。たくさんの女の子がいるけれども、河合くんよりかわいい子は䞀人もいないな、ず沙良は思った。沙良も幎盞応に、「もっず目が倧きかったらな」ずか、「顔に立䜓感がほしいなあ」ずか、自分の容姿を気に病むこずはあった。しかし河合くんに出䌚っおからは、そういうこずがかなりどうでも良くなっおしたった。どんなに容姿端麗な女の子だっお、河合くんのかわいさに勝おる人間は誰䞀人ずしおいないのだ。河合くんは、男の子なのにも関わらず。
 7グルヌプ目、ゆりかがようやくステヌゞに珟れた。ゆりかのグルヌプは四人組で、みんな真っ赀なサンタのコスプレに黄色い星のカチュヌシャを぀けおいる。ゆりかはい぀ものツむンテヌルを䞉぀線みにしおいた。曲が始たり、ゆりかが歌い出す。䞊手いずも、䞋手ずも蚀えない。音皋はそれなりにずれおいるのだろうが、無理にかわいい声を䜜ろうずしお錻にかかったような歌い方が若干耳障りに聞こえおしたう。それでも、ゆりかは「アむドル」ずしおの振る舞いずいう点で今たで出おきた人たちの䞭でも突出しおいるように感じた。ずっず笑顔を厩さず、これでもかずいうくらい倧量のファンサをしおいるゆりかは、ずおもかわいかった。埌方圌氏面地蔵状態の沙良のこずも芋぀けおくれたようで、思いっきり手を振っおくれる。かわいいアむドル゜ング、歌詞が意味䞍明のポップス、感動系のバラヌドを立お続けに歌った埌、MCがはさたれた。
「みなさヌんクリスマス楜しんでたすかあ〜」
「たのしヌ」「れもんちゃヌん」「かわいヌ」
前方で叫んだ䞉人は黄色のペンラむトを掲げおいた。どうやら固定のファンのようだ。
「えぞぞ、ありがずうございたあす。今日はクリスマス兌私の卒業ラむブでもあるんですけど、倧奜きなみんなずたくさん楜しい時間を過ごせお本圓に幞せでした。最埌に、私にずっおずおも倧切な曲を歌わせおいただきたす。」
最埌の曲は、ゆりかの奜きな女児アニメのオヌプニング曲だった。
あたしはれもんちゃん
ふだんはおっちょこちょいだけど
やればできるこ ほんずだよ
ぜったいあたしのかわいさを
ぜんせかいにひろめたいの〜♪
           ✎
 「ありがずうございたしたヌ」
絶察たたい぀か䌚おうねヌず手を振っおステヌゞ裏に消えおいくゆりかを、歓声が芋送る。そうか、沙良はたたい぀でもゆりかに䌚えるけど、ファンの人達にはこれが最埌なのだ。
ラむブずいうのは䞍思議なものだな、ず沙良は思った。実際挔者は目の前のステヌゞで歌い螊っおいるのに、どこか珟実感がなくお映像のように思えおしたう。終わった埌は党お倢だったのではないか、ずいう気さえする。沙良はフラフラず駅たで歩き、垰りの電車に乗った。クリスマスの街は幞せそうに手を繋いで歩くカップルで溢れおいた。
          ✎
家に垰るず、チキンずケヌキが甚意されおいた。どうやら栗林家にも、䞀応クリスマスがきたらしい。
「沙良、さっき先生から電話があっお、奚孊金の件どうするか冬䌑み明けに教えお欲しいっお。䜕なのあの人達、たるでりチがすっごい貧乏で困っおるから恵んであげたしょう、みたいな。」
母は奚孊金の件でプラむドを傷぀けられたようだ。
「なんかめんどくさいから断りたいんだけど、䜕お蚀えばいいず思う」
「りチはそんなに貧乏じゃないので芁りたせんっお蚀えば たあくれるっおいうんなら貰っおもいいずは思うけどね。」
沙良はお腹が空いおいたのでチキンを秒で食べ終わり、ショヌトケヌキにフォヌクを突き刺す。自分のこずじゃないからっお、母のテキトヌな物蚀いに無性に腹が立っおくる。母からすればぞヌ䞃䞇もらったの良かったねヌ皋床の話だろうが、沙良は重い足枷をはめられる矜目になるのだ。倧䜓自分に皌ぐ胜力がないせいでこんな颚に孊校から情けをかけられおいる、その状況を本人は理解しおいるのだろうかたあ沙良も沙良で䞭途半端に成瞟がいいずいう倱点もあるわけだが、それだっお䞃•八割は䞡芪からの遺䌝だろう。母は倫ガチャ•子ガチャ共々ずんでもないハズレクゞを匕いおしたっお気の毒なものだが、そうはいっおも自分で出産ずいう遞択肢をずった以䞊、奚孊金を断るそれらしい理由くらいちゃちゃっず思い぀いお欲しいものだ。しかし、くれるずいうものを断るのがなかなか難しいのも事実。母の蚀うように「りチは貧乏じゃない」ず蚀い匵るのも䜕だか軋蜢が生たれそうだし かずいっお他には䜕も、サッパリ思い぀かない。䜓が痒くなっおくる。最初は矎味しく感じおいたケヌキも埌半になるず甘ったるく、沙良は気持ち悪くなっおしたった。
          ✎
 昚倜奚孊金の件ですっかり重くなっおしたった心身を匕きずりながら、沙良はコンビニに出勀した。予玄のケヌキやチキンの受け枡しは24日がピヌクだが、今日もただクリスマス、ずいうか本来25日が本番なのだ。もしかしたら河合くんのサンタ垜、あるいはトナカむ姿が芋られるかもしれない。
しかし、河合くんは店にいなかった。今日は出勀日の筈なのに。嫌な予感がした。それも、超特倧玚の嫌な予感。
「おはようございたす。あの、今日河合くんは」
沙良は瀟員の久郚さんに声をかけた。䜕床かシフトが被ったこずもあり、それなりに話せる間柄だった。
「ああ、河合くんね。蟞めたっお。」
沙良は、久郚さんが䜕を蚀っおいるのかわからなかった。
「 は蟞めた」
事態を飲み蟌めず、すっずがけた声が出おしたう。
「店長から聞いたんだけどね、あの子鬱病だか䜕だかで粟神的に䞍安定なずころがあったみたいなのよ。蚀われおみれば確かに、お客さんに挚拶もしないでむすヌっず黙り蟌んでるなあず思ったら、次の日には調子良く蚳の分からないこずをペラペラ喋りかけおきたりさあ。最近っおそういう子倚いのよね。あの髪型も倉だし ずにかく、急に蟞められるず困るのよ。今日だっお私ほんずは䌑みだったのに、いきなり呌び出されお 」
茫然自倱の沙良は自動盞槌マシヌンず化しおいた。信じられなかった。河合くんが蟞めたっお、じゃあ沙良の垌望は、恋はどうなるのだ
「 それで、倧孊も蟞めお地元に垰るみたいね。」
「はあ じもず、ですか。」
「新期だっお。」
「に、にいがたあ」
そうか、寒い所出身なんだ。沙良は河合くんの真っ癜な肌を思い出した。いやいや、そんな呑気なこず考えおる堎合じゃない。新期なんお、そんな遠くに行っおしたったら沙良はもう河合くんに䌚えなくなっおしたうではないか。河合くんがいなくなるずいう悲報。䜕お最悪なクリスマスプレれントであろうか 。河合くんはそのかわいさ故、神に遞ばれおしたった。ろくに人もいない地元ぞ匷制送還。神様は河合くんを䞀人占め。そんなのダメだよ、ず沙良は思う。河合くんは特別な人間だ。東京にいなきゃダメだ。河合くんはかわいいから、ただ倖を歩いおいるだけで瀟䌚に貢献できる。もったいない。本圓にもったいない。沙良は悲しかった。かわいいは才胜なのだ。才胜を持っおいる人間は、それを臆面なく振りかざすべきなのだ。それなのに、神様はどうしおこんなこずをするのだろう沙良はどうしお、生掻の䞭のほんの僅かなトキメキすらも奪われなくおはいけないのだろう沙良は目に映るもの党おに苛立った。カップル、くたびれたサラリヌマン、倧声で隒ぐ子䟛、虫唟が走る。垞連気取りのおっさん、やたら声の小さい若者。自分が店員に䜕かしら感想を持たれる、認識される、そう思っおいる傲慢さが心底気に食わない。毎日䜕十回、䜕癟回ずいらっしゃいたせ•ありがずうございたしたを繰り返し、流れ䜜業でレゞを打぀こちら偎からしたら老若男女客は客でしかない。それから、倀匕シヌルが貌られるのを匁圓棚の暪で埅機しおいる貧乏人ども。ほんずにムカ぀く。そんなに金ないならコンビニなんか来るな、せめお店の倖で埅぀ずか、あい぀らにはその皋床の芋栄を匵るプラむドもないのか絶察に倀匕シヌルを貌りたくないずいう思いで胞がいっぱいになったが、時間になったらどうしおも貌りに行かなければならないのがルヌルだ。沙良が枋々倀匕シヌルを貌った匁圓を、薄汚れた䜜業着の男が早速レゞぞ持っお来る。
「38番。」
煙草だ。で、この人は38番をどうしお欲しいわけ「ください」か「お願いしたす」だろなどなど、心の䞭で悪態を぀きながら䌚蚈䜜業をこなす。店内は暖房が効きすぎおいお、肌にたずわり぀いおくるヒヌトテックが気持ち悪い。BGMで流れるもろびずこぞりおの神経にさわる旋埋ず、明日には片付けられおしたうクリスマスツリヌの点滅が虚しかった。結局、河合くんは予玄しおいたブッシュドノ゚ルを取りに来なかった。 
          ✎
 垃団に入るず床からの冷気に身が震えた。居間や匟の郚屋の畳ず違い、キッチンのフロヌリングは熱を吞収しない。䜓枩で毛垃の䞭が枩たるのをじっず埅぀。この薄ら寒く生ゎミ臭いキッチンで寝る床、沙良は私っおたじ没萜貎族、ず思う。ちょっず前たで䞀軒家暮らし、どちらかずいえば人生勝ち組の偎だったのに䞖の䞭の栄枯盛衰ずいうのはこうも儚いものなのか。沙良は寒さにじりじりしながら諞行無垞を噛み締める。
幌い頃から、電気を党郚消した郚屋は小さな銀河みたいだず思っおいた。それは昔䜏んでいた䞀軒家でも、このボロアパヌトでも同じようだった。玄関の芗き穎によっお凝瞮されたコンビニの明かりが、匷い光を攟っおいる。それはカヌテンの隙間から芋える本物の星よりも明るくお、目が眩んだ。
沙良は、河合くんのこずを思った。河合くんの笑顔、サラサラツダツダの黒髪、䜎いのにこもらずよく通る声。段ボヌルを開ける時、商品のフェむスアップをする時、党おの動䜜が優しくお、神経質なくらい䞁寧だった。沙良は次々、河合くんの蚘憶を思い出した。思い出したけれども、沙良の目から涙は䞀滎も溢れおこなかった。あれ、おかしいな。䜕でだろう。おっきり、河合くんの思い出を反芻すれば自分は泣くものだず沙良は思っおいた。錻氎をかめるように、枕元に箱ティッシュたで準備しおいたのだ。しかし、䞀向に涙は出おこない。そのうち河合くんの蚘憶を懐叀するより、䜕故涙が出おこないのだろうずいうこずばかりに意識が向くようになっおしたった。ふず、修孊旅行の倜、湯気の向こうで泣いおいたゆりかを思い出した。
い぀たで経っおも泣けないので、沙良は代わりに祈っおみるこずにした。星に願いを、だ。だけど、具䜓的に䜕を祈ればいいんだろう河合くんが戻っお来たすように河合くんにもう䞀床䌚えたすように河合くんが心穏やかに過ごせたすように、だろうか寝返りをう぀ず、倜空の星ず目が合った。その瞬間、沙良は䜕だかバカバカしくなっおしたった。星に祈るずか、こんなくだらない少女趣味なこず蟞めよう。やっおも意味がない。あの光は、過去の䞭で燃えおいる星の残像に過ぎない。人間の願い事を叶える力なんお、持っおはいないのだ。
沙良は目を閉じた。次に目を開ければ察面するこずになる河合くんのいない䞖界は、きっず心底぀たらないものなのだろう。
          ✎
 沙良は憂鬱な気持ちで職員宀前の廊䞋に立っおいた。冷たい空気に足がスヌスヌする。嫌だなあず思いながらもずっずここにいたっおどうしようもないので、沙良は意を決しおドアをガラガラず開けた。
「䞉䞊先生いらっしゃいたすか」
呌びかけるず自垭で匁圓を食べおいた担任が、片手を䞊げお沙良のもずにやっおきた。
「あの、奚孊金の件なんですけど。」
「ああ、はい、はい。」
「受け取らない、ずいう方向で いこうかな、ずおも、い、たす。」
「え䜕で」
予想倖の発蚀だったらしく、担任は面食らったような顔をしおいる。
「えっず りチ離婚はしたんですけど、そこたでその 経枈的に困っおるわけでもないずいいたすか。他にもっず、必芁ずしおる人がいるんじゃないかなヌず。」
他に必芁ずしおいる人がいる、それは沙良が冬䌑みの間䞭考えに考えた末ようやく捻り出した、どうにか奚孊金を受け取らずに枈むかもしれないなけなしの蚀い蚳だった。担任が切りっぱなしボサボサの頭をかきながら思案する。
「いやあ、今のずころ特にそういう事䟋はないんだよね。根本は暡詊の成瞟もいいし 」
「いや、良くないです。」
「ああ、理系科目のこずなら気にしなくおいいよ。どうせ根本は、来幎文系教科しかずらないんだろ」
「それは、たあ 。」
沙良はたずったなあ、ず思った。䞉幎で䜕の科目をずるかは既に決定しおいたが、沙良は理系を䞀科目も取らないずいうかなり特殊な遞び方をしおいた。私倧に行く぀もりはなかったが、公立倧の䞭には数少ないが文系科目だけで行ける穎堎的な孊校が存圚するのだ。沙良はそういうずころを適圓に受隓しようず考えおいた。孊校は道を狭めないよう文系に絞るこずをあたり掚奚しおいないが、沙良の堎合理系科目をやるずストレス性蕁麻疹及び発狂ずいう身䜓的・粟神的な害が出るので华䞋するしかない。そもそも䜕もやりたいこずがないので、遞択肢を狭めないこずにはい぀たで経っおも方向が定たらないずいう消去法的人生なのだ。しかし理系を排陀しおしたったこずで、教垫が沙良に察しお「勉匷ができない子」ずいう刀断を䞋し奚孊金絊付を芋送る、ずいう展開を無意識のうちに朰しおしたっおいたのだった。勿論奚孊金のこずなんお科目遞択時の沙良は知る由もなかったのだから仕方ないが、やはり人生ずいうのは苊手なものからも逃げずに向き合うべきなのだ。それをしないずこんな颚に、バチが圓たる。
しかし沙良は文系教科だっお、決しお飛び抜けおできるずいうわけでもないのだ。䞀番埗意な日本史でさえ、暡詊の校内順䜍を芋ればかならず十数人は䞊に人がいる。じゃあどうしお孊校は、沙良より勉匷ができる圌らを奚孊生にしないのか答えは簡単、沙良より成瞟のいい生埒は倧抵それなりに裕犏な家庭の子䟛だからだ。沙良は腹が立っおきた。こんなに䜕癟人ず生埒がいる䞭で、沙良より貧乏か぀勉匷ができる、ずいう人間が䞀人もいないなんおおかしいではないか。䞀䜓䞖の䞭どうなっおいるわけ倧孊受隓ずいう戊堎においお、根本改め栗林沙良ずいう人間は倧しお厄介な敵ではないはずだ。誰だっお、ちょっず努力すれば沙良の成瞟なんお簡単に远い越せるだろう。ここにいる人間はその皋床の才胜すら、誰䞀人ずしお持っおいないのか。そう思うず䞖の䞭の党おに絶望しおしたいそうだ。同孊幎の私より貧乏な子たち、頌むからもっず勉匷を頑匵っおほしい。君たちが頑匵らないせいで、私はこんな酷い目にあっおいるのだ 。
「悪い話じゃないず思うんだけどな。こちらずしおはぜひ根本に貰っおほしいず思うんだけど どうかな」
ぜひ根本に貰っおほしいずいうか、新しい人を探すのが面倒なだけだろ。ず、沙良は思ったが勿論蚀えはしない。
「ああ、はい。じゃあ えっず、貰いたす。 あざたす。」
沙良は、党おがめんどくさくなっおしたったのだった。あヌあヌもおどヌずでもなれ。私は䞀回断ったし、もう知らん。
「うん、じゃあ必芁曞類枡すから。曞いお、今週䞭に持っおきお。」
こうしお、沙良は孊校の奚孊生になっおしたった。たさに、お先真っ暗。廊䞋を歩く沙良の足取りは、䞀䜓リンゎ䜕個分の重さだろう
          ✎
 河合くんがいなくなっおからずいうもの、沙良の生掻はずお぀もない無気力感に支配されおいた。毎日䜕ずか垃団から起き出しお孊校に行き、八時間耐えお家に垰り、バむトに行く。河合くんのいないコンビニでの劎働は、ただただ単調で぀たらない。が、没萜貎族少女の沙良は小銭皌ぎをやめるわけにもいかない。河合くんがいた頃は楜しかったな、ずがんやりした頭で思う。ドブのような日垞の䞭で、河合くんのこずを考える時だけ沙良の心はずきめいたのだった。

 沙良は冬䌑みの課題にほずんど手を぀けおいなかったので、日本史の授業䞭に数孊のワヌクをずいおいた。提出締め切りはずっくに過ぎおいるが、課題を出さないず授業䞭束岡に名指しで催促されるため仕方なくやっおいる。ごく簡単な蚈算問題だけ自力でやり、残りは答えを写しおいく。そうしおいるずチャむムが鳎り、授業が終わった。机の䞊を片付けおいるず真暪に誰かが歩いおきお、止たった。明らか沙良に甚があるずいった様子だ。芋䞊げるず、吉田がいた。げげげげ。䜕の぀もりか知らないがピンク色のネクタむを締めおいる。
「数孊の課題ですか。」
「ああ 。」
なんず答えたらいいのか分からず、沙良は呻き声のようなものを発する。吉田は今日の授業でもペラペラペラペラよく喋りカリスマ教垫振りを披露しおいたが、沙良の内職にはきちんず気付いおいたらしい。
「あなたは、孊校に䜕をしにきおいるんですか」
「 すみたせん。」
蚊の鳎くような声で謝る。ずりあえず謝れば、立ち去っおくれるず思ったのだ。
「課題を期限たでに終わらせられないずいうのは瀟䌚に出おから困りたすよ。」
沙良は机䞊の消しカスを芋぀めながらコクコク頷く。肩から背䞭にかけお、蕁麻疹が浮き出おくるのがわかった。
「いいですか勉匷ずいうのはね、自分の人生のために自分で遞んでやっおいるこずなんです。この孊校を遞んだこずも、日本史の授業を遞択したこずも、倧孊受隓も同じです。自分で遞んでやっおいるこずなのに、こんな颚に反抗するのは幌皚だず思いたせんか。」
沙良はもう、頷くこずもできなかった。少しでも動いたら、瞳に溜たった涙が溢れおしたうからだ。
「これは孊幎集䌚でも毎床話しおいたすが、応揎される人になるこずが重芁なんですよ。授業に真面目に取り組たず他教科の課題をやっおいるような人を、誰も応揎したいずは思わないでしょう 根本さん、この前職員䌚議でききたしたが、あなたは孊校の奚孊金を受けるずいうこずになっおいたはずです。もっず自芚ず責任を持っお行動しおください。」
吉田は蚀いたいこずを蚀い終わったらしく、身を翻し軜やかな足取りで教宀を出おいく。「埓順で玠盎」な生埒たちにこんにちはあなどず挚拶され、機嫌良く返しおいる。そりゃあ䜕も蚀い返しおこない盞手に長々説教するのは気持ちいいだろうな、ず沙良は思った。しばらく怅子に座ったたた、動けなかった。吉田は先ほど職員䌚議、ず蚀った。党孊幎の先生が集結する堎で、奚孊金付䞎察象ずしお沙良の名前が挙げられたのかもしかしたら、苗字が倉わるこずもバラされたのかもしれない。そう考えるず、カヌッず顔が熱くなった。泣いちゃだめだ、泣いちゃだめだず思うほどに芖界ががやけお滲む。
蚱せない、ず思った。あんな奎が、あんなしょヌもない男が、教垫ずいう立堎を利甚しお蚀いたい攟題説教しおいいなんおシステムどう考えたっおおかしい。それでも呚りの目はあるし、こちらは蚀われっぱなしで黙っおいるしかない。あのク゜ゎミ教垫は、沙良が唯䞀の垌望である河合くんを倱ったこずも、生ゎミ臭いキッチンで毎日眠っおいるこずも、䜕も知らないくせに。悔しい。悔しい。最悪。瞬きをするず、涙がぜろりず溢れた。呚りに、泣いおいるこずを悟られおはいけない。衚情が歪たないように歯を食いしばる。その反動で䜓が震える。ずお぀もない怒りず惚めさで頭がいっぱいになりながらも、この事態をどうしたものか、冷静に考えおいる沙良がいる。ここが家だったらギャヌギャヌ泣き叫んで久し振りに圫刻刀を持ち出しおいるずころだろうが、今沙良がいるのは孊校。呚りにはたくさんの生埒たちがいる。沙良は呚りの人間に、急に泣き出す痛い奎、突然発狂しお隒ぎ出すダバい奎だずは死んでも思われたくなかった。なので沙良はあくたで自然な動䜜を心がけながら垭を立ち、俯きながら廊䞋を歩く。行き先はトむレである。個宀に入っお鍵を閉めるず、誰の目も届かなくなったのをいいこずに、涙ず錻氎がどんどん出おくる。こうなっおしたったらもう、涙が止たるたで泣くしかない。泣きながら、制服の䞭に手を突っ蟌んで背䞭を掻く。自分の手の冷たさに身の毛がよだったが、痛いくらい爪を匷く立おるこずで誀魔化す。爪の間に剥がれた皮膚が入り蟌み、少し出血もしおいた。沙良は先ほど吉田に蚀われたこずを、脳内で䞀から反芻し始める。こちらを芋䞋ろしながら喋る偉そうな態床、声、「孊校に䜕をしに来おいるんですか」、「瀟䌚に出お困る」、「自分で遞んだ」、「幌皚」などムカ぀きワヌドの数々。それら䞀぀䞀぀に感情が昂り、涙が出おくる。沙良はそうやっお泣くこずに、䞀皮の快感を芚えおいた。映画ずか読曞ずか倱恋ずか、そういうものではもう出おこない涙なのだから、普段の分も今思う存分出しお、出し切らなければならない。怒り以倖の感情で泣けなくなっおしたったのはい぀からだろうか、沙良にはもうわからない。チャむムが鳎った。もう次の授業が始たっおいる。しかしこんな状況で倖に出おいくわけにもいかないので、サボるこずにする。仕方がない。こんなこずになっおしたったのは沙良のせいではなく、吉田のせいなのだ。沙良はポケットティッシュを持っおいなかったので、トむレットペヌパヌを千切っお錻をかむ。寒い。埐々に興奮が冷めおくるず、きん、ず凍お぀いた空気が身に沁みた。教宀や職員宀は暖房で暖かいのだろう。ク゜。寒い、ず意識し出すずどんどん寒くなっおきお、沙良はその堎で足螏みをする。制服の衣擊れず、䞊履きのタッタッずいう音だけが静かな女子トむレに響く。しばらくそうしおいるず誰かがトむレに入っおきたので、足螏みを蟞めお息を朜める。突然の来蚪者が甚をたす音を聞きながら、沙良は虚しくなっおくる。䜕が悲しくお、こんなク゜寒いトむレで他人の攟尿音を聞かされなくおはいけないのだろうか人生っお䜕なのだろう、ずいう哲孊的問いに思いを巡らせおいるず、隣人は出すもの党郚出し終わったらしくさっさず氎を流しおトむレを出おいく。ああ、家に垰りたい。今日はバむトも䌑みだし、垰ったら即毛垃にくるたっお眠りたい。

 也いた涙が冷たくお、泣き腫らした頭が重かった。ポケットから鏡を取り出しお開く。瞌が腫れ二重線が消倱しおいる。錻にトむレットペヌパヌの残骞がこびり぀いおいたので、悎んだ指で取り陀く。スマホを鞄に眮いおきおしたったから、暇が朰せるようなものもなかった。具合が悪いずいうこずにしお保健宀に行こうかず思ったが、適圓な症状が思い぀かない。沙良は昔から、粟神は幌皚で脆匱なくせ䜓だけは䜕故か䞈倫だった。ここ数幎、䞀床も颚邪をひいおいない。バカは颚邪をひかないずいうや぀だろうか生理も軜いので、䜓のどこかが䞍調だずいう感芚があたり分からない。取り敢えずゲロ臭でも挂わせおおけば垰らせおくれる確率が䞊がるだろうず思い。トむレの蓋を開けお真っ癜な䟿噚ず察面し、喉に指を突っ蟌んでみる。封氎を飲むずか䟿噚を舐めるずか気持ち悪い想像をしお吐き気を催そうずするが、䞀向に吐瀉物は喉元たで䞊がっおこない。そうこうしおいるず、たた誰かがトむレに入っおくる。授業䞭のトむレっお思ったより賑わっおいるものなんだな、ず沙良は思った。
           ✎
 吉田の孊幎䞻任パワヌにより、気に入らない生埒の奚孊金受絊暩利が剥奪される。そんな沙良の思い描いたシナリオが珟実になるこずはなかった。沙良は満員電車に揺られながら、今日の昌䌑みに校長宀で行われる予定の「奚孊金授䞎匏」に぀いお考えおいた。校長から封筒を受け取り、「お瀌の蚀葉」なるものを述べなくおはいけないのだ。沙良は思っおもいないこずを口先だけでベラベラ喋れるタむプではないので、本圓に困っおしたう。いっそ、バックれおしたおうか私は人様からお金をいただけるような倧局な人間ではないのです。ただちょっず家が貧乏で、ちょっず勉匷ができるだけなのです。倧した才胜もないのです。心が繊现なので、ちょっずした足枷だけで途端に歩けなくなっおしたうのです。どうかどうかお蚱しください、本圓に本圓に申し蚳ないず思っおいるのです。沙良は寝たふりで目を瞑りながら、たた泣きそうになっおしたう。沙良は、自分が理系だったらよかったのになあ、ず思った。時々、脳みそが理系であれば、もっずマシな人生になっおいたのではないかず思うこずがある。なんだかわかりやすい目暙をたおるこずができる。゚ネルギヌの開発だずか、人類にずっおなんだか圹に立ちそうな研究に埓事する。そしお瀟䌚貢献をするこずができる。「お瀌の蚀葉」の内容も、さぞかし組み立おやすいこずだろう。そもそも思考回路が論理的であれば、こんなに感情に振り回されお苊しむこずもないだろう。勉匷だっおちゃんずできるだろうし、将来的には株ずか投資、プログラミング、そういうなんか頭良さげで皌げる分野の職業に就き、勝ち組の人生を送るこずができるだろう。この前悪魔の講挔䌚にやっおきた吉田のお気に入り、䌊藀氏の蚀葉が思い出された。
「僕は皎金に助けられおきた偎の人間なんで、たくさん玍皎するこずには玍埗しおるっす。」
「もう皌げるだけ皌いで人生䞊がりなんで、次は瀟䌚貢献ずかしたいっすね。」
講挔䌚なんおやるような人間は党員ク゜である。マゞで、ろくな奎がいない。ず沙良は思っおいるが、䞖の䞭ではやはり、金を持っおいる人間が「すごい」ず厇められ、尊敬され、慕われるのだ。
沙良だっお本圓は投資ずかプログラミングずか、そういうすごいかんじの仕事をしお人生䞊がりたい。が、しかし自分にそういった知胜が備わっおいないこずは明癜で、沙良はただただ悲しかった。
           ✎
 車窓から芋える䜏宅地の䞭に、沙良の䜏んでいた家が芋えた。グレヌの倖芳、小さな芝生の庭。そこには、マりンテンバむクが2台停たっおいた。匕っ越したばかりの頃は売り物件の赀旗が立っおいたのだが、もう買い䞻が決たっお人が䜏んでいるのだ。沙良が今たで人生の殆どを過ごしおきたあの家。庭のミニトマト、薄汚れた勉匷机、それから日々自傷行為に励んだあの颚呂堎。そこに別の人が暮らしおいるずいうのは䞍思議なような、䜕だか寂しいような気がした。

 電車が孊校の最寄駅に停たる。沙良ず同じ制服を着た生埒たちがぞろぞろ降りおいく䞭、沙良は重い腰を䞊げるこずができなかった。寝たふりを続けおいるず誰に起こされるこずもなくドアが閉たり、発車する。沙良は毎日ホヌムルヌムにギリギリ間に合う電車に乗っおいた。だから、これで遅刻が確定したずいうわけだ。
          ✎
 颚景が、街から郊倖のベッドタりンぞず移り倉わっおいく。今日はもう孊校には行かないだろうな、ず沙良は他人事のように思う。そうだ、このたた奚孊金受䞎匏をすっぜかしお、次孊校に行った時やっぱり蟞めたすず蚀おう。元々向こうが勝手に抌し付けおきただけで、沙良はお金をくださいなんお䞀蚀も頌んではいないのだ。孊校独自の奚孊金なのだから、少し絊付が遅れお別の人を探す時間をずられるくらい倧した問題でもないだろう。奚孊金ずいうものはこんな颚に孊校をサボっおフラフラしおいるようなダメ生埒ではなく、今日も普通に孊校ぞ行き勉孊に励んでいる真面目な生埒にこそ䞎えられるべきものなのだ。党く、孊校の教垫ずいうものは倧勢の生埒を芋おきおいるのだから、そのぞんの審矎県くらい勝手に逊われるものではないのか。あい぀らの目は、節穎

 車内アナりンスから、聞き芚えのある駅名が流れおきた。小さな頃よく遊びに行っおいた公園の最寄駅だった。あたり長く電車に乗っおいるず運賃がもったいないので、沙良は電車を降りるこずにした。改札を出お少し歩くず、懐かしい公園が芋えおくる。立方䜓をいく぀か積み䞊げた珟代アヌト的オブゞェが沙良を出迎えおくれた。平日の昌間だから人も少ないだろうず思ったがそうでもなく、公園は小さな子䟛ずその母芪たちで賑わっおいた。そんな䞭で、制服姿の沙良は異質だ。孊校に通報なんおされたらたたったものではないので、人のいない方ぞ、いない方ぞず歩いおいく。昌の光にゞャングルゞムが照らされ、萜ち葉が颚に舞っおキラキラず茝いおいる。
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 緩やかな坂を登ったずころに、展望台があった。誰もいなかったので、沙良はしばらくベンチに腰を䞋ろしお町を眺めた。ここから芋るず党郚がミニチュアのおもちゃみたいで、人が暮らしおいるようには思えない。レプリカの町の䞭でも䞀際存圚感を攟っおいるのが、孊校だった。町の䞭心郚に、どしんず居座っおいる。䞁床授業が終わったのか始たったのか、チャむムが鳎り響いた。それなりに距離のあるここからでもこんなにうるさいのか、ず沙良は驚いた。そのうち校舎からわらわらず人が出おきお、校庭を走り回り始める。どうやら、あれは小孊校らしい。自分にもあんな頃があったのだ、ず思うず無性に切なくなっおくる。今たでの人生、どこが分岐点だったのだろうどこを間違えなければ、こんな颚に真昌間の公園でボヌッずしおいるような高校生にならなくお枈んだのだろう沙良は、䞀からやり盎したいず思った。でも、長かった17幎をもう䞀床やり盎すのはめんどくさいなあずも思う。沙良が沙良である以䞊、倚少遞択を倉えたずころでやっぱり17æ­³2月7日の今日この日、この公園にたどり着くのだろうか

 気が぀くずベンチの暪に知らない老人が立っおいお、沙良ず同じように町を芋䞋ろしおいた。ちっ、私䞀人の時間を邪魔しおくんじゃねえ幎金老人。たあ、公園が公共物である以䞊仕方のないこずだ。
「これ、食べる」
突劂老人が沙良に向かっお口を開き、握り拳を差し出しおくる。驚きながらも反射的に手を差し出すず、個包装のキャンディが萜っこちおきた。
「あ、ありがずうございたす」
沙良が瀌を蚀うず、老人はくるりず背を向けお立ち去っおいく。知らない人からもらったものを食べるのは良くないが、风ならたあ倧䞈倫だろう。封を切っお口に入れるずレモンの味がしお、沙良はゆりかのこずを思い出した。そういえば今日、沙良がサボったせいでゆりかはがっち飯かもしれない。スマホの画面を開くず案の定、ゆりかからLINEがきおいた。今日サボりがっち飯キツいんだけど。ずのこずだ。母からも䜕回かの着信、孊校の連絡甚アプリには担任からメッセヌゞが届いおいる。あヌ煩わしい。どうでもいいけど、风を舐めたらお腹がぐるぐる鳎りだした。コンビニで、䜕か買っお食べよう。沙良はベンチから立ち䞊がり、最埌にもう䞀床町を芋枡す。党䜓に淡い氎色のモダがかかっおいるような町は、虚停ず浅い思想から出来䞊がったシステムで回っおいる。これが党郚CGだず蚀われおも、ああそうですかず玍埗できおしたうだろう。小さい頃よく来たこの堎所は、もう沙良のいる堎所ではなくなっおしたった。老人からもらったキャンディはもうほんのカケラ皋床しか残っおいなくお、甘ったるい砂糖の塊が口の䞭で䞍快に溶けおいく。
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「あ、今日授䞎匏やるから。」
次に孊校に行くず、沙良のサボりは䜓調䞍良ずいうこずになっおいた。沙良以倖の奚孊生たちは先日既に儀匏を終えたらしく、今日校長宀に行くのは沙良䞀人だけだ。どうしようどうしようず思いながら、沙良は午前䞭の授業を䞊の空で過ごした。階段でずっこけそうになり、腕を掎んで止めおくれたゆりかにボヌッずしすぎ、ず怒られた。

 そしおずうずう、悪倢の昌䌑みがやっおくる。嫌だ嫌だず思いながらも、䜓が勝手に校長宀ぞ向かっお歩いおいく。校長宀の前には担任ず、䜕故か吉田たでいた。
「根本さん、ブレザヌのボタンを留めなさい。」
留め「なさい」い぀䜕時もずこずんムカ぀く奎だ、ず思いながらも倖面だけペコペコしおボタンを穎に通す。
「それじゃ、ノックしお入っおください。」
「はい。」
䞉回ノックしお校長宀のドアを開けるず、パンパンに顔が匵ったアンパンマンみたいな校長が起立しお埅ち構えおいた。沙良は吉田の誘導で校長机の前に立たされ、気を぀けの姿勢になる。
「それでは今から、奚孊金授䞎匏を始めたいず思いたす。」
どうやら吉田が進行を務めるようだ。窓の倖で、鳥が朚の枝から飛び去る音がした。
「それでばたず校長からお蚀葉をいただきたいず思いたす。束野校長、よろしくお願いいたしたす。」
「はい。この奚孊金は、本校に圚籍する優秀な生埒に絊付されるものです。これからもより䞀局勉孊に励み、瀟䌚に貢献できる人材になっおくれるこずを期埅しおいたす。」
私INFPなんでそういうの無理っすよ、ず沙良は思った。
「はい、束野校長ありがずうございたした。それでは根本さん、校長から封筒を受け取っおください。」
赀ず癜の封筒。なんの重みもなかった。お金は銀行に振り蟌たれるこずになっおいるから、この䞭に入っおいるのは玙切れ䞀枚ずかなのだろう。
「では根本さん、感謝ず決意衚明の蚀葉をどうぞ。」
カンシャトケツむヒョりメむ意味がわからない。倖囜の蚀葉のように聞こえる。
「 この床は奚孊金を、その いただきたしお、ありがずうございたす。これからは が、孊習に力を入れ、倧孊受隓を 」
そこで蚀葉が途切れおしたう。校長、担任、吉田、䞉人の芖線が沙良に集たり、嫌な汗が出おくる。
「だいが、く、じゅ けん、を、」
「がんばりたい、ず、おもいたす。」
それだけずいう雰囲気が宀内に充満する。吉田が堎を取り持ずうず息を吞い蟌んだのがわかった瞬間、沙良はようやく芚悟を決めた。
「 ずいうのは嘘で、やっぱり、私、これ、奚孊金、蟞退したすあの、なんか、ほんずに、すいたせん」
封筒を担任に抌し付けるず、沙良は校長宀を飛び出した。
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 「え、ちょっず埅っお、根本」
呌び止める声が埌ろから聞こえるけれども、構わず倧急ぎで廊䞋を歩くその姿はたるで競歩遞手のようである。廊䞋は人目があるので走れない。こんな時でも他人の目を気にしおしたう沙良なのであった。沙良は保健宀に向かった。ノックもせずガラガラずドアを開けるず、逊護教諭の牧原先生が驚いた顔で沙良を芋た。
「あら、どうし 」
「远われおるんです、助けおください」
沙良は牧原先生の返事も埅たずにズカズカ入り蟌むず、ベッドの脇に䜓育座りしお頭を䌏せた。涙が溢れお、床に氎滎が萜ちる。担任が保健宀の入り口からひょこりず顔を出し、䞞くなっおいる沙良を芋぀ける。
「おい根本、どういう぀もり 」
「入っおこないでください」
沙良は自分の声の倧きさに驚く。孊校でこんな倧声を出したのは、これが初めおだ。
「あの、先生。ちょっず私が話を聞きたすので、䞀旊垭を倖しおいただけないでしょうか」
牧原先生が、蚳の分からない状況ながらも間を取り持ずうずしおくれる。
「あ、はあ 分かりたした。ではすみたせん、よろしくお願いしたす。」
担任もこれではずり぀く島もないず思ったのか、意倖ずあっさり匕き䞋がっおくれた。ドアが閉じられ、牧原先生の近づいおくる気配がする。
「䞀旊萜ち着こうね。䜕幎䜕組、䜕番」
「2幎2組、30番です 」
沙良が力なく答えるず、牧原先生が出垭簿を確認する。
「えヌず、沙良ちゃんね。今日はどうしちゃったの」
牧原先生が沙良の隣にしゃがみ蟌み、肩にそっず手を眮く。柔軟剀のいい匂いがした。
「あの 孊校の奚孊金、䜕故か貰うこずになっお。今日授䞎匏で、おいうか本圓はこの前授䞎匏だったけどその日サボっちゃっお。でも今日封筒貰っお、やっぱお金貰いたくないなず思っお 逃亡、したした。」
牧原先生は優しく盞槌を打ちながら沙良の話を聞いおくれおいる。偎から芋お理解䞍胜の行動をする人間の話もたずは吊定せずに傟聎、流石は保健宀の先生だ。
「沙良ちゃんは、どうしおやっぱりお金を貰いたくないっお思ったの」
ティッシュを差し出され、受け取る。頭が重くなっおきおむラむラする。どうしおどうしおなんお蚊かれおも、説明するのは難しい。プレッシャヌをかけられるのが嫌だ。孊校に掗脳されたくない。貧乏だず思っお銬鹿にされおいる様で気に食わない。
「私、気持ち悪い人間になりたくないんです。」
牧原先生は、少しの沈黙の埌口を開いた。
「んヌ、そうねえ。孊校は単玔に、沙良ちゃんをサポヌトしたいだけだず思うんだけどね。どうしおも嫌なら、私から先生にその旚䌝えるこずもできるわよ。」
「あ、じゃあお願いしたいです。」
沙良が即答するず、牧原先生は担任ず話をしに保健宀を出お行った。しばらくここにいおいいのだろうか。昌䌑みの保健宀には沙良以倖誰もいなかった。レモン色のカヌテンから真昌の光が差し蟌んで、保健宀の床に氎䞭みたいな圱を䜜っおいる。色々ダメにしおしたった埌ずいうのは、こんなにも静かなのか。あヌあ。せっかく䞃䞇円貰えたのに。もしかしたらこれをきっかけに真人間に生たれ倉わっお、文系でもそこそこいい倧孊行っお楜しいモラトリアム生掻ずか送れたかもしれないのに。党郚台無しにしちゃったなあ。今だけ。今だけ頑匵れば、そういう未来もあったのかもしれない。でも今頑匵れないから、その話はここでお終いなのだ。これから校長からも吉田からも担任からもすごい冷たい目で芋られるだろうし、肩身狭い。気たずいなあ。沙良はそんなこずをのんびり考えた。䞍思議ず嫌な気分ではなかった。怖くもなかった。むしろ枅々しい、色玠の薄い青空の様な気分だった。党然、これでよかったのだ。ああ危なかった危なかった。沙良はすんでのずころで危険を回避したのだ。他の奚孊生たちは気の毒だが、たあ仕方ない。きっず倢ずか目暙ずかあるんだろうし、みんなそれに向かっお頑匵っおくれればいいのだ。
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 さお、これからどうしよう。揺れる朚挏れ日を芋おいるず、沙良の頭に突劂ある考えが降っおきた。ああ、そうか。初めからそうすればよかったのだ。
閃いたらお腹がぐるるるず鳎った。

 「就職したす。」
「ん〜〜〜ふぅ、どんな方向転換」
二幎からそのたた持ち䞊がった担任は最初驚いおいたが、沙良の考えが倉わらなさそうなずころを芋るず高校生の就職掻動に぀いお䞀から説明しおくれた。この担任は沙良が起こした校長宀逃亡事件の埌もそこたでキツく詰め寄っおきたりせず、軜く泚意があっただけだった。むしろ「家庭の事情で色々倧倉だろうけど困ったこずがあればい぀でも力になるから」なんお、「芪身になっお生埒ず向き合う教垫」のお手本の様な台詞を披露しおいただけたくらいだ。困ったこずも䜕も、たあ郚屋が狭くお臭いのは眮いずいお、沙良ずしおはバカで短気な父芪がいなくなっお枅々しおいるくらいだ。にも関わらず、「ちょっず可哀想な子だからたあしょうがないか」ずいった具合で無責任な行動に目を瞑っおもらえるのは倧倉助かる。ので、沙良は神劙な面持ちで、
「ありがずうございたす。でも倧䞈倫です。」
などず蚀っおみるのだった。
「春から倏にかけお䌁業の説明䌚ずか芋孊、9月ごろ応募しお面接、ずいう流れになりたす。 なんか、こういう仕事しおみたいなっおいうのはもう決たっおるの」
「事務職がいいです。」
「なるほどなるほど。りチは就職少なすぎお求人来ないから、ハロヌワヌクず盞談しながらになるけど事務なら色々あるず思うから。今床電話しお、いく぀か求人祚送っおもらうよ。」
「ありがずうございたす、お願いしたす。」
そういうわけで䞃月、受隓の倩王山ず蚀われる倏䌑みを目前に同玚生たちが気合を入れる䞭、沙良は䌁業芋孊に行くため電車に揺られおいた。このたたいけば沙良は高卒、あんなにバカにしおいた父芪ず同じ孊歎になっおしたうのだ。これも、「血は争えない」ずいうや぀だろうか。たあ、別にいい倧孊に行っお瀟䌚から認めおもらわなくおも、沙良の才胜は沙良䞀人だけが知っおいればいいのだ。そんなこずを本気で思っおいるのだから、沙良はゆりかの承認欲求に぀いお偉そうに分析できる立堎にはいない。沙良も沙良で、倧倉な自己愛を拗らせた逆匵り承認欲求モンスタヌなのだ。たあ、そんな颚になっおしたうのも仕方ない。䜕故なら最近、沙良は党おが絶奜調。倧孊受隓ずいう呪いから解攟された瞬間になんだか勉匷が楜しくなっおきお、この前の定期テストではなんず日本史孊幎二䜍を取っおしたった。吉田ざたあ、日本史遞択の皆様におかれたしおは誠にご愁傷様ですこず、あなた方の小さい脳みそじゃあ本気を出した栗林沙良には到底及びたせんこずよおほほほほ、ず高笑いしたい気分であった。ずいうか実際成瞟が返っおきた日、沙良は家に垰っおおほほほず声を出しお笑った。沙良はすぐ調子に乗るのがダメなのだ。そんな沙良を気に入らない様子の吉田は盞倉わらず嫌な奎で、授業䞭もそれずなく嫌味を蚀っおくるが、沙良は無芖しおいる。䜕か蚀われおも、涙が出おくるこずはもうない。䞀床リミッタヌが倖れるず、自分でも驚くくらい感情が動かなくなるものなのだ。そんな乗りに乗りたくっおいる沙良にも負けない安定感抜矀の日本史女王•花穂は、圌氏の慧くんず同じ倧孊目指しお頑匵っおいるらしい。ゆりかは塟の先生に超絶むケメンがいるずかで、い぀になく勉匷に熱意を燃やしおいる。どうせお前就職なら付き合えよ、ず買い物や映画、地䞋アむドルのラむブなんかにちょくちょく連れ出されおいるが、それでもゆりかは順調に成瞟を䌞ばしおいるからやっぱり"やればできるこ ほんずだよ"なのだ。ゆりかが友達で良かった、ず沙良は思う。受隓でやたらピリピリされお、圓たられたりしおも困る。沙良は、根本的にセンスがある人間が奜きなのだ。
 みんな、それぞれ向かうべきずころぞ向かっおいる。党郚投げ出しお逃亡した沙良でさえ、それはそれでたた新しい䜕かが始たっおいくのだ。

 䌚瀟の最寄駅に着いたので電車を降り、改札を抜ける。こういう、人が倚い堎所に来るず沙良は぀い぀い河合くんを探しおしたう。こんなずこにいるはずもないのに。

 孊校サボったりなんやかんやあっお、母に「あんたどうしたの」ず蚊かれた時、沙良は初めお河合くんのこずを母に話した。「瞁がある人ずはたたどこかで䌚えるから。」母はそう蚀っお励たしおくれた。りチの母も、たたにはいいこずを蚀う。沙良ず河合くんの間に瞁が無いわけない、運呜の赀い糞で結ばれおいる筈だず沙良は信じおいる。でもいくら運呜だずいったっお、ぜやヌっずしおいたらすぐ暪を通り過ぎおしたうかもしれない。だからい぀も、アンテナをビンビンに匵っおおかなくおはいけないのだ。
 河合くんがいなくなった時沙良が泣けなかったのは、そういう楜芳的な予感が既にあったからだろうかそれずも、沙良が冷たい人間だからだろうか。吉田に説教された時や校長宀から逃げ出した時は簡単に泣けたのに、河合くんのこずでは、結局沙良は䞀床も泣けなかった。沙良は、恋に恋しおいただけなのかもしれない。高校生で17歳で女の子で、みんながしおいる様な青春の真䌌事をしおみたかっただけ。そんな恋しか出来ない自分が嫌になる。でも、沙良の恋が虚停だったずしおも、河合くんのかわいさ、河合くんが䞖界䞀かわいいずいうこず、それだけは玛れもない事実、本圓のこずなのだ。それだけは、揺るがない真理。だから沙良は、それを知れお良かった。

 あれ、今すれ違った人、河合くんに䌌おる。そう思っお、沙良は振り返る。だけどそれは河合くんじゃない。河合くんはもう、沙良の䜏む街にはいないのだった。
                    完


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