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音楽家は好きな世界を見に行く

明治マニア

初めまして、津本幸司と申します。

何度か自己紹介にも書いていますが、私は明治マニアです。幼稚園は奈良県の明治幼稚園、小学校は明治小学校。名前だけでなく、建物や空気に明治時代の名残が残っている環境で幼少期を過ごしました。

そこから海外に行ったので、私の中の日本は明治で止まっています。結婚式は奈良ホテル。毎月のように訪れるのは上野の旧岩崎邸。自分のスタジオの色も明治の洋館を思わせる配色になっています。スーツも1920年代のレプリカです。明治時代に海外で学んだテイラーが、大正時代に作った型を使って銀座で仕立ててくれています。

書き始めるとキリがありません。

好きなもの

音楽家の好きなもの・・・

知識量の話ではなく、明治建築の年号を全部覚えているとか、三菱の歴史を語れるとか、茶道具の名前を全部言えるとか、そういうことではありません。

「なぜか、この世界が好きだ」と言えるものです。

音楽家にとって、審美眼の源を形成するのかもしれません。

明治生命館

先日、丸の内の明治生命館に行きました。

明治生命館は、名前に明治と付いていますが、建物自体は昭和9年、1934年に竣工した建築です。設計は東京美術学校、現在の東京藝術大学(私の母校)の教授だった岡田信一郎氏。1997年には昭和の建造物として初めて国の重要文化財に指定されています。

東京駅前の丸の内にありながら、そこだけ時間の流れが変わります。現代のビル街の中に、別の価値基準で作られた空間が残っているのです。

見学

2025年11月から、見学できる場所が大きく増えました。カフェもできました。コーヒーは高めです。津本幸司のセミナーみたいな価格設定です。

ただ、私はこういう場所でお金を使うことには意味があると思っています。

安い高いだけで判断すると、すべてがコンビニ・コーヒーとの比較になります。しかし、歴史的建築の中で、壁、天井、照明、窓、椅子、人の動線まで含めて体験するなら、それは別の時間です。

音楽家として嗜好を固める最高の時間でした。

静嘉堂

明治生命館の中には、静嘉堂文庫美術館があります。

三菱第四代社長の岩﨑小彌太氏が関わった美術品の世界です。ここには国宝《曜変天目》があります。以前は世田谷で公開されていましたが、2022年に丸の内の明治生命館へ移転しました。

現在は「美を味わう―懐石のうつわと茶の湯」という展覧会が開かれています。懐石の器や茶道具を見た最後に、《曜変天目》が現れます。

あれは、写真で見るものではありません。(撮影禁止です)

茶碗の中に、星のような斑紋が見えます。大げさに言っているのではなく、本当に小さな器の内側に、別の空間があるように見えます。

音楽家の見学

特にこのお茶碗を観に行く必要はありません。是非ご自身の好きな世界観が味わえる場所に見学に行ってください。

そして、審美眼を鍛えてください。

美術館でも、建築でも、料理でも、ホテルでも、庭でも、服でも構いません。自分がなぜそれを好きなのかを、少しずつ言葉にするのです。

私は明治から昭和初期にかけての洋館を見ると、自分の中で落ち着く感覚があります。左右の対称性、石の質感、天井の高さ、照明の位置、過剰に説明しない重厚さ。そういうものが好きなのだと思います。

そして、その好みは音楽にも出ます。そして、自分の現在・過去・未来の行動の全ての点が繋がるのです。そして出来上がった形を俯瞰すると自分が現れる……こんなイメージです。なんとなく伝わるでしょうか?

音楽以外

音楽家が音楽だけを見ていると、音楽が狭くなります。

ピアニストがピアノだけを見ている。ギタリストがギターだけを見ている。歌う人が歌だけを考えている。もちろん専門性は必要です。しかし、それだけでは自分の美意識が育ちません。

何を美しいと思うのか。

何に違和感を持つのか。

どの空間にいると、自分の感覚がはっきりするのか。これは練習室だけでは分かりません。

おわりに

有名な場所でなくても構いません。近所の喫茶店でも、古い駅舎でも、川沿いでも、神社でも、ホテルのロビーでも、楽器店でもいいと思います。

そこに、自分の音楽の材料があります。

自分の好きな世界を見に行ってください。

それは、次の演奏や作品に、必ずつながります。

おしまい♫

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津本幸司

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